王子様に恋をした【完結】

第一章 今世其ノ壱

第四幕 事故⑵

竜二さんの周りに出来た人だかりをぼうーっと見ている私の所に、案の定一眞さんが私の側に来て囁いた。

「お前知ってたのかよ！先輩には婚約者いるって事」

知ってるわけないじゃん!!

「その様子だと知らなかったみたいだな？俺、先輩に文句言ってやろうか？亜衣との事は遊びだったんですか？って！」

止めてよ！そんな事言わないで！

「遊び？何の話なんだ？確かに2人で飯食ったりした。だけど澤村さんは、いつも俺と会っていても楽しそうじゃ無かったよね。話す事といえば、仕事の話ばかりだったしな。確かに弁当は嬉しかったが、最近は学生の先輩後輩みたいな関係に思えたよ。」

て、言われるのが分かっていたから。

そう…私は竜二さんと会っても、仕事の話ばっかりしていたし、竜二さんなんて呼べなくて、【大野先輩】と呼んでいたんだ。

どんどん顔色が悪くなっていったであろう私の顔を覗のぞき込めば、

「亜衣！おい！亜衣!!」

私の肩を掴んで揺する一眞さん。その手を私は振り払う。そして私はまた一気にグラスワインを飲み干した。

遠くで竜二さんの退職と栄転を喜ぶ声や嘆なげく声が聞こえる。

私は会場に居られなくなり、荷物を持つと、ふらつく足で会場から出ていった。

一眞さんが呼んでいる声が聞こえるが、私は無視して呟く。

『彼から捨てられた』
『彼には婚約者がいた』
『あんなに幸せなXmasを過ごしたのに、どうして？』

私の呟きにいいねがどんどん付いていくのを見て、

『彼がいないなら、私は生きてる意味はないね』
『消えたい』
『誰からも見えないくらい小さくなりたい』
『酷いよ!!私は大好きなのに』

とどんどん過激な呟きを重ねていき、スマホばかりを見ていた為、目の前の横断歩道が点滅していた事に気づかなかった。

交差点を右折してきた車が、パーーーーーーっと大きなクラクションを鳴らした事で、私はハッと顔をあげた。

目の前の信号は赤信号。なのに私はまだ歩道の上にいた。

「亜衣ーーーーーーーーー!!」

遠くで私を呼ぶ声が聞こえた気がするが、目の前に迫るヘッドライトの眩しさに目が眩み体が竦すくんで動けない!!

車は大きなカーブを描き私を避けようとするが、間に合わず私の体を掠かすめ近くの電柱に突っ込んで行くのを、空中へ飛ばされながらボーっと見ていた。

やがて私の体は、道路に叩きつけられ、激しい衝撃音と強烈な痛みを伴った…ハズだ。

何故それ等が伴わなかったのか？
その時私は既すでに意識が無かったのだろう。

竜二さん サヨナラ ご婚約者さんとお幸せに

空中で思った私のそれが最後の言葉だった。