the other side of……〜ネコ役やってたら、同僚がタチ役で現れた件〜

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the other side of……〜ネコ役やってたら、同僚がタチ役で現れた件〜

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「神谷、おまえこんなとこで何やってんの?」

………いやいや、いやいやいやいや。

それはこっちのセリフだよ、宮田。

まあ、うちの会社は副業オッケーだし、宮田がアフターファイブや休日をどう過ごそうと、正直全く関係ないけどさ。
宮田、おまえは副業するほど金に困ってないだろ。

「……おまえ、こそ。なんでこんなとこにいるんだよ」

僕はようやく声をかけて絞り出して、真っ白なガウンを着た相手に言い返した。

そう、僕は金に困っている。

父親は僕が小さい頃に蒸発して、母親は元々地方のお嬢様だったのに父親と駆け落ちして底辺暮らし。
さらに、お嬢様だった時の浪費癖がいまだ抜けず、金があったらあっただけ使ってしまう。
それだけならまだしも、至る所で〝ツケ買い〟をしてきたり、怪しげな金融さんからお金を借りてきたり、うちの家計は生まれてこの方、火の車から脱したことがない。
2つ下の妹はそんな家に嫌気がさして、高校を卒業したら、家を出て行ってそのまま音信不通になってしまった。

だから、僕が。

母親が現在進行形でこしらえる負債を、体を張って稼がなきゃならないんだ。
そう、文字どおり言葉どおり、僕は体を張って金を稼いでいる。

企画モノのAV男優なんかしているんだ、僕は。
しかも、ゲイの、ネコで。

今さら言うのは、言い訳にしか聞こえないけど。

僕はノンケなんだ。

今でも女の子は好きだし、いずれは結婚したいとも思ってるし………。
でも、このAVの出演料、すばらしく破格の金額で………。初めての撮影で、必然的に僕のソッチの童貞も、タチ役の男優さんに奪われた。
当然、会社のこともあるし、顔出しはしない。
目隠しされたり、ずっとバックから撮られたり。
そのかわり結構エグいことまでされて、色々開発されてしまった僕の体は、配給会社さんにエラく気に入られて、今や本業並みの稼ぎになってしまった。

しかし、今。

僕はAV男優史上最大のピンチに陥っている。

会社の同僚の宮田が、僕の目の前にいる。

会社じゃない、撮影場で。

しかも僕の相手役で。

なんで!?なんでー!?

「ちょっと興味があってさ、こういうの」
「………だったら普通のヤツでいいだろ?」
「普通のヤツは、女の子に声かけしなきゃなんないだろ?面倒くさいじゃん、そういうの」

………まぁな、おまえらしいよ?
そういうの。

仕事でもそうだよな、超合理的、超打算的。

「そろそろお願いしまーす!」

スタッフさんの声で僕は、ハッとした。

こんなこと言ってる場合じゃない、ぞ?

宮田と……こいつと………。

ヤんなきゃいけないなんて………。

僕、かなりつんでるだろ………。


「んぁあ………や、やぁ!………ぁああ」
「………やらしい、声」

宮田がどんな顔をして言っているのかわからないけど、その低い声が僕の脳天まで揺らして刺激する。
目隠しをされて、柱に手首を縛られて。
宮田の熱いソレは、僕の中のめちゃめちゃ感じるところを擦りながら、奥深くまで貫くように突き上げる。

………イケメン、で。

さらに、こんな大きなイチモツを持ってるなんて………。

神様は、不公平すぎる。

撮影で、後ろだけでガチでイきそうになるなんて………。

演技なしにこんなに気持ちよくなるなんて………。

だめ、だぁ………もう、やばい。

「……ゆるし……て……イッ、ちゃう………イッちゃう!!」
「イけよ、ほら!」

宮田の非情な一言とともに、宮田のソレが僕の中を深く波打たせて………。
あまりにもあっけなく、僕はイッてしまった………。

それと同時に、僕の中にも、宮田の熱いソレから、さらに熱いのが溢れてでてきて………。

な、なまだったんだ………って、目隠しされてるし、僕は今さらながら知ってしまった。

「ん?まだ萎えてねぇな……どんだけ淫乱なんだよ、おまえ」
「ゃ……やぁ……やめ………あぁぁっ」

撮影だというのに………。

その後も僕は自制も効かずに、アンアン喘がされて、ガンガンイかされて。

宮田の沼にハマってしまったみたいに全身がとろけて………最終的には、腰砕けになってしまったのはいうまでもない。

「いや~、神ちゃん。今日すごかったね。オレまでギンギンになっちゃったよ~。あの新人さんと相性イイみたいがから、次もお願いね、神ちゃん!」

目隠しを外されて手首にアザが残る僕に、監督さんはガウンを掛けながら嬉々として言った。

………いや、いやいやいや。

〝次もお願い〟って、どういうことだよ………。

「神谷、おまえすげぇな。俺この仕事、おまえのおかげでドハマりしそうだよ。また、よろしくな。神谷」

趣味でやってんなら、即辞めてるこんなこと。

辞めらないから………。
さっき宮田に喘がされまくっていた自分を思い出して………。
母親の無邪気な笑顔を思い出して………。
泣きそうになってしまった。

情けない、僕。







仕事上とはいえ、宮田とヤったっていうショックと、いつもよりハードな仕事内容のせいと、僕はすげぇ低空飛行な気分で、重い体を引きずるように家の玄関の鍵を差し込んだ。
その下には金融さんからの請求書とおぼしき封筒が、郵便受けを壊さんばかりにパンパンに差し込まれている。
返しても返しても膨らむ借金とそれに比例するかのように増えるネコ役の仕事。

あぁ、無間地獄ってこういうこというんだろうな。

「ただいま」

四畳半二間のボロいアパートの部屋の中は真っ暗で、奥の部屋から小さな寝息が聞こえてきた。

母さん、寝てんのか………。

起きてたら起きてたで、「百貨店で洋服も買えなかった!」とか「松茸が買えなかった!」とか、買い物ができない不満を僕にぶつけてきてうるさいから、寝ててもらってた方がよかったかも。

「……はぁ」

………思わず、ため息がでる。

働いても働いても、借金やツケは減らない。

ついさっきまでお腹が空いていたのに、請求書の束を見ていると胃がムカムカして、食欲なんてどうだってよくなる。
未来が………見えない。

僕が死んだら、母親はどうなるんだろうか。

妹が帰ってきて…………くれるわけ、ないか。

ただ、今現在を必死こいて生きてるだけで、未来が見えなくて、色んな不安や胸につかえるしこりみたいな重さがズシッとのしかかってくる感じがして、家に帰ると僕は途端に体が動かなくなるんだ。

…………疲れたなぁ。

僕は請求書の束を机の上に置くと、そのまま畳に倒れ込んでしまった。

…………一刻も早く、この状況から抜け出さなきゃ。

だから、頑張ってたくさんネコ役をして、金を稼がなきゃ………。
僕はいつまで経ってもこの無間地獄から抜け出せないんだ。









週の半ば。
本業の仕事中に、僕のスマホが小さく震える。

あ、監督さんからのメッセージだ。

『神ちゃんと宮ちゃんのSMプレイ、配信と同時に大好評でね!!次の土曜日もこんな感じの撮影するから、よろしく!!ちなみに〝神ちゃんの淫乱ぷりがイイ!〟とか〝宮ちゃんの煽りがイイ!〟ってコメントが、たくさんついてるよ!!』

スマホに届いた監督さんからのメッセージに、僕は仕事中にも関わらず、意識がトんでしまうかと思った。

………んな、バカな。

僕は、淫乱じゃないぞ………!!

淫乱にされたんだよ!!宮田に!!

湧き上がる怒りと動揺の中、ふっと視線を感じて、僕はその方向を見ると、宮田がスマホを片手に、不敵な笑みを浮かべて僕を見ていた。

………あぁ、やだやだやだ。

宮田に副業で物理的にマウントをとられ、本業で心理的にマウントをとられるんだ、僕は。


宮田要。

うちの会社の一番のイケメンで、専務の息子で。僕みたいな高卒じゃなくて、有名私大卒でさ。

専務の息子だからって偉ぶってるわけでもないし、性格だっていいヤツで。

女の子にもモテるし、金なんかいくらでもあるくせに、なんでゲイのタチ役なんかやっちゃうワケ?!

意味、わかんないよ……マジでさ。

ただでさえ勝負にもならない底辺の僕に粘着して、すべてにおいてマウントをとってくるのか、僕にはさっぱり分からなかったんだ。








撮影場について、まず僕の目に飛び込んできたのは、部屋のど真ん中に置かれたポールダンス用のポール。
ポールダンス用のポールって、意外と万能なんだな。
本来ならば、女の子が艶めかしい格好でクルクル回転しているそのポールと僕は今、たいへん仲良しになっている。
完全に監督の趣味であろう、スタッズがついた首輪と太ももまでくる薄い靴下を身につけた僕は、ポールに抱きつくように手を回して、その手首を手錠で固定された。
監督が手錠の鍵を開けてくれない限り、僕の体の支えはこのポールだけで………。
でも、ポールから逃げられなくて………。
衣装とか、シチュエーションとか、前回よりSM度合いが上昇している、絶対。

「神ちゃん、目隠しするね」
「はい」

監督が柔らかい布で目隠しをしたら、僕の中で仕事のスイッチが入った気がした。

「!!」
僕の腰に大きくてあったかい手の感触がして、思わず僕はビクいてしまう。

………この手、宮田の手だ。

ただ、手が体に触れる。

ただ、それだけで。

体が反応してしまって、少し呼吸が乱れ始める。

僕の耳元に吐息がかかったと思ったら、宮田が僕にしか聞こえないような小さな低い声で、僕にささやいた。

「神谷………下の名前で呼んでいい?」
「……え?」
「遙って、呼んでいい?」

……つーか、今、この状況でそれ、言うか?!

たまらず、僕は手を引いてしまって、手錠とポールがぶつかる金属音がガチャガチャ鳴り響く。

それが、多分、宮田のSのスイッチを入れたんだと思う。
宮田は、僕の胸の小さな膨らみをこれでもかっていうくらいつねって、同時に僕の中に指を何本て入れてきて………。
僕の体の中からジワジワと、熱くなってくるのを感じた。

「やぁ!!……いっ!!………い、たぁ!!」
「こんなコトされんの、好きなんだろ?」

好きじゃない!!
好きなわけないよ!!

でも、宮田がうますぎる。

だから痛いのに感じて、M気全開でよがって、腰が揺れる。
その震える体を支えるために、僕は必死でポールにしがみついていたんだ。

仕事だ………仕事だってば………。

………やだ、欲しいなんて………。

宮田のが早く欲しいなんて………僕、どうかしてる。

「欲しいんだろ?ちゃんと言えよ」
「……んぁあ………ほし………ほしぃ……お、ねがぁい………」

………あぁ。

………宮田に煽られて、ねだっちゃったよ。

そこからは、もう。
後ろから宮田に突かれまくって、イキまくって。
体を反転させられたと思ったら、駅弁みたいに体を持ち上げられて、また奥をかき乱される。

「……お、く……おく………やめ………ぁああ」

体重が全部宮田にかかって、いつもより奥深くに当たって………。

………やばい………トびそう。

足が震えだす………体がしなる………。

「だ………だ、めぇ………ぁ、ぁ、……ぁぁ」

僕がイッた瞬間。

お腹にあったかいのが飛び散った瞬間。

僕が感じていた手首の痛みとか、宮田が僕の中を突き破らんばかりについてくる刺激とか。

ウーハーが効いたスピーカーみたいな、ジワジワひろがるように押し寄せる感覚から途端に解放されて、体が軽くなった気がした。


「……遙………遙、大丈夫か?」

聞きなれた低い声が、滅多に呼ばれてることのない僕の下の名前を呼んでいて、僕はハッとした。

撮影!!

撮影中だったんだ!!

僕は慌てて飛び起きる。
急に体を起こしたせいか、頭が大きく縦に揺れて、自分で制御できなかった僕の体を、誰かが支えてくれていた。

「遙、大丈夫か?俺、調子に乗りすぎちゃって………」

僕の体を支えたのは宮田で、その宮田は申し訳なさそうな顔をして俺を見つめる。

「大丈夫。………それより、撮影は?」

………やってしまった。

途中でトんで、責任のない仕事をしてしまって………。

仕事が来なくなるじゃないかって、不安の方が大きかった。
この仕事がなくなってしまったら、この金が入ってこなくなったら、僕にとったら死活問題なんだよ。

それこそ、売りをしなきゃ………いけなくなる。

「終わったよ。監督がいいの撮れたって、めちゃめちゃテンション高くなってて。いま画像チェック中だよ」

…………よかった。

………気に入って、もらえたんだ。

一先ずクビは免れた………。

「なぁ、遙」
「何?」
「なんでおまえ、この仕事してんの?」

宮田のド直球の質問が僕の胸にぶち当たる。
その質問は僕の心の柔いとこをえぐってきた。
でも………別に宮田に隠す必要も、ない。
どうせ、隠したって状況なんて変わらないし。

「金のためだよ」
「金?」
「僕ん家、母親の浪費癖がひどくて、多重債務に陥ってんだ。だから、金が必要なんだ。こんなこと根っから好きでやってるワケじゃない。必要に迫られてやってるんだ」

僕は出来る限り、宮田を真っ直ぐ見て言った。

遊びじゃないんだ、僕には生活と命がかかってるんだ。

僕は、宮田と違う。

根本的に置かれてる状況が違うんだよ、宮田。








あぁ、やだやだやだ。

宮田と組む毎に、撮影内容がだんだんアブノーマルな感じになってきている。

亀甲縛り、とまではいかないけど。
今日の僕の仕様は、ちょっと和風だ。
鮮やかな赤色の着物を羽織ってはいるけど、前ははだけたまま。
腕は体ごと後ろ手に縛られてるし。
足は膝とふくらはぎを縛られて、はずかしげもなく大事なトコがご開帳になってるし。

………こんなの、何もしなくても。

見られるのは慣れてるはずなのに、なんだか恥ずかしくて、感じて、濡れてくる。

「……あの、監督さん…?」
「何?神ちゃん」
「………最近、ハードじゃないですか?」
「そう?」
「そう?って、そうですよ!!」
「だって、チャンネルの視聴者のコメントに応えてると、こうなっちゃうんだよ」
「は?」
「〝神ちゃんをもっとイジメて〟とか〝神ちゃんの喘ぎ声が好き〟とかね!そんなこと言われちゃうと期待に応えなきゃって、思うでしょ?」
「………………」

まぁ、ね。

これで金をもらってる以上は、ね。

監督が言ってることは、ごもっともで。

視聴者さんたちの期待に応えなきゃ、僕は金を稼げないんだ。

「今日はコレで顔隠すからね」

監督はいつもより、幅が広めの濃いレースの目隠しを僕につける。

………やっぱり僕は、目隠しをすると仕事のスイッチが入るらしい。
目隠しをすると、僕の中から違う僕が出てくるみたいに、自然に体が熱くなって、呼吸が乱れて………。

タチ役を………。

宮田を………。

今か今かと待ち望むんだ。

「っ!!」

女子じゃあるまいし……視界が阻まれる中、僕はいきなりアゴクイをされて、体をビクつかせた。

「なんだよ、もうギンギンじゃん」

僕の耳から入った宮田の低い声が、僕の体内を通って人、お腹の奥に響きだす。

これ、この感覚………。
撮影だということを忘れてしまう、この。

宮田の、この感覚………。

やばい………。

また、乱れる。

「……ん、っはぁ………あ、ぁあ」
「ヒクついてるのも丸見えじゃん。こんなに前も後ろもトロトロになってさ、やらしいな………」
「……っんぁあっ!!やぁあ!!」

こんな喘ぎ声、演技でもなんでもない。
普通に、気持ち良くて。
僕は本気で喘いで、よがってしまった。
舌を絡めた深いキスをし、宮田の指が何本って僕の中に入る。
僕は宮田のを喉奥まで咥え込んで、宮田からでたノが僕の喉をくすぐったと思ったら、急に熱いのが僕の顔や胸にかかって………。

僕の体は熱く、震えだす。

胸を甘噛みしながら、宮田は僕の中をぐちゃぐちゃにかき乱して………。

半端ない、マジで。

体勢だって、何回って変えられる。

正常位から急に持ち上げられたと思ったら、耳の後ろから宮田の吐息が聞こえて。
僕は、僕の奥深くを突き上げる宮田の膝の上でよがって、イかされて。
ベッドにうつ伏せに押し付けられたと思ったら、腰を高く持ち上げられて、お腹の中にズンっと重たく、入れられて響くように犯されて。

………あぁ、まただぁ………。

やばい、くらい………。

きもちぃ…………。

宮田、すげぇ……な。

仕事とはいえ、なんで、こんなに僕の感じるところ、知ってんだ………?

「………ゃぁ……おく、……もっと…………して」
「………っ!!………なんだよ、この、淫乱!!」
「あ、あ、ぁあっ!!」

より宮田の動きに勢いが増して。
この間みたいにトんじゃったりはしないけど………。
タチ役がずっと宮田だったらいいな、なんて。
僕は快楽に溺れた頭で、なんとも血迷ったことを考えていたんだ。

………な、なんなんだ?

僕………マジで、なんなんだ?

………でも…………きもちぃぃ。







1回目よりは2回目。
2回目よりは3回目。
なんてよく言ったもので。

宮田と初めてヤった1回目の副業終わりに味わった、低空飛行な気分とは雲泥の差の、スッキリした気分で、僕は玄関の鍵を差し込んだ。
建て付けの悪いドアを開けると、僕の目に見慣れない物が飛び込んできた。

狭い玄関に不釣り合いな、白い陶器のきらびや傘立てが玄関の半分を分取って。

玄関から一直線に見える畳の上には、これまた不釣り合いな一枚板で作られた座卓が鎮座していて。

「おかえり~」って出迎えた母は、ヒラっヒラの真新しいワンピースを着ていて。

食道から胃あたりがスーッと冷たくなって、体が固まってしまった。

………いやな…………。

すごく、いやな予感がする。


「………母さん、これ…………どうしたの?」
「もう!遙ったら意地悪ねぇ!お金があるならあるって教えてくれなきゃ~」
「………え?!」
「遙の洋服ダンスの奥に、お金がたくさんあったからぁ、今まで我慢してイライラしちゃってたからパーッと使っちゃった」
「つかっ………ちゃった……?」

あの金は……あの金は………。

明日の支払いの、金融さんたちへの金だったのに………。

僕の副業の今月分のギャラ全部と本業の給料がほとんど入っていた金で………。

あの金がなかったら、今よりさらに大変なことになるのに………。

僕は踵を返すと建て付けの悪い玄関のドアを勢いよく閉めた。

そして、夜の道を繁華街に向かって走りだす。

…………売らなきゃ………。

体を売って、少しでも………。

金を取り戻さなきゃ………。

大丈夫………!!

僕は初めてじゃない………撮影で、結構エグいことをされてきたんだ………!!

大丈夫……!!

………大丈夫。


「おまえ、こんなとこで何やってんだ!!」

繁華街のそういうことで有名な場所の隅っこで、僕が〝立ちんぼ〟をしてわずか10分。
聞き慣れた声の主に、僕は強引に腕を掴まれた。

………宮田……!!
………なんで、ここに?!

僕は今、おまえに一番会いたくなかったよ……。

だって今僕は、僕人生史上、一番惨めな姿をしている。

「何って………みりゃわかる……だろ」
「撮影だけじゃ足んないのか?!金のためとかいいながら、本当は好きモンなのかよ!!」

な………!!なんだよ、それ!!

頭に血が上る。

一気に上昇して熱くなった血液は勢いよく体中を巡って、僕の掴まれた腕は、宮田のそれをを大きく振り払った。

「おまえに何がわかるんだよ!!体を張ってネコ役で稼いだ金を、全部母親に使われた!!本業の仕事の金だって!!………明日、借金の支払日なのに………。もう、売りをするしかないんだ………。明日までに少しでも取り戻さなきゃ…………。それしか、ないんだ………。だから、ほっといてくれよ、宮田」

だから、「おまえと違う」って言ったんだよ。

本当に切羽詰まってんだ………。

だってここ3日くらい、僕はご飯すらまともに食べてない。
それくらい、本当に切羽詰まってんだよ。

「なら、俺が買ってやる」

僕が想定した範疇外の宮田の言葉に、僕は目を剥いて宮田を見てしまった。

発した声が、震える。

「………何………何言ってんだよ………。僕は、高いよ?」
「知ってる。いくらだよ」
「………75万」

母親が1日で豪快に使った金額を、僕は思い切って宮田にフッかけた。

一晩75万とか………。

えらい剛気な金額をフッかけたけど………。
それで宮田が僕の前からいなくなると踏んだんだ。

「いいよ。75万で買ってやる」
「………え?」
「文句ないだろ。ほら、こいよ」

宮田はそう言うと、僕の腕をガッチリ掴んで、スタスタ歩き出した。
そのあとを僕は引きずられるように歩く。

「………は、はなせって!!」
「75万で買ってやるって言ってんだ!!つべこべ言わずについて来い!!」

………僕は、宮田に何も言い返せなかった。

宮田の言うとおり。
僕は売りをして、宮田に買われた。

それだけ。

なのに………情けなくて、悔しくて………。

少し、ホッとして………。

僕は泣くのをこらえながら、宮田のあとをついて行ったんだ。








近くのホテルに着いて、部屋に入るなり僕は宮田に肩を掴まれて、乱暴にベッドへ放り出された。
間髪入れず、宮田は僕に馬乗りになって、その両手をスッと首元に持ってくる。

………何……?何これ?!
………苦し……。
……………こわい!!

恐怖で、息があがる………!!

本当に怖くなって、僕は思わずその宮田の手を掴んでしまった。

「………いいか、遙。撮影なんて、甘っちょろいんだ。現実に売りなんかしてみろ。部屋に入った途端、こんな風に首を絞められてしまうこともあるし、ボコられたりすることもある。どんなヤツが客になるか分からない。命の保証なんてどこにもないんだ。たった75万で、命まで売り渡すのか?それくらいの覚悟があるのか?遙」

いつになく真剣で、鋭い目の宮田に、僕は怯んでしまって声が出なかった。

………僕が浅はかなのはわかってる。

でも………どうしようもなかったんだ。

だって、金が………金が、必要だったんだよ。

涙が、出てくる………。

宮田に泣き顔を見られたくなくて、僕は両手で顔を覆う。
そんな僕の頭を軽く撫でて、僕の両手を顔から引き剥がすと、宮田は優しく微笑んだ。

「75万はあとでもってくるから、今はゆっくり休みなよ、疲れてるんだろ?遙」

そう言って部屋から出て行こうとする宮田の腕を僕は掴む。

「………75万で、買ったんだろ?僕のこと。逃げんなよ、宮田………」

なんか、もう………。
………強がるしかなかった。

強がってないと、宮田の言葉が重く体にのしかかって、耐えきれずに声を上げて泣いてしまいそうだったんだ。
宮田の腕を強引に引っ張ると、その頬を両手で覆ってキスをして、そのまま、宮田ごとベッドになだれ込む。
僕をこんなに心配してくれる宮田の優しさが嬉しかったし、それに甘えたかった………。

でも、それじゃ………僕があまりにも惨めで。

………一人になりたくなかった、それすら素直に言えなかったから、宮田を押し倒して体温を感じて………安心したかったんだ。

「……遙、やめろって!」
「やめない……………買ったんだろ?……僕のこと。だったら一人にするなよ…………一人に、しないで…………一人になったら、僕………もう、どうにかなりそうだ………お願い、お願いだから」

あんなに仕事だって、割り切ってたのに。

ノンケだし、女の子だって好きだし、こんなの好きじゃないのに。

今は………宮田に抱きしめられたい。

撮影の時みたいに乱暴にされてもいいから、宮田と一緒にいたかったんだ、僕は。


「ん、んっ………あ、ぁあ」
「やっと、遙の顔がちゃんと見える……」

宮田が……。

その手が、その舌が。

そのすべてが………。

全部、優しい。

撮影中の宮田しか知らないけど、SMよろしく激しく宮田に攻められてる時と違って………。
今の宮田は優しすぎるくらい優しくて、その優しい刺激が脳みそをトロトロに溶けさせるんじゃないかってくらい、朦朧として、奥までじんわりと感じさせる。

「遙、ちゃんと俺に顔を見せて。その声で、俺の名前を呼んで」

宮田が耳元で囁く、その低いイイ声に僕は絶対に抗えないんだ。

「かなめ………かなめ………」

僕の声は涙声で。

僕は泣きながら、宮田の首に腕を回して、そのあったかい体にしがみついた。

宮田から、離れたくない。

宮田から離れたら、途端に僕は弱くなる。

「泣かなくていいから……遙………俺がそばにいるから…………ずっと、そばにいてやるから………泣くな、遙」
「……かなめ」

気やすめでも、嘘でも。

宮田のその言葉がすごく嬉しかった。
だって、今まで、僕のそばには誰もいなかったから。
母親はいるけど、僕をどんどん孤独に追いやる行動をするし。
妹はそんな依存性の高い家族を見限って、僕と母親のそばからいなくなった。

悩み、なんて。
苦しみ、なんて。

誰にも言えない。

借金を返すために体を張ってます、なんて誰にも言えない。

縛られて、目隠しされて、男にイかされまくってます、なんて口が裂けても言えない。 

僕は、ずっと一人で。
僕は、ずっと苦しくて。

頼れる人なんて、僕には僕以外いなかった。

だから。

宮田の……要の言葉が、本当に嬉しくて………。

要に優しくされたら、また頑張れそうな気がして。

でも、涙は止まらなくて。

今だけは、AV男優のネコの僕じゃなくて、本当の僕として要に甘えたかった。
要を離したくなかった。

だから僕は、泣きながらずっと要にしがみついていたんだ。

「かなめ………っぁ、もっと………ゆらして………」
「………遙っ!!」

要にイかされるのも、中に出されるのも、慣れてるハズなのに。
要のが僕のお腹をいっぱいにして、足りないものを補ってくれるみたいに、満たしてくれて。
金がないこととか、お腹空いてることとか。
いつも抱えてる悩みや苦しみを忘れさせてくれて、この一瞬が、本当に幸せに思えたんだ。

だから、たまらず言ってしまった。

「………要……好き」







✴︎

売り言葉に買い言葉で、ついカッとなって75万で遙を買ってしまった。
そうでもしないと、遙が真性の変態に買われてしまうかもしれないという不安に駆られて。
そして、無理に強がっている遙と肌を重ねる。

目隠しもせずに。
喘いでる顔すら隠さずに。

俺に感じて気持ちいいはずなのに、今まで流せなかった涙を一気に放出してるみたいに、ハラハラ涙を流しながら、それでもその顔も体もトロトロになって…………。

全力で、全身で、俺を求めている。

そんな遙を初めて見た。

同時に嬉しさと独占欲が込み上げる。

こんな顔……目隠しの下にはこんな、やらしくて、儚げで、綺麗な顔が隠れていたなんて………。

監督も、視聴者も知らない。

俺だけが知ってる、遙の本当。

金のために足を開く別の顔の遙じゃなくて、本当の顔の遙。
そんな顔で、遙は俺を真っ直ぐ見つめて言ったんだ。

「………要……好き」

遙が、今の不安定な感情で言ってるのは分かってる。

どこにも吐き出せなかった遙自身の苦しみとか、寂しさとか、そういう感情を俺にぶつけて、安心して。
思わず出た言葉なんだ、って分かってる。

分かってるんだけど、俺は嬉しかった。

………だって、俺は………ずっと遙が好きだったんだ。

遙はそう言うと、眠るようにオチていった。

………疲れんだろうな、遙。

本業の方も、人の嫌がることまで率先して、全力で手を抜かず頑張ってるし。

副業の方でも、そう。

深夜のコンビニバイトを週3でして、新聞配達もして………週末には、ゲイ向けAVのネコ役までして、さ。

どんなハードなプレイも、文句一つ言わずにやりこなす。 

責任感が強いから、何事も手を抜けない。
素直だから、生きづらくなる。

………弱音を吐いてもいいのに。

………できないって、言ってくれたら………、
助けてって、言ってくれたら………。
何を差し置いてでも、遙を助けてあげるのに。

俺は力の抜けた遙の華奢、というより細すぎる体を抱きしめた。

「俺のこと、本当に好きじゃなくてもいい。だから、俺から離れないで………遙」







あの日。

あまりにも暇すぎて、俺はタグからタグへと、ネットサーフィンをしていたんだ。
そうこうしてるうちに、ある動画サイトに行きついた。
その動画に、俺は雷に打たれて黒焦げになってしまったんじゃないか、ってくらい驚愕した。

ゲイの専門チャンネル、そこに。

どっかで見たようなヤツが、目隠しされて男にツッこまれて、喘いでいる。

目隠しされて、顔もだいたい分からないのに、俺は一発で、そのネコ役の正体を見破ってしまったんだ。


神谷遙。

同じ会社の高卒枠採用の。

かわいい顔をしてるくせに、めちゃめちゃ頑張るヤツでさ。
まだ若いのに、くたびれたオッさんみたいに毎日疲れた顔してて、でも、みんなの前ではいつもニコニコしてて。
それが気になって、遙のことが頭から離れなくなった矢先に見つけた、この動画。

さらにその動画がめちゃめちゃ気になって、遙が出ている動画を片っ端から漁っては、食い入るように見て………。

目隠しの下に隠れてる遙の顔を想像して………。

情けないことに、俺は遙の動画をオカズに何回って、いや、何十回ってヌいてしまったんだ。

俺………こういうの、好きだったか……?

いや、違う。

神谷が………遙が、好きなんだ。

………こうなってしまうと、本当、止まらない。

手を尽くして、金をかけて、遙を調べまくった。
なんで、毎日疲れてるのか。
なんで、こんな動画に出てるのか。
俺は、神谷遙のすべてが知りたかった。

知った結果が、衝撃でもあり、まぁそうだろうなって頷くレベルでもあり。
いわゆる毒親のせいで、遙はこんなハードな生活を送っていて。
遙自身が素直で馬鹿正直すぎて、親が闇雲に作った多額の借金を債務整理も行わず、ただひたすら働いて金を稼ぐ、そんな崖っぷちの生活を強いられていた。

誰にも相談せず、誰にも頼らず。

遙はたった一人で、まさしく孤軍奮闘していたんだ。

助けてあげたい、でも…………。

そんなに親しくもないのに「借金でお困りですか?」なんて、闇金のダイレクトコールみたいな声もかけられない。
近づいて、仲良くなって、そうすれば俺の話を聞いてくれるかもしれない…………でも、どうすれば。

その時、電光石火で俺は閃いた。

………あ。

………遙の相手役になれば……。

………俺がタチ役になれば、いいんじゃね?

あまりにもバカで、短絡的な考えだったけど、これしかないって………。
遙とヤれるって、多少の下心があったことは否定しないけど………。
それでも、この方法しか思いつかなくて、あまりにもアホらしい閃きだったんだけど、それは、親しくなれる最短経路だと思ったんだ。
あらゆるツテとコネを利用して、満を持してゲイ専門のタチ役として、俺は遙の前に現れる。

こんな俺の、考えに考え抜いた末の行動なんて、遙は知る由もなく、撮影現場に現れた俺を、まるで死神でも見たような、信じられないって顔をして、遙は固まった。
多数の目が集まってカメラが回る中、目隠しをした遙を、俺は乱暴に犯しまくる。

後悔してないと言えば、それは嘘で………。

でも、遙との距離が縮まったように感じて、ぎこちなかった遙が俺に感じてイきまくって、それに比例するように愛おしさが膨らんで…………。

これが撮影じゃなくて、本当だったらいいのに………って。

俺のことを遙が好きで、両思いで、今のこの瞬間が偽物じゃなかったらいいのに………って。

撮影の度にその思いは増幅して、今すぐ遙を縛ってるその縄をといて、その目隠しをとって………。

大切に、宝物みたいに、遙を強く抱きしめたかったんだよ、俺は。

………いきなり、といえば、いきなりなんだけど。

俺は今、目隠しも何もしていない本当の遙をぎゅっと抱きしめて、その願望を叶えてしまっている。

そして、思った。

距離が、物理的にも心理的にも近くなった今。
これでようやく、遙を助けてあげられる、って。







✴︎

「神ちゃ~ん!やっぱ、神ちゃんは何でも似合うよ~」

監督は、また僕をノせてくる。
綺麗な細工が施されたベネチアンアイマスクをつけて。
首にはリボンを結んで、そのリボンの先は、後ろで交差した僕の手首にひどく絡まっている。
ガーターベルトにガーターストッキングというヤツを身につけて。
アンティークな椅子に腰掛けて、僕は撮影を今か今かと待ちわびるんだ。

「今回はちょっと倒錯的な感じにしたかったんだよねぇ。だからさ。神ちゃんも、今日は誘ったり、煽ったりしてくれる?」
「はい、大丈夫です。今日は、ちゃんと見えますから」

わかってる、だから。

来て、はやく。

………要。

そう心の中で呪文のように呟いたら、ほら。

僕と似たようなベネチアンアイマスクをつけた要が現れて………僕に優しくキスを落とすんだ。

「……っん、あ………」
「なんだよ、ここ、こんなに柔らかい……」

アンティークな椅子に腰掛けたタチ役の要の膝の上。
向かい合わせに座った僕の中に要が指を入れて、僕が感じるトコをくすぐるように優しく、イタズラするように弾く。

「………こんな、もん?………たんない………もっと、シて………つよく、シて」
「ったく……!………この、淫乱!」

要のキメ台詞が僕の耳に届くと同時に、ギンギンにかたくなった要のが、僕の中に深く貫くように入ってきて。
僕はたまらず、声を上げて体をしならせた。

いつもの、SMっぽい倒錯的なプレイ。

でも、いつもと違うことがある。

それは………この撮影がもう金のためじゃないってこと。

そして、僕と要は、演技じゃない本当の顔の時でも愛し合ってるということ。








「………要……好き」

って、思わぬ本心を告白して。
あったかい優しい温もりに抱きしめられながら、僕は久しぶりに、ゆっくり深く眠った。

こんな、の………こんなことされたの、記憶にないくらい、気持ちよくて、嬉しくて。

…………目を、覚ましたくない………。
このまま、優しく、要に優しくされていたい。

でも………!!支払いっ!!

僕は目を開けると同時に飛び起きたんだ。

「おはよう、遙」

低く響く穏やかな声………いつもの煽る声とは違って、安心する。
要は僕に向かって優しく笑いながら、要は服に袖をとおして帰り支度を始めていた。

「………おはよう、要。……昨夜は……ごめん」

バツが悪い……。

結果的に75万を同僚にねだって、寂しいからって泣きながひっつきまくって………。

そして、好きになって………。

そんな大それたこと、言えた立場じゃないのに。

要と目が合わせられない僕に、要はその手をそっと僕の頭に乗せて言った。

「75万、準備したよ。今日は行くところあるから。早く着替えて、遙」

要は、ぽかーんとしている僕の手を引いて、知り合いだという弁護士さんを僕に紹介してくれた。

弁護士なんて、敷居が高くて………。
なんて思っていた僕に、弁護士さんはあれよあれよとアドバイスと手続きを踏んでくれて。

借金が、5分の1になった。

加えて、今まで金融さんたちに払ってきた金もいくらか返ってきて………。
本業の収入だけで、借金を返せるようになって。

さらには、要の紹介で僕の母親も、買い物依存症の更生施設に入所させてもらえるようになって。
八方塞がりで動かなかった、僕の人生の歯車が一気に噛み合って回り出す。
僕の心の中の不安とか、苦しさとか、全部消えてしまったかのように、スッキリしたんだ。

全部、要のおかげ。

初めて全身を預けられるくらい、頼れる人ができた。

初めて………心の底から、素直に『好き』って思える人が………できた。

「………あの、ありがとう。要」

借金のことも母親のことも、だいぶ落ち着いてきた頃。
会社の飲み会にも参加しない僕が、初めて人を………要を食事に誘った。

………まぁ、やっすい居酒屋なんだけどさ………。

要に、僕ができる精一杯のお礼をしたかったんだ。

「要がいなかったら、僕、今頃のたれ死んでたかも。………だから、今日はたくさん飲んで!」
「気ィ使わなくてよかったのに………」

ビールジョッキを片手に、要は困った顔をして言う。

「だって……!!………本当にありがたかったし………それに、あの時のアレ………本心、だから」
「あの時のアレ?あの時アレ、ってなんだよ」
「…………アレ、アレだよ。アレ」

なんで伝わらない、かな………。

詳細に言ったら恥ずかしいから、素直に「うん」って言ってくれたらいいのに………。

僕の心臓は、はち切れるんじゃないかってくらいバクバクしてるのに、要はそんな僕を見て余裕綽々に笑って………。

こいつ、ワザと分からないフリしてんだろ!?

「なんだよ、ちゃんと言わなきゃ分かんねぇよ」
「…………分かってんだろ?」
「分かんねぇよ。ほら、早く言えって」
「………………」
「ほら、早く。遙」

………あ。

この、感じ。

要のこの、この感覚。

撮影でのタチ役の、そのまんまの要で。

僕は思わず笑ってしまった。
笑って、気が抜けて…………。

「要が好き………こんな大事なことも、分かんないのかよ」

それにかぶせるように、要がSっぽく笑ったんだ。

「知ってるよ。分かってる。じゃあ、さ。俺が遙のことがこの世で一番好きってのは、知ってる?」








「んぁ、あ……きもちぃ………かなめぇ」
「遙………顔見せて……キス………キスして」

僕が、気張って誘った居酒屋もそこそこに。
僕と要は、離れ離れにならないように手を強くつないで、近くのホテルに入った。

ドアを閉めるなり、深く唇を重ねながら、互いのネクタイを解いて、服を剥ぎ取る。

呼吸が乱れて、体が熱くなって。

………我慢できない。

要も、僕も、お互いがお互いを欲して………。

止まらない。

僕は立ったまま要にしがみついて、要は僕の片足を持ち上げて、僕の中をぐちゃぐちゃにかき乱す。
………いつもは目隠しをして見えない、要の色気のある顔が僕の心を強く揺さぶって………。
たったそれだけなのに、興奮して…………。
その要の本当の顔を見ただけで、イッてしまった。

「もう、イッたの?遙」
「だって………要の、本当の要の顔………こんなに………僕をエッチに………させる………」
「遙………好きだ……もっと、もっと顔見せて」
「僕も……要の顔………みたい………僕の好きな要………そばにいて…………」

仕事でも、僕たちは別な顔をして。

また違った別の顔をしたネコ役の僕は、また違う顔をしたタチ役の要と距離を縮めて。

ずいぶん遠回りして、やっとお互いの本当の顔に出会えて………。

ツライ事や苦しい事が多くかった僕の今までの人生で初めて、幸せだって思えるかけがえのない人を手に入れたんだ。








アンティークな椅子の上にうつ伏せにさせられて、僕は後ろから要にSMよろしく乱暴に犯される。
もう、金を返さなくていいのに、まだAV男優してんのか、って?

しなくていい、んだよ。
こんなこと、本当に。

でもさ、しばらくはお世話になった監督を裏切れないし。
僕たちのプレイを楽しみにしている視聴者さんたちを悲しませたくないし。

僕ら2人で、しばらく続けようって決めたんだ。

…………まぁ、週一くらい。

要とこんなプレイをしていたいってのもあるんだけどさ。

「………っぁあ、んっ……おく………あたる」
「………おく?じゃ、なんて言うんだ?」
「………おねがぁ……い……おく、ぐちゃぐちゃ、シてぇ………」

要の動きが速くなって、それに反応して僕の体は反り返る。

ヤバ………きもちぃ………。

実は………こんな、要も好きだったりする。
はじめて、要がタチ役で僕の前に現れたあの日。

びっくりして、ドキドキして………。

こんなの………こんな始まり方………。

僕たちしかないんじゃないかって思うと。

なんだか、心が踊って………ドキドキがとまらない。
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