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86,復讐。
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※今回はフレッシャー商会目線の話です。
※後半に出てくるブラッディ商会のブラッディ・メジロは以前、セシリアと因縁ありげな会話をした相手です。(※42話、『希望の光。』参照)
裁判前日のことだ。
本来なら留置所生活が始まっているはずだが、貴族同士のコネを使って、私は最後の休日を味わっていた。
気分転換のつもりで、私は商会のそばを歩いた。
商会から数メートル離れた巨大施設、治癒院でかつてないほどの人混みが出来ていることに、私は気がつく。
普段なら傷ついた冒険者が数人まばらに歩いている程度だが、この日は、大勢の老人が施設の外にはみ出るほど列を成していた。
「……あの、ここでなにが起こっているのですか」
最後尾の老人に、私はそう尋ねる。
フレッシャー商会の不祥事は注目の的であり、私の顔も知られているから、もちろん、私は深くフードを被り、ひそひそ声でそう尋ねる。
「いやあ、奇蹟ですわい。“沈黙の呪縛”が完全治癒された、とのことなんですわい」
「完全治癒……? まさか。完全治癒は不可能とされてきた病ですよ」
「もちろん知っていますわい。……しかし、あの聖女アニー様はそれを成し遂げられたとのことですわい」
「聖女、アニー……」
列の奥へ目を遣ると、群がった老人の奥に、思わず息を飲むほどの美女が立っているのが見える。
数年前まで聖女としての公職に就き、”オーヴェルニュの宝“とまで呼ばれ、国中の人々から愛された、あの聖女アニーだ。
「でも、彼女は表舞台に出るのは控えているという話だったのでは……?」
「さあ。その辺のことはわしにはわからんですわ。ただ……」
「ただ……?」
「こんな奇蹟を起こしたのでは、彼女は表舞台に戻らざるを得ないでしょうな。見てごらんなさい。あの美しさと、決して治せないと言われた病を完全治癒する、あの奇蹟的な姿を」
確かに、老人に囲まれて”浄化“を繰り返す彼女の姿は、なにか神秘的なまでに神々しく見えた。まるで、天使か女神が実在して、それが天から降りてきて人々を癒しているかのようだ。
そんな神掛かった女性が、シビラという解毒士と手を組んで、はっきりとフレッシャー商会に異議を申し立てている……。
自分があまりにも神々しい存在と対立しているように思え、急に激しい不安が込み上げて来る。
「……ありゃあ国中の男が放っておかんでしょうな……」
老人の話し声を最後まで聞かずに振り切り、無性に情けない気持ちになりながら、俯いて歩いて、フレッシャー商会まで戻った。
どこをどう歩いたのか、記憶にない。ただひたすらに、自分が惨めで堪らない。
「あ、あの……」
商会長室に入ると、私の帰りを待っていて、副商会長のハロルドがそう声を掛けて来る。
「なんだ」
「こんなときに言いにくいのですが……」
「良いから言え。もうこれ以上悪いことは起こらんだろう」
「それが……」
ハロルドはそう口籠ると、机の上にそっと一本の酒を置いた。
「なんだこれは」
「これは……、三日前に発売された新商品の酒で、名称を“深森の一滴”というものです。発売したのはセシリアの運営する、ローゼ商会です……」
「……それがどうした」
ハロルドの言わんとする意図が飲み込めず、私はそう問いただす。
「これが、発売以来、異例の大ヒット中でして、瞬く間にこの街の酒屋を席巻しております……。簡単に言うと、私どもの商品である“月影の雫”が、ことごとく売れなくなっています」
「……馬鹿な」
なにか巨大な魔物にすぐそばまで近づかれているような恐怖が、ぐっと湧く。
なにからなにまで、自分にとって不都合なことばかりが、とめどなく私の周りに集まって来る。
「この酒はいくらだ。味が良くても、高ければ売れないだろう」
「それが、価格設定が“月影の雫”とまったく同じなのです」
「同じ? ……まるで、わざとそうしたみたいじゃないか」
「はい、そうなのです。わざとそうしているとしか思えないのです……」
ローゼ商会の商会長を務めるセシリアの名前は聞いたことがある。
やり手のビジネスウーマンであり、執念深く、敵対する者は必ず追い詰めると言われている。
だが、そのセシリアが、なぜ私の商会に喧嘩を売るようなこんな真似をするのかが、わからない。
「味はどうなんだ。お前、飲んだか?」
「いえ、まだ……」
「グラスを持って来い。……そう美味いわけはないがな。低価格帯の酒なんだ。安かろう不味かろうに決まっている」
最近の私の苛立ちのせいもあって、ハロルドは大慌てでグラスを取りに行く。
自分でも自分の情緒がコントロールできていない自覚はあるが、どうしても、抑えられない。
「……どうぞ」
「酒を開けろ」
ハロルドが慎重な手ぶりで、グラスにその酒を注ぐ。
薄い黄金色の酒がグラスに注がれると、かつて嗅いだことのない豊潤な香りが、部屋中に広がった。それとともに、嫌な予感が私の胸元までせり上がってくる。
ハロルドと一緒に、ぐっと一口、その酒を口に含む。
美味い。
美味いなんてもんじゃない。
どれだけ高額の金を積んでも、これほど美味い酒は滅多には飲めない。
それが、どういうわけか、私たちの提供する“月影の雫”と同じ低価格帯で販売されているというのだ。
「……こんなものを出されたら……」
と、私は呻くように言う。
「“月影の雫”では到底太刀打ちできないじゃないか……」
「美味しすぎますね……。これじゃ、勝ち目ありませんよ……」
よほどショックだったのか、グラスを手に持ったハロルドも、呆然自失となってグラスのなかの酒を見つめている。
完敗だ。
なぜこれほど高品質な酒をこの価格で出せるのかわからないが、うちの酒はまったくこのレベルに達していない。発売してたった三日のうちに酒屋の酒が“月影の雫”からこの酒に入れ替わったというが、それも当然のことだ。
この酒が出てしまった今、もううちの酒を飲む者はいないだろう……。
◇◇
夕方になり、いよいよ明日裁判が始まるのだという恐怖が、額からつま先までとっぷりと私を飲み込む。
かなりの劣勢になるのは分かってはいるが、可能な限り、悪あがきを試みる。
私はブラッディ商会の商会長であるブラッディ・メジロの家を訪問し、案内されるままに、応接間に進む。
「手を貸してはくれませんか」
ブラッディが部屋に入ってすぐに、私はそう頭を下げる。
ブラッディとは父の代からの付き合いだ。これまでも幾度となく、貴族の特権を利用して父とふたりで荒稼ぎしてきたと聞く。
「ブラッディ様なら、なにか手を貸してくれるかもしれません」と教えてくれたのは、父の代からうちの商会で働くハロルドだ。
「……頭を上げてください」
「では、なにか、力を貸してもらえますか」
「なにかしてあげたいのはやまやまですが、……今回の裁判の裁判長はあのユグリスです。彼に買収は通用しない」
「……脅しても無駄でしょうか」
「無駄でしょう。あの堅物は、絶対に自分の信念を曲げない」
「なぜこんなことになったのか……」と、ついぽろりと、そんな本音が漏れる。「自分でもわけがわからないのです……」
「以前、」
と、ブラッディが口を開いたのはしばらくしてからのことだ。
「あなたのお父様と仕事をしていた頃、とある商会を追いつめたことがあります」
「とある商会……?」
「その商会の名前は、ローゼ商会と言います」
なにかの偶然だろうか。”深森の一滴”を発売した商会と同じ名だ。
「私たちは貴族同士の繋がりを使って、ローゼ商会を追いつめ、破産に追い込みました。その結果、当時のローゼ商会の商会長は命を絶った」
ブラッディは、記憶を辿るようにそう言葉を紡ぐ。
「その当時、商会長の双子の娘の片方が、私に近づいて来てこう言ったのを覚えています。“なにがあったか必ず突き止め、私の両親を死に追いやった人間を必ず殺してやる”と。……まだ幼い子供です。私は相手にせず、思わず笑ってしまったのを覚えている」
「その子が、今のローゼ商会の商会長である、セシリアですか……?」
「そうです。……今思うと、なにがあっても殺しておかなくてはならなかったのかもしれません」
ブラッディは皮肉そうにそう笑う。
すべて合点が行った。
なぜ自分の造った酒の価格に合わせてあの酒が発売されたのか。
あれは明確に、私の商会を潰す目的で行われたのだ。
それも、父の代に行われた悪行の復讐として……。
「どうにか上手くかわす方法はないのでしょうか」
すべてが怖くなり、声を震わせて私はそう言う。
「さすがに無理でしょう。私も他人事ではありません。いつセシリアに報復されるか……」
ブラッディはふと、考えごとをするような表情を浮かべ、こう続けた。
「いや、窮地に立たされているのは私だけではない。今や貴族全員が窮地なのかもしれません」
「貴族全員? それはどういうことでしょうか」
「セシリアと手を結んでいるのは第四階級の冒険者である、田村涼という男です。あなたも名前ぐらいは聞いているでしょう」
「例の“セーター”なるものを造った男ですか? 」
「それだけではありません。ロジャー商会の出した例の化粧水もあの男の製作物です」
「あ、あれもですか……!」
「その男が、聖女アニーと組んでこの社会から階級を無くす運動をしているのです。……もしかしたら、そう遠くない未来に、あの第四階級の男にすべてを覆されるのかもしれません」
ブラッディのその言葉は、不吉な呪いのようにこの部屋に静けさを呼び込んだ。
私たち貴族を支えている足元の地盤が、今まさにヒビを立てて崩れようとしているかのようだ……。
「ブラッディさん、あなたはどうされるおつもりなのですか」
恐る恐るそう尋ねると、彼はこう答えた。
「抵抗はするつもりです。第四階級の人間など社会のゴミですよ。必ず叩き潰します。ですが……」
「ですが……?」
「なにか、私はとても怖いのです。もしかしたら私は、神々の領域に足を踏み入れた男と敵対しようとしているのではないか、……そう思えて、このところ身震いが止まらないのです」
※後半に出てくるブラッディ商会のブラッディ・メジロは以前、セシリアと因縁ありげな会話をした相手です。(※42話、『希望の光。』参照)
裁判前日のことだ。
本来なら留置所生活が始まっているはずだが、貴族同士のコネを使って、私は最後の休日を味わっていた。
気分転換のつもりで、私は商会のそばを歩いた。
商会から数メートル離れた巨大施設、治癒院でかつてないほどの人混みが出来ていることに、私は気がつく。
普段なら傷ついた冒険者が数人まばらに歩いている程度だが、この日は、大勢の老人が施設の外にはみ出るほど列を成していた。
「……あの、ここでなにが起こっているのですか」
最後尾の老人に、私はそう尋ねる。
フレッシャー商会の不祥事は注目の的であり、私の顔も知られているから、もちろん、私は深くフードを被り、ひそひそ声でそう尋ねる。
「いやあ、奇蹟ですわい。“沈黙の呪縛”が完全治癒された、とのことなんですわい」
「完全治癒……? まさか。完全治癒は不可能とされてきた病ですよ」
「もちろん知っていますわい。……しかし、あの聖女アニー様はそれを成し遂げられたとのことですわい」
「聖女、アニー……」
列の奥へ目を遣ると、群がった老人の奥に、思わず息を飲むほどの美女が立っているのが見える。
数年前まで聖女としての公職に就き、”オーヴェルニュの宝“とまで呼ばれ、国中の人々から愛された、あの聖女アニーだ。
「でも、彼女は表舞台に出るのは控えているという話だったのでは……?」
「さあ。その辺のことはわしにはわからんですわ。ただ……」
「ただ……?」
「こんな奇蹟を起こしたのでは、彼女は表舞台に戻らざるを得ないでしょうな。見てごらんなさい。あの美しさと、決して治せないと言われた病を完全治癒する、あの奇蹟的な姿を」
確かに、老人に囲まれて”浄化“を繰り返す彼女の姿は、なにか神秘的なまでに神々しく見えた。まるで、天使か女神が実在して、それが天から降りてきて人々を癒しているかのようだ。
そんな神掛かった女性が、シビラという解毒士と手を組んで、はっきりとフレッシャー商会に異議を申し立てている……。
自分があまりにも神々しい存在と対立しているように思え、急に激しい不安が込み上げて来る。
「……ありゃあ国中の男が放っておかんでしょうな……」
老人の話し声を最後まで聞かずに振り切り、無性に情けない気持ちになりながら、俯いて歩いて、フレッシャー商会まで戻った。
どこをどう歩いたのか、記憶にない。ただひたすらに、自分が惨めで堪らない。
「あ、あの……」
商会長室に入ると、私の帰りを待っていて、副商会長のハロルドがそう声を掛けて来る。
「なんだ」
「こんなときに言いにくいのですが……」
「良いから言え。もうこれ以上悪いことは起こらんだろう」
「それが……」
ハロルドはそう口籠ると、机の上にそっと一本の酒を置いた。
「なんだこれは」
「これは……、三日前に発売された新商品の酒で、名称を“深森の一滴”というものです。発売したのはセシリアの運営する、ローゼ商会です……」
「……それがどうした」
ハロルドの言わんとする意図が飲み込めず、私はそう問いただす。
「これが、発売以来、異例の大ヒット中でして、瞬く間にこの街の酒屋を席巻しております……。簡単に言うと、私どもの商品である“月影の雫”が、ことごとく売れなくなっています」
「……馬鹿な」
なにか巨大な魔物にすぐそばまで近づかれているような恐怖が、ぐっと湧く。
なにからなにまで、自分にとって不都合なことばかりが、とめどなく私の周りに集まって来る。
「この酒はいくらだ。味が良くても、高ければ売れないだろう」
「それが、価格設定が“月影の雫”とまったく同じなのです」
「同じ? ……まるで、わざとそうしたみたいじゃないか」
「はい、そうなのです。わざとそうしているとしか思えないのです……」
ローゼ商会の商会長を務めるセシリアの名前は聞いたことがある。
やり手のビジネスウーマンであり、執念深く、敵対する者は必ず追い詰めると言われている。
だが、そのセシリアが、なぜ私の商会に喧嘩を売るようなこんな真似をするのかが、わからない。
「味はどうなんだ。お前、飲んだか?」
「いえ、まだ……」
「グラスを持って来い。……そう美味いわけはないがな。低価格帯の酒なんだ。安かろう不味かろうに決まっている」
最近の私の苛立ちのせいもあって、ハロルドは大慌てでグラスを取りに行く。
自分でも自分の情緒がコントロールできていない自覚はあるが、どうしても、抑えられない。
「……どうぞ」
「酒を開けろ」
ハロルドが慎重な手ぶりで、グラスにその酒を注ぐ。
薄い黄金色の酒がグラスに注がれると、かつて嗅いだことのない豊潤な香りが、部屋中に広がった。それとともに、嫌な予感が私の胸元までせり上がってくる。
ハロルドと一緒に、ぐっと一口、その酒を口に含む。
美味い。
美味いなんてもんじゃない。
どれだけ高額の金を積んでも、これほど美味い酒は滅多には飲めない。
それが、どういうわけか、私たちの提供する“月影の雫”と同じ低価格帯で販売されているというのだ。
「……こんなものを出されたら……」
と、私は呻くように言う。
「“月影の雫”では到底太刀打ちできないじゃないか……」
「美味しすぎますね……。これじゃ、勝ち目ありませんよ……」
よほどショックだったのか、グラスを手に持ったハロルドも、呆然自失となってグラスのなかの酒を見つめている。
完敗だ。
なぜこれほど高品質な酒をこの価格で出せるのかわからないが、うちの酒はまったくこのレベルに達していない。発売してたった三日のうちに酒屋の酒が“月影の雫”からこの酒に入れ替わったというが、それも当然のことだ。
この酒が出てしまった今、もううちの酒を飲む者はいないだろう……。
◇◇
夕方になり、いよいよ明日裁判が始まるのだという恐怖が、額からつま先までとっぷりと私を飲み込む。
かなりの劣勢になるのは分かってはいるが、可能な限り、悪あがきを試みる。
私はブラッディ商会の商会長であるブラッディ・メジロの家を訪問し、案内されるままに、応接間に進む。
「手を貸してはくれませんか」
ブラッディが部屋に入ってすぐに、私はそう頭を下げる。
ブラッディとは父の代からの付き合いだ。これまでも幾度となく、貴族の特権を利用して父とふたりで荒稼ぎしてきたと聞く。
「ブラッディ様なら、なにか手を貸してくれるかもしれません」と教えてくれたのは、父の代からうちの商会で働くハロルドだ。
「……頭を上げてください」
「では、なにか、力を貸してもらえますか」
「なにかしてあげたいのはやまやまですが、……今回の裁判の裁判長はあのユグリスです。彼に買収は通用しない」
「……脅しても無駄でしょうか」
「無駄でしょう。あの堅物は、絶対に自分の信念を曲げない」
「なぜこんなことになったのか……」と、ついぽろりと、そんな本音が漏れる。「自分でもわけがわからないのです……」
「以前、」
と、ブラッディが口を開いたのはしばらくしてからのことだ。
「あなたのお父様と仕事をしていた頃、とある商会を追いつめたことがあります」
「とある商会……?」
「その商会の名前は、ローゼ商会と言います」
なにかの偶然だろうか。”深森の一滴”を発売した商会と同じ名だ。
「私たちは貴族同士の繋がりを使って、ローゼ商会を追いつめ、破産に追い込みました。その結果、当時のローゼ商会の商会長は命を絶った」
ブラッディは、記憶を辿るようにそう言葉を紡ぐ。
「その当時、商会長の双子の娘の片方が、私に近づいて来てこう言ったのを覚えています。“なにがあったか必ず突き止め、私の両親を死に追いやった人間を必ず殺してやる”と。……まだ幼い子供です。私は相手にせず、思わず笑ってしまったのを覚えている」
「その子が、今のローゼ商会の商会長である、セシリアですか……?」
「そうです。……今思うと、なにがあっても殺しておかなくてはならなかったのかもしれません」
ブラッディは皮肉そうにそう笑う。
すべて合点が行った。
なぜ自分の造った酒の価格に合わせてあの酒が発売されたのか。
あれは明確に、私の商会を潰す目的で行われたのだ。
それも、父の代に行われた悪行の復讐として……。
「どうにか上手くかわす方法はないのでしょうか」
すべてが怖くなり、声を震わせて私はそう言う。
「さすがに無理でしょう。私も他人事ではありません。いつセシリアに報復されるか……」
ブラッディはふと、考えごとをするような表情を浮かべ、こう続けた。
「いや、窮地に立たされているのは私だけではない。今や貴族全員が窮地なのかもしれません」
「貴族全員? それはどういうことでしょうか」
「セシリアと手を結んでいるのは第四階級の冒険者である、田村涼という男です。あなたも名前ぐらいは聞いているでしょう」
「例の“セーター”なるものを造った男ですか? 」
「それだけではありません。ロジャー商会の出した例の化粧水もあの男の製作物です」
「あ、あれもですか……!」
「その男が、聖女アニーと組んでこの社会から階級を無くす運動をしているのです。……もしかしたら、そう遠くない未来に、あの第四階級の男にすべてを覆されるのかもしれません」
ブラッディのその言葉は、不吉な呪いのようにこの部屋に静けさを呼び込んだ。
私たち貴族を支えている足元の地盤が、今まさにヒビを立てて崩れようとしているかのようだ……。
「ブラッディさん、あなたはどうされるおつもりなのですか」
恐る恐るそう尋ねると、彼はこう答えた。
「抵抗はするつもりです。第四階級の人間など社会のゴミですよ。必ず叩き潰します。ですが……」
「ですが……?」
「なにか、私はとても怖いのです。もしかしたら私は、神々の領域に足を踏み入れた男と敵対しようとしているのではないか、……そう思えて、このところ身震いが止まらないのです」
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