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第四章 新天地
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時は数日前に行われた、アンジェーヌが卒業舞踏会の会場から去った日の夜に戻る。
「アンジェーヌ!何処に行ったんだ、アンジェーヌ!いい加減に出てきてくれないか!」
王都の市井で娘の名を大声で呼ぶマリヴェル公爵閣下がいた。
「アンジェーヌ~。私の可愛い娘。お願いだから出てきて~!!」
「お姉様~!可愛いリーナの為に出てきて下さ~い。」
アンジェーヌを心配する公爵夫人とは違い、心配の"し”の字もない呼びかけをする妹も、学園の講堂から光となって飛び立ったアンジェーヌを追って走らせた公爵家の馬車に乗っていたようだ。
「光は確かに此方の方向だったのだな?御者よ!」
「は、はい!「あの光を追え!!」とのご命令でしたので、ずっと上を向いて走らせておりました。よってこの方向で間違いございません!」
公爵閣下の質問にキビキビと答える御者は、アンジェーヌがいつも市井に来る際馬車を出していた男だった。
よって当然の事ながら、アンジェーヌが緑地帯にいつまでいるわけが無いという事を知っている。
知ってはいたが、敢えて口に出す事を止めていたのだ。
その後公爵夫妻は、市井の街中に移動し、開いている店に入ってはアンジェーヌを見た者はいないか?と聞いて回ったが、平民は皆 口を揃え「知らない。」と言っていた。
ただ数人ではあったが、道を歩いていたら、光の球が緑地帯の方に下りて行ったので見に行ってみたのだが、何処を探しても見当たらなくて諦めたと言う者もいた。
小一時間程だろうか?
市井の中を探し回ったが、アンジェーヌらしい姿を探し出す事が出来なかった公爵夫妻とリーナカレンデュナは、疲れ果ててしまい、仕方なく屋敷に帰る事にした。
「これだけ探しても居ないのですから、きっとアンジェーヌは、屋敷に戻っているのでしょう。」
「そうだな。きっとそうだ。アンジェーヌの事だ。今頃湯浴みを済ませて、自室で本でも読んでいるに違いない。早く帰って抱きしめてやらねば。」
「そうですね。そして、心から今迄の私達の仕打ちを詫びましょう。」
「御者よ!公爵家へ急いで向かってくれ!アンジェーヌが帰っているかもしれん!」
「畏まりました、旦那様。では、馬車にお乗り下さい。」
そう言って御者は、公爵ご一行様が乗り込んだ馬車の扉に鍵をかけると、公爵家の屋敷がある方へと馬車を走らせた。
御者席に座りながら、彼は夜空を見上げながら静かにこう言った。
「お嬢様。今までありがとうございました。お嬢様から頂きましたチップのおかげで、息子も無事特待生として学園に入学する事が出来ました。きっとお嬢様でしたら、何処へ行かれても大丈夫かと存じます。そして、どうか新天地でお幸せにおなり下さい。」
と。
「アンジェーヌ!何処に行ったんだ、アンジェーヌ!いい加減に出てきてくれないか!」
王都の市井で娘の名を大声で呼ぶマリヴェル公爵閣下がいた。
「アンジェーヌ~。私の可愛い娘。お願いだから出てきて~!!」
「お姉様~!可愛いリーナの為に出てきて下さ~い。」
アンジェーヌを心配する公爵夫人とは違い、心配の"し”の字もない呼びかけをする妹も、学園の講堂から光となって飛び立ったアンジェーヌを追って走らせた公爵家の馬車に乗っていたようだ。
「光は確かに此方の方向だったのだな?御者よ!」
「は、はい!「あの光を追え!!」とのご命令でしたので、ずっと上を向いて走らせておりました。よってこの方向で間違いございません!」
公爵閣下の質問にキビキビと答える御者は、アンジェーヌがいつも市井に来る際馬車を出していた男だった。
よって当然の事ながら、アンジェーヌが緑地帯にいつまでいるわけが無いという事を知っている。
知ってはいたが、敢えて口に出す事を止めていたのだ。
その後公爵夫妻は、市井の街中に移動し、開いている店に入ってはアンジェーヌを見た者はいないか?と聞いて回ったが、平民は皆 口を揃え「知らない。」と言っていた。
ただ数人ではあったが、道を歩いていたら、光の球が緑地帯の方に下りて行ったので見に行ってみたのだが、何処を探しても見当たらなくて諦めたと言う者もいた。
小一時間程だろうか?
市井の中を探し回ったが、アンジェーヌらしい姿を探し出す事が出来なかった公爵夫妻とリーナカレンデュナは、疲れ果ててしまい、仕方なく屋敷に帰る事にした。
「これだけ探しても居ないのですから、きっとアンジェーヌは、屋敷に戻っているのでしょう。」
「そうだな。きっとそうだ。アンジェーヌの事だ。今頃湯浴みを済ませて、自室で本でも読んでいるに違いない。早く帰って抱きしめてやらねば。」
「そうですね。そして、心から今迄の私達の仕打ちを詫びましょう。」
「御者よ!公爵家へ急いで向かってくれ!アンジェーヌが帰っているかもしれん!」
「畏まりました、旦那様。では、馬車にお乗り下さい。」
そう言って御者は、公爵ご一行様が乗り込んだ馬車の扉に鍵をかけると、公爵家の屋敷がある方へと馬車を走らせた。
御者席に座りながら、彼は夜空を見上げながら静かにこう言った。
「お嬢様。今までありがとうございました。お嬢様から頂きましたチップのおかげで、息子も無事特待生として学園に入学する事が出来ました。きっとお嬢様でしたら、何処へ行かれても大丈夫かと存じます。そして、どうか新天地でお幸せにおなり下さい。」
と。
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