王子様に恋をした【完結】

Saeko

文字の大きさ
上 下
60 / 66
第四章 今世其ノ弐

第二幕 呆れた人

しおりを挟む
ある日の午後
リハビリに疲れきってぐったりしていた私の所に、一眞さんがやって来ました。

「お疲れ」

「お疲れ様、一眞さん」

「久しぶりだね?澤村さん。」

一眞さんの後ろから顔を出した声の主は、‪笑顔でベッドの近くまで来ると、ベッドサイドの椅子に座った。

「大野先輩…」

「事故、大変だったね。でも元気になって良かったよ。」

「ありがとうございます。」

(元気って何?ちっとも元気じゃない事、先輩には分からないんだ?それくらい私に興味ないんだね。)

「退院したらさ。」

「え?」

「退院したらまた、弁当作ってよ。」

空気を読まず、図々しくもそんな勝手な事を言ってきた先輩にイラッとした。

「は?先輩何言ってるんですか?」

「え?」

「先輩。結婚するんでしょ?それに…「竜二先輩。悪いがコイツ俺んだから。」」

一眞さんの爆弾発言に驚く先輩は、

「え?斉藤君?それはどういう意味かな?」

と問うが、その先輩の問を無視したまま、一眞さんが話し続け、

「それにコイツ、仕事辞めるんで。」

「え?」

そう。私は今月付けで退職する事になった。

歩けないどころか、いつ体調を崩すか分からない人間じゃ、会社に迷惑かけると思ったから。

「そうなんです。だから、お弁当は婚約者さんに作ってもらって下さい。」

「澤村さんまで。一体どうしたの?」

尚も空気を読まない先輩を威嚇する一眞さん。

「は?どうしたもこうしたも。あんたが亜衣を捨てたから、亜衣は事故に合ったんだろ~が!!それに、あんたには婚約者で秘書の女がいるじゃねぇか。これ以上亜衣を苦しめんな!」

何も言わない先輩に追い討ちをかけるように言い放つ一眞さん。

すると黙っていた先輩がおもむろに口を開いて、

「俺は、俺の為に弁当まで作って甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた澤村さんを、ずっと可愛い後輩だと思ってたよ。澤村さんだって俺の事は、先輩だって思ってたんだろ?」

「え?どういう事ですか?」

先輩の言葉に、私の頭の中にはクエスチョンマークが飛び交う。

「だってそうだろ?澤村さんは、俺の事、ずっと『大野先輩』って呼んでたじゃないか。だから俺も、可愛い後輩としか思えなくなってたんだ。まあ、事故に合ったのが俺のせいだと言われたのは残念だけどな。」

(え?私のせいなの?なんでそうなるわけ?)
先輩の言葉に混乱した私でしたが、
(でもいいや、もう先輩への気持ちは無いから。)

「確かに事故に合った時、君を助け意識がない時もずっと側にいたのは斉藤君だ。きっと澤村さんを一番大切におもっているのは、彼なんだと思うよ。」

「…………」

「斉藤君」

「あ?」

「俺の可愛い後輩をよろしくな。」

「あんたに言われなくても、亜衣は俺が幸せにする。」

「それを聞いて安心したよ。結婚式の時は是非呼んでくれ。じゃ、またね。」

先輩は、そう言って病室を出て行きました。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...