40 / 56
第三章 逆行~中学 高校~
第十九話 事故と記憶
しおりを挟む
あれだけ敵対意識を持っていた筈の旭陽と龍輝は、いつの間にか親友になっていた。
高3の夏休みになって直ぐ、龍輝と旭陽はバイクの免許を取るために、教習所へ通い始めた。
元々運動神経の良い2人は、直ぐに中型二輪の免許を取得し、教習所で知り合った仲間と一緒に、ツーリングへ出かける様になった。
そんなある日。
「姫菜。落ち着いて聞くんだ。」
夕食前に慎也に呼ばれ、執務室に入った姫菜子は、慎也のただならぬ様子に息を呑んだ。
「旭陽君が、事故にあった。」
姫菜子はその言葉に、膝から崩れ落ちた。
「大丈夫だよ、姫菜。意識は無いが、命に別状はないそうだから。」
「そ、そうなのね。直ぐにお見舞いに行きたいわ、パパ。」
「そうだな。今ICUにいるそうだから、そこから出たら白鷺に確認して、大丈夫だったら見舞いに行こう。」
旭陽の事故の一報から一週間後、個室に移り容態も安定しているからと白鷺から聞いた慎也が、姫菜子を連れて旭陽が入院する病院へ見舞いに行くことにした。
旭陽の病室に通され、姫菜子はベッドに駆け寄る。
「リッチー。大丈夫?」
姫菜子の呼び掛けに、ゆっくりと姫菜子を見る旭陽だったが、様子がおかしい。
「お前……誰?」
「何を言ってるんだ、旭陽。香住姫菜子さんだろ?」
父親の白鷺孝介の言葉に、
「香住?姫菜子?誰?知らない名前だ。」
と眉を顰める旭陽。
その様子は演技では無く、本当に姫菜子の事は知らない人間だと言っていた。
姫菜子が困惑していると、
「おじ様。お客様ですか?」
と病室に入ってきた声が聞こえた。
その声にいち早く反応したのは旭陽だった。
「陽子さん。今日も来てくれたんだね。ありがとう。」
陽子………
そうだ!この声、この話し方……。
振り向かなくても、姫菜子にはそれが誰だか直ぐに分かった。
「社長、姫菜子さん。紹介致します。彼女は比嘉陽子さん。事故を起こして大怪我をしていた旭陽を見つけ、救急車を呼んでくれた恩人なんですよ。」
孝介はそう言って慎也と姫菜子に陽子を紹介するが、姫菜子は陽子がいる方を向く事が出来ない。
身体が震え、立っているのがやっとだった。
「初めまして。私の名前は、比嘉陽子です。冴島様のお宅でメイドをしております。宜しくお願い致します。」
そう言って頭を下げた陽子だったが、口元はニヤリと笑みを浮かべていた。
姫菜子はそんな陽子を見る事は無く、旭陽を睨みつけると、
「Wasn't it a lie to say that he would protect you? Liar! I hate you! This traitor!(守ってくれるって言ったのに嘘だったのね?嘘つき!貴方なんて大嫌い!裏切り者!)」
「What's?」
「パパ。帰ろう。私の事を忘れた男の顔なんて二度と見たくないわ。」
姫菜子は今にも倒れそうなくらいだったが、陽子にだけは絶対に弱味を見せたくなかった。動揺している姿を見られたくなかった。
気丈に振る舞う姫菜子のその様子から、慎也は、今現れた旭陽の恩人という女が、姫菜子の夢の中に出てきた要注意人物だと分かった。
「分かったよ、姫菜。どうやら僕達は人違いをしたみたいだね。帰ろう。」
「うん。パパ。」
慎也は姫菜子をしっかりと抱き寄せ、旭陽の病室を後にした。
残された孝介は理由が分からず狼狽し、陽子は不敵な笑みを浮かべ2人を見送っていた。
高3の夏休みになって直ぐ、龍輝と旭陽はバイクの免許を取るために、教習所へ通い始めた。
元々運動神経の良い2人は、直ぐに中型二輪の免許を取得し、教習所で知り合った仲間と一緒に、ツーリングへ出かける様になった。
そんなある日。
「姫菜。落ち着いて聞くんだ。」
夕食前に慎也に呼ばれ、執務室に入った姫菜子は、慎也のただならぬ様子に息を呑んだ。
「旭陽君が、事故にあった。」
姫菜子はその言葉に、膝から崩れ落ちた。
「大丈夫だよ、姫菜。意識は無いが、命に別状はないそうだから。」
「そ、そうなのね。直ぐにお見舞いに行きたいわ、パパ。」
「そうだな。今ICUにいるそうだから、そこから出たら白鷺に確認して、大丈夫だったら見舞いに行こう。」
旭陽の事故の一報から一週間後、個室に移り容態も安定しているからと白鷺から聞いた慎也が、姫菜子を連れて旭陽が入院する病院へ見舞いに行くことにした。
旭陽の病室に通され、姫菜子はベッドに駆け寄る。
「リッチー。大丈夫?」
姫菜子の呼び掛けに、ゆっくりと姫菜子を見る旭陽だったが、様子がおかしい。
「お前……誰?」
「何を言ってるんだ、旭陽。香住姫菜子さんだろ?」
父親の白鷺孝介の言葉に、
「香住?姫菜子?誰?知らない名前だ。」
と眉を顰める旭陽。
その様子は演技では無く、本当に姫菜子の事は知らない人間だと言っていた。
姫菜子が困惑していると、
「おじ様。お客様ですか?」
と病室に入ってきた声が聞こえた。
その声にいち早く反応したのは旭陽だった。
「陽子さん。今日も来てくれたんだね。ありがとう。」
陽子………
そうだ!この声、この話し方……。
振り向かなくても、姫菜子にはそれが誰だか直ぐに分かった。
「社長、姫菜子さん。紹介致します。彼女は比嘉陽子さん。事故を起こして大怪我をしていた旭陽を見つけ、救急車を呼んでくれた恩人なんですよ。」
孝介はそう言って慎也と姫菜子に陽子を紹介するが、姫菜子は陽子がいる方を向く事が出来ない。
身体が震え、立っているのがやっとだった。
「初めまして。私の名前は、比嘉陽子です。冴島様のお宅でメイドをしております。宜しくお願い致します。」
そう言って頭を下げた陽子だったが、口元はニヤリと笑みを浮かべていた。
姫菜子はそんな陽子を見る事は無く、旭陽を睨みつけると、
「Wasn't it a lie to say that he would protect you? Liar! I hate you! This traitor!(守ってくれるって言ったのに嘘だったのね?嘘つき!貴方なんて大嫌い!裏切り者!)」
「What's?」
「パパ。帰ろう。私の事を忘れた男の顔なんて二度と見たくないわ。」
姫菜子は今にも倒れそうなくらいだったが、陽子にだけは絶対に弱味を見せたくなかった。動揺している姿を見られたくなかった。
気丈に振る舞う姫菜子のその様子から、慎也は、今現れた旭陽の恩人という女が、姫菜子の夢の中に出てきた要注意人物だと分かった。
「分かったよ、姫菜。どうやら僕達は人違いをしたみたいだね。帰ろう。」
「うん。パパ。」
慎也は姫菜子をしっかりと抱き寄せ、旭陽の病室を後にした。
残された孝介は理由が分からず狼狽し、陽子は不敵な笑みを浮かべ2人を見送っていた。
1
お気に入りに追加
651
あなたにおすすめの小説
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる