貴方の駒になど真っ平御免です

Saeko

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プロローグ

さよなら

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「ふぅ。これでよし!かな?」

明日私はこの家を出る。

家族は誰もこの事を知らない。

この家の中で唯一私を見ていてくれたお手伝いの時子さんだけは知っている。

私がこの家を出た次の日、彼女も暇を貰うと言っていたから、着いてきてくれるのだろう。

明日は、私と義妹の大学卒業パーティが、都内のとあるホテルの一室で大々的に行われる。
当日そこでは、父の会社の跡継ぎの発表が行われる予定だ。

今 私の目の前には、パーティにはおよそ似つかわしくないスーツがかかっている。
明日のパーティで、私に着る様にと父から言われたブランド物のスーツ。

きっと義妹には、同じブランドのドレスが渡されているんだろう。

だって明日、私は実の父親から断罪されるのだから。

だから逃げる。
ううん。違うな。
捨てるの、『家族』を。

「お嬢様。明日のお支度はお済みですか?」

トントンと私の部屋のドアをノックして入ってきたのは時子さん。

「あらまぁ!綺麗さっぱりです事。」

とクスクス笑う時子さんに、

「必要な物は全て配送済だし、不要な物は明日、あの人達が出ていった後 業者が回収に来てくれるわ。」

と私もクスクス笑いで返した。

「このかつらも、この眼鏡も、明日の朝食の後で終わりですね。」

「そうね。」

簡素な机と揃いの これまた簡素な椅子の上に無造作に置かれたウィッグと眼鏡は変装用。

これ等を着けて日々生活していたが、それも明日の朝で終わり。
本来の自分に戻り、自由の身になろうと決めたんだ。

「明日は忙しくなりますよ。ですからお早くお休み下さい、お嬢様。」

「ありがとう時子さん。そうするわね。おやすみなさい。」

「おやすみなさい、お嬢様。」

部屋の電気のスイッチをパチンと消して、時子さんは部屋を出ていった。

ベッドサイドのスタンドの明かりを付け、

「お母様。明日はいよいよ長年お母様を裏切っていたお父様を捨てる日となりました。お母様。どうか私を見守っていて下さいね。おやすみなさい。」

枕元にある、今は亡き母の写真に話しかけた後、私は日記帳の今日のページに
【家出まで残り1日】
と書き記し、スタンドの電気を消した。
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