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「なんか、言うことあるだろ……サタナキア」
『……別に?』
「僕にさ、〝老若男女、ニャンニャン言わせた〟とか言ってなかったか?」
『はぁ? そんなこと、言ったか?』
「言っただろ!」
『聞き間違いじゃねーの?』
「!!」

すっとぼけるけることは悪魔並みに上手い、というか。

本物の悪魔のサタナキアがこうなりだすと、絶対に僕ではサタナキアの口から真実を聞き出すことはできない。

いつもの僕なら、そう。

陰キャの僕ならここで気分も萎えて「もう、面倒くさい」と思うはずなのに。

今日は、なんか気分が昂って……。

け、決して! イケメンとヤッたからじゃないぞ!?

自分がイケメンになったような、そんな錯覚を起こしているわけでもないからな?!

そんないつもの僕じゃない僕は、量販店で買った見たからに安っぽいローテーブルを思いっきり叩いた。

「すっとぼけんな!! おまえの目的をちゃんと言え!!」
『うるさい!! おまえだってイケメンとヤれて良かったんだろ?!』
「はぁ?! おまえがあのイケメン天使とヤリたかっただけだろッ!!」
『!!』

途端に、静かになり。
サタナキアが一言も言葉を発しなくなった。

「……どうしたんだよ」
『……』
「なんか言えって、サタナキア」
『……したかった』
「はぁ?」

しおらしく、そして、恥ずかしいそうに……。

恋する乙女か!? と、ツッコミたくなるようなか細い声で。
そんな声を振り絞るように、サタナキアが言った。

『アイツと……アイツと……。駆け落ちしたかったんだよー!!』
「……はぁ?」
『カマエルと、カマエルと……ずっと一緒にいたい! だから駆け落ちしたいんだ!!』
「……どっからか、走って落ちるのか? おまえら」
『……バカか、おまえはーっ!!』

……サタナキアが、ブチ切れるのも無理はない。

駆け落ちと言うことばが、死語すぎて知らなかった僕も悪いし。

でもさ、天使と悪魔が失楽園するなんて聞いたことないし、前代未聞すぎるだろ?!

あまりの僕の陰キャ加減に、サタナキアの中の何かがぶっ壊れたのか。
それから、サタナキアは蚊のなくような声で、ポツポツと話し出した。


天使のカマエルに会うまでは、僕に言ったとおり老若男女をブイブイ言わせた悪魔だったらしい。

ある日、人間相手にいつものとおりブイブイ言わせていたら、天使のカマエルがサタナキアの前に現れた。

サタナキア曰く、それは一目惚れで。
雷に打たれたような衝撃に加え。

ブイブイ言わせる側のサタナキアが、あろうことか初めて「抱かれたい!」と思う相手だったらしい。


その思いは何百年、何千年と変わらず。


二人は駆け落ちをするべく、こうして人間の世界で逢瀬を重ねている、とのことだった。


「じゃ……早いとこすればいいじゃねぇか。駆け落ち」
『邪魔がはいる』
「邪魔?」
『必ずどちらかの眷属が俺たちの動きを察知して、俺たちを離れ離れにする。前回はカマエルの上司とかいう奴の金槌で殴られて地獄の底まで落とされた。その前は、同僚のアガリアレプトに捕まった。その前は……数えたらキリがない』
「……ツイてないな、サタナキア」
『渚ほどじゃない』
「!!」

そう言うと、サタナキアは深くため息をついた。

「でもさ、サタナキア。何か変じゃないか?」
『何が?』
「なんでダダ漏れなんだよ、おまえらの駆け落ち」
『……』
「そんなにたくさん駆け落ちしてたら、一回くらい成功しないか? 普通」
『……』

サタナキアが、再び押し黙る。

「誰かに駆け落ちのこととか言ってないのか? 本当に二人だけの秘密だったのか?」
『俺は言ってない!! 俺は……俺は、悪魔だけど!! アイツのことに関しては嘘なんかついてない!!』
「……じゃあ、答えは出てるじゃないか。……サタナキア」
『……』
「しっかりしろよ、サタナキア! ずっと繰り返すのか? こんなこと!!」
『……けど!』
「サタナキアは僕を変えてくれたじゃないか!! その張本人がそんなことでどうするんだ! ちゃんと前を見ろよ!! そして、ちゃんと前に進めよ! サタナキア!!」
『……』

体の中からサタナキアのすすり泣く声が聞こえる。


……かわいそうだけど。


このままじゃ、サタナキアがこの先ずっと辛い目に合わなきゃならないことを考えると。

僕は言わざるをえなかったんだ!

「カマエルに会いにいこう! 今すぐに! 会ってちゃんと駆け落ちするぞ!! サタナキア!!」

すすり泣くサタナキアを体内に収めた僕は、玄関に散らばった靴の踵を踏みつぶして。
深夜の、ひんやりとする外に飛び出したんだ。
 
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