お飾り妻の笑顔の先は【完結】

いざ出陣？

華蓮との話をどうこうするよりも先に、萌佳とは完全に別れなくてはいけないよな。
本当は会ってちゃんと別れ話をすべきなんだろうが、ぶっちゃけ自然消滅が一番楽だと思えてしまう。何故なら俺の中にはもう萌佳への思いは微塵も無くなっているから。

もう少しで萌佳と同棲する為に借りていたマンションも解約になる。
そうすれば、萌佳と会う事も無くなるだろう。自然消滅でどうにかいけそうな気がするよな。
昨日管理会社に問い合せたところだと、最近マンションに萌佳が出入りしている様子は無いそうだから。
それなら近々行って、室内の確認に行ってこなくてはならないな。
萌佳のドレスやらは、宅急便で店に送ればいいと思うし、残ってる家具などは、既に借りてある新しい部屋に引っ越し業者を手配して移せばいいからな。

よし！先ずはマンションへ行って、部屋の中の様子を見てから、引っ越し業者へ連絡だな。

俺は、同僚達と別れた後、ウィークリーマンションへ帰り、ベッドへ潜り込みながらそう考えた。

同僚といえば、さっき見た写真だ。
あの顔はどう見ても華蓮だった。
だが、この世には自分と同じ顔を持つ人間が何人かいるという話もあるし、他人の空似という場合も考えられる。
なんにせよ、これも今度店に行けば分かる事だろう。
やる事がいっぱいだなと思いながら、俺はゆっくり目を閉じた。


それからまた一週が経った金曜の放課後。

「さぁ、今夜は約束していたButterflyですよ。末本先生。」

ふとっちょこと安部 哲二あべ てつじさんが、まだ雑務が終わっていない俺の傍に来て話しかけてきた。
職員室の中にはまだ他の教諭もいるのに、ふとっちょはButterflyへ行く事が楽しみ過ぎるのだろう。

「そうでしたね、安部先生。私も楽しみなんですが、まだちょっと……。」

そう言って、自分の机の上の物を指し示すと、

「私もまだ終わりませんからご安心下さい。ただ、お忘れではないか？とも思ったので、確認させて頂きました。では、後ほど。華ちゃ～ん待っててね～。」

そう言って、そそくさと自分の机に戻る安部さんを見てため息をついた。

いずれにしろ、早く片付けないとこのままでは月曜日迄仕事が持ち越しになってしまう。
採点もテスト等作成や点数の打ち込みも、ずっと以前は自宅に持ち帰る事が可能だった様だが、今は個人情報保護の為持ち帰りは当然ながら不可。更に、採点以外は職員室で行なう事と我が校ではそう決められている。

なんせ、明日 明後日は、マンションの引っ越しと引渡しが待っているからだ。
だから、Butterflyにあまり遅い時間までいる事が出来ない。
かと言って、これらの仕事を月曜日に回すと、皺寄せが厳しくなる事は火を見るより明らかだ。
そういう理由で、出来るだけ早い時間からButterflyへ行きたいと、安部さんにお願いしたのだ。

俺は気合いを入れ直し、精力的に仕事を片付けていった。

「末本先生、安部先生。終わりましたか？」

今夜Butterflyへ同行するもう一人の男性教諭 髭男爵こと安東 雅哉あんどう まさやさんが話しかけてきた。
一週間前のあの日、安東さんも同行する事になっていたのは分かっていたが、彼は妻帯者。
キャバクラなんて行っても奥様は気にしないのだろうか？
まぁ他人の家庭の事情なのだから気にする必要もないのだろうが。

「私は大丈夫です。安部先生は？」

「僕も終わりました！では、いざ出陣。」