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第二章 夢と現実
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マーサが部屋を出て行った後、私はまた、鏡の中の己をじっと見つめ、
「それにしても……この顔。前世の私より数段可愛いくない?そりゃあ確かに男ウケする顔じゃないのかもだけどさ。
ま、今の妹みたいにぱっちりお目目ではないし、髪色だって金髪じゃないよ?でもそこそこイケてる顔だと思うんだよね。鼻筋通ってて小鼻も小さくて。色白美肌だしさ。しかも髪の毛だって艶々じゃん?て、まぁ三日間洗ってないし寝起きだしで、今は微妙なんだけどさ……。」
そう、前世の言葉使いで呟いておりましたの。
ふと窓の方を見遣りますと、カーテンの向こうが少し明るくなってきており、漸く朝日が昇ろうとしている時間帯である事が分かったのですわ。
「まぁこんな刻限では、両親や妹はまだ寝てるわよね。」
そんな事を呟き乍、そっと立ち上がり、ゆっくりと窓に近づいてカーテンと窓を開けますと、バルコニーへと出てみましたの。
すると、ここ、王都の東南。国境を守る辺境と呼ばれる方面に鎮座する山の山裾が白み始めておりました。
それはまさに、(今は春ではございませんが)枕草子のフレーズどおりのシチュエーションでございましたわ。
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎは、すこしあかりて~でしたわね。今まさにそんな感じですわ。本当に綺麗。ん?いとをかしかしら?」
前世での学生時代、枕草子の第一弾の春夏秋冬は全部丸暗記させられましたし、塾生達にも覚えさせましたものね。
前世の記憶があります今だからこそ思い出せた一文ではございますけれども。
とまあそんな事を思っておりましたら、再度部屋の扉をノックする音が聞こえてましたの。
「お嬢様。湯浴みのお支度が整いましてございます。それからお水もお持ち致しました。」
と、水差しとグラスをトレーに乗せてマーサが部屋に入って来ましたわ。
「ありがとうマーサ。お水を一杯頂いたら、湯浴みをさせて頂くわね。」
と言って氷が入った水差しからグラスになみなみと水を注ぎ、ゆっくり時間をかけて飲み干しましたのよ。
時間をかけたわけはお分かりになられますでしょ?
なんせマーサが申しますには、私は三日三晩寝ていたわけですもの、一気飲みなんて致しましたら、胃が驚いてしまいますでしょ?
本当はお白湯が良かったのですけれど、湯浴み前なのでお水に致しましたの。
よく気の付くマーサですし、きっと湯浴みのお湯の温度も、今の私の体に優しい適切な温度になっている事でしょう。
お水を飲み終え、私はマーサを連れて浴室迄歩みを進めておりましたの。すると、両親の部屋の前を通り過ぎた辺りで、お母様付きの侍女フランソワと出会いましたのよ。
「アンジェーヌお嬢様!お目覚めになられたのですか?」
「おはよう、フランソワ。えぇ、お陰様で先程目覚めましたわ。」
「まぁまぁ!それはようございました。はっ!こうしてはおれませんわ。奥様にご報告申し上げなくては!」
と言って両親の部屋へ入ろうとするフランソワを止め、
「お二人はまだおやすみになられていらっしゃるのでしょう?まだお起きになられる様な刻限ではありませんものね。ですからフランソワ、貴女の仕事をなさい。宜しいわね?」
と注意致しましたの。
本当はフランソワはお母様付きの侍女なのですから、お母様の命令は聞いても私の命令は聞かなくても良いのですが、フランソワは
「承知致しました、アンジェーヌお嬢様。それでは、奥様がお起きになられましたら、お嬢様がお目覚めになられました旨をお伝え申し上げますね。では失礼致します。」
そう言って、仕事に戻った様でした。ですので、私も浴室へと向かったのですわ。
「それにしても……この顔。前世の私より数段可愛いくない?そりゃあ確かに男ウケする顔じゃないのかもだけどさ。
ま、今の妹みたいにぱっちりお目目ではないし、髪色だって金髪じゃないよ?でもそこそこイケてる顔だと思うんだよね。鼻筋通ってて小鼻も小さくて。色白美肌だしさ。しかも髪の毛だって艶々じゃん?て、まぁ三日間洗ってないし寝起きだしで、今は微妙なんだけどさ……。」
そう、前世の言葉使いで呟いておりましたの。
ふと窓の方を見遣りますと、カーテンの向こうが少し明るくなってきており、漸く朝日が昇ろうとしている時間帯である事が分かったのですわ。
「まぁこんな刻限では、両親や妹はまだ寝てるわよね。」
そんな事を呟き乍、そっと立ち上がり、ゆっくりと窓に近づいてカーテンと窓を開けますと、バルコニーへと出てみましたの。
すると、ここ、王都の東南。国境を守る辺境と呼ばれる方面に鎮座する山の山裾が白み始めておりました。
それはまさに、(今は春ではございませんが)枕草子のフレーズどおりのシチュエーションでございましたわ。
「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎは、すこしあかりて~でしたわね。今まさにそんな感じですわ。本当に綺麗。ん?いとをかしかしら?」
前世での学生時代、枕草子の第一弾の春夏秋冬は全部丸暗記させられましたし、塾生達にも覚えさせましたものね。
前世の記憶があります今だからこそ思い出せた一文ではございますけれども。
とまあそんな事を思っておりましたら、再度部屋の扉をノックする音が聞こえてましたの。
「お嬢様。湯浴みのお支度が整いましてございます。それからお水もお持ち致しました。」
と、水差しとグラスをトレーに乗せてマーサが部屋に入って来ましたわ。
「ありがとうマーサ。お水を一杯頂いたら、湯浴みをさせて頂くわね。」
と言って氷が入った水差しからグラスになみなみと水を注ぎ、ゆっくり時間をかけて飲み干しましたのよ。
時間をかけたわけはお分かりになられますでしょ?
なんせマーサが申しますには、私は三日三晩寝ていたわけですもの、一気飲みなんて致しましたら、胃が驚いてしまいますでしょ?
本当はお白湯が良かったのですけれど、湯浴み前なのでお水に致しましたの。
よく気の付くマーサですし、きっと湯浴みのお湯の温度も、今の私の体に優しい適切な温度になっている事でしょう。
お水を飲み終え、私はマーサを連れて浴室迄歩みを進めておりましたの。すると、両親の部屋の前を通り過ぎた辺りで、お母様付きの侍女フランソワと出会いましたのよ。
「アンジェーヌお嬢様!お目覚めになられたのですか?」
「おはよう、フランソワ。えぇ、お陰様で先程目覚めましたわ。」
「まぁまぁ!それはようございました。はっ!こうしてはおれませんわ。奥様にご報告申し上げなくては!」
と言って両親の部屋へ入ろうとするフランソワを止め、
「お二人はまだおやすみになられていらっしゃるのでしょう?まだお起きになられる様な刻限ではありませんものね。ですからフランソワ、貴女の仕事をなさい。宜しいわね?」
と注意致しましたの。
本当はフランソワはお母様付きの侍女なのですから、お母様の命令は聞いても私の命令は聞かなくても良いのですが、フランソワは
「承知致しました、アンジェーヌお嬢様。それでは、奥様がお起きになられましたら、お嬢様がお目覚めになられました旨をお伝え申し上げますね。では失礼致します。」
そう言って、仕事に戻った様でした。ですので、私も浴室へと向かったのですわ。
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追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
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