妹よりブスな姉の幸せ

第11章 ブス姉が幸せになる為に（辺境伯vs公爵）

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「遠路はるばるよく（もまぁ勝手に）お越しくださいました、マリヴェル公爵閣下並びにマリヴェル公爵夫人、それから……（愚嬢と名高い）ご息女のマリヴェル公爵令嬢。さあどうぞお掛けになって下さい。」
とウィンザード伯爵当主は心の声を上手に隠しながらも笑顔で対応する。

そんな伯爵の副音声を知ってか知らずか、公爵は勧められたソファに夫人を伴いドカリと座るとこう切り出した。

「我等の可愛い愛娘 アンジェーヌ=マリヴェルをお返し願いたい」

と。

これには流石の伯爵も面食らってしまったのか？一瞬だけ眉を顰めてしまったが、直ぐに笑顔を作ると
「その様な高貴なお名前のご令嬢は我が領にはいらっしゃいませんね。」
とさも何も知らぬといった顔でのたもうた。
そして、執事長が運んで来た紅茶を一口飲むと、公爵にもそれを勧めたのだ。
素知らぬ顔の伯爵に思うところはあるものの、喉の渇きを覚えていた伯爵はそれに従う事にし、夫人や末娘の令嬢も伯爵に倣って紅茶を一口飲んだ。
すると途端に口内に広がる芳醇な香りとスッキリとした喉越しに、三人は「ほぅ」と感嘆の声を洩らした。が、それが公爵の言う愛娘・・（姉）が所有している土地で作られた茶葉で入れられたものであり、今までいつも公爵家で飲まれていた紅茶であることに気づくことはなかった。そればかりか少し苛立った様子でカップをソーサーにガチャンと音を立てて置いた公爵は、
「知らぬとは言わせぬぞ、ウィンザード伯爵。此方としては確たる証拠を以て此方に参ったのだからな。」
と高圧的にそう言ったのだ。だが伯爵も伯爵で、
「これは異な事を仰いますねマリヴェル公爵殿は。」
と言って退ける。が公爵も負けじと、
「貴公は自領の領民の管理も出来ぬのか？」
と口の端を上げて伯爵を挑発した。そして
「貴公が自領の管理も出来ぬ領主出ないのならば、領民台帳にも我が娘が入領した事も記載されているであろう。」
と言いその右手を出して上下に軽く振ってみせる。
その意を察した伯爵は、
「我が領地の領民台帳を見せろと？公爵閣下はまた面妖な事を仰る。」
と言って、また一口お茶を口にするウィンザード伯爵。
そして多少大袈裟気味にこう続けた。
「この紅茶、いつ飲んでも本当に素晴らしい！流石我が義娘が所有する領地の茶葉であるな。」
と妻であるシャルルーシェに顔を向けると、
「そうですわね、あなた。あの娘この領地の茶葉は最高級ですもの。あ！そうですわ。そういえばあの娘、近々その領地を売ってしまうと言っていたわ。」
「そうなのか？ならば領地内の茶葉の木はどうなるのだ？」
「なんでも植わっている茶葉の木を半分だけ貰い受ける様ですわ。そしてその残りの木は、その隣地の民に管理させるそうですの。なにしろあの娘の領地には民がおらないから、働き手を隣地の民から募り、管理もその隣地の領地代行にお願いしているとか。」
「そうであったか（まぁ知っていた事だがな）。その隣地の民達も仕事が無くならずに済むだろうから、たいそう喜ぶだろう。話によるとそのマリヴェル公爵領隣地には、目立った特産物が無いと聞くからな。」
「えぇ。あの娘が茶葉の木の栽培を始め、隣地の民にその栽培の手伝いを募らなければ、その領民から上がる税収は下がる一方でしたでしょうね（まあ、マリヴェル公爵其方は知らなかった事でしょうけども）。」
と、紅茶を飲みながらチラチラとマリヴェル公爵の顔を見る伯爵夫妻。
だが、そんな茶葉の話を聞きに来たわけではない公爵は苛立ちを顕にした。そして
「早く領民台帳を見せろ！」
とテーブルを叩き吠えたのだった。