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第三章 前世其ノ弐
第一幕 婚約⑶
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気乗りしない顔合わせのお茶会の日の朝
私は朝から憂鬱で仕方がありませんでした。
「こらこら、アイリーン。そんな顔をして。可愛い顔が台無しだよ?」
と、大好きなお兄様に頭をポンポンされても少しも気持ちが上がらず、ため息しか出せませんでした。
お父様もお母様も、そんな私に苦笑いを浮かべておられました。
*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*
馬車がガーディランス公爵家に到着すると、お屋敷の門まで公爵ご夫妻とロイド様が出迎えて下さっていました。
その様子に両親は大層驚き、そして恐縮していらっゃいました。
一方の私はというと、ガーディランス家の本気度が窺えるようで、気持ちが更に落ち込んでいきました。
お茶会は、大人同士が話をしているだけで、当人同士は黙々とお茶を飲んだりお菓子を摘んだりしていました。
(このお菓子、とっても美味しいわ!)
それは、『パウンドケーキ』と言われるお菓子でした。
(こんなに美味しいお菓子、生まれて初めて食べたわ。ん?これは?…果物かしら?でも、全く水っぽくないのはどうして?)
大人達の難しい話などそっちのけで、私は美味しいお菓子に夢中になり、
(一体これはどうやって作ったのかしら?公爵様のお家の料理人に作り方をお聞きしたいわ。)
等と頭の中で考えていた為、何方かから話しかけられていた事に全く気が付きませんでした。
「…………様。…………ン様。アイ……様」
「え?」
と名前を呼ばれた声がした方を見やると、ロイド様が苦笑いを浮かべていらっゃいました。
「やっと見てくれたな。なんだ?そんなにこれが美味かったのか?」
私がずっと食べていたお菓子をひとつ摘み上げると、ククッとロイド様は笑って仰いました。
「はい!本当に美味しくて、どうやって作るのでしょうと考えていたのです。」
「それ、俺が作ったんだぜ。」
と仰ったので、私は驚いて
「え?本当に?これ、ロイド様がお作りになったのですか?」
と、思わずテーブルに置かれていたロイド様の手を掴んでしまいました。
「え!」
と固まるロイド様の顔を見つめ、
「是非私に作り方を教えて下さいませ。」
と、更に言い募ってしまいました。
そんな私の様子に、何故かロイド様は顔を赤く染めて横を向いてしまわれました。
「ロイド様?如何なさいました?熱でもおありなのですか?」
と覗き込むと、耳も首も赤くなってしまわれました。
私は心配になり、
「ガーディランス公爵閣下。お話中失礼致します。」
「如何したかな?アイリーン嬢」
と、私の問い掛けに優しく閣下が応えて下さいました。そこで私は、
「ロイド様のお顔が真っ赤で……何やらお身体の調子がお悪いようなのですが…」
とお伝えすると、
「ち!違う!!そんなんじゃねぇよ!!!!」
とロイド様が大慌てで否定なさいました。
そんなロイド様のご様子に、ガーディランス公爵ご夫妻はニコニコと笑っておられました。
私はわけがわからず、ただただきょとんとしていました。
私は朝から憂鬱で仕方がありませんでした。
「こらこら、アイリーン。そんな顔をして。可愛い顔が台無しだよ?」
と、大好きなお兄様に頭をポンポンされても少しも気持ちが上がらず、ため息しか出せませんでした。
お父様もお母様も、そんな私に苦笑いを浮かべておられました。
*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*
馬車がガーディランス公爵家に到着すると、お屋敷の門まで公爵ご夫妻とロイド様が出迎えて下さっていました。
その様子に両親は大層驚き、そして恐縮していらっゃいました。
一方の私はというと、ガーディランス家の本気度が窺えるようで、気持ちが更に落ち込んでいきました。
お茶会は、大人同士が話をしているだけで、当人同士は黙々とお茶を飲んだりお菓子を摘んだりしていました。
(このお菓子、とっても美味しいわ!)
それは、『パウンドケーキ』と言われるお菓子でした。
(こんなに美味しいお菓子、生まれて初めて食べたわ。ん?これは?…果物かしら?でも、全く水っぽくないのはどうして?)
大人達の難しい話などそっちのけで、私は美味しいお菓子に夢中になり、
(一体これはどうやって作ったのかしら?公爵様のお家の料理人に作り方をお聞きしたいわ。)
等と頭の中で考えていた為、何方かから話しかけられていた事に全く気が付きませんでした。
「…………様。…………ン様。アイ……様」
「え?」
と名前を呼ばれた声がした方を見やると、ロイド様が苦笑いを浮かべていらっゃいました。
「やっと見てくれたな。なんだ?そんなにこれが美味かったのか?」
私がずっと食べていたお菓子をひとつ摘み上げると、ククッとロイド様は笑って仰いました。
「はい!本当に美味しくて、どうやって作るのでしょうと考えていたのです。」
「それ、俺が作ったんだぜ。」
と仰ったので、私は驚いて
「え?本当に?これ、ロイド様がお作りになったのですか?」
と、思わずテーブルに置かれていたロイド様の手を掴んでしまいました。
「え!」
と固まるロイド様の顔を見つめ、
「是非私に作り方を教えて下さいませ。」
と、更に言い募ってしまいました。
そんな私の様子に、何故かロイド様は顔を赤く染めて横を向いてしまわれました。
「ロイド様?如何なさいました?熱でもおありなのですか?」
と覗き込むと、耳も首も赤くなってしまわれました。
私は心配になり、
「ガーディランス公爵閣下。お話中失礼致します。」
「如何したかな?アイリーン嬢」
と、私の問い掛けに優しく閣下が応えて下さいました。そこで私は、
「ロイド様のお顔が真っ赤で……何やらお身体の調子がお悪いようなのですが…」
とお伝えすると、
「ち!違う!!そんなんじゃねぇよ!!!!」
とロイド様が大慌てで否定なさいました。
そんなロイド様のご様子に、ガーディランス公爵ご夫妻はニコニコと笑っておられました。
私はわけがわからず、ただただきょとんとしていました。
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