貴方の駒になど真っ平御免です

Saeko

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第四章 決別

第14話 会見の裏側3

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柊が保と渉の店で飲んでいる一方櫻井家では

「お義母様。迫真の演技でしたわ。流石元舞台女優ですわね。」

「あら、彌生さん。ありがとう。」

息子 柊の妻 櫻井彌生の言葉に、ウフフと笑って答えたのは櫻井兼近の最愛の妻櫻井ローズマリーだ。

ローズマリーは彌生が言うとおり、兼近に見初められる前は舞台女優をしていた。
あまり大きな劇団では無かった様だが、それでも美しい金髪を靡かせ、舞台上を縦横無尽に動きまわり演技をするローズは非常に人気があった。
夫兼近は、知人と一緒に劇団の舞台を見に行った際、ローズマリーに一目惚れをしたのだ。
それから四半世紀経った今も、兼近は妻ローズマリーを溺愛している。

「彌生伯母様の仰るとおりだと思うわ。だって、私もそう思ったもの。」

そう言って百合香は綺麗に微笑んだ。

「まぁ!りり。貴女はなんて可愛い子なんでしょう。」

そう言って、自身の隣に座る可愛い孫娘を抱きしめるローズマリー。

「さぁさ、お祖母様によく顔を見せて頂戴な。」

百合香の顔を上げじっとそれを見つめるローズマリーの目から、突然ツーッと一筋の涙がこぼれ落ちた。

「お祖母様?どうなさったの?」

困惑した顔で祖母を見る百合香に、

「りり、本当にごめんなさいね。貴女が白金家で苦しんでいたのに、私は何も出来なかった。もっと早く何かをしていたら、りりはこんなに辛い思いをしなくても済んだのに。許して頂戴ね。」

そう言ってまた百合香を抱きしめたローズマリーの声は震えていた。

「お祖母様?私は大丈夫です。だってほら。」

「これはお守りなの。」そう言って百合香は、胸元からロケットペンダントを出して中をローズマリーに見せた。
そこには、今の百合香とあまり変わらない歳の麗羅が、幼い百合香を抱いている写真が入っていた。

「あぁ!麗羅!!私の可愛い娘。」

百合香からロケットペンダントを渡されると、それを握り締めて泣き出してしまうローズマリー。

「お祖母様?泣かないで下さい。私は……百合香はもう直ぐお祖母様の所へ帰ってきます。あと一年……一年後に全てが終わるの。それまで待っていて?お祖母様。」

写真の中の麗羅と同じ微笑みでローズマリーを慰める百合香。

「そうだぞ、マリー。私達の念願がもう直ぐ叶うんだ。なぁに、一年なんて直ぐに経ってしまう。そうじゃろ?」

「えぇ、お義父様の仰るとおりですわ、お義母様。りりはもう直ぐ櫻井の家の子になるんですもの。それに、りりに会いたくなったら、マンションに行けばいつでも会えますわ。」

兼近から話をふられた彌生は、ローズマリーを挟んで百合香とは反対側から、ローズマリーの手を両手でギュッと握った。

「そうね、そうだわ。もう直ぐりりは、白金百合香ゆりかから櫻井百合香りりかになるのよね。旦那様の仰るとおり、一年なんてきっとあっという間だわ。彌生さん?りりのマンションへ行く時は、私も連れて行って頂戴な。」

「分かりましたわ、お義母様。一緒に参りましょう。」

「あの忌々しい男からりりが自由になった事を、今日は喜ばなくてはね。大貫さん?大貫さんは帰っているの?」

ローズマリーに呼ばれた大貫完二が「戻りましたよ、大奥様。」と言って入って来た。

「今朝ぶりですね?百合香お嬢様。」

「えぇ。お帰りなさい、大貫さん。」

「お嬢様もですな。」

大貫と百合香はそう言って笑いあった。

「大貫さん。私もお手伝いさせて貰っても?」

「勿論ですとも。では、やりましょうか。」

そう言って、二人が櫻井家の厨房へと向かうと、

「彌生さん?私達もパーティの準備を致しましょうか。」

と言って立ち上がったローズマリーを支える様に傍に立った彌生は、

「時子さん?お手伝いして頂けるかしら?」

と言って白金家から戻った時子を呼び、広いリビングルームに花を生けたり、テーブルクロスを取り替えたりと楽しそうに準備を始めた。

その姿を満足気に見つめる兼近と柊に見守られながら。
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