1 / 1
ドキッーー! 一話完結
しおりを挟む
「……樹」
「……」
兄が、出て行った。
俺の声に応えることなく、〝真純〟って、俺の名前を呼ぶこともなく。
高校の卒業式のこの日、樹の転がす小さなキャリーバックの音だけが俺の耳に残っていた。
こんな、寂しい別れ方ってあるだろうか?
こんな、胸が痛いのって……今まであっただろうか?
理由は明白だ。
俺が……俺が、告ったから……。
だって、どうしようもなかったんだよ。
ずっと、ずっと、好きだったんだから。
母さんに手を引かれて、立派なレストランに連れて行かれてさ。
そこにいたのは、人懐っこい笑顔の背の高いオジサンと。
オジサンによく似た、俺より少し背の高い男の子がいて。
ーードキッと、した。
そんな、男の子相手にドキッとなんて……俺、どうかしてるって。
だから、その時のドキッは、違うドキッだって思っていたんだ。
きっと、これから楽しいことがおこる、そんなドキッーー。
俺は八歳で、その子は……樹は十歳で。
俺と、樹は、すぐに……本当にすぐに仲良くなって、すぐに家族になって。
本当の兄弟みたいに、いつも一緒に過ごして。
一緒に野球をして、中学に入ったら樹の後を追うようにバレー部に入って。
頭のいい樹に置いてかれないように、勉強だって頑張ったのに……。
兄、だったのに……。
その〝兄〟という言葉が、重く俺にのしかかってきたのは……いつからだったのか。
高校に入って、一人先に大人になっていく樹に、俺はどんどん置いてかれるような感じがした。
溝が広がる……。
今は兄弟だけど、大人になったら? 結婚したら? 子どもが産まれたら?
俺たちは兄弟のまま、死ぬまでその関係をたもてるのだろうか?
それとも……。
どうにもならない感情に身も心も苦しくて、哀しくて……。
その時、初めて樹に会った日のことを思い出した。
そうか、あのドキッはーー。
最初に感じた、〝好き〟って感情のドキッだったんだ。
毎夜、毎夜……声を押し殺して、頭では樹を想像して。
前を弄って、欲求と願望を解放する。
……そして、ドン底まで後悔して、涙が止まらなくなるんだ。
一度でいい、一度でいいから……樹と。
「……樹」
「なんだ、真純? 具合悪いのか?」
下着も脱ぎ捨て、手も足も汚した最悪の状態で、俺の部屋のドアが開いた。
布団なんて被る余裕もない。
泣きながら、ベッドに横たわる恥ずかしい格好の俺。
そんな俺に、樹は絶句してドアの前で立ち尽くす。
……もう、何も言い訳できないと思った。
「好き……なんだ。樹」
「……」
「一度でいい。好きにならなくていいから……」
「……」
「抱いて欲しい……樹」
きっと樹は、ドン引きして部屋を出て行くんだろうな、って思ってた。
兄弟には戻れない、というか。
八歳以前の、元の他人の関係に戻るだけなんだって思ってたんだ。
「……樹?」
「……真純!!」
「ッ?!」
ドアのところにいた樹が、俺に飛びかかるように覆い被さる。
あまりに突然のことに。
抵抗した俺の手首を押さえて、樹は貪るようにキスする。
「んッ……んぅ……」
樹の冷たい手や舌先が、俺の胸や足の間を弄る度に。
今までに感じたことのない熱量と、感覚が一気に俺を襲ってきて。
……息があがる、体が仰反る。
「っあぁ……はぁ……」
「……」
手や舌先とは裏腹の、熱いくらいになった樹のが俺の中に入ってきて。
その奥を激しく突いて、俺を侵略する。
俺は、願いが叶って幸せなはずだったんだ。
……でも、樹は一言も言葉を発しなくて。
「真純」って、名前すら呼んでくれない。
視線すら……合わない。
その時、俺は初めて気付いた。
俺は、樹とこうなりたかったんだけど。
樹の心までは、俺と寄り添うことは決してないんだって。
心を通わせなくても、肌を重ねることはできて。
……樹は、俺のせいで一生背負わなくてはならない、後悔を背負ってしまったんだということに。
俺は気付いたんだ。
それから、俺たちは〝兄弟〟として必要最低限のことしか絡まなくなって……。
樹は〝兄〟として、俺の前から消えた。
あれから、二年。
俺は卒業証書を手に、学校の門をくぐった。
さて……これから、どうしようかな?
兄とは別の大学に行く予定だし、一人暮らしをする部屋だってまだ決めてないし、やることはたくさんあるんだけど。
まだ俺は、なんとなく樹のことを引きずっていたから。
思わず、苦笑いをしてしまった。
「まだ、ボタン。残ってる?」
そう、背後で聞こえた声に、俺はドキッとした。
このドキッーーは、そう……。
「……樹……?」
「残ってたら、オレにくれない?」
「……」
そう、屈託なく笑う樹の笑顔が。
あの人懐っこい、俺が好きだった笑顔で。
声を発したかったのに、涙で喉を詰まらせたみたいになって、変な嗚咽が口をついでる。
「遅くなってごめん。真純」
「な……んで……?」
やっと発したかった言葉と同時に、恥ずかしくなるくらい俺の目から涙が溢れ出る。
「ずっと考えて、ずっと準備してたから。真純とオレが幸せになる方法」
「……」
あまりのことに、立ち尽くすことしかできない俺に近づいだ樹は。
ギュッと、抱きしめて耳元で囁いた。
「好きだ、真純」
「……樹」
「ズルすぎるんだよ、真純は。……オレから告る予定だったのに。あんなムラッとする格好で告りやがって。大切にしたかったのに、猿みたい真純とヤッちまって、オレだって後悔ばっかで辛かったんだぞ?」
「っっ!!」
「辛い思いさせて悪かったな、真純。これからは、もう……そんな思いをさせないから。……一緒に帰ろうか、真純」
「……な……んだよ……! 樹のバカッ!!」
だったら……だったら!
あの時、ちゃんとそう言えってば!!
こんなに、悩まなくても……暗い高校生活を送らなくてもよかったんじゃないのか?!
「怒るなって」
「……怒ってない! 怒ってるけど、怒ってない!」
そう、怒ってるよ?
でも……今、俺の胸のドキッが。
すごく明るい未来を予感しているドキッで。
嬉しくて、ムカついて、涙が止まらないんだ。
「……」
兄が、出て行った。
俺の声に応えることなく、〝真純〟って、俺の名前を呼ぶこともなく。
高校の卒業式のこの日、樹の転がす小さなキャリーバックの音だけが俺の耳に残っていた。
こんな、寂しい別れ方ってあるだろうか?
こんな、胸が痛いのって……今まであっただろうか?
理由は明白だ。
俺が……俺が、告ったから……。
だって、どうしようもなかったんだよ。
ずっと、ずっと、好きだったんだから。
母さんに手を引かれて、立派なレストランに連れて行かれてさ。
そこにいたのは、人懐っこい笑顔の背の高いオジサンと。
オジサンによく似た、俺より少し背の高い男の子がいて。
ーードキッと、した。
そんな、男の子相手にドキッとなんて……俺、どうかしてるって。
だから、その時のドキッは、違うドキッだって思っていたんだ。
きっと、これから楽しいことがおこる、そんなドキッーー。
俺は八歳で、その子は……樹は十歳で。
俺と、樹は、すぐに……本当にすぐに仲良くなって、すぐに家族になって。
本当の兄弟みたいに、いつも一緒に過ごして。
一緒に野球をして、中学に入ったら樹の後を追うようにバレー部に入って。
頭のいい樹に置いてかれないように、勉強だって頑張ったのに……。
兄、だったのに……。
その〝兄〟という言葉が、重く俺にのしかかってきたのは……いつからだったのか。
高校に入って、一人先に大人になっていく樹に、俺はどんどん置いてかれるような感じがした。
溝が広がる……。
今は兄弟だけど、大人になったら? 結婚したら? 子どもが産まれたら?
俺たちは兄弟のまま、死ぬまでその関係をたもてるのだろうか?
それとも……。
どうにもならない感情に身も心も苦しくて、哀しくて……。
その時、初めて樹に会った日のことを思い出した。
そうか、あのドキッはーー。
最初に感じた、〝好き〟って感情のドキッだったんだ。
毎夜、毎夜……声を押し殺して、頭では樹を想像して。
前を弄って、欲求と願望を解放する。
……そして、ドン底まで後悔して、涙が止まらなくなるんだ。
一度でいい、一度でいいから……樹と。
「……樹」
「なんだ、真純? 具合悪いのか?」
下着も脱ぎ捨て、手も足も汚した最悪の状態で、俺の部屋のドアが開いた。
布団なんて被る余裕もない。
泣きながら、ベッドに横たわる恥ずかしい格好の俺。
そんな俺に、樹は絶句してドアの前で立ち尽くす。
……もう、何も言い訳できないと思った。
「好き……なんだ。樹」
「……」
「一度でいい。好きにならなくていいから……」
「……」
「抱いて欲しい……樹」
きっと樹は、ドン引きして部屋を出て行くんだろうな、って思ってた。
兄弟には戻れない、というか。
八歳以前の、元の他人の関係に戻るだけなんだって思ってたんだ。
「……樹?」
「……真純!!」
「ッ?!」
ドアのところにいた樹が、俺に飛びかかるように覆い被さる。
あまりに突然のことに。
抵抗した俺の手首を押さえて、樹は貪るようにキスする。
「んッ……んぅ……」
樹の冷たい手や舌先が、俺の胸や足の間を弄る度に。
今までに感じたことのない熱量と、感覚が一気に俺を襲ってきて。
……息があがる、体が仰反る。
「っあぁ……はぁ……」
「……」
手や舌先とは裏腹の、熱いくらいになった樹のが俺の中に入ってきて。
その奥を激しく突いて、俺を侵略する。
俺は、願いが叶って幸せなはずだったんだ。
……でも、樹は一言も言葉を発しなくて。
「真純」って、名前すら呼んでくれない。
視線すら……合わない。
その時、俺は初めて気付いた。
俺は、樹とこうなりたかったんだけど。
樹の心までは、俺と寄り添うことは決してないんだって。
心を通わせなくても、肌を重ねることはできて。
……樹は、俺のせいで一生背負わなくてはならない、後悔を背負ってしまったんだということに。
俺は気付いたんだ。
それから、俺たちは〝兄弟〟として必要最低限のことしか絡まなくなって……。
樹は〝兄〟として、俺の前から消えた。
あれから、二年。
俺は卒業証書を手に、学校の門をくぐった。
さて……これから、どうしようかな?
兄とは別の大学に行く予定だし、一人暮らしをする部屋だってまだ決めてないし、やることはたくさんあるんだけど。
まだ俺は、なんとなく樹のことを引きずっていたから。
思わず、苦笑いをしてしまった。
「まだ、ボタン。残ってる?」
そう、背後で聞こえた声に、俺はドキッとした。
このドキッーーは、そう……。
「……樹……?」
「残ってたら、オレにくれない?」
「……」
そう、屈託なく笑う樹の笑顔が。
あの人懐っこい、俺が好きだった笑顔で。
声を発したかったのに、涙で喉を詰まらせたみたいになって、変な嗚咽が口をついでる。
「遅くなってごめん。真純」
「な……んで……?」
やっと発したかった言葉と同時に、恥ずかしくなるくらい俺の目から涙が溢れ出る。
「ずっと考えて、ずっと準備してたから。真純とオレが幸せになる方法」
「……」
あまりのことに、立ち尽くすことしかできない俺に近づいだ樹は。
ギュッと、抱きしめて耳元で囁いた。
「好きだ、真純」
「……樹」
「ズルすぎるんだよ、真純は。……オレから告る予定だったのに。あんなムラッとする格好で告りやがって。大切にしたかったのに、猿みたい真純とヤッちまって、オレだって後悔ばっかで辛かったんだぞ?」
「っっ!!」
「辛い思いさせて悪かったな、真純。これからは、もう……そんな思いをさせないから。……一緒に帰ろうか、真純」
「……な……んだよ……! 樹のバカッ!!」
だったら……だったら!
あの時、ちゃんとそう言えってば!!
こんなに、悩まなくても……暗い高校生活を送らなくてもよかったんじゃないのか?!
「怒るなって」
「……怒ってない! 怒ってるけど、怒ってない!」
そう、怒ってるよ?
でも……今、俺の胸のドキッが。
すごく明るい未来を予感しているドキッで。
嬉しくて、ムカついて、涙が止まらないんだ。
1
お気に入りに追加
21
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
クソザコ乳首アクメの一日
掌
BL
チクニー好きでむっつりなヤンキー系ツン男子くんが、家電を買いに訪れた駅ビルでマッサージ店員や子供や家電相手にとことんクソザコ乳首をクソザコアクメさせられる話。最後のページのみ挿入・ちんぽハメあり。無様エロ枠ですが周りの皆さんは至って和やかで特に尊厳破壊などはありません。フィクションとしてお楽しみください。
pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。
なにかありましたら(web拍手)
http://bit.ly/38kXFb0
Twitter垢・拍手返信はこちらから
https://twitter.com/show1write
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
珍しい魔物に孕まされた男の子が培養槽で出産までお世話される話
楢山コウ
BL
目が覚めると、少年ダリオは培養槽の中にいた。研究者達の話によると、魔物の子を孕んだらしい。
立派なママになるまで、培養槽でお世話されることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです!
一人称から、主人公真純くんの純粋な想いと熱情が伝わってきました。
ストレートな想いが樹くんとのラブラブな関係になれて良かったです。
御手洗さん、ご覧いただきありがとうございます。゚(゚´Д`゚)゚。
あぁもうステキな感想を…嬉しすぎるーッ💖
こんばんは🌟
何やら背徳的な感じかな
と思いつつ読ませていただきました(≖ᴗ≖ )
樹さんと真純君の恋愛物語
男性同士であっても惹かれあう事はありますし
人を好きになる気持ちは止められないですよね😊
それにしても
樹さん
一緒に暮らせるようにいろいろ準備してたと言う事ですね
頼もしいですよね😉
この2人がいつまでも幸せでありますように🍀🎶
ワァァァ\(//∇//)\♡
サチマルさん、ありがとうございます!!
というか、趣味の保管庫ということを、すっかり忘れていました💦
そして、あたたかい感想までいただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです🎃🍉🎃
私も、続きを拝読いたしますね〜✨✨