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第四章 新天地
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マーサと引っ越し荷物の搬入の話をしていたら、この家の売り主さんでおられるカーターご夫妻が突然訪ねて来られたの。
そういえば前世で、田舎のおばあちゃんの家に遊びに行った時も、よくこんな風に近所の人がチャイムも何も鳴らさずズカズカと家の中に入ってきたことがあったわね。
「まぁ!カーターさん。マイヤーさん。今日此方に引越して参りました。これから宜しくお願い致しますわ。」
と淑女としてではなく、前世の時のように深々と頭を下げてのご挨拶をしたの。
お二人には、私が元公爵家の令嬢である事は内緒にしているの。ですので当然カーテシーはしなかったのよ。
「まぁまぁユーリちゃん。丁寧な挨拶をありがとうね。さぁ、もう頭を上げて頂戴な。」
「そうだぞ。今日から俺たちはお隣さん同士なんだからな。困った時は助け合うのがお隣さんてもんだ。」
と、マイヤーさんとカーターさんが優しく微笑みながら仰ったわ。
「はい!何か困ったら直ぐに聞きに行きますね。」
「そうしとくれ。さぁ、荷物を運んじゃいましょ。じゃ、あんた。頼んだよ?」
「任しときな、マイヤー。荷物は幌馬車の中なのかい?ユーリちゃん。」
「はい。あぁ!!そうでした。うっかりしてました。カーターさん、マイヤーさん。紹介します。彼女が同居人のマーサです。マーサ、この家を売って下さったカーターさんと奥様のマイヤーさんよ。」
私はマーサの腕を引っ張ってカーターさん達の前まで連れて来ると、お二人にマーサを紹介したの。
「マーサと申します。よ、宜しくお願い致します。」
マーサはそう言って、カーテシーをもって挨拶したの。すると
「あれまぁ。マーサちゃんは、お貴族様だったんだね。」
とマイヤーさんが感嘆の声をあげたんだ。
「い、いえ!私はお嬢…ブッ!!」
マーサが要らぬ事を言いそうだった為、私は思わず彼女の口を手で塞いでしまったの。
まだ何か言おうとしてふごふごしているマーサを無視した私は、
「マイヤーさん。お願いしていたアレは……ありましたか?」
「あぁ。アレなら、外の大八車に乗せてあるよ。何処に運び込むんだい?」
「ありがとうございます。図々しいお願いで申し訳ありません。じゃ、二階の西の部屋にお願いしてもいいですか?」
「いいんだよ。お易い御用さね。おーい、フレッドや。ユーリちゃんに頼まれてたもん、二階に運んどくれ。」
と、マイヤーさんが私に答えて下さった後、表通りに向かって声を張ったの。
どうやらご長男のフレッドさんが、お願いしてあった布団を運んできて下さったみたいね。
実は、マーサが私についてきてくれるとなった為に、新居には、寝台どころか布団も毛布もひと組ずつしか無かった事を思い出し、急遽カーターさんの家に早馬を飛ばしたの。そして、使用しなくなった寝具があったら欲しいとお手紙を出しておいたのよね。
布団を持って家に入ってきたフレッドさんは、嫁がれた娘さん(あ、お名前をまだお話してなかったわよね。カーターさんの娘さんのお名前は、スーザンさんっていうの。)のお兄様で、確か私より六つ年上の妻子持ちの方なの。
フレッドさんは、日に焼けた浅黒い顔で、髪の毛も黒くて短髪だ。
それに、お父様のカーターさんと共に農作業をなさっていらっしゃるだけあって、エロチャラ王子なんかとは比べ物にならないくらい逞しい体つきをしているの。
「ユーリちゃん、よく来たな。俺の家族も喜んでたよ。これから宜しくな。」
「はい!此方こそ宜しくお願い致します。」
フレッドさんはニッカリと笑って、肩に布団を担いだまま私の頭をポンポンして下さり、布団と毛布を二階に運んで下さったわ。
そんなフレッドさんを見送っていたら、何やら隣から強烈な視線を感じた私は、其方に顔を向けたの。
するとそこには、マーサが疑念の目でもって、私を鋭く睨んでいたの。
まぁ気持ちは分かるよ、気持ちはね。
だけど今は……
「ほらマーサ。諸々の説明は後からきちんと致しますわ。先ずは貴女の荷物を部屋に運んでしまいなさいな。」
と彼女の背を押して、その場を半ば強引に押し切ってやったの。
マーサは渋々ではあったけど、私の言葉に従い、マイヤーさんに指示を仰ぎながら、荷物搬入の為に動き始めたのよね。
「さぁ!私も頑張りますわよ!」
と腕まくりをしていたその頃。
実家である王都のマリヴェル公爵家では、先日届いたであろう私からの離縁状が元で、公爵夫人がお倒れになられたそう。
また、ご息女のリーナカレンデュナ様が
「私が代理でこのお茶会を切り盛り致しますわ!」
と仰って、公爵夫人主催のお茶会をはちゃめちゃにしていたらしい。(ネタ元 ジェフェリー様)
ご愁傷さまでした、公爵夫人。
そういえば前世で、田舎のおばあちゃんの家に遊びに行った時も、よくこんな風に近所の人がチャイムも何も鳴らさずズカズカと家の中に入ってきたことがあったわね。
「まぁ!カーターさん。マイヤーさん。今日此方に引越して参りました。これから宜しくお願い致しますわ。」
と淑女としてではなく、前世の時のように深々と頭を下げてのご挨拶をしたの。
お二人には、私が元公爵家の令嬢である事は内緒にしているの。ですので当然カーテシーはしなかったのよ。
「まぁまぁユーリちゃん。丁寧な挨拶をありがとうね。さぁ、もう頭を上げて頂戴な。」
「そうだぞ。今日から俺たちはお隣さん同士なんだからな。困った時は助け合うのがお隣さんてもんだ。」
と、マイヤーさんとカーターさんが優しく微笑みながら仰ったわ。
「はい!何か困ったら直ぐに聞きに行きますね。」
「そうしとくれ。さぁ、荷物を運んじゃいましょ。じゃ、あんた。頼んだよ?」
「任しときな、マイヤー。荷物は幌馬車の中なのかい?ユーリちゃん。」
「はい。あぁ!!そうでした。うっかりしてました。カーターさん、マイヤーさん。紹介します。彼女が同居人のマーサです。マーサ、この家を売って下さったカーターさんと奥様のマイヤーさんよ。」
私はマーサの腕を引っ張ってカーターさん達の前まで連れて来ると、お二人にマーサを紹介したの。
「マーサと申します。よ、宜しくお願い致します。」
マーサはそう言って、カーテシーをもって挨拶したの。すると
「あれまぁ。マーサちゃんは、お貴族様だったんだね。」
とマイヤーさんが感嘆の声をあげたんだ。
「い、いえ!私はお嬢…ブッ!!」
マーサが要らぬ事を言いそうだった為、私は思わず彼女の口を手で塞いでしまったの。
まだ何か言おうとしてふごふごしているマーサを無視した私は、
「マイヤーさん。お願いしていたアレは……ありましたか?」
「あぁ。アレなら、外の大八車に乗せてあるよ。何処に運び込むんだい?」
「ありがとうございます。図々しいお願いで申し訳ありません。じゃ、二階の西の部屋にお願いしてもいいですか?」
「いいんだよ。お易い御用さね。おーい、フレッドや。ユーリちゃんに頼まれてたもん、二階に運んどくれ。」
と、マイヤーさんが私に答えて下さった後、表通りに向かって声を張ったの。
どうやらご長男のフレッドさんが、お願いしてあった布団を運んできて下さったみたいね。
実は、マーサが私についてきてくれるとなった為に、新居には、寝台どころか布団も毛布もひと組ずつしか無かった事を思い出し、急遽カーターさんの家に早馬を飛ばしたの。そして、使用しなくなった寝具があったら欲しいとお手紙を出しておいたのよね。
布団を持って家に入ってきたフレッドさんは、嫁がれた娘さん(あ、お名前をまだお話してなかったわよね。カーターさんの娘さんのお名前は、スーザンさんっていうの。)のお兄様で、確か私より六つ年上の妻子持ちの方なの。
フレッドさんは、日に焼けた浅黒い顔で、髪の毛も黒くて短髪だ。
それに、お父様のカーターさんと共に農作業をなさっていらっしゃるだけあって、エロチャラ王子なんかとは比べ物にならないくらい逞しい体つきをしているの。
「ユーリちゃん、よく来たな。俺の家族も喜んでたよ。これから宜しくな。」
「はい!此方こそ宜しくお願い致します。」
フレッドさんはニッカリと笑って、肩に布団を担いだまま私の頭をポンポンして下さり、布団と毛布を二階に運んで下さったわ。
そんなフレッドさんを見送っていたら、何やら隣から強烈な視線を感じた私は、其方に顔を向けたの。
するとそこには、マーサが疑念の目でもって、私を鋭く睨んでいたの。
まぁ気持ちは分かるよ、気持ちはね。
だけど今は……
「ほらマーサ。諸々の説明は後からきちんと致しますわ。先ずは貴女の荷物を部屋に運んでしまいなさいな。」
と彼女の背を押して、その場を半ば強引に押し切ってやったの。
マーサは渋々ではあったけど、私の言葉に従い、マイヤーさんに指示を仰ぎながら、荷物搬入の為に動き始めたのよね。
「さぁ!私も頑張りますわよ!」
と腕まくりをしていたその頃。
実家である王都のマリヴェル公爵家では、先日届いたであろう私からの離縁状が元で、公爵夫人がお倒れになられたそう。
また、ご息女のリーナカレンデュナ様が
「私が代理でこのお茶会を切り盛り致しますわ!」
と仰って、公爵夫人主催のお茶会をはちゃめちゃにしていたらしい。(ネタ元 ジェフェリー様)
ご愁傷さまでした、公爵夫人。
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