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『まさか、ポリ公のとこに隠れているとは思わなかったぜ、須田』
見ず知らずのメールアドレスから、千陽のパソコンにメールが届いた。
心が、ざわっとして。
頭が冷や水を浴びせられたように、冷たくなって。
心拍数が、速くなる。
指が………勝手に………。
圧縮加工された添付ファイルを、クリックした。
〝あぁっ!!あっ……やめっ………やめ、ろっ!〟
いつの間にか最大ボリュームになっていたパソコンから、よく耳に馴染んだ喘ぎ声が響く。
「………ち、千陽…?」
他人の空似だと思いたかった。
オレとは全く関係のない、小生意気で、いい目をするアイツじゃない………千陽じゃない、と。
………思いたかった。
引き裂かれた、警察官の制服。
右手首と右足首を、自らに貸与された手錠で繋がれ。
背中に刺青が入った数人の男に、輪姦わされて。
懸命に抵抗はしているものの、自分よりひと回り大きな数人の男に敵うはずもなく。
力づくで押さえつけられて、後ろの孔に突っ込まれているのは………。
紛れもなく、千陽………。
千陽、本人に間違いようもなかった。
〝はな……せっ……!!………んん……ぁあっ〟
〝オラ……もっとよがれよ、ポリ公〟
〝あ……ん、あぁっ〟
千陽のハメ撮り動画を見せつけられて、オレは全身の肌が泡立つのを感じた。
普段のオレなら、多分、何も感じねぇ。
敵に捕まってバカなヤツだな、とか。
隙を見せるとか、頭沸いてるだろ、とか。
容赦なく切り捨てたり、自己責任だと見てみないフリをしたり。
この世界にいれば、そんなのは当たり前で。
………しかし、今回ばかりは。
初めて、自分自身以外の他人を愛おしいと思った。
初めて………後悔して。
初めて、怒りが込み上げてきたんだ。
オレはパソコンの送信画面をもう一度確認して、トイレタンクの中に隠していたゴツい拳銃を取り出した。
「………これを機に。静かに足を、洗うつもりだったのによ」
オレは独り言のように呟くと、千陽の部屋をぐるっと見渡して、拳銃を靴下に隠して部屋をでた。
昔から、連むのが苦手だったんだ、オレは。
父親や母親、兄ですら。
本心を見せることを、躊躇うくらい。
父親は、医者で。
母親は、看護師をしていた時に父親に見染められて。
兄は、父親似でいけすかなくて。
そんなんだから、いつも居場所がなかった。
父親と兄が絶対で、母親はそれに逆らわない。
それでも、認められたい時期がオレにもあって。
勉強でも、スポーツでも。
兄貴より出来が良かった時も。
やはり、オレは。
決して、認められることはなかった。
この世界に足を踏み入れたのは、高校生の頃。
大学受験も適当に済ませて、これから先、イージーモードで生きて行こうと思っていたあの頃。
若頭………前の組長と出会った。
チンピラの女をとったのとらないので、絡まれたオレを胸糞悪いチンピラから助けてくれたんだ、あの人は。
そんなこと、初めてだった……。
家族ですら、オレに手を差し伸べたこともなかったのに………。
オレに接するその態度や、たまに見せる笑顔が。
父親以上で、兄以上で。
だから、オレはこの人について行こうと思ったんだ。
若頭から組長へ。
出世したあの人に、早く着いていきたい。
早く、役に立ちたい。
そう思っていた矢先、組長は銃弾に倒れる。
どっかの雇われのチンピラが、ぶっ放したバカみたいな弾の起動に………あっけなく。
だいたいの検討はついていた、今の……藤桜会8代目組長・瀬崖正之助。
全部アイツが、裏で糸を引いていたんだ。
その内輪揉めに、黒葛野組が首を突っ込む形で抗争が勃発する。
店の経営なんかは、既に他の若頭や若頭補佐に任せてあったから。
このままユルユルと、フェードアウトするように組から抜けようと画策していた矢先の銃撃戦。
本格的に、消されるんだと確信した。
その場にいた見るからに半人前の千陽を脅して、姿を晦まして、そのうち千陽の前からも逃げる予定だったのに………。
千陽に……心を奪われた。
力でねじ伏せられて、ズブズブに犯されているにも関わらず、挑むような屈服しない目でオレを睨んでは、負けずに対抗してくる。
ポリ公のくせにかわいい顔してさ。
それでいて、気も強くて感情がストレートで。
ズルズルと一緒に居続けた結果が、これだ。
オレ一人ならまだよかったのに、心の中の9割を占める千陽まで巻き込むなんてよ。
だから、オレは。
………いつも、オレは。
いつも誰かに邪魔をされて、いつも満たされず、いつも不満なんだ。
『こんな世界に引き摺り込んで悪がなったなぁ、須田。俺に義理立てなんかすんな。お前ぇはお前ぇが、やりたいようにすりゃいい』
結果として最後となった、組長と交わした言葉をふとオレは思い出していた。
要は、前の組長にかわいがられていたオレが気に食わねぇから。
どっからかオレが、千陽の所に身を隠していることを掴んだんだろう。
こんな卑怯なやり方をすんだよな、瀬崖は。
………瀬崖に義理立てするつもりなんか、毛頭ねぇ。
組にだって、未練すらねぇ。
なら、今が〝オレがやりたいようにする〟時なんじゃないだろうか。
「………親父っさん」
オレは小さく呟いて、足早に千陽のいる場所へ向かった。
✳︎✳︎✳︎
体が………熱い。
抵抗しているのに、あっさり殴られて、呆気なく制服が引きちぎられた。
腕に注射を打たれた瞬間から、体が熱くて、後ろの孔が疼いて………妙な高揚感に支配される。
暴れる俺は、力の限り押さえつけられて、刺青のヤツらに何度も突っ込まれた。
「……っぅあっ。………あ、やめ………やめ」
「まだ抵抗できるたぁ、すげえなぁ。お巡りさんよ。そんなに元気があるなら、上の口でもご奉仕しろよ」
「んぐっ……!!」
間髪入れず、別な男が俺の顎を押さえつけて、口の中いっぱに熱くて太いモノが入ってくる。
歯も立てる余裕すらないくらいに、上も。
足を無理矢理広げられて露わになった下も。
快楽に溺れさせるように、ガンガン犯されて。
さらに痛いくらいに勃った俺の乳首に、歯を立てるヤツもいて。
………おかしくなる。
打たれた何かのせいで全身が過敏になって、異常なまでに感じて………。
「……んんっ」
声が、漏れる。
腰が浮き上がる。
今なら、分かる………。
………須田、は。
動物かってくらい、セックスは乱暴だったけど。
………その手は優しかった。
俺に触れる手は、本当に優しかったんだ。
おかしくなる前に、もう一度……須田に会いたい。
………おかしいよな。
俺は警察官で、まず組織のことを考えなきゃ行けないのに。
拳銃をとられた、とか。
警察官なのに、ヤクを打たれて犯された、とか。
そういうのより先に、まず須田のことを考えてしまうなんて………。
俺は、どうかしている。
そう思うと、妙におかしくなって笑ってしまった。
「おい、こいつ笑ってるぜ?」
「もう、ラリってんのか?」
そうかもな。
俺、おかしくなってんのかもな。
………大丈夫。
須田が、来てくれる………大丈夫。
須田は、そんなヤツだ。
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