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俺より売り上げの萌香
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俺は久しぶりにCLUB プリマヴェーラに行った。
相変わらず、店内はとても煌びやかで、綺麗に着飾った女達が、群がる男達を酒やトークで饗している。
案内された席に座った俺は、近づいてきた黒服に
「ご指名は?」
と問われ、
「あ~。萌…いやKIRAさんを。」
「KIRAですね?畏まりました。」
黒服の男がKIRAこと萌香が座る席まで行く姿を目で追っていると、萌香は俺とは比べ物にならないくらいイケメンな客に撓垂れ掛かっていた。
誰だ?あの男は!
あんなイケメンなのにキャバクラへ、しかも萌香の店に来て、萌香と…俺の萌香と一緒に酒を飲むなんて言語道断だ!!
俺が怒りで唇をわなわなさせていると、
「誰かと思ったらかずちゃんじゃなぁい。どうしたの?顔合わせだからって言ってたから、今夜は来ないって思ってたのに。」
と、漸く俺の席に来た萌香は、さも俺には来てもらいたく無かったかの様な口ぶりで話し出した。
「あ~。いつものでいいよね?」
と俺に言ったかと思うと、
「あ!ねぇ。カルバドスとチーズの盛り合わせと、あと……」
と勝手に注文し始めた。
「いや、カルバドスじゃなく、ドン・ペリニヨンを。」
「え?ドンペリ?ちょっ「ドンペリを持って来てくれ。」え?かずちゃん!!」
「はい、畏まりました。」
オーダーを済ませ、ドカッとソファの背もたれに身体を預ける俺を見る萌香の顔は、少し慌てている様だ。
「ちょっと、かずちゃん。ドンペリとか一体どうしたの?」
「あ?今夜はお祝いだからな。」
そう、つっけんどんに言い放ったが、萌香は気付かない様子で、
「ん?お祝い?何の?」
「今日の顔合わせが上手くいったから、そのな。」
「あ~そう。上手くいったんだ。良かったね。」
「あぁ。」
と不機嫌丸出しで言ったのに、萌香は相変わらず気付かない。
その後、運ばれてきたドン・ペリニヨンで乾杯。
高い酒だけに、美味いなと感心している俺に、
「おめでとう、かずちゃん。」
「ありがとう、萌…「ダメ!!店では源氏名でって約束だったでしょ?」あぁ。すまない。」
「ところでかずちゃん。態々報告に来てくれたの?」
「そうだよ。家だと入れ違いになっちゃうだろ?」
美味い酒に少し気分を良くした俺なのに、
「まぁそうだけど…別に今じゃなくても……」
と、萌香は興味が無さそうだ。
いつもだったら手放しで喜んでくれるのに……
俺はいつもと様子が違う萌香を観察する為に、適当な話をふってみた。
すると萌香は、チラチラとさっき座っていたシートの方へ視線を送りながら、適当に答えているのが丸わかりだった。
だが突然、
「かずちゃん、ごめんね?私さ、最近売り上げ落ちてきてるの。」
「え?売り上げが?」
「そう。でね?さっきまで接客してたお客様が、すっごくお金落としてくれそうなの。私、新規さん取りたいの。他の子に取られたくないの!だからごめん。」
そう言うと、萌香は近くにいた黒服に何か話すと、さっきの男がいるシートへと戻っていった。
「お客様。ただ今違う女の子を「帰る!」はい?」
「帰ると言ったんだ!!」
「畏まりました。」
そう言って黒服は一旦居なくなったと思ったら、請求書を挟んだ黒い合皮のバインダーを持ってきた。
俺はその金額を一瞥し、財布から現金を出して挟んで返した。
黒服が領収書を持ってくる間に、俺は一人で頼んだ酒を煽る様に飲み、黒服にタクシーを寄越すよう頼むと、誰からも見送られる事無く店をあとにした。
一人マンションへ帰って、真っ暗な部屋に入ると、萌香の愛用する香水の匂いが鼻について仕方がない。
「そういえば、アイツ…華蓮からは香水の匂いはしなかったな。だからか?親がアイツを気に入ってくれたのは……。」
そんな事を考えながら、部屋の換気をしている間に、風呂に入るとそのまま朝までぐっすり寝てしまい、萌香が酒臭い匂いをさせて帰ってきた事さえ気づかなかった。
翌日の昼間
萌香からさんざん昨日のお客について
「二条さんはね~」「二条さんからね~」「二条さんが」「二条さんは」
と「二条」を連呼され、胸糞が悪くなってしまった。
だが、俺が不機嫌そうに黙り込んいても、萌香はそれに気づくことなく二条の話を続けていた。
相変わらず、店内はとても煌びやかで、綺麗に着飾った女達が、群がる男達を酒やトークで饗している。
案内された席に座った俺は、近づいてきた黒服に
「ご指名は?」
と問われ、
「あ~。萌…いやKIRAさんを。」
「KIRAですね?畏まりました。」
黒服の男がKIRAこと萌香が座る席まで行く姿を目で追っていると、萌香は俺とは比べ物にならないくらいイケメンな客に撓垂れ掛かっていた。
誰だ?あの男は!
あんなイケメンなのにキャバクラへ、しかも萌香の店に来て、萌香と…俺の萌香と一緒に酒を飲むなんて言語道断だ!!
俺が怒りで唇をわなわなさせていると、
「誰かと思ったらかずちゃんじゃなぁい。どうしたの?顔合わせだからって言ってたから、今夜は来ないって思ってたのに。」
と、漸く俺の席に来た萌香は、さも俺には来てもらいたく無かったかの様な口ぶりで話し出した。
「あ~。いつものでいいよね?」
と俺に言ったかと思うと、
「あ!ねぇ。カルバドスとチーズの盛り合わせと、あと……」
と勝手に注文し始めた。
「いや、カルバドスじゃなく、ドン・ペリニヨンを。」
「え?ドンペリ?ちょっ「ドンペリを持って来てくれ。」え?かずちゃん!!」
「はい、畏まりました。」
オーダーを済ませ、ドカッとソファの背もたれに身体を預ける俺を見る萌香の顔は、少し慌てている様だ。
「ちょっと、かずちゃん。ドンペリとか一体どうしたの?」
「あ?今夜はお祝いだからな。」
そう、つっけんどんに言い放ったが、萌香は気付かない様子で、
「ん?お祝い?何の?」
「今日の顔合わせが上手くいったから、そのな。」
「あ~そう。上手くいったんだ。良かったね。」
「あぁ。」
と不機嫌丸出しで言ったのに、萌香は相変わらず気付かない。
その後、運ばれてきたドン・ペリニヨンで乾杯。
高い酒だけに、美味いなと感心している俺に、
「おめでとう、かずちゃん。」
「ありがとう、萌…「ダメ!!店では源氏名でって約束だったでしょ?」あぁ。すまない。」
「ところでかずちゃん。態々報告に来てくれたの?」
「そうだよ。家だと入れ違いになっちゃうだろ?」
美味い酒に少し気分を良くした俺なのに、
「まぁそうだけど…別に今じゃなくても……」
と、萌香は興味が無さそうだ。
いつもだったら手放しで喜んでくれるのに……
俺はいつもと様子が違う萌香を観察する為に、適当な話をふってみた。
すると萌香は、チラチラとさっき座っていたシートの方へ視線を送りながら、適当に答えているのが丸わかりだった。
だが突然、
「かずちゃん、ごめんね?私さ、最近売り上げ落ちてきてるの。」
「え?売り上げが?」
「そう。でね?さっきまで接客してたお客様が、すっごくお金落としてくれそうなの。私、新規さん取りたいの。他の子に取られたくないの!だからごめん。」
そう言うと、萌香は近くにいた黒服に何か話すと、さっきの男がいるシートへと戻っていった。
「お客様。ただ今違う女の子を「帰る!」はい?」
「帰ると言ったんだ!!」
「畏まりました。」
そう言って黒服は一旦居なくなったと思ったら、請求書を挟んだ黒い合皮のバインダーを持ってきた。
俺はその金額を一瞥し、財布から現金を出して挟んで返した。
黒服が領収書を持ってくる間に、俺は一人で頼んだ酒を煽る様に飲み、黒服にタクシーを寄越すよう頼むと、誰からも見送られる事無く店をあとにした。
一人マンションへ帰って、真っ暗な部屋に入ると、萌香の愛用する香水の匂いが鼻について仕方がない。
「そういえば、アイツ…華蓮からは香水の匂いはしなかったな。だからか?親がアイツを気に入ってくれたのは……。」
そんな事を考えながら、部屋の換気をしている間に、風呂に入るとそのまま朝までぐっすり寝てしまい、萌香が酒臭い匂いをさせて帰ってきた事さえ気づかなかった。
翌日の昼間
萌香からさんざん昨日のお客について
「二条さんはね~」「二条さんからね~」「二条さんが」「二条さんは」
と「二条」を連呼され、胸糞が悪くなってしまった。
だが、俺が不機嫌そうに黙り込んいても、萌香はそれに気づくことなく二条の話を続けていた。
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