妹よりブスな姉の幸せ

Saeko

文字の大きさ
上 下
76 / 179
第六章 本格的な始動

10

しおりを挟む
「この度は当家の愚息が。申し訳ありませんでした。」

客間の扉をコンコンとノックする音に、お医者様と薬師の方がみえたと思い入室を許可する言葉を言うと、入ってこられたのは、この家のあるじであり領主のウィンザード閣下だったの。

入室するやいなや、閣下は、ご子息がマーサに怪我をさせてしまった事を頭を深く下げて謝罪してくださったの。
閣下の謝罪に恐縮してしまったマーサが寝台から起き上がろうすると、
「いえ、どうぞそのままで。」
とにこやかに微笑まれる閣下。
とても穏やかでお優しく紳士という印象なのに、これが一度ひとたび戦ともなれば、冷酷無慈悲の刄の狼になるおかたとは、今のこのご様子では、到底想像も出来ないわね。

「いえ!とんでもございません、ウィンザード閣下。私がご子息アイザックス様の勢いに耐えられなかっただけにございます。」
とマーサが恐縮すれば、
「いや。それでも愚息は、女性に怪我を負わせました。それは許されない事です。その償いと言うわけではないが、どうかマーサ嬢の傷が完治するまで、此方にいてはくれまいか。」
と、マーサに対して誠心誠意対処しようとしてくれている閣下には、非常に好感が持てたわ。

「マーサ。閣下がここまで仰って下さっているんですもの。お言葉に甘えさせて貰いなさいな。ウィンザード閣下、マーサを宜しくお願い申し上げますわ。」
と、前半はマーサに、後半は閣下に言ったの。すると閣下は、
「あい分かった。この後医師と薬師が来てくれる。怪我が治るまでは動くこともままならないであろう。故に食事も此処に運ばせる事にしよう。宜しいかな?」
「宜しいも何も……。こんなに良くして頂いては……。」
と閣下の至れり尽くせりのご厚意に、アワアワしているマーサがちょっと可愛らしい。

そんなやり取りを見ていた私の方をご覧になった閣下は、
「マリヴェル公爵令嬢もどうだろうか。マーサ嬢とこの邸で過ごされては?」
と仰ったの。
だけど……

「お心遣い痛み入りますわ、ウィンザード閣下。折角のお言葉ではございますが、私にはしなくてはならない仕事がございますの。ですので、此方への滞在は、遠慮させて「嫌です!お嬢様も一緒に居てください!私1人此方でだなんて…」マーサ。」
さっきマーサに懇願された時は一応了承したのだけれど、実はマーサが寝た頃そっと家に帰ろうと思ってたのよね。
だから閣下からのお話も、丁重にお断りさせて頂こうと思っていたのに、マーサに「心細いから一人は嫌だ。さっきは一緒にいてくれると約束してくれた。」とまで言われてしまえば、断るにも断れなくなってしまったの。

「マーサ嬢も、知らない邸に一人残されるのは心細いであろう。どうかな?侍女を安心させてやるのもあるじとしての務めと思うぞ。」
と、閣下にここまで言われてしまえば、引き下がらずを得ないでしょうに。

「分かりましたわ。ウィンザード閣下の仰るとおり、わたくしも滞在させて頂く御無礼をお許し下さいませ。」
と、閣下にカーテシーをしてお礼を申しましたの。

「許すも何もない。私がそうして欲しいと願ったのだからね。おや?どうやら医師達が到着したようだ。私は席を外す事にしよう。」
と、閣下はそう仰って客間から出て行かれましたの。

なんだか先の展開が分からなくなって来た気がするけど…
ま、Let it be
なんとかなるわよね~
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...