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45,そんなお人好しなところに。
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「実は今日集まって貰ったのは、ジュース造りのことに関してではないんです」
セシリアの誤解が解けて、俺がそう切り出したのは、アニーの手配してくれた紅茶とケーキを食べて、小休止を挟んだあとのことだった。
「ジュース造りではないと言うと、また新しい発明でも思いついたのね? 」
と、まだカップに残っていた紅茶を啜りながら、セシリアがそう問う。
「ええ、そうなんです。実は、少し前にエレノアさんとともにシャドウスパイダーを膨大に討伐するクエストを引き受けたのですが、そのときに思いつくことがあって……」
そう言いながら、俺は三人の中心にある小テーブルに、用意して来たものを置いた。
「これは……、魔獣の核ね? 」
「そうです。正確に言うと、シャドウスパイダーの核です」
「それで? これを使ってなにを造ろうと言うの? 」
「魔獣の核はそれぞれに特徴が違うのはみなさんもご存じだと思います。ゴブリンの核は動物の心臓のような形ですし、スライムの核は――」
「やや粘着質なのよね。触れると少し粘っこいというか……」
「そうです。それで、このシャドウスパイダーの核は、幾重にも糸が織り込まれたような形状をしています。……まずはみなさん、これを見てください」
三人の見ている目の前で、慎重に、俺はシャドウスパイダーの核を指で解きほぐしていく。
この核をエレノアとともに初めて見たとき、この世界にある普通の繊維とは違っていることに俺は気が付いたのだ。
この世界の繊維はほぼすべてが「綿」と「麻」で出来ているのだが、この糸は、どこか肌触りが「ウール」に似ていたのだ。
「この糸をほぐすのに若干のコツが必要なのですが、エレノアさんに教わった魔術コントロールを応用しながら行うと、核が崩壊しないように上手く糸だけを取り出せるんです」
三人はすっかり俺の工程に魅入っており、もはや誰も一言も相槌すら打たない。
「その次に、“加工士”だけが持っている、“織力”というスキルを用います。これは言うまでもないですが、“物乞い”を使って手に入れたスキルです。……そこにさらに、“聖騎士”の“聖なる共鳴”というスキルアップのバフを重ね掛けする……」
“織力”は加工士が繊維を加工する際に用いるスキルだが、普通、シャドウスパイダーの核に用いることはない。
魔獣の核は通常、極めて取り扱いが難しく、そんなものを繊維として加工するなどということは、この世界の常識からは極めて逸脱しているのだ。
「……すると、柔らかで暖かな、ふわふわとした素材が出来上がるのです。これを用いれば、今ある繊維よりもずっと保温性に優れた、暖かな衣服が造れると思うんです」
この世界には羊に当たる動物がいない。
元の世界ほど文明の発達していないこの国では、その為、麻や綿が発展して来た。
だが、俺が使ったこの技術を駆使すれば、元の世界で言うところの「ウール」に当たるものが、こちらでも製造できると考えたのだ。
「物凄い技術だわ……、それに、触ると、とっても暖かい……! 」
出来上がった繊維に掌を当てて、セシリアがそう感嘆する。
「すごい……! すごい発明ですよ、これ……! 」
と、アニーが俺の隣で、両手を胸の前で握り締めて、ぴょんぴょんと跳ねている。
「……発想もすごいが、技術力が凄すぎるな……」と言ったのは、パルサーだ。「普通は魔獣の核を加工して繊維を作ろうなんて考えない。……これは、多分、君にしか出来ない特殊技術だと思う……! 」
“良くこんなことを思いついたな”とパルサーが続けた一言に、俺はつい、
「この国の冬の寒さは本当に辛いですから。なかには、冬を越せない第四階級の人もいるくらいなんです……」
と、過去のことを思い返し、暗いトーンでそう零していた。
なにかを察したのか、さっきまで明るいムードだったこの部屋に、葬式のあとのような暗い雰囲気が広がって行った。
「あ……」と、その空気の変化を感じて、「す、すいません! つい、暗いことを言ってしまって……! 」と言うと、
「いや、違うんだ」
と、パルサーが顔の前で手を振って、こう続けた。
「……僕はただ、感心したんだよ。涼くん、君は本当に、いつも他人のことを考えてくれているね。“チート”と呼ばれる特殊なスキルを持っていても、その力に溺れることがまったくない。今だって、自分が昔寒い想いをしたということより、”今も“寒い想いをしている第四階級の人々の為に、この繊維を考えたって感じだ。……そのことに、つい感激してしまったんだよ」
「パルサーさん……」
「そうね」と、セシリアがそれに賛同する。「涼くんは本当に、自分以外のひとのことばかりを考えているわね。……もっとも、そんなお人好しなところに、私たちは惹かれているのかもしれないわ」
気がつくと、ここにいるみんなが、暖かい目で俺を眺めてくれていた。
その暖かな眼差しに触れると、“もっと頑張りたい”、“もっとみんなの役に立つことがしたい……!”、そんな思いが、俺の奥から次々と溢れ出て来る。
「それじゃあ、これを商品化する段取りを決めましょうか。最近、繊維工場を作ったという話ですから、この話に、きっとロジャーさんも噛んでくれると思うわ。さあ、みんな、気合を入れるわよ。……新しい繊維の発明ですからね、この国の繊維業界に、大きな革命が起きるわよ」
セシリアの誤解が解けて、俺がそう切り出したのは、アニーの手配してくれた紅茶とケーキを食べて、小休止を挟んだあとのことだった。
「ジュース造りではないと言うと、また新しい発明でも思いついたのね? 」
と、まだカップに残っていた紅茶を啜りながら、セシリアがそう問う。
「ええ、そうなんです。実は、少し前にエレノアさんとともにシャドウスパイダーを膨大に討伐するクエストを引き受けたのですが、そのときに思いつくことがあって……」
そう言いながら、俺は三人の中心にある小テーブルに、用意して来たものを置いた。
「これは……、魔獣の核ね? 」
「そうです。正確に言うと、シャドウスパイダーの核です」
「それで? これを使ってなにを造ろうと言うの? 」
「魔獣の核はそれぞれに特徴が違うのはみなさんもご存じだと思います。ゴブリンの核は動物の心臓のような形ですし、スライムの核は――」
「やや粘着質なのよね。触れると少し粘っこいというか……」
「そうです。それで、このシャドウスパイダーの核は、幾重にも糸が織り込まれたような形状をしています。……まずはみなさん、これを見てください」
三人の見ている目の前で、慎重に、俺はシャドウスパイダーの核を指で解きほぐしていく。
この核をエレノアとともに初めて見たとき、この世界にある普通の繊維とは違っていることに俺は気が付いたのだ。
この世界の繊維はほぼすべてが「綿」と「麻」で出来ているのだが、この糸は、どこか肌触りが「ウール」に似ていたのだ。
「この糸をほぐすのに若干のコツが必要なのですが、エレノアさんに教わった魔術コントロールを応用しながら行うと、核が崩壊しないように上手く糸だけを取り出せるんです」
三人はすっかり俺の工程に魅入っており、もはや誰も一言も相槌すら打たない。
「その次に、“加工士”だけが持っている、“織力”というスキルを用います。これは言うまでもないですが、“物乞い”を使って手に入れたスキルです。……そこにさらに、“聖騎士”の“聖なる共鳴”というスキルアップのバフを重ね掛けする……」
“織力”は加工士が繊維を加工する際に用いるスキルだが、普通、シャドウスパイダーの核に用いることはない。
魔獣の核は通常、極めて取り扱いが難しく、そんなものを繊維として加工するなどということは、この世界の常識からは極めて逸脱しているのだ。
「……すると、柔らかで暖かな、ふわふわとした素材が出来上がるのです。これを用いれば、今ある繊維よりもずっと保温性に優れた、暖かな衣服が造れると思うんです」
この世界には羊に当たる動物がいない。
元の世界ほど文明の発達していないこの国では、その為、麻や綿が発展して来た。
だが、俺が使ったこの技術を駆使すれば、元の世界で言うところの「ウール」に当たるものが、こちらでも製造できると考えたのだ。
「物凄い技術だわ……、それに、触ると、とっても暖かい……! 」
出来上がった繊維に掌を当てて、セシリアがそう感嘆する。
「すごい……! すごい発明ですよ、これ……! 」
と、アニーが俺の隣で、両手を胸の前で握り締めて、ぴょんぴょんと跳ねている。
「……発想もすごいが、技術力が凄すぎるな……」と言ったのは、パルサーだ。「普通は魔獣の核を加工して繊維を作ろうなんて考えない。……これは、多分、君にしか出来ない特殊技術だと思う……! 」
“良くこんなことを思いついたな”とパルサーが続けた一言に、俺はつい、
「この国の冬の寒さは本当に辛いですから。なかには、冬を越せない第四階級の人もいるくらいなんです……」
と、過去のことを思い返し、暗いトーンでそう零していた。
なにかを察したのか、さっきまで明るいムードだったこの部屋に、葬式のあとのような暗い雰囲気が広がって行った。
「あ……」と、その空気の変化を感じて、「す、すいません! つい、暗いことを言ってしまって……! 」と言うと、
「いや、違うんだ」
と、パルサーが顔の前で手を振って、こう続けた。
「……僕はただ、感心したんだよ。涼くん、君は本当に、いつも他人のことを考えてくれているね。“チート”と呼ばれる特殊なスキルを持っていても、その力に溺れることがまったくない。今だって、自分が昔寒い想いをしたということより、”今も“寒い想いをしている第四階級の人々の為に、この繊維を考えたって感じだ。……そのことに、つい感激してしまったんだよ」
「パルサーさん……」
「そうね」と、セシリアがそれに賛同する。「涼くんは本当に、自分以外のひとのことばかりを考えているわね。……もっとも、そんなお人好しなところに、私たちは惹かれているのかもしれないわ」
気がつくと、ここにいるみんなが、暖かい目で俺を眺めてくれていた。
その暖かな眼差しに触れると、“もっと頑張りたい”、“もっとみんなの役に立つことがしたい……!”、そんな思いが、俺の奥から次々と溢れ出て来る。
「それじゃあ、これを商品化する段取りを決めましょうか。最近、繊維工場を作ったという話ですから、この話に、きっとロジャーさんも噛んでくれると思うわ。さあ、みんな、気合を入れるわよ。……新しい繊維の発明ですからね、この国の繊維業界に、大きな革命が起きるわよ」
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