お飾り妻の笑顔の先は【完結】

Saeko

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別れさせ屋

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脇腹を刺された俺は、傷口が塞がる迄入院となった。

時間を持て余し気味の俺は、母親に懸賞付きパズル雑誌を大量に買ってきてもらい、それ等を解きまくっては懸賞に応募していた。

そんなある日
華蓮。いや絢香が母さんと一緒に見舞いに来てくれたんだ。

「お加減いかがですか?」

優しい絢香の微笑みに癒され、

「ありがとう。痛みもだいぶ引いて来ました。」

と答えた。

「全く、お前って子は……。絢香さんに心配かけて。」

と言う母の言葉に驚いた俺に、

「何も知らないとでも思ってたの?絢香さんは、探偵事務所に所属する別れさせ屋の専属女優さんなんだよ。」

「別れさせ屋?女、女優?」

「そうだよ。『私の同僚が悪い女に貢いでいるようだ。なんとかして助け出してあげて欲しい。でも自分では出来ない。だから何方かにお願い出来ないか?』と、絢香さんが所属する探偵事務所に依頼をしてきた人がいるそうよ。その依頼を受けた絢香さんが、お前とその女を別れさせる為に、偽装妻を演じてくれたんだよ。」

え?絢香さんは本当に別れさせ屋なのか?
半ばパニックになっている俺に

「でも良かったよ。無事に別れられて。」

と母が涙ぐんでいる。こんな弱気な母を見たことがなかった俺は、

「母さん……。ごめん。」

と謝った。

「私こそごめんなさい。大事なご子息のお体に怪我を負わせてしまいました。」

「いいの。いいんですよ、絢香さん。悪い女に食いものにされてしまう前に、一紀は戻ってきてくれたんですから。しかもこの怪我は、絢香さんを守って出来た栄誉ある怪我。偉かったと誉めてあげないといけないと思ってるくらいなんですよ。」

「私の前に立ちはだかってくれたご子息は、本当にかっこよかったです。」

「ありがとう。ありがとうね、絢香さん。」

絢香の手を取り本格的に泣き出した母。
本当に心配をかけてしまったと思う。

「母さん……ごめんなさい。」

「いいんだよ、一紀。私達が一紀を追い詰めたからいけないんだもの。」

「末本さん。そんなにご自分を責めないで下さい。一紀さんもきっとわかってらっしゃいます。それから一紀さん。助けていただきありがとうございました。」

俺に深々と頭を下げられ、あたふたしてしまう。

本当に演技だったのか?

「一紀さん。柿沼華蓮を好きになって下さってありがとうございました。私はこれで失礼させていただきます。」

「あ……い、いえ。ありがとうございます。」

「最後に一つだけ。」

「え?」

「事務所に依頼を下さったその女性は、一紀さんを心から心配していらっしゃいました。どうか彼女の気持ちに応えて差し上げて下さい。彼女はいつも貴方を見ていて下さってましたよ。では、失礼致します。お幸せに…。」

そう言って踵を返し病室を出ていった彼女。

「いい子だったね。彼女が本当にお前のお嫁さんになってくれたら良かったのに…。」

そう言って、絢香が持ってきてくれた花を生ける為に病室から出て行く母をぼんやりと見送った俺は、一人で頭の中を整理し始めた。

が、どれが本当でどれが嘘なのか全く分からず、かえって頭の中が混乱するだけだった。
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