隣の芝は

Saeko

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うちの芝のが青い

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「ふう~。なんとか間に合ったな。」
と、私の旦那 橋本健生たけおはそう言ってタオルで少し生え際が後退した額や顔を流れ落ちる汗を拭いつつそう言った。
そしてその後私を軽蔑のまなこで見てくる。
それは旦那が帰国し、このマンションに帰ってきてからずっと続いているだ。

舅が倒れ介護状態になってしまったからと、介護を姑だけに押し付けるわけにはいかないという話になり、急遽引っ越しが決まって1週間。
私は一旦、旦那がインドに戻って整理をして来るからと日本を発った日から完全に帰国して来る前に(我が家の惨状を知られる前に)綺麗に片付けてしまおうと必死に頑張った。けれど、ゴミの分別に思いの外苦戦してしまい、あれよあれよという間に時間だけが経過。結果、大荷物を抱えて帰国した旦那が部屋に帰ってきて万事休す状態だった。

「一体!何をどう考えて生活したらこんなゴミ屋敷みたいになるんだ!!俺が単身赴任してたのなんて、たったの3ヶ月だぞ!」
とえらい剣幕で怒鳴られ、本当だったら、次の日から新しい職場に挨拶に行かないといけなかったのに、旦那は会社に電話して、引っ越し迄の期間、有給を取ってしまった。
そして結奈を幼稚園に送り帰宅すると直ぐに、旦那と2人、無言で部屋を綺麗にする日々。

旦那はゴミ袋に大量に入っているプラスチックの容器を見ては、
「お前が優雅に出前やらUberEATSやらで頼んだ飯を食ってる時、俺は少しでも家計に負担がかからないように自炊してたんだぞ。ったく専業主婦が聞いて呆れる」
と盛大にため息をつきつつ、ブツブツ文句を言いながらゴミの分別をやっていた。そればかりか
「ったく…挙句の果てに、結奈が『那智ちゃんのママが作ったお料理が食べたい!』って言い出した時は、我が耳を疑ったぞ。お前、人様のお宅から飯を恵んで貰ってたのか?」
とジト目を投げて来る。
「め、恵んで貰ってたんじゃないもん!お裾分けして貰ってただけだし。それにさぁ…2人分だけ・・作るのってめんどくさいんだもん」
と言い訳したら、
「俺は1人分でもちゃんと作ってたぞ」
って返され撃沈&一刀両断で終了乙だった。

ほんとマジ、舅が倒れなきゃ……いや介護状態にさえならなきゃ、今頃もタワマンに住む優雅な専業主婦やってたのに…。で、お人好しな那智ちゃんママのとこからおかずを(半ば強引に)貰って(奪って)これる生活が出来たのに…と独り言ちていたら、
「おい芽衣子!手が止まってるぞ!!ったく、こんなんじゃいつまで経ってもまともに料理も作れないじゃないか!!冷蔵庫の中に食材も無いとか。ホント専業主婦のくせに何やってんだよ!しかも、出前ばっかり取ってるからそんな身体になるんだ。」
と言って、旦那と向かい合って立っている私の身体を上から下まで何往復も視線を走らせる旦那。そして
「結婚した当初はこんなたるんだ身体じゃなかったのに、どんどんどんどん肉ばっかり着きやがって。詐欺だろ…。お袋も親父もこの俺でさえも、久しぶりに見たお前のその体型に言葉を無くしてたぞ?お前は雪だるまか!」


雪だるまですって!?詐欺ですって!?
そっちだって後退して額が広くなってるくせに!
と思ったが、口にする事は出来なかった。
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