High Hope

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指定暴力団、藤桜会・若頭 須田摩耶。


有名私大卒のインテリ系マル暴で、藤桜会の息がかかったスナックやソープ等の風俗店の経営を一手に引き受ける、言わば金庫番だ。
有名私大卒だし、タッパもあっていい体してる上に顔だっていいのに。
普通にしていたら、何だって手に入っただろうに。
願望なんて、あっさり叶うはずなのに。


なんで須田はそっちの道に足を踏み入れたんだろうか。


肩口から背中にかけて彫られた赤い彼岸花の刺青を施す覚悟があるくらい、須田に一体何が起こったというんだろうか。


終わりの見えない副署長の事情聴取の間。


黒葛野組と藤桜会の組員の面通しの写真を見ながら、俺は俺ん家に居座るあのマル暴の顔を思い出していた。


………思い出すと、ムカつく。


そもそもアイツらが白昼堂々、住宅街のど真ん中で拳銃なんかぶっ放すから。
貴重な週休日に、こんな不毛なことをしていて。
先輩だって、俺だって、二進も三進もいかない状況になっているのに。


しかも、俺なんか………!!


昨夜も今朝も、好き放題しやがって………!!
 

………須田っ!!……あのヤロウっ!!


思わず資料を握る手に力が入った。












「よう、ポリ公。お早いお帰りだな」
「………何、やってんだよ。須田……」
「何って、晩飯作ってんだよ」
「何で晩飯、作ってんだよ」
「腹減ってるからに、決まってんだろ」
「………材料は?」
「昼間に、宅配来たからよ」
「宅……配………?」
「千陽の母ちゃんから、白菜やらサバ缶やら、米やらな」
「………受けとったのか…?」
「置いてったんだよ、玄関先にな。宅配屋は適当だからな」
どうせ「ピンポンピンポン、うっせぇな!さっさとそこに置いてけ、ゴラァ!!」とか脅して、宅配屋にキチンと仕事をさせなかったんだろ………。
「だから、白菜サバ缶鍋作った」
「…………」
「早く手ェ洗ってこいよ、千陽。冷めないうちに早くな」
「…………」


………調子……狂う。


あんだけ、俺を力でねじ伏せて抱き潰しておきながら………。


なんで、こんなことするかな………。

しかも、めちゃめちゃいい匂いがするし。

この上なく疲れていて、この上なくムカついているのに。


………グー……。


腹は正直に反応してる。


………クソーッ!!なんなんだよ、俺っ!!


体までいいように扱われて、胃袋まで支配されるなんて……!!


「どうだ、うまいか?千陽」
「………うまい」
「お前、痩せすぎてるからな。抱き心地が悪ぃから、いっぱい食え」
「……ゲホッ!ゲホッ!……お、おまっ!」
「何やってんだよ、お前ェ」
「い、いきなり!変なこと言うからだろ!!」


抱き心地が悪いから食えとか、信じられねぇ。


でも、食べ物には罪はないし。

食わなきゃ勿体無いし。

別に須田に顔を立てるわけじゃないんだけど、俺は目の前の鍋と炊き立てのご飯をかき込んだ。


久しぶりに、腹一杯食べた気がする。


腹一杯になったら、蓄積された疲労がズシッとのしかかって、瞼がこの上なく重たくなった。

2日で3時間しか寝てなかったんだよな、俺。

仕事で忙しかったし、須田は寝かせてくれないし。
明日は、日勤だけど………終わったらまた、本署で事情聴取だろうし。


………あぁ、面倒くさいなぁ。


何もかも、やる気が起こらないくらい………眠たい。


………腹一杯だし、めちゃめちゃ眠ぃ……。



あぁ、眠ぃ………。



「………ん」



枕元の目覚ましが、午前2時半と言う時刻を暗闇の中に青白く浮かび上がる。


………あ、あれ?俺、寝てた……?


ちゃんとベッドに寝ていて、ちゃんと着替えてて。
飛び起きたいのに頭も体も重たくて、ベッドに貼り付けられたみたいに動けなかった。


「まだ、寝てろ。6時になったら起こしてやるから」


後ろで須田の声が響いて、暗闇と静寂を静かに破る。


「…………」
「今日は何もしてねぇよ。いいから寝とけ」


………調子……狂う。


なんで、優しくすんだよ。


これが、お前らマル暴の手ェだって分かってるんだよ。
厳しい借金の取立ての中に、時折見せる優しさをチラつかせて、さらに雪だるま式に借金を膨らませる。

それと一緒だって………分かって、んだよ。


分かってるのに………今は、その優しさに甘えたかった。


俺は今、何もかも忘れてしまいたくて。


弱味を握られている相手の優しさにでさえ、つい手を伸ばしてしまうくらい弱っていて。


だから、須田の声に流されるように。


俺は、深く意識を沈めたんだ。













「藤桜の須田が行方不明らしいぞ。組にも店にも出入りしてない」

その辺をフラフラしてたら地域巡査に職質されそうなくらいマル暴チックな二課長が、眉間にシワを寄せて言った。
鋭い眼光が余計、鋭くなって会議室にいる捜査員をひと睨みする。

「嗾けたのは黒葛野組だが、返り討ちにしたのは恐らく須田だろうな。須田を探せ!」


………須田は、俺ん家にいます。


朝飯から晩飯、挙げ句の果てには弁当まで作ってもたせるくらい器用なヤツで。
見かけによらず几帳面で、家事全般得意なんですよ?


………なんて、言ったら。
 
犯人隠避罪で、俺が逮捕されんだろうな、多分。


「おい、前田!」
「は、はいっ!」

眼光鋭い二課長から不意に呼ばれて、俺は挙動不審この上ない返事をした。

「見たこと、思い出したら全部報告しろ!いいな!それから、副署長の事情聴取はもう終了だ。明日からまた交番勤務に戻れ!」
「はい!了解です」


役不足になったからか。

もしくは、俺を泳がせる気か。


とにかく、二課の考えることはいつも分からない。
分からないから、二課長の言葉ですら疑ってかかる俺がいる。


………だから俺は、そういうの向かないんだよ。


騙し騙されるのは、性に合わない。


というか、今まで生きてきた経験から、そういうのが大嫌いなんだ。


まぁ、でも。

副署長のねちっこい事情聴取から解放されて、俺は少しホッとしてしまったんだ。


「前田」

………まだ何かあるのか、二課長は。

「はい」
「春の人事異動で、交番から引っ張ってやるからな。その腹積りでいろ」
「はい」

咄嗟に。
ほぼ条件反射的に、短くいい返事をしてしまったけど。

二課長のその鋭い眼光は、偽物なんじゃないかと疑ってしまった。


こんなに嫌がってるのに、顔に出てないはずないのに。


………どうせ、しばらく動けない先輩の代わりとなる、体がいいコマ使いが欲しいんだろうな、なんて。


心のどこかで。
二課長に対しても、組織に対しても、小さく軽蔑している俺がいた。


「……弁当、ありがと」


とりあえず、礼は言わなきゃと思って。

俺はすっからかんになった弁当箱を流しに、持っていって水につけた。
そんな俺を、須田はタバコをふかしながら余裕綽綽な表情で観察している。


「それだけ、か?」
「〝それだけ〟って、なんだよ」
「三食作ってやった人件費。どうやって払う?」


………やっぱ、そういうつもりかよ。


だいたいは、想像していたとおりの須田の言動。


俺は須田に近づくと、自らキスをした。
口を開けて舌を絡めると、メントールのタバコの香りがスッと口の中に伝わる。


「おい!千陽!火ィ!」


火のついたタバコを右手でキープしていた須田が、めずらしく慌てた様子で言葉を発した。


「人件費、払ってやってんだろ?火ィ、気を付けろよ」
「………んのヤロォ。やるじゃねぇか」


俺は再び須田に唇を重ねると、須田のシャツのボタンを外して、ズボンのベルトを緩める。


「やられっぱなしは性に合わないんだよ。ジッとしとけ、須田」


ズボンのチャックを滑らせ、下着をずらすと、須田の半勃ちになっていたナニを口に含んだ。


………もちろん、初めてだよ。こんなこと。


ただ、純粋に。
やられっぱなしが嫌だっただけで、少しでもムカつく須田を支配したくて。


俺は半ばヤケクソで、須田のを口に含んで舌でシゴく。


「………まぁ、初めてにしてはうまいじゃねぇか。努力をかってやるよ、千陽」
「……んっ……ぐっ」


喉に擦れている須田のナニがだんだん大きくなって、熱くなって。


………一瞬で、俺の体内に須田の液体が注がれた。


苦笑いをした須田は、胸ポケットから転がり落ちつ携帯灰皿にタバコを押し付ける。


「……ははっ。気持ち……良かったんだろ、須田」
「まぁな。三食分には、足りねぇけどな」
「っ!!」


須田は俺の体をグッと抱え込むと、あっという間に組み敷いて衣服を剥ぎ取った。


「昨日はシてねぇからな。たまってんだよ、千陽」
「………早漏しないように、せいぜい頑張れよ」


広げられた足の間に、須田のナニが押し当てられたと思ったら。
次の瞬間には、後の孔から体を貫くように突き上げられた。


「……っんあ!」
「お前も、女みたいに尻だけでイッてみろや」
「……や、れるもんなら………やって、みろよ」


突き上げられるたび、置いてある三段ボックスに頭をガンガンぶつけて。

それを庇うように、須田の手が俺の頭に回される。


………そうだ、俺にハマれよ。須田。


俺にハマって抜け出せなくなって、二進も三進もいかなくなって。


その時に、捕まえてやる。


性に合わないことまでやってんだ……!!


だから……俺に、溺れろ!!須田!!

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