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#5
しおりを挟む「………い!………睟!!」
………響く、耳に心地いい低音が。
好きなコ、の………いつもと違う……。
聞いたことのない、声量と声質。
普段の冷静な声じゃないし、エロい時のあの声じゃない。
異常事態だってのがようやく頭に伝わって、俺は目を開けた。
「……流………水……?」
今にも泣きそうな顔の流水が目の前にいて。
何故か流水が、両手にパイプ椅子を握りしめて震えている。
………何してんだ、流水?
つーか俺、何してたんだっけ???
あ……?
……あっ!!
あーっ!!!か、樫井っ!!
樫井に拐かされて、変なの飲まされて、あんなコトやこんなコトをされたんだった!!
そうだよ……つい先日、流水とアルファとオメガの立場だったとはいえ、男同士でヤッたってぇのに。
今度はガチの〝男同士・アルファ同士〟でヤられちゃうのかよ、って思ったんだった。
気持ち悪いんだか気持ちいいんだか、おかしくなりそうな中、「減るもんじゃないし。流水じゃなくてよかった」って………血迷ったことを考えてたんだ。
ってか、樫井はっ?!
樫井はどうしたんだよ?!
母さんにダイビング・ボディプレスをかまされた時のような痛さを振り切るように、俺は体を起こした。
「!!」
樫井が、ズボンを膝下まで下ろした下半身丸出しのハズカシイ格好でぶっ倒れてる。
しかも仰向けだから、樫井の見たくもないナニが、否応なしに目に飛び込んできた。
さらに見たくもないけど、萎えた樫井のナニから白いのがタラタラ溢れ出してて……。
あんなコトをされたにも関わらず、男として同情するとともに、少しかわいそうになってきた。
「流………水……ひょっとして……」
「……殴った」
「何で?」
「パ……パイプ椅子で」
「!!」
「だって!だって!睟が……睟が………死んじゃったんじゃないかって….…。それに、この間見たプロレスの試合でも使ってたよ!パイプ椅子!!」
助けてくれたことには非常に感謝している、よ?
優等生で、喧嘩なんかしたことがなさそうな流水が、初めて見たプロレスの試合で、パイプ椅子なんか使ってるのを見たら、そりゃ〝パイプ椅子は、喧嘩の武器として有効〟って思うかもしんねぇけどさ。
………だけど、パイプ椅子はダメだろ?!
武器じゃねぇよ、凶器だよ!!凶器!!
それにプロレスで使われる椅子はアルミ製の軽いヤツで、流水が持ってるそれはガッツリなスチール製なんだぞ???
「………頭とか、殴ってないよな?」
「背中……」
あ、頭じゃなくて……よかったぁ………。
安心したと同時に体を支えてる手から力が抜けて、俺はもう一度床に倒れ込んでしまった。
「睟!!」
流水が放り投げたパイプ椅子が棚にぶつかって、ガシャーンと派手な音をたてる。
そして俺は、今にも泣きそうな顔を継続中の流水に抱き起こされた。
「ごめんね………ごめんね、睟」
「……んで、流水が……謝んだよ。おまえ、悪くないじゃん」
「だって……痛かった……だろ?……怖かった、だろ?………」
「大丈夫だよ。気持ち悪いのと、なんか………変な気分にはなったけど」
「………睟ぃ…」
「ありがとう、な。流水」
「………え?」
「俺が助けられちまった……。流水を守るって俺が言ったんだけどな」
「睟………」
「でも………これが、流水じゃなくて……よかった。つらいよな、やっぱ……。オメガの人のつらいの、分かったよ。………流水じゃなくて……本当に……よかった」
流水が泣いているから……か?
それとも、流水に優しく抱きしめられているから……か?
久しぶりに………泣いた。
どれくらいぶりか、記憶にないくらい……久しぶりに泣いた。
泣いたら弱いヤツって思われるんじゃないか、とか。
アルファのくせに、小さいとか弱っちい、とか。
人並み以下に見られて噛みまくられたり、とか。
悔しくて。
ずっと我慢していたら、いつの間にか泣けなくなった。
でも、流水の顔を見たら、安心して。
流水に抱きしめられていたら、ホッとして。
気がついたら………流水にしがみついて、声を殺して泣いていた。
ひとしきり泣いて、だいぶ落ち着いてきた俺に制服を優しく着せて。
………俺を、お姫様抱っこして………。
流水は、樫井を残してその場から離れた。
俺はなんだか、複雑だったんだ。
俺がどうしてもできなかった〝お姫様抱っこ〟を軽々とする流水の逞しさと俺に向ける優しい笑顔のギャップが凄すぎて。
俺は………本当にオメガの流水の〝アルファの嫁〟になるじゃないかって思ったんだ。
「うん………。今は、大丈夫。………うん。流水ん家に泊まらせてもらうよ。………わかってるから、大丈夫。………じゃあ、父さんにも伝えてて」
俺は流水ん家にそのまま連れ帰られて、事の一部始終を母さんに伝えた。
……いつもの調子だったんだけど、それでも母さんが気を使って。
俺を余計に不安がらせないように。
ワザとそういう態度をとっていることくらい、手に取るように分かった。
………母さんにまで、心配かけちまった。
元はと言えば、俺の特異体質が原因だから………。
………しょうがない、と言えば……しょうがない。
気がつけば。
俺の体は、樫井がつけたと思われる噛み跡だらけになっていた。
首筋以外にも、胸や腕、腹に………。
………こんなに噛んだって。
運命にはなれないのに………。
番にもなれないのに………。
アルファなんだよ、俺は。
樫井に流されて、樫井の言うとおりにしていればラクだったのかもしれない。
………でも、でも!!
「睟、一緒に風呂入ろうか」
「へ?」
ちょっと、いや……だいぶ余計なことを考えていた俺は、流水のいきなりの問いかけに、不意打ちを喰らって変な声を上げた。
「中、キレイにしてあげるから」
「いっ、いいよ!!いい!!自分でするからっ!!」
………そ、そんなことまで!!
番になったとはいえ、そんなことまで流水にさせられないっ!!
は、は、は……恥ずかしいしっ!!
「自分ですると、うまくとれなくてお腹痛くなるよ?」
「……え?………そうなのか?」
「うん。だから、僕に任せてよ。ね、睟」
にっこり笑って俺に手を差し出すから、俺はつい、その手をとってしまったんだ。
導かれように……うやうやしく、王子様のような流水がエスコートしたのは、お城じゃなく風呂場だったけど。
その状況に、俺はなんだかうっとりしてしまった。
「……んっ………ぁあっ」
「大丈夫?……痛くない?睟」
「………だ、いじょ……ぶ………」
「全部、出してあげるね………」
「んぁあっ………流…水……あ、あぁっ」
………樫井のせいか??
変に後ろがムズムズ感じて、俺の体は、その気のない流水の手にすら敏感に反応する。
……やっべぇ。
俺、女の子みたいじゃんか。
でも、でもな!!
樫井のが俺の中から出ていくと感じるたびに、力が元に戻るような気がした。
樫井が支配していた俺の体が、少しづつ解かれていく。
………噛み跡すら、気にならない。
俺が、俺になっていく………。
「………流水。もう、大丈夫。ありがとう」
「大丈夫?無理……しないで」
振り返ると、心配そうな顔をして流水が俺を覗き込んだ。
その顔を見た瞬間、俺はたまらず流水に抱きついて、そのまま、押し倒すかのように湯船にその体を沈めた。
「睟?!」
「流水……」
湯船に仰向けになっている流水の上に、俺は馬乗りになって……キスをした。
『高校生たるもの!!』と一瞬、母さんの雷みたいな声が頭の中に響いたけど……正直もう、どうだってよかった。
樫井が無理矢理植え付けた体の熱を、発散したいってのもあったけど。
………流水が、好き。
流水が、好きすぎて………離れたくなかったんだ。
「流水………俺……のこと、イヤか?」
俺は多分、かなり切羽詰まった表情をしていたに違いない。
流水がビックリしたように目を見開いて、そして、はにかむように笑った。
「イヤなワケないじゃない、か。……だって、僕はこんなに睟のことが好きなのに」
………いつもそう。
流水の笑顔やその声は、俺の頭の中のトリガーを引く。
人様ん家の風呂ん中で、睦あう……愛し合う。
また、母さんにドヤされそうだけれど……。
いいじゃんか、別に。
流水が俺の体に無数に刻まれた噛み跡を、丁寧に舐めていくのを目の当たりにするとさ。
………〝運命の番〟って、なんて最強なんだって思うんだ。
「流水、ずっと………そばにいてくれ」
「睟も……僕より先に死なないで………」
そして俺たちは深くキスをして………湯船の中、水飛沫をあげながら体をよせあった。
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