王子様に恋をした【完結】

Saeko

文字の大きさ
上 下
34 / 66
第三章 前世其ノ弐

第一幕 婚約⑶

しおりを挟む
気乗りしない顔合わせのお茶会の日の朝

私は朝から憂鬱で仕方がありませんでした。

「こらこら、アイリーン。そんな顔をして。可愛い顔が台無しだよ?」

と、大好きなお兄様に頭をポンポンされても少しも気持ちが上がらず、ため息しか出せませんでした。

お父様もお母様も、そんな私に苦笑いを浮かべておられました。

    *◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*

馬車がガーディランス公爵家に到着すると、お屋敷の門まで公爵ご夫妻とロイド様が出迎えて下さっていました。

その様子に両親は大層驚き、そして恐縮していらっゃいました。

一方の私はというと、ガーディランス家の本気度が窺えるようで、気持ちが更に落ち込んでいきました。



お茶会は、大人同士が話をしているだけで、当人同士は黙々とお茶を飲んだりお菓子を摘んだりしていました。

(このお菓子、とっても美味しいわ!)

それは、『パウンドケーキ』と言われるお菓子でした。

(こんなに美味しいお菓子、生まれて初めて食べたわ。ん?これは?…果物かしら?でも、全く水っぽくないのはどうして?)

大人達の難しい話などそっちのけで、私は美味しいお菓子に夢中になり、

(一体これはどうやって作ったのかしら?公爵様のお家の料理人に作り方をお聞きしたいわ。)

等と頭の中で考えていた為、何方どなたかから話しかけられていた事に全く気が付きませんでした。


「…………様。…………ン様。アイ……様」

「え?」

と名前を呼ばれた声がした方を見やると、ロイド様が苦笑いを浮かべていらっゃいました。

「やっと見てくれたな。なんだ?そんなにこれが美味かったのか?」

私がずっと食べていたお菓子をひとつ摘み上げると、ククッとロイド様は笑って仰いました。

「はい!本当に美味しくて、どうやって作るのでしょうと考えていたのです。」

「それ、俺が作ったんだぜ。」

と仰ったので、私は驚いて

「え?本当に?これ、ロイド様がお作りになったのですか?」

と、思わずテーブルに置かれていたロイド様の手を掴んでしまいました。

「え!」

と固まるロイド様の顔を見つめ、

「是非私に作り方を教えて下さいませ。」

と、更に言い募ってしまいました。

そんな私の様子に、何故かロイド様は顔を赤く染めて横を向いてしまわれました。

「ロイド様?如何なさいました?熱でもおありなのですか?」

と覗き込むと、耳も首も赤くなってしまわれました。

私は心配になり、

「ガーディランス公爵閣下。お話中失礼致します。」

「如何したかな?アイリーン嬢」

と、私の問い掛けに優しく閣下が応えて下さいました。そこで私は、

「ロイド様のお顔が真っ赤で……何やらお身体の調子がお悪いようなのですが…」

とお伝えすると、

「ち!違う!!そんなんじゃねぇよ!!!!」

とロイド様が大慌てで否定なさいました。

そんなロイド様のご様子に、ガーディランス公爵ご夫妻はニコニコと笑っておられました。

私はわけがわからず、ただただきょとんとしていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

処理中です...