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第一章 プロローグ
第四話 父と婚約者
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姫菜子が暫くスクリーンを見ていると、警察車両が次々にやって来て、あっという間に姫菜子の身体が遺棄されてある周辺にブルーシートが張られ、鑑識やら刑事やらがわらわらと姫菜子の周りを捜査しだした。
姫菜子が他人事の様にそれを見ていると、聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
「娘が!姫菜子が見つかったと知らせが!!姫菜子は何処ですか?」
ブルーシートの外にいた男性刑事の制服を掴んで姫菜子の事を聞いているのは、父親の香住慎也だ。
「ご遺体のご親族の方ですね?どうぞ。」
刑事から遺体と言われ、『生存』という一縷の望みが絶たれた事に、呆然と立ち尽くす慎也を支える若い男性がいた。
姫菜子の婚約者、冴島祥太郎だ。
「僕は彼女の婚約者の冴島と言います。香住さんと一緒に僕も良いですか?」
と聞いていた。
何が婚約者よ!
とっくに陽子に堕ちているのに!
白々しいわね。
姫菜子はそんな祥太郎の行動を白けた顔……いや、多分だが……、そんな風に見ていた。
慎也と祥太郎がブルーシートの中に入ると、姫菜子の上にかけられた白い布を刑事が捲る。
傷だらけの姫菜子の身体を見た父親は、姫菜子の名前を叫び泣き崩れながら、遺体に縋り付く。
「姫菜子!姫菜子!!目を、目を開けてくれ!姫菜!!」
いくら叫んでも、揺すっても目を覚ます事が無い愛娘。
慎也の怒りは沸点に達し、同時に狂いそうになっていく。
「誰だ!誰が姫菜子をこんな風に!許さない!!犯人は誰だ!教えてくれ!!」
「お義父さん!」
刑事に殴りかかりそうな勢いの慎也を、祥太郎が必死に止めている。
「詳しい事は分かりません。これからお嬢様のご遺体を司法解剖に回すことになります。それにより犯人に繋がる証拠が見つかると思います。ご協力をお願い致します。」
そう言って、姫菜子の身体を丁寧に袋に入れると、担架に乗せ運んで行った。
娘を亡くした父親の様子とは異なり、恋人で婚約者の祥太郎は、悲しむわけでも怒りを顕にするわけでもなく、淡々としている様子に、刑事の目が疑いを持って見ている事に祥太郎は気付かなかった。
スクリーンの映像はそこから切り替わり、香住家の屋敷の中を映し出していた。
「これで邪魔な姫菜子はいなくなった。ここにあるもの全てアタシの物よ。」
姫菜子が隠していた宝石箱をひっくり返し、あれこれと身に付けては鏡の前で恍惚とした笑顔を浮かべていた。
「そろそろ叔父様、ううん、お父様が帰って来られるわね。きっと姫菜子が死んだ事で悲しみに打ちひしがれて来られるわ。娘のアタシがお慰めしないとよね。」
と、陽子の気持ちは、既に香住家の令嬢になっている様だ。
姫菜子はそんな陽子を見ていて思った事。
それは、なんて愚かなんだろう だった。
人の物を奪って得た幸せなぞ、本当の幸せでは無い。
『だがな。悲しいが、そうする事こそ幸せだと思う人間もいるのだ。』
「え?それは本当でございますか?イエス様。」
『善良な教徒であった汝には分からぬ事なのだろうが、神が作りたもう人間の中には、悪意に染まってしまった者もいる。汝はそんな人間に大切な命を奪われてしまった。』
「命だけでなく、何もかも奪われました。お友達も愛する人も何もかもです。あの人は、私から全て奪い取っていったのです。」
姫菜子の心は悔しさと怒りから、真っ赤に燃え上がった。
「このままでは死んでも死にきれません、イエス様。」
『そうか。では、汝を戻してやろう。』
「戻す?と仰いましたか?」
『今までの汝の記憶はそのままに、時間軸だけ戻してやる。』
「え?イエス様?時間軸を?いったいどういう事です?」
『さぁ、行け!行って汝の人生を取り戻すがいい!』
そう言うと、姫菜子の周りが眩い光に包まれた。
途端に姫菜子は、光の粒子達によって、球体から人型になった。
「イ、イエス様。ありがとうございます。私、今度は誰にも奪わせません
!!」
そう言って決意表明をした。
そんな姫菜子をご覧になったイエスは、
『姫菜ちゃん。頑張りなさい。』
と姫菜子の母 菜摘美の声でエールを送った。
「え?母様?」
『姫菜ちゃん。頑張るのよ。母様はいつでも姫菜ちゃんを見守っているからね。』
そう言うと、イエスはすっと消えてしまった。
「イエス様~!待って。待って、母様ッ~!!」
姫菜子が他人事の様にそれを見ていると、聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
「娘が!姫菜子が見つかったと知らせが!!姫菜子は何処ですか?」
ブルーシートの外にいた男性刑事の制服を掴んで姫菜子の事を聞いているのは、父親の香住慎也だ。
「ご遺体のご親族の方ですね?どうぞ。」
刑事から遺体と言われ、『生存』という一縷の望みが絶たれた事に、呆然と立ち尽くす慎也を支える若い男性がいた。
姫菜子の婚約者、冴島祥太郎だ。
「僕は彼女の婚約者の冴島と言います。香住さんと一緒に僕も良いですか?」
と聞いていた。
何が婚約者よ!
とっくに陽子に堕ちているのに!
白々しいわね。
姫菜子はそんな祥太郎の行動を白けた顔……いや、多分だが……、そんな風に見ていた。
慎也と祥太郎がブルーシートの中に入ると、姫菜子の上にかけられた白い布を刑事が捲る。
傷だらけの姫菜子の身体を見た父親は、姫菜子の名前を叫び泣き崩れながら、遺体に縋り付く。
「姫菜子!姫菜子!!目を、目を開けてくれ!姫菜!!」
いくら叫んでも、揺すっても目を覚ます事が無い愛娘。
慎也の怒りは沸点に達し、同時に狂いそうになっていく。
「誰だ!誰が姫菜子をこんな風に!許さない!!犯人は誰だ!教えてくれ!!」
「お義父さん!」
刑事に殴りかかりそうな勢いの慎也を、祥太郎が必死に止めている。
「詳しい事は分かりません。これからお嬢様のご遺体を司法解剖に回すことになります。それにより犯人に繋がる証拠が見つかると思います。ご協力をお願い致します。」
そう言って、姫菜子の身体を丁寧に袋に入れると、担架に乗せ運んで行った。
娘を亡くした父親の様子とは異なり、恋人で婚約者の祥太郎は、悲しむわけでも怒りを顕にするわけでもなく、淡々としている様子に、刑事の目が疑いを持って見ている事に祥太郎は気付かなかった。
スクリーンの映像はそこから切り替わり、香住家の屋敷の中を映し出していた。
「これで邪魔な姫菜子はいなくなった。ここにあるもの全てアタシの物よ。」
姫菜子が隠していた宝石箱をひっくり返し、あれこれと身に付けては鏡の前で恍惚とした笑顔を浮かべていた。
「そろそろ叔父様、ううん、お父様が帰って来られるわね。きっと姫菜子が死んだ事で悲しみに打ちひしがれて来られるわ。娘のアタシがお慰めしないとよね。」
と、陽子の気持ちは、既に香住家の令嬢になっている様だ。
姫菜子はそんな陽子を見ていて思った事。
それは、なんて愚かなんだろう だった。
人の物を奪って得た幸せなぞ、本当の幸せでは無い。
『だがな。悲しいが、そうする事こそ幸せだと思う人間もいるのだ。』
「え?それは本当でございますか?イエス様。」
『善良な教徒であった汝には分からぬ事なのだろうが、神が作りたもう人間の中には、悪意に染まってしまった者もいる。汝はそんな人間に大切な命を奪われてしまった。』
「命だけでなく、何もかも奪われました。お友達も愛する人も何もかもです。あの人は、私から全て奪い取っていったのです。」
姫菜子の心は悔しさと怒りから、真っ赤に燃え上がった。
「このままでは死んでも死にきれません、イエス様。」
『そうか。では、汝を戻してやろう。』
「戻す?と仰いましたか?」
『今までの汝の記憶はそのままに、時間軸だけ戻してやる。』
「え?イエス様?時間軸を?いったいどういう事です?」
『さぁ、行け!行って汝の人生を取り戻すがいい!』
そう言うと、姫菜子の周りが眩い光に包まれた。
途端に姫菜子は、光の粒子達によって、球体から人型になった。
「イ、イエス様。ありがとうございます。私、今度は誰にも奪わせません
!!」
そう言って決意表明をした。
そんな姫菜子をご覧になったイエスは、
『姫菜ちゃん。頑張りなさい。』
と姫菜子の母 菜摘美の声でエールを送った。
「え?母様?」
『姫菜ちゃん。頑張るのよ。母様はいつでも姫菜ちゃんを見守っているからね。』
そう言うと、イエスはすっと消えてしまった。
「イエス様~!待って。待って、母様ッ~!!」
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