High Hope

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✳︎✳︎✳︎


『まさか、ポリ公のとこに隠れているとは思わなかったぜ、須田』


見ず知らずのメールアドレスから、千陽のパソコンにメールが届いた。


心が、ざわっとして。


頭が冷や水を浴びせられたように、冷たくなって。


心拍数が、速くなる。

指が………勝手に………。

圧縮加工された添付ファイルを、クリックした。


〝あぁっ!!あっ……やめっ………やめ、ろっ!〟


いつの間にか最大ボリュームになっていたパソコンから、よく耳に馴染んだ喘ぎ声が響く。


「………ち、千陽…?」


他人の空似だと思いたかった。

オレとは全く関係のない、小生意気で、いい目をするアイツじゃない………千陽じゃない、と。


………思いたかった。


引き裂かれた、警察官の制服。

右手首と右足首を、自らに貸与された手錠で繋がれ。

背中に刺青が入った数人の男に、輪姦わされて。

懸命に抵抗はしているものの、自分よりひと回り大きな数人の男に敵うはずもなく。

力づくで押さえつけられて、後ろの孔に突っ込まれているのは………。


紛れもなく、千陽………。


千陽、本人に間違いようもなかった。


〝はな……せっ……!!………んん……ぁあっ〟
〝オラ……もっとよがれよ、ポリ公〟
〝あ……ん、あぁっ〟


千陽のハメ撮り動画を見せつけられて、オレは全身の肌が泡立つのを感じた。


普段のオレなら、多分、何も感じねぇ。

敵に捕まってバカなヤツだな、とか。
隙を見せるとか、頭沸いてるだろ、とか。

容赦なく切り捨てたり、自己責任だと見てみないフリをしたり。
この世界にいれば、そんなのは当たり前で。

………しかし、今回ばかりは。


初めて、自分自身以外の他人を愛おしいと思った。

初めて………後悔して。

初めて、怒りが込み上げてきたんだ。

オレはパソコンの送信画面をもう一度確認して、トイレタンクの中に隠していたゴツい拳銃を取り出した。

「………これを機に。静かに足を、洗うつもりだったのによ」

オレは独り言のように呟くと、千陽の部屋をぐるっと見渡して、拳銃を靴下に隠して部屋をでた。











昔から、連むのが苦手だったんだ、オレは。
父親や母親、兄ですら。
本心を見せることを、躊躇うくらい。

父親は、医者で。
母親は、看護師をしていた時に父親に見染められて。
兄は、父親似でいけすかなくて。
そんなんだから、いつも居場所がなかった。
父親と兄が絶対で、母親はそれに逆らわない。

それでも、認められたい時期がオレにもあって。
勉強でも、スポーツでも。
兄貴より出来が良かった時も。

やはり、オレは。
決して、認められることはなかった。

この世界に足を踏み入れたのは、高校生の頃。
大学受験も適当に済ませて、これから先、イージーモードで生きて行こうと思っていたあの頃。

若頭………前の組長と出会った。

チンピラの女をとったのとらないので、絡まれたオレを胸糞悪いチンピラから助けてくれたんだ、あの人は。

そんなこと、初めてだった……。
家族ですら、オレに手を差し伸べたこともなかったのに………。

オレに接するその態度や、たまに見せる笑顔が。
父親以上で、兄以上で。
だから、オレはこの人について行こうと思ったんだ。


若頭から組長へ。

出世したあの人に、早く着いていきたい。
早く、役に立ちたい。


そう思っていた矢先、組長は銃弾に倒れる。


どっかの雇われのチンピラが、ぶっ放したバカみたいな弾の起動に………あっけなく。

だいたいの検討はついていた、今の……藤桜会8代目組長・瀬崖正之助。

全部アイツが、裏で糸を引いていたんだ。

その内輪揉めに、黒葛野組が首を突っ込む形で抗争が勃発する。
店の経営なんかは、既に他の若頭や若頭補佐に任せてあったから。

このままユルユルと、フェードアウトするように組から抜けようと画策していた矢先の銃撃戦。


本格的に、消されるんだと確信した。


その場にいた見るからに半人前の千陽を脅して、姿を晦まして、そのうち千陽の前からも逃げる予定だったのに………。


千陽に……心を奪われた。


力でねじ伏せられて、ズブズブに犯されているにも関わらず、挑むような屈服しない目でオレを睨んでは、負けずに対抗してくる。

ポリ公のくせにかわいい顔してさ。
それでいて、気も強くて感情がストレートで。


ズルズルと一緒に居続けた結果が、これだ。


オレ一人ならまだよかったのに、心の中の9割を占める千陽まで巻き込むなんてよ。


だから、オレは。


………いつも、オレは。


いつも誰かに邪魔をされて、いつも満たされず、いつも不満なんだ。


『こんな世界に引き摺り込んで悪がなったなぁ、須田。俺に義理立てなんかすんな。お前ぇはお前ぇが、やりたいようにすりゃいい』


結果として最後となった、組長と交わした言葉をふとオレは思い出していた。
要は、前の組長にかわいがられていたオレが気に食わねぇから。
どっからかオレが、千陽の所に身を隠していることを掴んだんだろう。


こんな卑怯なやり方をすんだよな、瀬崖は。

………瀬崖に義理立てするつもりなんか、毛頭ねぇ。

組にだって、未練すらねぇ。


なら、今が〝オレがやりたいようにする〟時なんじゃないだろうか。


「………親父っさん」


オレは小さく呟いて、足早に千陽のいる場所へ向かった。











✳︎✳︎✳︎


体が………熱い。


抵抗しているのに、あっさり殴られて、呆気なく制服が引きちぎられた。


腕に注射を打たれた瞬間から、体が熱くて、後ろの孔が疼いて………妙な高揚感に支配される。


暴れる俺は、力の限り押さえつけられて、刺青のヤツらに何度も突っ込まれた。


「……っぅあっ。………あ、やめ………やめ」
「まだ抵抗できるたぁ、すげえなぁ。お巡りさんよ。そんなに元気があるなら、上の口でもご奉仕しろよ」
「んぐっ……!!」


間髪入れず、別な男が俺の顎を押さえつけて、口の中いっぱに熱くて太いモノが入ってくる。


歯も立てる余裕すらないくらいに、上も。

足を無理矢理広げられて露わになった下も。

快楽に溺れさせるように、ガンガン犯されて。

さらに痛いくらいに勃った俺の乳首に、歯を立てるヤツもいて。


………おかしくなる。

打たれた何かのせいで全身が過敏になって、異常なまでに感じて………。


「……んんっ」


声が、漏れる。

腰が浮き上がる。


今なら、分かる………。


………須田、は。


動物かってくらい、セックスは乱暴だったけど。


………その手は優しかった。


俺に触れる手は、本当に優しかったんだ。


おかしくなる前に、もう一度……須田に会いたい。



………おかしいよな。



俺は警察官で、まず組織のことを考えなきゃ行けないのに。
拳銃をとられた、とか。

警察官なのに、ヤクを打たれて犯された、とか。

そういうのより先に、まず須田のことを考えてしまうなんて………。


俺は、どうかしている。


そう思うと、妙におかしくなって笑ってしまった。


「おい、こいつ笑ってるぜ?」
「もう、ラリってんのか?」


そうかもな。


俺、おかしくなってんのかもな。


………大丈夫。

須田が、来てくれる………大丈夫。

須田は、そんなヤツだ。

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