High Hope

文字の大きさ
上 下
4 / 5

#4

しおりを挟む


✳︎✳︎✳︎


『まさか、ポリ公のとこに隠れているとは思わなかったぜ、須田』


見ず知らずのメールアドレスから、千陽のパソコンにメールが届いた。


心が、ざわっとして。


頭が冷や水を浴びせられたように、冷たくなって。


心拍数が、速くなる。

指が………勝手に………。

圧縮加工された添付ファイルを、クリックした。


〝あぁっ!!あっ……やめっ………やめ、ろっ!〟


いつの間にか最大ボリュームになっていたパソコンから、よく耳に馴染んだ喘ぎ声が響く。


「………ち、千陽…?」


他人の空似だと思いたかった。

オレとは全く関係のない、小生意気で、いい目をするアイツじゃない………千陽じゃない、と。


………思いたかった。


引き裂かれた、警察官の制服。

右手首と右足首を、自らに貸与された手錠で繋がれ。

背中に刺青が入った数人の男に、輪姦わされて。

懸命に抵抗はしているものの、自分よりひと回り大きな数人の男に敵うはずもなく。

力づくで押さえつけられて、後ろの孔に突っ込まれているのは………。


紛れもなく、千陽………。


千陽、本人に間違いようもなかった。


〝はな……せっ……!!………んん……ぁあっ〟
〝オラ……もっとよがれよ、ポリ公〟
〝あ……ん、あぁっ〟


千陽のハメ撮り動画を見せつけられて、オレは全身の肌が泡立つのを感じた。


普段のオレなら、多分、何も感じねぇ。

敵に捕まってバカなヤツだな、とか。
隙を見せるとか、頭沸いてるだろ、とか。

容赦なく切り捨てたり、自己責任だと見てみないフリをしたり。
この世界にいれば、そんなのは当たり前で。

………しかし、今回ばかりは。


初めて、自分自身以外の他人を愛おしいと思った。

初めて………後悔して。

初めて、怒りが込み上げてきたんだ。

オレはパソコンの送信画面をもう一度確認して、トイレタンクの中に隠していたゴツい拳銃を取り出した。

「………これを機に。静かに足を、洗うつもりだったのによ」

オレは独り言のように呟くと、千陽の部屋をぐるっと見渡して、拳銃を靴下に隠して部屋をでた。











昔から、連むのが苦手だったんだ、オレは。
父親や母親、兄ですら。
本心を見せることを、躊躇うくらい。

父親は、医者で。
母親は、看護師をしていた時に父親に見染められて。
兄は、父親似でいけすかなくて。
そんなんだから、いつも居場所がなかった。
父親と兄が絶対で、母親はそれに逆らわない。

それでも、認められたい時期がオレにもあって。
勉強でも、スポーツでも。
兄貴より出来が良かった時も。

やはり、オレは。
決して、認められることはなかった。

この世界に足を踏み入れたのは、高校生の頃。
大学受験も適当に済ませて、これから先、イージーモードで生きて行こうと思っていたあの頃。

若頭………前の組長と出会った。

チンピラの女をとったのとらないので、絡まれたオレを胸糞悪いチンピラから助けてくれたんだ、あの人は。

そんなこと、初めてだった……。
家族ですら、オレに手を差し伸べたこともなかったのに………。

オレに接するその態度や、たまに見せる笑顔が。
父親以上で、兄以上で。
だから、オレはこの人について行こうと思ったんだ。


若頭から組長へ。

出世したあの人に、早く着いていきたい。
早く、役に立ちたい。


そう思っていた矢先、組長は銃弾に倒れる。


どっかの雇われのチンピラが、ぶっ放したバカみたいな弾の起動に………あっけなく。

だいたいの検討はついていた、今の……藤桜会8代目組長・瀬崖正之助。

全部アイツが、裏で糸を引いていたんだ。

その内輪揉めに、黒葛野組が首を突っ込む形で抗争が勃発する。
店の経営なんかは、既に他の若頭や若頭補佐に任せてあったから。

このままユルユルと、フェードアウトするように組から抜けようと画策していた矢先の銃撃戦。


本格的に、消されるんだと確信した。


その場にいた見るからに半人前の千陽を脅して、姿を晦まして、そのうち千陽の前からも逃げる予定だったのに………。


千陽に……心を奪われた。


力でねじ伏せられて、ズブズブに犯されているにも関わらず、挑むような屈服しない目でオレを睨んでは、負けずに対抗してくる。

ポリ公のくせにかわいい顔してさ。
それでいて、気も強くて感情がストレートで。


ズルズルと一緒に居続けた結果が、これだ。


オレ一人ならまだよかったのに、心の中の9割を占める千陽まで巻き込むなんてよ。


だから、オレは。


………いつも、オレは。


いつも誰かに邪魔をされて、いつも満たされず、いつも不満なんだ。


『こんな世界に引き摺り込んで悪がなったなぁ、須田。俺に義理立てなんかすんな。お前ぇはお前ぇが、やりたいようにすりゃいい』


結果として最後となった、組長と交わした言葉をふとオレは思い出していた。
要は、前の組長にかわいがられていたオレが気に食わねぇから。
どっからかオレが、千陽の所に身を隠していることを掴んだんだろう。


こんな卑怯なやり方をすんだよな、瀬崖は。

………瀬崖に義理立てするつもりなんか、毛頭ねぇ。

組にだって、未練すらねぇ。


なら、今が〝オレがやりたいようにする〟時なんじゃないだろうか。


「………親父っさん」


オレは小さく呟いて、足早に千陽のいる場所へ向かった。











✳︎✳︎✳︎


体が………熱い。


抵抗しているのに、あっさり殴られて、呆気なく制服が引きちぎられた。


腕に注射を打たれた瞬間から、体が熱くて、後ろの孔が疼いて………妙な高揚感に支配される。


暴れる俺は、力の限り押さえつけられて、刺青のヤツらに何度も突っ込まれた。


「……っぅあっ。………あ、やめ………やめ」
「まだ抵抗できるたぁ、すげえなぁ。お巡りさんよ。そんなに元気があるなら、上の口でもご奉仕しろよ」
「んぐっ……!!」


間髪入れず、別な男が俺の顎を押さえつけて、口の中いっぱに熱くて太いモノが入ってくる。


歯も立てる余裕すらないくらいに、上も。

足を無理矢理広げられて露わになった下も。

快楽に溺れさせるように、ガンガン犯されて。

さらに痛いくらいに勃った俺の乳首に、歯を立てるヤツもいて。


………おかしくなる。

打たれた何かのせいで全身が過敏になって、異常なまでに感じて………。


「……んんっ」


声が、漏れる。

腰が浮き上がる。


今なら、分かる………。


………須田、は。


動物かってくらい、セックスは乱暴だったけど。


………その手は優しかった。


俺に触れる手は、本当に優しかったんだ。


おかしくなる前に、もう一度……須田に会いたい。



………おかしいよな。



俺は警察官で、まず組織のことを考えなきゃ行けないのに。
拳銃をとられた、とか。

警察官なのに、ヤクを打たれて犯された、とか。

そういうのより先に、まず須田のことを考えてしまうなんて………。


俺は、どうかしている。


そう思うと、妙におかしくなって笑ってしまった。


「おい、こいつ笑ってるぜ?」
「もう、ラリってんのか?」


そうかもな。


俺、おかしくなってんのかもな。


………大丈夫。

須田が、来てくれる………大丈夫。

須田は、そんなヤツだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

目の前に色男が!早速ケツを狙ったら蹴られました。イイ……♡

ミクリ21
BL
色男に迫ったら蹴られた話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

処理中です...