33 / 36
別れさせ屋
しおりを挟む
脇腹を刺された俺は、傷口が塞がる迄入院となった。
時間を持て余し気味の俺は、母親に懸賞付きパズル雑誌を大量に買ってきてもらい、それ等を解きまくっては懸賞に応募していた。
そんなある日
華蓮。いや絢香が母さんと一緒に見舞いに来てくれたんだ。
「お加減いかがですか?」
優しい絢香の微笑みに癒され、
「ありがとう。痛みもだいぶ引いて来ました。」
と答えた。
「全く、お前って子は……。絢香さんに心配かけて。」
と言う母の言葉に驚いた俺に、
「何も知らないとでも思ってたの?絢香さんは、探偵事務所に所属する別れさせ屋の専属女優さんなんだよ。」
「別れさせ屋?女、女優?」
「そうだよ。『私の同僚が悪い女に貢いでいるようだ。なんとかして助け出してあげて欲しい。でも自分では出来ない。だから何方かにお願い出来ないか?』と、絢香さんが所属する探偵事務所に依頼をしてきた人がいるそうよ。その依頼を受けた絢香さんが、お前とその女を別れさせる為に、偽装妻を演じてくれたんだよ。」
え?絢香さんは本当に別れさせ屋なのか?
半ばパニックになっている俺に
「でも良かったよ。無事に別れられて。」
と母が涙ぐんでいる。こんな弱気な母を見たことがなかった俺は、
「母さん……。ごめん。」
と謝った。
「私こそごめんなさい。大事なご子息のお体に怪我を負わせてしまいました。」
「いいの。いいんですよ、絢香さん。悪い女に食いものにされてしまう前に、一紀は戻ってきてくれたんですから。しかもこの怪我は、絢香さんを守って出来た栄誉ある怪我。偉かったと誉めてあげないといけないと思ってるくらいなんですよ。」
「私の前に立ちはだかってくれたご子息は、本当にかっこよかったです。」
「ありがとう。ありがとうね、絢香さん。」
絢香の手を取り本格的に泣き出した母。
本当に心配をかけてしまったと思う。
「母さん……ごめんなさい。」
「いいんだよ、一紀。私達が一紀を追い詰めたからいけないんだもの。」
「末本さん。そんなにご自分を責めないで下さい。一紀さんもきっとわかってらっしゃいます。それから一紀さん。助けていただきありがとうございました。」
俺に深々と頭を下げられ、あたふたしてしまう。
本当に演技だったのか?
「一紀さん。柿沼華蓮を好きになって下さってありがとうございました。私はこれで失礼させていただきます。」
「あ……い、いえ。ありがとうございます。」
「最後に一つだけ。」
「え?」
「事務所に依頼を下さったその女性は、一紀さんを心から心配していらっしゃいました。どうか彼女の気持ちに応えて差し上げて下さい。彼女はいつも貴方を見ていて下さってましたよ。では、失礼致します。お幸せに…。」
そう言って踵を返し病室を出ていった彼女。
「いい子だったね。彼女が本当にお前のお嫁さんになってくれたら良かったのに…。」
そう言って、絢香が持ってきてくれた花を生ける為に病室から出て行く母をぼんやりと見送った俺は、一人で頭の中を整理し始めた。
が、どれが本当でどれが嘘なのか全く分からず、かえって頭の中が混乱するだけだった。
時間を持て余し気味の俺は、母親に懸賞付きパズル雑誌を大量に買ってきてもらい、それ等を解きまくっては懸賞に応募していた。
そんなある日
華蓮。いや絢香が母さんと一緒に見舞いに来てくれたんだ。
「お加減いかがですか?」
優しい絢香の微笑みに癒され、
「ありがとう。痛みもだいぶ引いて来ました。」
と答えた。
「全く、お前って子は……。絢香さんに心配かけて。」
と言う母の言葉に驚いた俺に、
「何も知らないとでも思ってたの?絢香さんは、探偵事務所に所属する別れさせ屋の専属女優さんなんだよ。」
「別れさせ屋?女、女優?」
「そうだよ。『私の同僚が悪い女に貢いでいるようだ。なんとかして助け出してあげて欲しい。でも自分では出来ない。だから何方かにお願い出来ないか?』と、絢香さんが所属する探偵事務所に依頼をしてきた人がいるそうよ。その依頼を受けた絢香さんが、お前とその女を別れさせる為に、偽装妻を演じてくれたんだよ。」
え?絢香さんは本当に別れさせ屋なのか?
半ばパニックになっている俺に
「でも良かったよ。無事に別れられて。」
と母が涙ぐんでいる。こんな弱気な母を見たことがなかった俺は、
「母さん……。ごめん。」
と謝った。
「私こそごめんなさい。大事なご子息のお体に怪我を負わせてしまいました。」
「いいの。いいんですよ、絢香さん。悪い女に食いものにされてしまう前に、一紀は戻ってきてくれたんですから。しかもこの怪我は、絢香さんを守って出来た栄誉ある怪我。偉かったと誉めてあげないといけないと思ってるくらいなんですよ。」
「私の前に立ちはだかってくれたご子息は、本当にかっこよかったです。」
「ありがとう。ありがとうね、絢香さん。」
絢香の手を取り本格的に泣き出した母。
本当に心配をかけてしまったと思う。
「母さん……ごめんなさい。」
「いいんだよ、一紀。私達が一紀を追い詰めたからいけないんだもの。」
「末本さん。そんなにご自分を責めないで下さい。一紀さんもきっとわかってらっしゃいます。それから一紀さん。助けていただきありがとうございました。」
俺に深々と頭を下げられ、あたふたしてしまう。
本当に演技だったのか?
「一紀さん。柿沼華蓮を好きになって下さってありがとうございました。私はこれで失礼させていただきます。」
「あ……い、いえ。ありがとうございます。」
「最後に一つだけ。」
「え?」
「事務所に依頼を下さったその女性は、一紀さんを心から心配していらっしゃいました。どうか彼女の気持ちに応えて差し上げて下さい。彼女はいつも貴方を見ていて下さってましたよ。では、失礼致します。お幸せに…。」
そう言って踵を返し病室を出ていった彼女。
「いい子だったね。彼女が本当にお前のお嫁さんになってくれたら良かったのに…。」
そう言って、絢香が持ってきてくれた花を生ける為に病室から出て行く母をぼんやりと見送った俺は、一人で頭の中を整理し始めた。
が、どれが本当でどれが嘘なのか全く分からず、かえって頭の中が混乱するだけだった。
0
お気に入りに追加
248
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

[完結]裏切りの学園 〜親友・恋人・教師に葬られた学園マドンナの復讐
青空一夏
恋愛
高校時代、完璧な優等生であった七瀬凛(ななせ りん)は、親友・恋人・教師による壮絶な裏切りにより、人生を徹底的に破壊された。
彼女の家族は死に追いやられ、彼女自身も冤罪を着せられた挙げ句、刑務所に送られる。
「何もかも失った……」そう思った彼女だったが、獄中である人物の助けを受け、地獄から這い上がる。
数年後、凛は名前も身分も変え、復讐のために社会に舞い戻るのだが……
※全6話ぐらい。字数は一話あたり4000文字から5000文字です。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる