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絢爛な王宮舞踏会。華のようなドレスがそこかしこに揺れ、紳士淑女の楽し気な声が響く。そんな明るい雰囲気に似つかわしくない苛立ちを抱えて、クラウスはグラス片手に佇む。いつもは愛想よく社交に勤しむのだが、そんな気持ちにもなれなかった。
「随分と辛気臭い顔をしているなクラウス。
一昨日、件の契約がやっと締結したんだろう?
清々しい気分じゃあないのかい?」
かっちりとした夜会服に身を包み、旧知の仲であるダニエルが声をかけてきた。彼の言う通り、一昨日はクラウスが持つ伯爵領内で扱う特産物の輸出に関しての契約を貿易に強い侯爵家と結んだばかり。ここ2年程、奔走してきたものだ。
クラウスが爵位を継ぐまで困窮してきた伯爵家も、これでやっと安泰になる。今までは、上級貴族の女性たちも無下にすることができず─節度は保っていたつもりはあれど─傍に寄ることを受け入れてきたが、これからは距離を置いても許されるようになった。
今夜の舞踏会でも、開始早々いつものように腕にしなだれかかろうとした令嬢に対し、「綺麗な華をいつまでも独り占めするのは気が引ける。私なんかに構わず今夜を楽しんで」と他の紳士のもとへ促すことに成功した。
彼女らはいつもと違う対応に驚いていたようだが、穏やかに拒絶したら観念したのか少々悔しそうな表情で離れていった。手のひらを返すようで少々申し訳なくも思ったが、あくまでも礼儀正しく、必要以上に冷たく突き放したわけではないし許される範囲だろう。
「清々しい気分でいられると俺も思っていたさ」
「念願叶ったと聞いたから、今日はアリシアをエスコートするものだと思っていたけれど……」
「パトリックに彼女をエスコートする許可をもらおうとしたら先約があるからと断られた」
憮然としながら持っていたグラスに口をつけると、ダニエルは面白そうに笑う。クラウスにとっては、面白いことなど何一つないというのに。
今夜は愛しい彼女をエスコートして、舞踏会では片時も離さずにずっと一緒にいようと思っていたのに。王女付きの騎士がエスコートに決まってしまった、王女が決めた事だから、この段階ではもう断れないとあっさりパトリックに言われてしまったのだ。
「だいたい何だあの男は。
ずっと守るように傍にいて。姫を守る騎士気どりか」
「気どりもなにも、明らかに騎士だよね」
「そういう事じゃない!」
酔っているのか?とダニエルに訝しがられるが、生憎と素面である。素面のまま、嫉妬で頭が焦げ付きそうになっていた。
舞踏会が始まってからずっと、アリシアの傍の騎士は周りを警戒している。他の男が中々近寄れず……勇気ある誰かが近寄っても、彼女の隣から飛んでくる威圧感にあてられてすぐに離れている。勿論、他の男が迂闊に近寄れないのは悪くないのだけれど。
「俺がアリシアに声をかけようとすると殺気を放つんだぞ!?
ダンスにすら誘えない!」
「え、まさかそれで尻尾を巻いて逃げてきたのか!?」
情けない、とダニエルの顔面にでかでかと書いてある。
その騎士マーカスは、パトリックに言われた「不埒な男を近寄らせない」という命を忠実に守った故に、クラウスの抱くアリシアに対する浅からぬ思いを野生の勘で察知して近寄らせないように牽制しているのだが、それを知る術はない。もっとも、最近まではアリシアがクラウスの傍に張り付いていたことをマーカスが把握していたのであれば違ったかもしれないが、マーカスは貴族として社交界に出ることは殆どなく、噂を好まない性質であったことも災いした。
クラウスだって、相手が邪な気持ちでアリシアの隣にいる輩だったり破落戸であれば、隙をついて彼女の手を取り逃げ出すくらいの気概は見せられた。
「何よりも、あの男と並んでいるアリシアの前に立ったら、嫉妬に任せて行動しない自信がない……」
そんな事になったら、忠実そうな騎士は即座にクラウスを取り押さえるだろう。クラウスとて、多少は鍛えているし線が細いわけではないが、本職の相手からまともに掴みかかられたら確実に負ける自信があった。そんなことになれば、目立つのを好まない彼女を困らせてしまう。あと、単純にカッコ悪い。情けない姿を見せたくない。
「そんなにこじらせる前に何で行動に移さなかったのか……
君にへたれクソ野郎の称号を与えるよ」
呆れた顔で貴公子らしからぬ不名誉な称号を与えられてしまったが、へたれの自覚があるためクラウスは何も言い返せない。彼女が昔から自分に好意を抱いてくれていることは知っていても、彼女は公爵令嬢、自分は困窮した伯爵となると中々自信が持てず、せめて自分から好意を伝えるのは隣に立っても恥ずかしくない程になってからと思っていたのだ。
先週夜会で会った時、少々彼女の様子が変わっていたのも気になっていた。いつもであれば真っ先にクラウスの元にくる彼女が、ずっとパトリックと共にいて、他の人間と言葉を交わしていたのだ。
あと少しで目標に届くからと油断していたが、あの夜会の日にきちんと話を聞けばよかったと後悔の溜息を漏らす。
「俺だってこのまま手をこまねいて見ているつもりはないさ。
だから今、アリシアに声をかけるタイミングを伺ってずっと見ている」
正確に言うと、騎士が彼女から離れる一瞬の隙を得るために、付かず離れずの距離かつ彼女が見える位置をずっと陣取っているのだ。それを聞いたダニエルは心の中で、へたれクソ野郎の称号に、「ストーカー予備軍」を加えた。声に出さないのは彼なりの優しさだった。
*****
クラウスにとって、アリシアは昔から笑顔が眩しくて可愛い女の子だった。
パブリックスクールでパトリックと親しくなったクラウスたちが、初めてクリスフォード公爵邸に招かれた12歳のときはまだ7歳の幼い女の子だったのだけれど、その時から彼女は可愛らしかった。
アリシアは昔から兄パトリックによく懐いていたらしく、兄パトリックが友人たちを家に招いたときも彼女は一緒にいたがった。一緒にできる遊びなんてほとんどなくて、遠乗りでは置いていかれ、カードゲームやボードゲームはルールが判らず参加できなかった。
何よりも、少年期とは言え男同士で集まればそれなりに品のない話で盛り上がったりする。なんだかんだ妹を可愛がっているパトリックは、そんな話をアリシアに聞かせたくなくて友人達が来ているときはアリシアを離すようにしていた。
パトリックがアリシアを追い払うとき、彼女は我儘をいって食い下がったりはしないのだけれど、決まって大きな瞳に涙をためて眉尻を下げていた。普段スクールであまり家にいない兄と一緒にいたいのに、放っておかれるのが寂しいのだろう。
追い払われてはしょんぼりとする小さな少女の様子に陥落したのが、ほかの誰でもないクラウスだった。
「俺がアリシアを見ているから、皆はボードゲームをしていてくれて構わない。
アリシア、君のお兄さまじゃないけどいいかな?」
「クラウスさまがわたくしと遊んでくださるのですか?」
「ああ、ソファに座って本を読もう」
にこりと笑顔を作って提案した途端、瞳に涙の幕が張ったままきらきらと輝く笑顔になったアリシアの表情は今でも忘れられない。まるで天使が降りてきたのかと本気で思った。
友人たちがゲームをしているときは同じ部屋で、膝の上にアリシアを座らせて絵本を読んであげた。
彼女が憧れる絵本の王子様のようになりたくて、一人称を「私」に改め言葉使いも柔らかくした。
膝に乗せてボードゲームのルールを教えたこともあった。
遠乗りに出かけるときは流石に連れていけなかったけれど、何回かに1回は自主的に留守番をしてアリシアと過ごした。いつか一緒にいけるようにと幼いアリシアを抱えながら馬に乗って邸の裏庭を歩いたこともあった。
庭で遊んでいるときは、近くのガゼボでお茶を飲んだ。お茶の淹れ方を習ったというときは、アリシアが入れてくれたお茶も飲んだ。その時ばかりは、アリシアが初めて淹れたお茶を一番に飲んだことでパトリックに散々嫌味を言われたけれどクラウスにとっては良い思い出だ。
最初は恋ではなく、幼子を愛でる気持ちで純粋に可愛がっていたはずが、いつからか膝に座るのを恥ずかしがるようになり、満面の笑みがはにかむような笑顔になり、年々淑女らしくなっていく彼女への気持ちは自然と恋に変わっていた。
友人たちに当時の話をすると、割と最初から落ちていたと言われるけれど。
そんな甘い思い出のある少年時代も、必ずしも幸せな時間ばかりではなかった。
伯爵である父は領地経営センスがなく、政略結婚で結ばれた母は好き勝手に浪費ばかり。勿論夫婦の間に愛なんてものはなく、父は繰り返し愛人を囲い母は見栄のために宝石やドレスを買い漁る。
どんどんと困窮していく実家の雰囲気は、年々悪くなるばかりだった。
クラウスが15になる頃、不摂生が祟り母が儚くなったことを切っ掛けに父の不正に気付いた。自分だけではどうにもできず、パトリックに相談したところ彼が公爵に話を通してくれた。不正で罪に訴えないことを条件に、父を隠居させて異例の若さで伯爵位を継ぐことができたのは公爵の力添えあってこそだった。
もっとも完全な善意ではなく、伯爵領で作られる織物に興味を持ったからだと公爵は言っていたが、それが建前であることくらいは察することができる。
父は最初は相当ごねたのだけれど、一番熱を上げていた市井で暮らす平民の愛人を正式に後妻に迎えることに協力し、その娘─クラウスにとっての異母妹─を伯爵令嬢として家に上げることも提示したら、大人しく後妻と共に領地へと移っていった。
爵位を継ぐ前後、既にスクールは卒業していたけれど頻繁に公爵邸を訪れた。
「不正をした上でもこの状況とは……思ったよりも随分とひどいな」
帳簿を見た公爵が唸る。本来であれば赤裸々に経済状況が割れてしまう帳簿を他家の者に見せるのは愚策ではあるけれど、まだ若輩のクラウスに自分の力だけで領地を立て直すのは難しかった。信頼できるという理由もあるが、元々権力のある公爵であれば困窮した伯爵家なんて潰そうと思えば帳簿なんてなくてもいつでも潰せるのだから、見せたところで今更だった。
「立て直すのに数年かかるのは元より覚悟しております」
「父上、アリシアとクラウスが婚約を結び、それを理由に公爵家から協力をすればいかがでしょう?」
パトリックの提案を聞き、驚きに目を見張る。パトリックからしたら、妹の恋心の後押しのつもりだったのかもしれないが、政略結婚にしてはあまりにも公爵家に利益がない。伯爵領特産の織物に興味があるとは言っていたが、婚姻を通して融通するほどのものでもない。そして何よりも、クラウスにはそれを受け入れたくない理由があった。
「……非常にありがたい提案ですが、私はアリシア嬢とは政略で結婚したくはありません。
いずれ、家を建て直した後に正式に私からプロポーズをさせていただきたく存じます」
今度は公爵親子が揃って驚く番だった。それも当然、青年期に入ったクラウスに対してアリシアは未だデビュー前の少女。パトリックにとってはアリシアの気持ちを知り、そのうちクラウスが絆されることを予測した上での提案だったのだけれど、クラウスが既にアリシアを女性として望んでいるとは思っていなかったのだ。
2人はそっくりな顔を同じように引きつらせる。娘・妹はやらんぞという気持ちではなく、純粋に引いている親子にクラウスはちょっと解せない気持ちになった。
*****
数年の時を要して、ようやく伯爵家が立ち直った。有力な家のご令嬢から言い寄られたときも傷つけないように丁重に扱い、持っている事業で取り扱う製品を流行らせるために力のあるご夫人に愛想よくし、彼女らに自身の事業が関連している仕立て屋や宝石商、菓子屋などに連れていって是非懇意にと頼むなどの涙ぐましい努力をしていた。流行の操作に関しては本来女性─各家の夫人や令嬢─の役割ではあるのだが、父の後妻は社交界に出られない平民、異母妹はお転婆という表現が控えめなほどのあり様だったのでクラウスが自ら動くしかなかった。
あることないこと吹聴するご令嬢や口さがない貴族の噂ばかりはどうにもならなかったが、各家の当主には事業に関する目的を説明すれば、困窮した家を建て直すために奔走する若き伯爵ということで概ね理解を得られた。中には内心穏やかな気持ちではない者もいたのだけれど、余裕を見せたがる当主ほどクラウスの行動には寛大だった。困窮している状況に同情的な目も多くプライドが傷つくこともあったけれどいち早く安定させるには、家の恥などに構ってはいられない。
そんな努力の末に、やっとアリシアに気持ちを伝えられるようになったというのに。舞踏会でのエスコートが出来ず、更に会場に来てみれば近寄ることすらできず。
何故こうなってしまったと歯噛みする。口に出したところで、友人にヘタレだからだと言われることはわかりきっているから言わないけれど。
「……見ろ、アリシアのグラスがあと少しで空になる」
「え、そんなところまで観察してるの?怖っ」
「あの騎士が次の飲み物を取ってくる隙にアリシアに声をかける」
案の定、騎士にアリシアが声をかけた後に離れていく。その隙を狙って、騎士の死角に入りながら、アリシアの方に進む。何故こそこそと近づくような真似をしなければならないのかという気持ちもあるが、まずは彼女と話をしたかった。
後僅かで声をかけられる距離まできたというところで、アリシアが何かに気づいたらしく会場から庭園へと出てしまう。
夜の庭園といえば、フロアで盛り上がった男女が逢瀬のために出ることもある。初心なご令嬢に無体を働く男がいることだってある。
女性一人で出ることの危険をアリシアが知らない筈がないのに。彼女は何をしているんだとクラウスは焦って足を速めた。
庭園に出て目に飛び込んだのは、焦がれた人の後ろ姿。更にその視線の先には、派手なドレスに身を包んだ令嬢たちが誰かを囲っている光景。そのドレスには見覚えがあった。今日袖にしたばかりの、いつも近くに寄ってくる令嬢たちだ。
言葉まではまだ聞き取れないが、何かを責め立てているようだ。責め立てられているのは、先日ダンスを踊った少女だと気付く。大方彼女たちが虫の悪いところに偶然居合わせてしまい、八つ当たりでもされているのだろう。
正義感の強いアリシアは見ていられなかったらしく、助けに入ろうとしているらしい。身分はアリシアの方が高くとも、気性の激しい侯爵令嬢の前に立ったら逆上される可能性がある。万が一にでも彼女の滑らかな頬が叩かれでもしたらたまったものではない。
「聞き覚えのある声が聞こえたと思ってきてみたら……
どうしたのかな?」
「……っクラウス様!?」
アリシアが声をかけるより前に、なんとか令嬢たちに声をかけることができた。間に合ったことに内心安堵する。
「私で良かったら相談に乗るけど、何かあったのかな?」
「いえっ…何でもありませんわ。
わたくしたちは失礼いたします……!」
そさくさと令嬢たちはドレスを翻して去っていった。置いていかれた1人……令嬢たちが囲っていたと思われる少女に目をやると、座り込んで呆気に取られているようだった。
見るからにデビューしたての少女は、貴族令嬢の気性の粗さに驚いているのだろう。少女がこうなってしまったのは、多分自分が令嬢たちを袖にしてしまったことの八つ当たりだ。可哀想に思ったクラウスは少女に手を差し出した。
「大丈夫か?」
「……はい」
初めて会った時と2度目に会った時は、気が強そうな印象だったけれど今日は心なしか声も弱々しい。付き添いの者のところに連れていかなければと思うが、その前にアリシアのことが気になった。
この状況に気付いたアリシアは、その優しさ故に放っておけずに外に出たのだろう。しかし、一人で外に出て何かあってからでは遅いのだ。せめて他の誰かを呼べば良かったのに。そう思いながら声をかけると、予想以上に咎める声になってしまった。
嫉妬心で苛立っていたことも否定できない。寧ろ半分は嫉妬心だ。今のクラウスは先日の夜会や騎士のことで問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。
「アリシア、何故一人で庭園に出たんだ?
今日きみといた騎士は──」
「アリシア様! やっと見つけました!」
「……マーカス様!」
今日初めて声をかけられたというのに、騎士に割り込まれてしまう。しかも、アリシアはまるで助けを求めるかのように騎士の名を呼ぶ。そんな姿を見せられては、穏やかな気持ちではいられない。
騎士がこちらの状況に気付き、訝し気に眉をひそめたがすぐにアリシアに向き直る。
「パトリック殿も心配しておりました。こんなところにいてはなりません。すぐに中に戻りましょう」
「ええ、そうね。
クラウス様、申し訳ございません。
兄のところへ行かねばなりませんので失礼いたしますわ」
アリシアは目を合わせずに礼を取る。騎士も目礼だけしてすぐにアリシアの手を取る。2人並んで会場に戻る姿が、まるで物語の騎士と姫君のようで、心の中を嫉妬の嵐が吹き荒れた。
──なんだあいつは! 騎士面しやがって!!
正真正銘の騎士ではあるのだが、クラウスにそれを考える余裕はない。
「……あの……」
目の前で繰り広げられていた光景で、すっかりと少女の存在を忘れてしまっていたことにハッとして、慌てて彼女の方を向く。先ほど令嬢たちに責め立てられていたのがよほど怖かったのか、少し涙目になっている。
自分も無表情になっていたことに気づき、慌てて笑顔を作って声をかけた。
「今日の付き添いはお父上かな?
早く会場へ戻ろう」
「はい。……先ほどはありがとうございました。」
「夜の庭園に令嬢が一人でいると危ないからね。
次からは気を付けた方がいい」
早く会場に戻ってアリシアを見つけたいと焦燥感に駆られながら、会場まで少女を促した。
──きちんとアリシアと話がしたい。
「随分と辛気臭い顔をしているなクラウス。
一昨日、件の契約がやっと締結したんだろう?
清々しい気分じゃあないのかい?」
かっちりとした夜会服に身を包み、旧知の仲であるダニエルが声をかけてきた。彼の言う通り、一昨日はクラウスが持つ伯爵領内で扱う特産物の輸出に関しての契約を貿易に強い侯爵家と結んだばかり。ここ2年程、奔走してきたものだ。
クラウスが爵位を継ぐまで困窮してきた伯爵家も、これでやっと安泰になる。今までは、上級貴族の女性たちも無下にすることができず─節度は保っていたつもりはあれど─傍に寄ることを受け入れてきたが、これからは距離を置いても許されるようになった。
今夜の舞踏会でも、開始早々いつものように腕にしなだれかかろうとした令嬢に対し、「綺麗な華をいつまでも独り占めするのは気が引ける。私なんかに構わず今夜を楽しんで」と他の紳士のもとへ促すことに成功した。
彼女らはいつもと違う対応に驚いていたようだが、穏やかに拒絶したら観念したのか少々悔しそうな表情で離れていった。手のひらを返すようで少々申し訳なくも思ったが、あくまでも礼儀正しく、必要以上に冷たく突き放したわけではないし許される範囲だろう。
「清々しい気分でいられると俺も思っていたさ」
「念願叶ったと聞いたから、今日はアリシアをエスコートするものだと思っていたけれど……」
「パトリックに彼女をエスコートする許可をもらおうとしたら先約があるからと断られた」
憮然としながら持っていたグラスに口をつけると、ダニエルは面白そうに笑う。クラウスにとっては、面白いことなど何一つないというのに。
今夜は愛しい彼女をエスコートして、舞踏会では片時も離さずにずっと一緒にいようと思っていたのに。王女付きの騎士がエスコートに決まってしまった、王女が決めた事だから、この段階ではもう断れないとあっさりパトリックに言われてしまったのだ。
「だいたい何だあの男は。
ずっと守るように傍にいて。姫を守る騎士気どりか」
「気どりもなにも、明らかに騎士だよね」
「そういう事じゃない!」
酔っているのか?とダニエルに訝しがられるが、生憎と素面である。素面のまま、嫉妬で頭が焦げ付きそうになっていた。
舞踏会が始まってからずっと、アリシアの傍の騎士は周りを警戒している。他の男が中々近寄れず……勇気ある誰かが近寄っても、彼女の隣から飛んでくる威圧感にあてられてすぐに離れている。勿論、他の男が迂闊に近寄れないのは悪くないのだけれど。
「俺がアリシアに声をかけようとすると殺気を放つんだぞ!?
ダンスにすら誘えない!」
「え、まさかそれで尻尾を巻いて逃げてきたのか!?」
情けない、とダニエルの顔面にでかでかと書いてある。
その騎士マーカスは、パトリックに言われた「不埒な男を近寄らせない」という命を忠実に守った故に、クラウスの抱くアリシアに対する浅からぬ思いを野生の勘で察知して近寄らせないように牽制しているのだが、それを知る術はない。もっとも、最近まではアリシアがクラウスの傍に張り付いていたことをマーカスが把握していたのであれば違ったかもしれないが、マーカスは貴族として社交界に出ることは殆どなく、噂を好まない性質であったことも災いした。
クラウスだって、相手が邪な気持ちでアリシアの隣にいる輩だったり破落戸であれば、隙をついて彼女の手を取り逃げ出すくらいの気概は見せられた。
「何よりも、あの男と並んでいるアリシアの前に立ったら、嫉妬に任せて行動しない自信がない……」
そんな事になったら、忠実そうな騎士は即座にクラウスを取り押さえるだろう。クラウスとて、多少は鍛えているし線が細いわけではないが、本職の相手からまともに掴みかかられたら確実に負ける自信があった。そんなことになれば、目立つのを好まない彼女を困らせてしまう。あと、単純にカッコ悪い。情けない姿を見せたくない。
「そんなにこじらせる前に何で行動に移さなかったのか……
君にへたれクソ野郎の称号を与えるよ」
呆れた顔で貴公子らしからぬ不名誉な称号を与えられてしまったが、へたれの自覚があるためクラウスは何も言い返せない。彼女が昔から自分に好意を抱いてくれていることは知っていても、彼女は公爵令嬢、自分は困窮した伯爵となると中々自信が持てず、せめて自分から好意を伝えるのは隣に立っても恥ずかしくない程になってからと思っていたのだ。
先週夜会で会った時、少々彼女の様子が変わっていたのも気になっていた。いつもであれば真っ先にクラウスの元にくる彼女が、ずっとパトリックと共にいて、他の人間と言葉を交わしていたのだ。
あと少しで目標に届くからと油断していたが、あの夜会の日にきちんと話を聞けばよかったと後悔の溜息を漏らす。
「俺だってこのまま手をこまねいて見ているつもりはないさ。
だから今、アリシアに声をかけるタイミングを伺ってずっと見ている」
正確に言うと、騎士が彼女から離れる一瞬の隙を得るために、付かず離れずの距離かつ彼女が見える位置をずっと陣取っているのだ。それを聞いたダニエルは心の中で、へたれクソ野郎の称号に、「ストーカー予備軍」を加えた。声に出さないのは彼なりの優しさだった。
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クラウスにとって、アリシアは昔から笑顔が眩しくて可愛い女の子だった。
パブリックスクールでパトリックと親しくなったクラウスたちが、初めてクリスフォード公爵邸に招かれた12歳のときはまだ7歳の幼い女の子だったのだけれど、その時から彼女は可愛らしかった。
アリシアは昔から兄パトリックによく懐いていたらしく、兄パトリックが友人たちを家に招いたときも彼女は一緒にいたがった。一緒にできる遊びなんてほとんどなくて、遠乗りでは置いていかれ、カードゲームやボードゲームはルールが判らず参加できなかった。
何よりも、少年期とは言え男同士で集まればそれなりに品のない話で盛り上がったりする。なんだかんだ妹を可愛がっているパトリックは、そんな話をアリシアに聞かせたくなくて友人達が来ているときはアリシアを離すようにしていた。
パトリックがアリシアを追い払うとき、彼女は我儘をいって食い下がったりはしないのだけれど、決まって大きな瞳に涙をためて眉尻を下げていた。普段スクールであまり家にいない兄と一緒にいたいのに、放っておかれるのが寂しいのだろう。
追い払われてはしょんぼりとする小さな少女の様子に陥落したのが、ほかの誰でもないクラウスだった。
「俺がアリシアを見ているから、皆はボードゲームをしていてくれて構わない。
アリシア、君のお兄さまじゃないけどいいかな?」
「クラウスさまがわたくしと遊んでくださるのですか?」
「ああ、ソファに座って本を読もう」
にこりと笑顔を作って提案した途端、瞳に涙の幕が張ったままきらきらと輝く笑顔になったアリシアの表情は今でも忘れられない。まるで天使が降りてきたのかと本気で思った。
友人たちがゲームをしているときは同じ部屋で、膝の上にアリシアを座らせて絵本を読んであげた。
彼女が憧れる絵本の王子様のようになりたくて、一人称を「私」に改め言葉使いも柔らかくした。
膝に乗せてボードゲームのルールを教えたこともあった。
遠乗りに出かけるときは流石に連れていけなかったけれど、何回かに1回は自主的に留守番をしてアリシアと過ごした。いつか一緒にいけるようにと幼いアリシアを抱えながら馬に乗って邸の裏庭を歩いたこともあった。
庭で遊んでいるときは、近くのガゼボでお茶を飲んだ。お茶の淹れ方を習ったというときは、アリシアが入れてくれたお茶も飲んだ。その時ばかりは、アリシアが初めて淹れたお茶を一番に飲んだことでパトリックに散々嫌味を言われたけれどクラウスにとっては良い思い出だ。
最初は恋ではなく、幼子を愛でる気持ちで純粋に可愛がっていたはずが、いつからか膝に座るのを恥ずかしがるようになり、満面の笑みがはにかむような笑顔になり、年々淑女らしくなっていく彼女への気持ちは自然と恋に変わっていた。
友人たちに当時の話をすると、割と最初から落ちていたと言われるけれど。
そんな甘い思い出のある少年時代も、必ずしも幸せな時間ばかりではなかった。
伯爵である父は領地経営センスがなく、政略結婚で結ばれた母は好き勝手に浪費ばかり。勿論夫婦の間に愛なんてものはなく、父は繰り返し愛人を囲い母は見栄のために宝石やドレスを買い漁る。
どんどんと困窮していく実家の雰囲気は、年々悪くなるばかりだった。
クラウスが15になる頃、不摂生が祟り母が儚くなったことを切っ掛けに父の不正に気付いた。自分だけではどうにもできず、パトリックに相談したところ彼が公爵に話を通してくれた。不正で罪に訴えないことを条件に、父を隠居させて異例の若さで伯爵位を継ぐことができたのは公爵の力添えあってこそだった。
もっとも完全な善意ではなく、伯爵領で作られる織物に興味を持ったからだと公爵は言っていたが、それが建前であることくらいは察することができる。
父は最初は相当ごねたのだけれど、一番熱を上げていた市井で暮らす平民の愛人を正式に後妻に迎えることに協力し、その娘─クラウスにとっての異母妹─を伯爵令嬢として家に上げることも提示したら、大人しく後妻と共に領地へと移っていった。
爵位を継ぐ前後、既にスクールは卒業していたけれど頻繁に公爵邸を訪れた。
「不正をした上でもこの状況とは……思ったよりも随分とひどいな」
帳簿を見た公爵が唸る。本来であれば赤裸々に経済状況が割れてしまう帳簿を他家の者に見せるのは愚策ではあるけれど、まだ若輩のクラウスに自分の力だけで領地を立て直すのは難しかった。信頼できるという理由もあるが、元々権力のある公爵であれば困窮した伯爵家なんて潰そうと思えば帳簿なんてなくてもいつでも潰せるのだから、見せたところで今更だった。
「立て直すのに数年かかるのは元より覚悟しております」
「父上、アリシアとクラウスが婚約を結び、それを理由に公爵家から協力をすればいかがでしょう?」
パトリックの提案を聞き、驚きに目を見張る。パトリックからしたら、妹の恋心の後押しのつもりだったのかもしれないが、政略結婚にしてはあまりにも公爵家に利益がない。伯爵領特産の織物に興味があるとは言っていたが、婚姻を通して融通するほどのものでもない。そして何よりも、クラウスにはそれを受け入れたくない理由があった。
「……非常にありがたい提案ですが、私はアリシア嬢とは政略で結婚したくはありません。
いずれ、家を建て直した後に正式に私からプロポーズをさせていただきたく存じます」
今度は公爵親子が揃って驚く番だった。それも当然、青年期に入ったクラウスに対してアリシアは未だデビュー前の少女。パトリックにとってはアリシアの気持ちを知り、そのうちクラウスが絆されることを予測した上での提案だったのだけれど、クラウスが既にアリシアを女性として望んでいるとは思っていなかったのだ。
2人はそっくりな顔を同じように引きつらせる。娘・妹はやらんぞという気持ちではなく、純粋に引いている親子にクラウスはちょっと解せない気持ちになった。
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数年の時を要して、ようやく伯爵家が立ち直った。有力な家のご令嬢から言い寄られたときも傷つけないように丁重に扱い、持っている事業で取り扱う製品を流行らせるために力のあるご夫人に愛想よくし、彼女らに自身の事業が関連している仕立て屋や宝石商、菓子屋などに連れていって是非懇意にと頼むなどの涙ぐましい努力をしていた。流行の操作に関しては本来女性─各家の夫人や令嬢─の役割ではあるのだが、父の後妻は社交界に出られない平民、異母妹はお転婆という表現が控えめなほどのあり様だったのでクラウスが自ら動くしかなかった。
あることないこと吹聴するご令嬢や口さがない貴族の噂ばかりはどうにもならなかったが、各家の当主には事業に関する目的を説明すれば、困窮した家を建て直すために奔走する若き伯爵ということで概ね理解を得られた。中には内心穏やかな気持ちではない者もいたのだけれど、余裕を見せたがる当主ほどクラウスの行動には寛大だった。困窮している状況に同情的な目も多くプライドが傷つくこともあったけれどいち早く安定させるには、家の恥などに構ってはいられない。
そんな努力の末に、やっとアリシアに気持ちを伝えられるようになったというのに。舞踏会でのエスコートが出来ず、更に会場に来てみれば近寄ることすらできず。
何故こうなってしまったと歯噛みする。口に出したところで、友人にヘタレだからだと言われることはわかりきっているから言わないけれど。
「……見ろ、アリシアのグラスがあと少しで空になる」
「え、そんなところまで観察してるの?怖っ」
「あの騎士が次の飲み物を取ってくる隙にアリシアに声をかける」
案の定、騎士にアリシアが声をかけた後に離れていく。その隙を狙って、騎士の死角に入りながら、アリシアの方に進む。何故こそこそと近づくような真似をしなければならないのかという気持ちもあるが、まずは彼女と話をしたかった。
後僅かで声をかけられる距離まできたというところで、アリシアが何かに気づいたらしく会場から庭園へと出てしまう。
夜の庭園といえば、フロアで盛り上がった男女が逢瀬のために出ることもある。初心なご令嬢に無体を働く男がいることだってある。
女性一人で出ることの危険をアリシアが知らない筈がないのに。彼女は何をしているんだとクラウスは焦って足を速めた。
庭園に出て目に飛び込んだのは、焦がれた人の後ろ姿。更にその視線の先には、派手なドレスに身を包んだ令嬢たちが誰かを囲っている光景。そのドレスには見覚えがあった。今日袖にしたばかりの、いつも近くに寄ってくる令嬢たちだ。
言葉まではまだ聞き取れないが、何かを責め立てているようだ。責め立てられているのは、先日ダンスを踊った少女だと気付く。大方彼女たちが虫の悪いところに偶然居合わせてしまい、八つ当たりでもされているのだろう。
正義感の強いアリシアは見ていられなかったらしく、助けに入ろうとしているらしい。身分はアリシアの方が高くとも、気性の激しい侯爵令嬢の前に立ったら逆上される可能性がある。万が一にでも彼女の滑らかな頬が叩かれでもしたらたまったものではない。
「聞き覚えのある声が聞こえたと思ってきてみたら……
どうしたのかな?」
「……っクラウス様!?」
アリシアが声をかけるより前に、なんとか令嬢たちに声をかけることができた。間に合ったことに内心安堵する。
「私で良かったら相談に乗るけど、何かあったのかな?」
「いえっ…何でもありませんわ。
わたくしたちは失礼いたします……!」
そさくさと令嬢たちはドレスを翻して去っていった。置いていかれた1人……令嬢たちが囲っていたと思われる少女に目をやると、座り込んで呆気に取られているようだった。
見るからにデビューしたての少女は、貴族令嬢の気性の粗さに驚いているのだろう。少女がこうなってしまったのは、多分自分が令嬢たちを袖にしてしまったことの八つ当たりだ。可哀想に思ったクラウスは少女に手を差し出した。
「大丈夫か?」
「……はい」
初めて会った時と2度目に会った時は、気が強そうな印象だったけれど今日は心なしか声も弱々しい。付き添いの者のところに連れていかなければと思うが、その前にアリシアのことが気になった。
この状況に気付いたアリシアは、その優しさ故に放っておけずに外に出たのだろう。しかし、一人で外に出て何かあってからでは遅いのだ。せめて他の誰かを呼べば良かったのに。そう思いながら声をかけると、予想以上に咎める声になってしまった。
嫉妬心で苛立っていたことも否定できない。寧ろ半分は嫉妬心だ。今のクラウスは先日の夜会や騎士のことで問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。
「アリシア、何故一人で庭園に出たんだ?
今日きみといた騎士は──」
「アリシア様! やっと見つけました!」
「……マーカス様!」
今日初めて声をかけられたというのに、騎士に割り込まれてしまう。しかも、アリシアはまるで助けを求めるかのように騎士の名を呼ぶ。そんな姿を見せられては、穏やかな気持ちではいられない。
騎士がこちらの状況に気付き、訝し気に眉をひそめたがすぐにアリシアに向き直る。
「パトリック殿も心配しておりました。こんなところにいてはなりません。すぐに中に戻りましょう」
「ええ、そうね。
クラウス様、申し訳ございません。
兄のところへ行かねばなりませんので失礼いたしますわ」
アリシアは目を合わせずに礼を取る。騎士も目礼だけしてすぐにアリシアの手を取る。2人並んで会場に戻る姿が、まるで物語の騎士と姫君のようで、心の中を嫉妬の嵐が吹き荒れた。
──なんだあいつは! 騎士面しやがって!!
正真正銘の騎士ではあるのだが、クラウスにそれを考える余裕はない。
「……あの……」
目の前で繰り広げられていた光景で、すっかりと少女の存在を忘れてしまっていたことにハッとして、慌てて彼女の方を向く。先ほど令嬢たちに責め立てられていたのがよほど怖かったのか、少し涙目になっている。
自分も無表情になっていたことに気づき、慌てて笑顔を作って声をかけた。
「今日の付き添いはお父上かな?
早く会場へ戻ろう」
「はい。……先ほどはありがとうございました。」
「夜の庭園に令嬢が一人でいると危ないからね。
次からは気を付けた方がいい」
早く会場に戻ってアリシアを見つけたいと焦燥感に駆られながら、会場まで少女を促した。
──きちんとアリシアと話がしたい。
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