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第3章 聖女の力と幸せな時間

豊穣祭はバレンタイン?〜リューベック編 1〜

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俺は29歳になる今の今まで、誰かを好きになる事も、ましてや結婚を考えるなんて事も無い生き方をしていた。
侯爵家に生まれたとはいえ、所詮しょせん三男。
爵位を継ぐ事は出来ない。
だから俺は、騎士を目指した。
王都にある魔法学校を卒業し、そのまま王都の騎士学院に入学。
魔法学校でも騎士学院でも、そこそこ優秀な成績を修めた俺は、指導者の免状を取る為に院生になった。卒業後は、王都の騎士団に誘われたがそれには入らず、故郷の領地に自衛団を作り、騎士を目指す者達に指導をしながら、領地の見回りをし、街に家を構え一人暮らしをしていた。

そんな俺が父上のめいを受け、教会で彼女 マコに会ったのは、領地上空に結界が張られた時だった。

彼女は聖女として転生召喚されたのだが、王子から伝説の聖女の出で立ちとはかけ離れていると言われた為、水晶による聖女判定さえ受けられず、この領地の修道院に来たとされる女性だ。

彼女が街に来てからというもの、領民達の病や怪我が治ったり減ったりした為か?人々は生き生きと暮らし、農業や林業が盛んになった。
また商人や旅人が増え交易も盛んになったおかげで、宿場や大衆食堂も多く出来た。
その様に領地が栄え始めたのは、皆、聖女様のおかげだと噂されるようになったのだ。

実は俺は、父上からの命が下る前に、彼女を孤児院で見かけた事があった。
彼女は畑の一角を掘り起こし何かをしていたのだ。
それは後に井戸を掘っていたと分かったのだが、俺は彼女の魔法の凄さに感心したのだった。

その時は、一見普通の、少し魔力がある女性だとしか思えなかった彼女が、ある日凄い事をした。

それは突如領地上空に現れた半球体の聖結界。それをやったのは彼女なのでは?と噂されたのだ。

事実を確かめようと、俺は父上の命で教会の司祭を訪ねた。と、そこには列を成して司祭から護符を受け取る領民達がいたのだ。
1人の領民に何故護符の為に並んでいるのかを問うと、聖女様が魔力不足に陥って倒れてしまったから、代わりに聖女様の魔法が込められた護符を貰って、家族の病を治す為だと言った。

聖女の魔力不足……それはあの聖結界のせいでは無いだろうか?

俺はその翌日、やっと彼女に会うことが出来た。

彼女は司祭に言われ、俺の実家に来る事になった。それは、母上の病を治して貰う為だ。

母上はいつも何らかの病に侵されており、父上はその都度高名な術士を呼んだり医師を呼んだりした。だが……、術を施して貰った数日間は良いのだが、直ぐにまた病に伏せってしまう。
そしてとうとう、母上はどんな術を施して貰っても全く治らなくなってしまった。

父上は領民に術を施すという彼女にすがった。彼女が真の聖女であるならば、母上の病は治る。
事実、彼女の魔法は母上に笑顔を戻してくれた。
だが、彼女 マコは、魔法が成功した事に安堵の笑みを浮かべるどころか、何かを思案する顔をしてみせた。

後日、俺はその表情の真意をまざまざと見せつけられたのだった。
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