誰にも奪わせない 〜ボロ雑巾の様に捨てられた令嬢の復讐～

第二章 逆行～幼少期〜

第七話 未来を変える出逢い 2（絆）

白鷺の車が到着したホテルは、最近出来たばかりの様で、姫菜子の目にはピカピカと光って見えた。

「白鷺君、送ってくれてありがとう。」

「いえ。また何かございましたら、ご連絡下さい。」

「ありがとう。では早速だけど、お礼に今夜食事を一緒にどうかな？白鷺君のご家族も一緒に。」

「それはきっとワイフも息子も喜ぶと思います。では、チェックインの際、ビュッフェレストランの予約を取っておきましょう。暫くお待ち下さい。」

そう言って白鷺はカウンターへ向かって歩いて行った。

チェックインを済ませ、白鷺とはそこで別れた。

20:00にホテル内のレストランの予約が取れたとの事で、「では、後程宜しくお願い致します。」そう言ってホテルを出ていった。

その後ホテルスタッフに案内された部屋は、セミスイートの部屋だった。

「うわぁ～。海だ～！パパ、海だよ！」

バルコニーに出る窓を開け、姫菜子は手摺りに駆け寄る。と、直ぐに一歩後退った。
このホテルは高層階ホテルでは無いはずだったが、ひと部屋ひと部屋の天井高があるせいか？思ったより地面までの距離が有り、姫菜子は怖くなったのだ。

「転落防止の為に、手摺りを高くしたり、脚をかけられない様にしてあるから大丈夫だよ。でも、怖かったね。」

「うん。」

「明日はパパとプールに入ろうな。さぁて、先ずは荷物の整理をしようか。」

「はい、パパ。」

慎也と姫菜子は仲良くスーツケースから荷物を取り出し、ハンガーにかけたり、ベッドサイドに置いたりした。
慎也たっての希望で、ベッドは別だが、寝る部屋は同じだ。
くどい様だが、姫菜子は22歳の成人女性なのだ。
父親と同じ部屋で寝るのは恥ずかしいのだが、9歳に巻き戻っているのだから致し方ない。
楽しげに荷解きをしている慎也をチラ見した姫菜子は、諦めようと決めたのだった。

ベッドからガバッと起き上がった姫菜子は、窓の外が暗くなっている事に気づいた。
どうやら病み上がりだった姫菜子は、フライト疲れからか？荷解き中に寝てしまった様だ。

ふと寝室のベッドサイドの明かりが付けられているのに気づいた。
理由は、姫菜子があの事件から暗所恐怖症になってしまったから。
無理もない。
目隠しをされ男達に犯され、暗い林の中放置されれば、トラウマになるのは当然と言える。

姫菜子は、ベッドサイドのライトを明るくし、部屋のカーテンを閉めると、部屋の電気を煌々と点けた。

部屋の物音に気付いたのか？慎也が寝室に入って来た。

「目が覚めたんだね？姫菜。お腹の具合はどうかな？」

そう問われた姫菜子は、部屋の時計を見た。

時刻は19:30
約束の時刻迄、30分しか無い。

「もっと早く起こしてくれたら良かったのに。」

「ぐっすり寝ていたからね。それに此処へは静養に来ているんだ。だから姫菜が時間に追われる事は無いんだよ。」

「さぁ、支度をしようか。」そう言ってクローゼットを開けた慎也は、姫菜子が着る服装はどれにしようか？と考えていた。
そんな慎也の後ろ姿に、姫菜子は感謝しか無かった。

（そうよ。父様の仰るとおりだわ。私わたくしは此処でしっかり静養して、心身共に強くなるの。そして、来るべき未来を変えるのよ。）

「パパ。ありがと。」

そう言って姫菜子は、慎也に後ろから抱き着いた。
慎也の心配事を少しでも減らす事が出来るよう。そして、香住家を比嘉母娘から護る為に。
今は力を溜める時と思い、父親との絆を深める事を最優先すると姫菜子は決めた。