誰にも奪わせない 〜ボロ雑巾の様に捨てられた令嬢の復讐~

Saeko

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第三章 逆行~中学 高校~

第十九話 事故と記憶

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あれだけ敵対意識を持っていた筈の旭陽と龍輝は、いつの間にか親友になっていた。
高3の夏休みになって直ぐ、龍輝と旭陽はバイクの免許を取るために、教習所へ通い始めた。

元々運動神経の良い2人は、直ぐに中型二輪の免許を取得し、教習所で知り合った仲間と一緒に、ツーリングへ出かける様になった。


そんなある日。

「姫菜。落ち着いて聞くんだ。」

夕食前に慎也に呼ばれ、執務室に入った姫菜子は、慎也のただならぬ様子に息を呑んだ。

「旭陽君が、事故にあった。」

姫菜子はその言葉に、膝から崩れ落ちた。

「大丈夫だよ、姫菜。意識は無いが、命に別状はないそうだから。」

「そ、そうなのね。直ぐにお見舞いに行きたいわ、パパ。」

「そうだな。今ICUにいるそうだから、そこから出たら白鷺に確認して、大丈夫だったら見舞いに行こう。」


旭陽の事故の一報から一週間後、個室に移り容態も安定しているからと白鷺から聞いた慎也が、姫菜子を連れて旭陽が入院する病院へ見舞いに行くことにした。

旭陽の病室に通され、姫菜子はベッドに駆け寄る。

「リッチー。大丈夫?」

姫菜子の呼び掛けに、ゆっくりと姫菜子を見る旭陽だったが、様子がおかしい。

「お前……誰?」

「何を言ってるんだ、旭陽。香住姫菜子さんだろ?」

父親の白鷺孝介の言葉に、

「香住?姫菜子?誰?知らない名前だ。」

と眉を顰める旭陽。

その様子は演技では無く、本当に姫菜子の事は知らない人間だと言っていた。

姫菜子が困惑していると、

「おじ様。お客様ですか?」

と病室に入ってきた声が聞こえた。

その声にいち早く反応したのは旭陽だった。

「陽子さん。今日も来てくれたんだね。ありがとう。」

陽子………
そうだ!この声、この話し方……。

振り向かなくても、姫菜子にはそれが誰だか直ぐに分かった。

「社長、姫菜子さん。紹介致します。彼女は比嘉陽子さん。事故を起こして大怪我をしていた旭陽を見つけ、救急車を呼んでくれた恩人なんですよ。」

孝介はそう言って慎也と姫菜子に陽子を紹介するが、姫菜子は陽子がいる方を向く事が出来ない。
身体が震え、立っているのがやっとだった。

「初めまして。私の名前は、比嘉陽子です。冴島様のお宅でメイドをしております。宜しくお願い致します。」

そう言って頭を下げた陽子だったが、口元はニヤリと笑みを浮かべていた。

姫菜子はそんな陽子を見る事は無く、旭陽を睨みつけると、

「Wasn't it a lie to say that he would protect you? Liar! I hate you! This traitor!(守ってくれるって言ったのに嘘だったのね?嘘つき!貴方なんて大嫌い!裏切り者!)」

「What's?」

「パパ。帰ろう。私の事を忘れた男の顔なんて二度と見たくないわ。」

姫菜子は今にも倒れそうなくらいだったが、陽子にだけは絶対に弱味を見せたくなかった。動揺している姿を見られたくなかった。

気丈に振る舞う姫菜子のその様子から、慎也は、今現れた旭陽の恩人という女が、姫菜子の夢の中に出てきた要注意人物だと分かった。

「分かったよ、姫菜。どうやら僕達は人違いをしたみたいだね。帰ろう。」

「うん。パパ。」

慎也は姫菜子をしっかりと抱き寄せ、旭陽の病室を後にした。

残された孝介は理由が分からず狼狽し、陽子は不敵な笑みを浮かべ2人を見送っていた。
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