48 / 125
47,この世界で最も強い存在になってくれ。
しおりを挟む
※涼目線に戻ります。
「……涼、少しのあいだ、手を握らせてくれないか」
エレノアにそう言われたのが、ふたりでCランクダンジョン、“焦熱の空洞”へ冒険に来たときのことだ。
「え……、手ですか。……なぜです……? 」
「魔力コントロールのもう一つ上のステップを教えてやりたいんだが、それには、手を握って直接、魔力の流れを体感させた方が早いんだ」
エレノアはそう言うと、俺がイエスと言う間もなく、俺の手を握り締める。
“冒険者の手”ということで硬い感触を想像していたのだが、エレノアの手は、想像よりも遥かに柔らかかった。まるで、ふくよかな女性の太ももの裏の肉に、手を埋めているような感じがする。
エレノアは指と指の間に、自分の指を入れてゆく。
いわゆる、“恋人繋ぎ”というやつだ……。
そして彼女はぐっとその身を俺の胸元へ近づけ、上目遣いに俺を見つめて来る。
その身長は“翡翠の魔女”と呼ばれていたとは思えないほど小さく、ほとんど強制的に、俺は彼女が“女性なのだ”ということを意識させられる。
「基礎的な魔術コントロールについては教え終わったつもりだ。最近は、どうだ……? バックフラッシュもほとんど起きないのではないか……? 」
「ええ……。おかげで、意識が朦朧とすることはほとんどなくなりました……」
「それは良かった……。戦闘中に意識が飛んでしまえば、命に関わるからな……」
「ええ……。そのことでは本当に、感謝しています……」
「相変わらず……凄まじい魔力量だな……。私も長く冒険者をやっているが、これほどの魔力量の持ち主は、かつて見かけたことがない……! 手を握っているだけで、こちらの意識が飛んでしまいそうだ……」
まるで、恋人同士が、狭い車の中で密着して話しているかのようだ。
エレノアの体温や、甘い匂い、そして改めて間近で見る、彼女の顔の造形の可愛らしさ。
それらすべてが、俺の胸を高鳴らせ、息を苦しくさせる。
「今からお前の掌に私の魔力を流すぞ……、少し苦しいかも知れない……、我慢できるか……? 」
「魔力を、直接流すのですか……? 」
「ああ……、初めは慣れなくて、変な感じがすると思うが、気にしないでくれ……」
そう言うと、エレノアは自らの掌に意識を集中させ、ぐっと瞑目した。
その瞬間、奇妙な感じが俺の掌に流れ込んで来る。
生温かな液体のようなものが手の内部に流れ込んできて、それが痛いような苦しいような、それでいて、微かに気持ち良いような、そんな感じにさせられる。
なにか、剥き出しとなった臓器を、直接掌で触れられているような感じだ。
「うう……うっ、うぐ……」
「苦しいか……? すまない。すぐに慣れるから、我慢してくれ……」
「大丈夫です……、続けてください……! 」
エレノアは心配そうに俺を見つめたあと、囁くような声色のまま、こんな説明を始めた。
「……いいか、魔術やスキルには五大属性とは別に、もうひとつ、違う特性があるんだ」
「違う特性、ですか……? 」
「ああ」と、エレノアは頷く。「すべての魔術やスキルには、”方向性“というものがある」
「方向性……」
「例えば、火や水系の魔術というのは”放射性“の方向性を持っているし、風や刺突系のスキルは”直進性“の方向性を持っている。……すべての魔術やスキルには、こうした方向性というものがあるんだ」
そう言うと、エレノアはひと際強く、俺の手を握り締めた。
「……今、おまえに流している魔力の流れが、“直進性”のものだ。……わかるか? 」
「うぅ……、あぁぁ……」
思わず漏れてしまうその呻きのなかで、俺はエレノアから流される魔術の流れを感じていた。
それは確かに、“直進”と呼称するに相応しい流れ方だったのだ。
「次は、こうだ……。どうだ……、感じるか……? 」
「か、感じます……、これは、”放射性“、ですね……! 」
「そうだ……、おまえが上手く感じてくれて、私も嬉しい……」
と、そのとき、エレノアがぱっと俺の手を離した。
加えられていた力が突然解放されたことで、俺は思わず、「うぅ……あぁっ」と嗚咽を漏らしてしまう。
このやり方はエレノア側にも負担があるのか、俺のすぐそばで、エレノアも頬を真っ赤に染め、額に汗を浮かべている。
「方向性が同じものは併用しても反発を起こさないが、逆に方向性が違うもの同士では、術士の内部で強い反発が起こる。ほとんど知られていないが、これが魔術というものの隠された特性なんだ」
「このことを」と、俺はやっと息を継いで、そう尋ねる。「知っている人はほかにいるのですか」
「さあな。独自に知っている人はいるかもしれないが、普通には、全く知られていない。……多分、ふたつの職業を持って産まれた私だからこそ、この特性に気づいたのだろう」
エレノアは俺の目を真っ直ぐ見据え、最後にこう付け足した。
「術士の力量は、突き詰めれば“魔力に対する理解度”によって決まると言って良い。この特性についてお前に教えたのは、より高次の理解をお前にして欲しかったからだ。この特性が分かっていれば、より高度な魔術の併用が可能にもなる。……いいか、涼。あらゆる魔術とスキルが使用可能なお前には、この世界のすべての魔術の特性を深く理解出来る可能性が秘められている」
“いつかすべての魔術の特性を理解して、この世界で最も強い存在になってくれ”
エレノアはそう言うと、まるで”思わずそうした“とでも言うふうに、そっと俺の胸に額を預けたのだった。
「……涼、少しのあいだ、手を握らせてくれないか」
エレノアにそう言われたのが、ふたりでCランクダンジョン、“焦熱の空洞”へ冒険に来たときのことだ。
「え……、手ですか。……なぜです……? 」
「魔力コントロールのもう一つ上のステップを教えてやりたいんだが、それには、手を握って直接、魔力の流れを体感させた方が早いんだ」
エレノアはそう言うと、俺がイエスと言う間もなく、俺の手を握り締める。
“冒険者の手”ということで硬い感触を想像していたのだが、エレノアの手は、想像よりも遥かに柔らかかった。まるで、ふくよかな女性の太ももの裏の肉に、手を埋めているような感じがする。
エレノアは指と指の間に、自分の指を入れてゆく。
いわゆる、“恋人繋ぎ”というやつだ……。
そして彼女はぐっとその身を俺の胸元へ近づけ、上目遣いに俺を見つめて来る。
その身長は“翡翠の魔女”と呼ばれていたとは思えないほど小さく、ほとんど強制的に、俺は彼女が“女性なのだ”ということを意識させられる。
「基礎的な魔術コントロールについては教え終わったつもりだ。最近は、どうだ……? バックフラッシュもほとんど起きないのではないか……? 」
「ええ……。おかげで、意識が朦朧とすることはほとんどなくなりました……」
「それは良かった……。戦闘中に意識が飛んでしまえば、命に関わるからな……」
「ええ……。そのことでは本当に、感謝しています……」
「相変わらず……凄まじい魔力量だな……。私も長く冒険者をやっているが、これほどの魔力量の持ち主は、かつて見かけたことがない……! 手を握っているだけで、こちらの意識が飛んでしまいそうだ……」
まるで、恋人同士が、狭い車の中で密着して話しているかのようだ。
エレノアの体温や、甘い匂い、そして改めて間近で見る、彼女の顔の造形の可愛らしさ。
それらすべてが、俺の胸を高鳴らせ、息を苦しくさせる。
「今からお前の掌に私の魔力を流すぞ……、少し苦しいかも知れない……、我慢できるか……? 」
「魔力を、直接流すのですか……? 」
「ああ……、初めは慣れなくて、変な感じがすると思うが、気にしないでくれ……」
そう言うと、エレノアは自らの掌に意識を集中させ、ぐっと瞑目した。
その瞬間、奇妙な感じが俺の掌に流れ込んで来る。
生温かな液体のようなものが手の内部に流れ込んできて、それが痛いような苦しいような、それでいて、微かに気持ち良いような、そんな感じにさせられる。
なにか、剥き出しとなった臓器を、直接掌で触れられているような感じだ。
「うう……うっ、うぐ……」
「苦しいか……? すまない。すぐに慣れるから、我慢してくれ……」
「大丈夫です……、続けてください……! 」
エレノアは心配そうに俺を見つめたあと、囁くような声色のまま、こんな説明を始めた。
「……いいか、魔術やスキルには五大属性とは別に、もうひとつ、違う特性があるんだ」
「違う特性、ですか……? 」
「ああ」と、エレノアは頷く。「すべての魔術やスキルには、”方向性“というものがある」
「方向性……」
「例えば、火や水系の魔術というのは”放射性“の方向性を持っているし、風や刺突系のスキルは”直進性“の方向性を持っている。……すべての魔術やスキルには、こうした方向性というものがあるんだ」
そう言うと、エレノアはひと際強く、俺の手を握り締めた。
「……今、おまえに流している魔力の流れが、“直進性”のものだ。……わかるか? 」
「うぅ……、あぁぁ……」
思わず漏れてしまうその呻きのなかで、俺はエレノアから流される魔術の流れを感じていた。
それは確かに、“直進”と呼称するに相応しい流れ方だったのだ。
「次は、こうだ……。どうだ……、感じるか……? 」
「か、感じます……、これは、”放射性“、ですね……! 」
「そうだ……、おまえが上手く感じてくれて、私も嬉しい……」
と、そのとき、エレノアがぱっと俺の手を離した。
加えられていた力が突然解放されたことで、俺は思わず、「うぅ……あぁっ」と嗚咽を漏らしてしまう。
このやり方はエレノア側にも負担があるのか、俺のすぐそばで、エレノアも頬を真っ赤に染め、額に汗を浮かべている。
「方向性が同じものは併用しても反発を起こさないが、逆に方向性が違うもの同士では、術士の内部で強い反発が起こる。ほとんど知られていないが、これが魔術というものの隠された特性なんだ」
「このことを」と、俺はやっと息を継いで、そう尋ねる。「知っている人はほかにいるのですか」
「さあな。独自に知っている人はいるかもしれないが、普通には、全く知られていない。……多分、ふたつの職業を持って産まれた私だからこそ、この特性に気づいたのだろう」
エレノアは俺の目を真っ直ぐ見据え、最後にこう付け足した。
「術士の力量は、突き詰めれば“魔力に対する理解度”によって決まると言って良い。この特性についてお前に教えたのは、より高次の理解をお前にして欲しかったからだ。この特性が分かっていれば、より高度な魔術の併用が可能にもなる。……いいか、涼。あらゆる魔術とスキルが使用可能なお前には、この世界のすべての魔術の特性を深く理解出来る可能性が秘められている」
“いつかすべての魔術の特性を理解して、この世界で最も強い存在になってくれ”
エレノアはそう言うと、まるで”思わずそうした“とでも言うふうに、そっと俺の胸に額を預けたのだった。
10
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説



Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる