誰にも奪わせない 〜ボロ雑巾の様に捨てられた令嬢の復讐～

第三章 逆行～中学 高校～

第八話 見せるが勝ち？

「連城先生。それから奥様も。ギャラリーの落成式にようこそお越し下さいました。」

今日は、香住家の広い敷地にあった倉庫を改築し、香住家代々に伝わる所蔵品を展示するギャラリーの落成式の日だ。

*¹連城駿斗弁護士の妻 連城百合香りりかは、連城法律事務所を手伝う傍ら、骨董鑑定士としても知られている。

連城夫妻の娘 菫香すみかは、姫菜子と同じインターナショナルスクールに通うクラスメイトだ。

菫香と姫菜子は中等部1年生の時に意気投合。
『ひな』『すみれ』と呼び合い、互いの家にも行き交う程に仲が良くなった。

今回、蔵をギャラリーに変える提案は、実は百合香から出たものだった。

百合香は、連城家のマンションに遊びに来た姫菜子から、

「夢で、自宅に強盗が入って来て、大切な物が全て盗られたんです。だから、正夢にしたくなくて……。」

と、蔵の所蔵品の保管について相談されたのだ。

夢の話は、勿論姫菜子の嘘なのだが、陽子がどんな手を使って奪っていくのか？が分からない。前の生の二の舞だけは絶対に阻止したい。その為についた嘘だった。

姫菜子の嘘に百合香は、

「だったら、セキュリティがしっかりしたギャラリーを作って、展示しちゃえばどうかしら？」

と言った。

「でも…」

「大丈夫よ。展示する所蔵品は全てショーケースの中に入れて、ケースのセキュリティを万全にしとけば。お蔵の内外部には防犯カメラも付けて、一件ボディガードには見えないスタッフを常駐させておくの。昼間はそのスタッフが、目を光らせておいてくれるし、夜はお蔵の内部の見回りをして貰ってからセキュリティをかけてから扉を閉めるの。夜間は警備会社が異変があると直ぐに来てもらう契約をしておくのよ。念の為、所蔵品には盗難保険をかけておきましょうね。」

百合香から、具体的な事を教えて貰った姫菜子は、自宅に帰ると早速慎也に話してみた。

「なるほどね。人は隠されると見たくなる。金になると知れば欲しくなる。ならば、ギャラリーにして飾ってしまおう【見せるが勝ち】方法か。」

姫菜子は慎也にも、嘘の夢の話盗難事件をしてあった。

夢に怯え、涙ながらに正夢にしたくないと訴えた姫菜子の様子に、慎也は、姫菜子が9歳の時にあった誘拐を思い出したのだと思った。

夢の中で、姫菜子は強盗に襲われ怪我をしたと言ったからだ。

これまでも姫菜子が見たという夢での出来事が本当になったことが何度かあった為、慎也は姫菜子の夢を蔑ろにしなくなっていた。

勿論これは姫菜子が実際前の生で経験した事を思い出し、「夢で見た。」として慎也に話していたのだが、慎也としては姫菜子の夢があまりに当たる為、信じざるを得なくなったからだ。

こうして姫菜子は、これから起こり得る陽子による強奪被害を出来るだけ抑える様にしたのだ。

屋敷内のシェルタールームも、姫菜子たっての願いを叶えた形の物が出来上がっていた。

姫菜子の願い。それは、シェルタールームの入り口が、何処か分からない様に作って貰うことだった。

これも陽子対策の一環で、シェルタールームへは、慎也の部屋か姫菜子の部屋に入り、そこから隠し扉を見つけないとシェルタールームへは上がれない仕組みにして貰った。
忍者屋敷の様な構造をしている香住家にとっては、隠し扉の設置はとても容易い事だった。

（これで、あの人陽子が香住の財産を奪う事は難しくなったと思うわ。後数年後に現れる時までには、私わたくしが強くなっていなければならないわね。メンタル強化レッスンにでも行こうかしら？）

と賑わうギャラリーの様子を見ながら、姫菜子はそう考えていた。

まさかこの時は、陽子が予定より早く現れるとは思ってもみなかったのだが……。

*¹ 連城駿斗 連城百合香⇒【貴方の駒になど真っ平御免です】の登場人物です。