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「!?」


気がついたら、高津先生の研究室にいた。


どうやって来たのかも、なんで来たのかも定かじゃない。

喉が妙に渇いて、差し出された温いコーヒーを一気飲みした以外は、自分の体が自分のじゃないみたいにグラグラして。
焦る僕を尻目に、目の前にいる高津先生は嬉々とした表情で空になった紙コップを片付けていた。

………なんか、暗示にでもかかったかのような。
そんなフワフワした感じがして、ろくすっぽ思考も巡らない。


………嫌な、予感しかない。


あんなに惹かれていた泉に対して、僕の心の中に小さな疑念が生じた。
その不安定な部分に、高津先生がうまく入り込んで、今こうして高津先生の研究室にまんまと連れ込まれてしまったんだ。

多分………この状況。

高津先生がすることといったら、あれしかないよなぁ。

………ヤバい。のに、逃げられない。

金縛りにあったみたいに体が動かないし、逃げようという強い意志が湧かない。


な………なんでぇ?!
しっかりしろよ、僕!


このままじゃ大学卒業まで、いや、人生終了の日まで、ずっと高津先生に喰われちゃうんだぞっ!?

「だいぶ、薬も回って来たみたいだね」

く、くすり?!
ひょっとして、さっきのコーヒーか?!

「………それじゃ、ゆっくりいただこうかな?」

高津先生の目が鋭く、赤く、輝いた気がした。


………蛇、みたい。


僕の体にゆっくり蛇が巻きついて、徐々に体の機能を封じて行くかのように。

椅子に座った僕は、身動きが取れないまま、高津先生によってもたらされる感覚に必死に耐えていた。


胸を這う舌先も。

僕を愛撫する手つきも。

泉のソレとは、全く違って………正直、気持ち悪い。

やめてほしいのに、抵抗する声すら発することができないんだ。

「そろそろ、中の具合もいいんじゃないかな?………楽しみだなぁ。ボク、あげまんの子とスるの初めてだから」

高津先生の骨張った手が、僕のズボンのチャックをさげて、パンツの中に忍び寄る。


………や、やだ。


やだ!!


このまま、だと………中、入っちゃうよ!!






バチッ!!






雷、か。






落雷したかと思うくらいの鋭い音と光が耳をつん裂き、強い衝撃が体を宙に浮かせた。


「ぎゃっ!!」


光によってその姿は見えないけど、高津先生の叫び声が聞こえて、僕の下半身から先生の手の感覚が消える。
宙に浮いた僕の体は、僕の下半身で起こった落雷のような爆風にふっとんで、次の瞬間には硬い壁に頭と背中をぶつけてしまった。

「……ってぇ……!!」


な、なんだよ。


なんで、僕のケツが爆発すんだよぉ……。


毎日、ほぼほぼ毎日、泉にホラれてんだ………。
ただでさえ無事じゃないはずなのに、これ以上どうにかなってしまったら………。


僕は一体、どうなっちゃうんだよーっ!


体を起こして、後ろを見ようにも上手く見ることができない僕は、ままならない動作ではだけた服を整えて、軋むように痛みが走る体で立ち上がった。

「………え?………えぇ?」

あれだけの、激しい落雷のような爆発だったにも関わらず、高津先生の研究室は何事もなかったかのように綺麗で。
本やプリントの位置までそのまんまで。
そのかわりと言ってはなんだけど、高津先生の変わり果てた姿に、僕はバカみたいに「え?」とか言う単語しか出てこなかったんだ。

小さく、呻き声は上がってるから………多分、生きてる。

でも、あの無駄にイケメンな高津先生は「どこ?!」ってくらい………波打つ栗毛の髪は白髪混じりの、よく言ってロマンスグレーになってるし。

女子を魅了してやまなかったあの整った顔立ちは、前歯が欠けてマヌケな顔で横たわってて。

魔法がとけたみたいになってる。

ほら、あれだよあれ。
絶世の美女に変身した、悪い魔女の魔法が解けた直後だよ!


そんな高津先生の姿を見て、背筋がヒヤーッと冷たくなって…………本能的に、逃げようと思ったんだ。


鍵の開け方を初めて習った子どもみたいに、大袈裟に鍵をガチャガチャ回して、僕は転がるように高津先生の研究室を飛び出す。


走って、走って。


走りながら、スマホを取り出して、上下に視点が定まらない状態で、通話ボタンを押下した。

『もしもし?当麻くん?どうしたの?』

目の前でとんでもないことが起きて切羽詰まった僕とは裏腹に、相変わらず優しい口調の穏やかな泉に、僕の頭のネジがポンと吹っ飛んだんだ。


「……てめぇっ!!おまえの精子は電流でも仕込んでんのか!!泉の〝電気精子〟のせいで大変なことになったじゃねぇかっ!!」







………シ……ン。







急に周りが静かになって、ふと僕は我に返った。男女問わず、大学のエントランスにいた学生が一斉に僕に視線を向ける。



………あ、やべっ。



思わず、スマホを耳から離して、自分でもわかるくらいの変な笑顔を浮かべてしまった。


『当麻くん?何?どうしたの?〝電気精子〟って何?当麻くーん』


スマホから微かに聞こえる泉の声が、エントランスにこだまして………。


僕は、さらにいたたまれない気持ちになったんだ。












「………ふふふ、ふふ」
「………ちょっと」
「………ふはっ……はははは」
「いつまで笑ってんだよ!泉!」
「だっ……だって………〝電気精子〟って……はははは」
「!!」
「〝電気うなぎ〟じゃないんだからさぁ!あははははっ!!」
「ああ、もう!笑いすぎなんだよ!!」

よっぽど、僕が発した〝電気精子〟がツボにハマったのか。

「彼女の家」のいつものテーブル席で、泉が腹を抱えて笑っている。

たまに引き笑いみたいになって………そのうち、呼吸困難になるんじゃないだろうか。


僕だってだな、わざと言ったわけじゃないんだよ。


ケツが爆発して、目の前に起こった光景に興奮して、切羽詰まって。

つい口から出たのが、〝電気精子〟だったんだよ!!

そんなに笑うことないじゃないか!!

だいたい、泉が「僕に近づかないように」って中出ししたのが悪いんじゃないかっ!!

「おい、泉!バカみたいに笑ってる暇があったら、ちょっとは手伝え!」

カウンターの向こう側からマスターが怪訝な表情で泉に言った。

「うぃ~」

泉はニヤケながら席を立つと、2人分のトルコライスを運んできた。

「ごめんね、当麻くん。これ、俺の奢り」
「え?」
「ビックリしたでしょ?俺もビックリしてんだよ。まさか本当に〝さげまん〟が釣れるなんて思わなかったからさ」
「え?」

泉は大きなトンカツを頬張ると、含んだような笑みを浮かべて………。

その笑顔が、あまりにも胸に………死語だろうけど、胸にキュンときたんだ。










「………ね、……僕の……ケツ………大丈夫………?」

僕の中から溢れてくる蜜をその指で絡めとるようにして僕を弄ぶ泉に、僕はたまらず聞いてしまった。

だって、だって………爆発したんだよ、僕のケツ。

「大丈夫だよ。実際には爆発はしてないから」
「………ん、で……もぉ……僕、ふっとんだし」
「さげまんが、俺の痕跡に触れた波動だよ。爆発した、そんな感じがしただけ。高津先生、ボロ雑巾みたいになってただろ?」
「………ん、んんっ」

泉の指が中から抜かれて、その反動で僕の中からトロトロと蜜が溢れ出る。

「……やっ………やだぁ」
「入れて、ほしい?当麻くん」

僕は、泉の肩に手をかけて頷いた。

………ゆっくり、僕の中を圧迫して、全ての気持ちいいところを擦るように、僕の中に泉がグイグイ入ってくる。


それだけで………とびそうだぁ………。


「………あ、ぁあっ」
「やっぱり………当麻くんの中、最高」
「……ね、ねぇ………いずみ………」
「何?当麻くん」
「いずみ………は、何者………なの?」
「………今日は、当麻くんに悪いことをしちゃったし、少しヒントをあげるね」

泉は僕の耳にキスをして、囁くように言ったんだ。

「さげまん、じゃないよ?………俺は、そんなんじゃない。その程度のモノじゃないんだよ?当麻くん」


その声が。

その吐息や、体温が。

僕の欲情を一気に燃え上がらせる。


泉じゃなきゃ、やだ。


泉以外は、いらない。


泉が何者かは………気になるところだけど。


泉が何者であろうと、僕は泉がら離れらるないんだ。


僕は、泉にギュッとしがみついて言ったんだ。


「泉………奥……また………また、出して……中……」

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