High Hope

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#3

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俺と須田のセックスは。

なんというか動物みたいだ。


ガタンー。


壁に背中を叩きつけられて、背中がジワっと痛くなる。


「………っ!!馬鹿力だしてんじゃ、ねぇよ!……須田ぁ!!」
「……っるせぇ、よ!」


須田は壁に押し付けた俺の太腿を持ち上げ、その足の間にナニをねじ込んで突き上げた。


「っあぁっ!!」
「そろそろ、尻だけでイケよ!オラッ!」
「………んのヤロォ!!……誰が、イくかっ!!」


………つーか、なんでこんな。

馬鹿みたいに激しいセックスしてんだよ、俺は。


静かに、ベッドの上で。
なんてほとんどない。


だいたい、ねじ伏せられて抱き潰されるか、俺が須田を挑発して上に乗るか。


要は二人とも、負けず嫌いなんだと思う。


主導権を、握りたい………ただ、それだけ。

須田を俺に溺れさせて、須田を支配したかったのに………。


それが多分、須田の何かに火をつけたらしい。


最近では、どちらかが先にイくまでこの調子だ。


この時ほど、一階の角部屋でよかったと思ったことはない。

〝ギシアン〟ならぬ〝ドタアン〟で、いつ苦情が来るかも分からないからな……。


下からガンガン貫かれて視界が揺れるなか、俺は須田の左手で奥襟を掴んで首を引き寄せた。
もう片方の手は、須田の乳首を強くつまんで。
歯がぶつかるくらい勢いのあるキスをして、強引に舌を絡ませる。
須田からほのかに香るメントールの味も、もう慣れた。


………逆に、こうじゃなきゃ……面白くねぇよな?


「イケ……よ!……千陽!!」
「お前が……先だ!!………あぁっん」


壁に押し付けた俺の両方の太腿をグッと持ち上げた須田は、さらに俺の奥にぶち込んで。

俺はたまらず体を反らせて、重量を回避しようとする。


「須田ぁ……!!……深…ぃい……!!」
「お前も………締めすぎ……!!」


俺の中心がブルッと震えて、その中身がお互いの腹を濡らして。


と、同時に。


差し込まれてた須田の中身が、熱を帯びて俺の中に一気に広がった。


「っ……はぁっ……!」
「………あ…ガッつき……すぎ」
「お前も、だろ………」


そのまま、壁に2人分の体重を預けて。

息を切らした俺と須田は、ズルズルと床に体を沈めていくんだ。














「お巡りさん、さようならぁ!!」
「さようなら!気を付けて帰ってね」

近所の小学校に通う小学生が2人、照れた様子で俺に手を振った。

………道端に落ちていた10円を届けるなんて。
すげぇ、純粋だよな。

拾得物の事務処理を終えて、チカチカ光るスマホに目を落とした。


〝明日、卵と牛乳、クリームシチューの素を買って帰って来い〟


この人使いの荒さ、母さんかよ。


須田は、自分のスマホは使わない。


位置情報でバレることを恐れて電源すら入れず、もっぱら俺のパソコンを駆使して、情報収集や子どもの使いのようなメールを寄越してくるから。


俺は思わず苦笑いをしてしまった。


「お?前田、彼女か?」


思わず苦笑いした矢先、交番長である上司がニコニコ………いや、ニヤニヤしながら話しかけてきた。


「………まぁ、はい」
「気の強い子だろ」
「え?……そう、ですね」

俺が怪訝な顔をしていると、交番長はニヤけたまま人差し指を自分の首筋に当てて、「シャツをもうちょっと上にあげなよ」と言った。


………ひょっとして。


唯一覚えがあるとすれば、昨日、須田が吸い付いて………。


須田っ!!あんのヤロォ!!


「よっぽど、前田のことが好きなんだろうなぁ」
「そんなことない!です!」
「独占欲の強い女には、気を付けろよ。知らない間に、足元を掬われるからな」
「………はい。ありがとうございます。気を付けます」


………こういう。

交番長みたいなタイプが、実は一番厄介だったりする。


何気ない視線で、柔和な笑顔を浮かべて。

相手の一挙手一投足を、じっくり観察するタイプ。


二課長の表面に張り付けた凄みより、こっちの方が背中がゾクゾクするくらいの怖さがあって。


ついその笑顔に絆されて、心の内を曝け出したくなるけど。


………それが、交番長のやり方。


職質でも、部下の身上把握でも。


危険なものを嗅ぎ分けて、いち早く摘み取る………。


そんな人だ、この人は。


「いいなぁ、若いってのは」
「交番長は、本署への希望はないんですか?」
「交番の方が面白いに決まってんだろ、そんなの。でも、お前は若いんだから、なんでも経験しろ。そして、それを糧にしろ。若いヤツが上に行きゃいいんだよ」
「交番長……」
「前田ぁ。エラくなったら、俺に優しくしてくれよなぁ」

交番長は出っ張った腹をさすって、テレた様子で相談事案の書類作成のため、パソコンに視線を移す。

俺が交番で当務の日、須田は俺の部屋で一人で過ごしていて。

その間俺は若干、気が気じゃない。


何かのひょうしに須田が、俺の家にいることがバレたら?


何も言わずに、俺の前から消えていたら?


それが、一生会えない事態になったら……?


いつの間にか。


俺の心は、須田に支配されているようだった。


俺が、須田を支配しようと思っていたのに。
強引に俺を抱く須田とか、ヤクザとは思えないくらい屈託なく笑ったりとか。

やたら家事能力が高かったりとか、さ。

俺は一人っ子で、家族は母親しかいないかったから。


兄貴がいたらこんな感じなのかな、って……。


それ以上に、俺を強く抱く腕や体に、つい安心してしまったり、なんて。


………俺、どうしたんかな。


相手は、マル暴なのに。


決して、仲良くしてはいけないのに。


だんだん、俺の中で強くなっていく………。


どんどん、どんどん、深みにハマっていく………。


俺は一回深呼吸をして、古い帳面を手に取った。


「交番長、巡回連絡に行ってきます!」
「おう、気ィつけてな。前田くん」
「はい」


俺は無線のスイッチを入れると、公用自転車に跨って、強くペダルを踏み込んだんだ。


風を切る。


警察官の制服の下は、防刃チョッキなんか着込んでフル装備だから。

その風が頰を掠めるだけで、気持ちがいい。

それだけじゃない。


きっと、今の状況が………そうさせてる。


「お巡りさん」


人通りの全くない、昔からの狭くて小さな市道に入る直前の自転車の速度が緩んだその時、ふと背後から呼び止められる声がした。


「はい。……っ!!」


振り向いた瞬間だったから、その人の顔とかもロクに見てない。


口を覆った布から、鼻と喉を刺すような鋭い刺激臭がした。


間隔を置かずに………視界がボヤけて、頭がグラッとして。


目の前が、急に真っ暗になった………。

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