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第四章 留学

第二話 渡米二日前

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渡米二日前の事

『皆さんにとっては突然の話になりますが……』

そう朝のホールムールで話を始めたのは、姫菜子のクラス担任のジョセフ先生だ。

『このクラスのMs.姫菜子 香住と、隣りのクラスのMr.龍輝 張が今日でスクールを休学し、U.S.Aへ行くことになりました。』

この言葉にクラスメイト達はザワザワし始めた。

動揺しなかったのは、姫菜子の親友の菫香とその恋人の玲音、そして、姫菜子に無関心になっている旭陽だけだった。

菫香と玲音が動揺しなかったのは、ずっと秘密裏に計画されていた姫菜子と龍輝の留学を、発表の1週間前に知らされており、秘密にしていた理由に納得出来た為と、2人から謝罪を受けたからだった。


ホールムールが終わった途端、ほぼ全員が姫菜子の席を取り囲む。

理由を聞く者、寂しいと言って姫菜子にしがみつく者、スマホを出して、自身のメッセージアプリのアカウントやメールアドレスを書いた紙を半ば強引に姫菜子に手渡す者と様々だった。

そして口々に、

あんな薄情男白鷺 旭陽なんて忘れて、向こうアメリカで頑張れ!』

と、旭陽を睨み付けながら、姫菜子にエールを送った。

すると、その輪の中から抜け出したクリスチーヌが

『無様なものね。あれだけ 姫菜を護るのは俺だ!姫菜子は俺のものだと言ってたあんたが、事故に遭ったとはいえ、最愛の恋人の事を忘れたばかりじゃなく、思い出そうともしないなんてね。結局あんたの【amour愛(アムール)】なんてその程度のものだったのね。姫菜子は龍輝に幸せにして貰えば良いわ。』

と、旭陽の前で腰に手を当てフン!と鼻で笑った。

その言葉に、クラスメイト達も旭陽に向き直り、揃って首を縦にふっていた。

流石の旭陽もこれには耐えきれず、教室を出ていってしまった。

・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚

教室を出た旭陽は悩んでいた。

理由は、最近よく起こす原因不明の頭痛と同時に目の前に断片的に浮かぶ映像の事でだ。

映像には決まって同じ少女が出てくる。
そしてその少女はいつも泣いていた。

そんな少女を慰めてあげようと近づくも、悪魔の囁きが聞こえて、全く動けなくなってしまうのだ。

その内に少女は大人になり、ある時は自分の方をチラリと見た後悪魔の手によって声も出すこと無く命を落とす。
またある時は、自分ではない誰かが来て、彼女を護るように抱き締めると、すっと消える。
いずれのパターンも、自分は動く事も出来ず、声も発せられず、手を伸ばしても届く事は無く、ただ見ているだけだった。
そして彼女が消えた後、その場に崩れ落ち、初めて絶望の叫び声を出す。

悪夢に近いその映像は、旭陽の精神を蝕んでいったのだった。

「何故俺は、こんな風になったんだろう。香住にだけ、なんの感情も持てないなんて……。ただ1つおかしいのは、香住の事を考えると同時に、あの強烈な痛みが頭を襲ってくる。だが、同時に違う俺が、『考えろ!彼女の事を思い出せ!』と言ってくるんだ。するとあの映像が……。Shit!! As my dad says, do I have to go to the hospital?(父さんの言うとおり、病院で診てもらうしかないのか?)」

スクールの中庭にある大きな欅の幹にもたれ、旭陽は静かに空を見上げた。

そして、後日。
その強烈な痛みの原因が信じられない行為によるものであった事と、大事な人を手放したという事実にショックを受けることなる。

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