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第一章 プロローグ

第三話 最後の審判

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姫菜子の心がすぅ~っと身体から離れていく。

これでもう、痛みも苦しみも、悲しみも辛さも感じなくて済むのだと思うと、姫菜子は安堵した。
すると彼女の心は小さな光の球になり、ゆっくりと空へ上昇を始めた。

広い空を自由に飛び回る鳥にでもなったかの様だ、と姫菜子は思った。
このまま飛んで、亡くなったお母様の所へ行きたい。
行って慰めて貰いたい。
そして、叶う事なら、あの母娘を地獄の底の底まで落としてやりたい、そう思った。

どれくらいの時間、上昇したのだろうか。
姫菜子の球となった心は、広い部屋の様な場所に吸い込まれた。

(あぁ、きっとここで、わたくしへの最後の審判がくだるのね。私は今から天国へ行けるか?地獄へ落とされるのか?裁かれるんだわ。)

と思った。

香住家は敬虔なクリスチャンだ。
『自害は罪』と教えられてきた姫菜子にとって、自分の今回の死は自害にあたるのか?が心配ではあった。
もしかしたら、気力さえ有れば生きていたかもしれない。
諦めなければ、誰かに助けて貰えたのかもしれない。
生きる事を放棄した私は、罪人になってしまうのか?
そんな事を考えながら、神の声を待っていた。

すると……

『汝、香住姫菜子。汝は、ミサや慈善事業へも積極的に参加し、常に良い行いを心掛け、周りへの気配りを欠かさない、教徒の鏡とも言うべき生き方であったな。』

「イエス様?あぁ……なんて勿体ないお言葉でしょう。」

姫菜子は、身体があったら直ぐ様膝まづき手を組んでこうべを垂れたい気持ちになったが、実態が無い今、気持ちだけでもイエスに敬意を表したいと、出来るだけ己を下方に移動する事を試みた。
如何せん球体の為、出来ているのかはイマイチだったが……

『汝をこれから天国へと導こうとしているのだが、汝の命は突然奪われた様なもの。親しい者との別れさえ出来てなかったと思うが…。』

「はい。左様でございます。もしも願いが叶うとするなら、父に…まだ私を愛してくれているのであれば、お別れしとうございます。」

『そうか。では、汝の父親の今の状態を見せてやろう。』

そうイエス様が仰ると、目の前にスクリーンの様な物が現れ、姫菜子が命の炎を消したあの林が映し出された。

そこには、文字どおり穢されボロ雑巾の様に棄てられた成人女性が横たわっていた。
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