王子様に恋をした【完結】

Saeko

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第四章 今世其ノ弐

第一幕 覚醒

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ピピーッ!!ピピーッ!!ピピーッ!!

けたたましく鳴り響く電子音

医師と看護師が病室に飛び込んで来る!

「大丈夫ですか?澤村さん?分かりますか?」

「先生!バイタル触れません!!」

「心停止!」

「心マ!!」

「ボスミン投与!!全開だ!!」

「先生!準備できました!チャージOKです。」

「皆離れろ!!」

飛び上がる身体。全員がモニターに見入る。緊張と静寂せいじゃくの中

ピッ ピッ ピッ と規則正しい電子音が聞こる。

「先生!自発呼吸が見られます。」

安堵あんどの中汗を拭く医師。

「よく頑張りました。澤村さん。」

その言葉に応えるかのように目蓋まぶたわずかに動いた。

「澤村さん?聞こえますか?分かりますか?」

「…… う…」

誰もが息を飲む。

やがてゆっくりと亜衣が目を開いた。

ぼやける視界。渇ききった口内。

「……あ」

と声を出すもかすれた声は、酸素マスクを付けた状態では誰も聴き取れない。

それでも必死に口を動かす亜衣。

「もう大丈夫でしょう。今 御家族の方をお呼びします。それまでゆっくり寝て下さい。」

そう言って、医師達は病室を出て行った。

1人残された亜衣は、首だけで周りを見渡す。

(ここは?)

見知らぬ天井。硬いベット。

(私…馬車にかれて…)

途端、割れるような頭の痛みに襲われた。

(い!痛っ!何?頭が割れそう!!)

必死に助けを呼ぼうと手を動かすが、動かない。

が、やがてスーッと眠りについた。

どうやら点滴の中に鎮痛剤と睡眠薬が入っていたのだろう。

亜衣はまた夢の中に落ちていった。



数時間後

「良かったな、亜衣。お前さんの目が覚めたってお母さんから連絡貰ったから、残業放って飛んできたぜ。ホントよく頑張ったな。マジ良かった。お帰り、亜衣。」

そう言って愛おしそうに亜衣の左手を自身の両手で握る一眞。

いくら握ってもさすっても抱き締めても、腕の中でどんどん冷たくなっていった記憶の中の最愛の女性の時とは違う温かみだった。

一眞はその体温に安堵し、

「今度こそ、俺はお前を助けられたんだな亜衣。本当に良かったぜ。」

と呟いた。

「今日はお疲れ。また明日来るわな。おやすみ、亜衣。」

そう言って一眞は亜衣の額にキスを落とし、病室を出ていった。

「ロ……さ、ま。」

ガラガラとドアを閉める音にかき消された亜衣の声は、一眞には届いていなかった。





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