33 / 64
33,魔力コントロールの成果。
しおりを挟む
”霧晴れの小迷宮“の攻略はそれほど難しいものではなかった。
棲息している魔獣は主に大熊グリズリーと一角兎アルミラージであり、数の多いアルミラージの群れも上手く魔力量をセーブすることでバック・フラッシュを起こさずに討伐出来ていた。
そこで得た素材も高品質なものが多く、特にグリズリーの皮は綺麗に剥ぎ取れさえすればかなりの高額で買い取ってもらえる。この時点でアイテムボックスにしまった素材だけでも、今回の冒険は相当な収入が見込めそうだった。
「そろそろ例のアイデアを試してみたらどうだ」
エレノアが俺の背後からそう呟いたのは、ダンジョンの最奥にあるドーム状の拓けた空間に辿り着いたときのことだ。
エレノアは以前にもここに来たことがあるのか、まるで敵がどの方向からやって来るか予め知っていたかのように、西側の狭い洞穴を注視した。
「試してみます……! 」
と呟き、俺は予め用意しておいた背中の弓を手前に担ぎ直し、そこに矢をセットする。
と、ちょうどそのとき、エレノアが見つめていた狭い洞穴から、無数の、それも莫大な数の小型の魔獣が飛び出してくる。
“シャドウスパイダーの群れ”である。
「いいか、涼。焦るなよ。お前がきちんと実力を発揮すれば、ここの魔獣はお前の敵ではないんだ」
溢れ出したシャドウスパイダーの群れはあっという間にこの広場全体に広がり、すでにそこから数メートル四方の足元を完全に暗く覆い尽くした。
一見すると大きく広げた黒い布のようだが、その正体は小型の魔獣の群れであり、このまま飲み込まれれば命はない。一匹一匹の力はさほど強くはなくても、口内の牙は鋭利であり噛みつかれれば人間の皮膚ではひとたまりもない。
「“炎のエンチャント”」
と呟き、俺は右手に握った矢に、それを刻印する。
そしてさらに、そこに弓士だけが扱える特殊なスキルを重ね掛けする。
「“多重弾雨”」
この技は本来、一本の弓を弓士のスキルによって複数化させ、それを敵の頭上に雨の様に降らす技だが、今回はそこに”炎のエンチャント“を重ね掛けしてある。
つまり……、
ゴオオオオオオオ!!!!
と、炎を纏った矢が雨のように辺り一帯に降り注ぎ、それが一気に幅広い炎の絨毯となって燃え上がる。
一面に広がっていたシャドウスパイダーの群れは、この炎に包まれてわずか数秒で消し炭となっていった。
「……出来るとは思っていたが、実際目の当たりにすると、凄まじい威力だな……」
と、エレノアが少々呆れたような様子で、そう口にする。
それから、
「……ただし、複数職のスキルを重ね掛けする技術は、よりバックフラッシュを起こしやすいリスクがある。どうだ。眩暈や頭痛はしないか? 」
「……ほんの少し、軽い眩暈のようなものを、感じます」
「そうか。魔力コントロールは大分うまくなったが、まだ完ぺきではない、ということだ。いいか。引き続き気を引き締めて、精進しろ」
「ありがとうございます、そうします! 」
と答えると、俺の威勢の良い返事が嬉しかったのか、エレノアは笑みを浮かべて俺の背中を強く叩いた。
俺の成長を感じてエレノアが喜んでくれるということが、俺にとっても、なによりも嬉しいことのひとつだった。
シャドウスパイダーはその身体の核に“魔獣の核”を持っており、これは強い衝撃を与えても破損することがない。
炎のエンチャントを掛けた“多重弾雨”によって辺りはシャドウスパイダーの死骸で溢れていたが、やがて、その死骸はすうっと煙のように消え去り、あとには光り輝く“核”が残る。
それはさながら、大きな波の去ったあとに砂浜に残る、莫大な数の真珠といった様相だ。
「さあ、とんでもない数の“核”が手に入ったぞ。これを拾い集めて街に戻るとしよう。……おっと、お前には“採取”スキルがあるんだったな。拾い集めるまでもなく、そのスキルでいっぺんに回収することが出来る、か」
エレノアのその言葉通り、俺は”採取“スキルを唱えた。そして一面に広がっていた輝く”核“は、まるで掃除機に吸い込まれた埃のように一斉に俺の手元へと吸い寄せられてきたのだった。
棲息している魔獣は主に大熊グリズリーと一角兎アルミラージであり、数の多いアルミラージの群れも上手く魔力量をセーブすることでバック・フラッシュを起こさずに討伐出来ていた。
そこで得た素材も高品質なものが多く、特にグリズリーの皮は綺麗に剥ぎ取れさえすればかなりの高額で買い取ってもらえる。この時点でアイテムボックスにしまった素材だけでも、今回の冒険は相当な収入が見込めそうだった。
「そろそろ例のアイデアを試してみたらどうだ」
エレノアが俺の背後からそう呟いたのは、ダンジョンの最奥にあるドーム状の拓けた空間に辿り着いたときのことだ。
エレノアは以前にもここに来たことがあるのか、まるで敵がどの方向からやって来るか予め知っていたかのように、西側の狭い洞穴を注視した。
「試してみます……! 」
と呟き、俺は予め用意しておいた背中の弓を手前に担ぎ直し、そこに矢をセットする。
と、ちょうどそのとき、エレノアが見つめていた狭い洞穴から、無数の、それも莫大な数の小型の魔獣が飛び出してくる。
“シャドウスパイダーの群れ”である。
「いいか、涼。焦るなよ。お前がきちんと実力を発揮すれば、ここの魔獣はお前の敵ではないんだ」
溢れ出したシャドウスパイダーの群れはあっという間にこの広場全体に広がり、すでにそこから数メートル四方の足元を完全に暗く覆い尽くした。
一見すると大きく広げた黒い布のようだが、その正体は小型の魔獣の群れであり、このまま飲み込まれれば命はない。一匹一匹の力はさほど強くはなくても、口内の牙は鋭利であり噛みつかれれば人間の皮膚ではひとたまりもない。
「“炎のエンチャント”」
と呟き、俺は右手に握った矢に、それを刻印する。
そしてさらに、そこに弓士だけが扱える特殊なスキルを重ね掛けする。
「“多重弾雨”」
この技は本来、一本の弓を弓士のスキルによって複数化させ、それを敵の頭上に雨の様に降らす技だが、今回はそこに”炎のエンチャント“を重ね掛けしてある。
つまり……、
ゴオオオオオオオ!!!!
と、炎を纏った矢が雨のように辺り一帯に降り注ぎ、それが一気に幅広い炎の絨毯となって燃え上がる。
一面に広がっていたシャドウスパイダーの群れは、この炎に包まれてわずか数秒で消し炭となっていった。
「……出来るとは思っていたが、実際目の当たりにすると、凄まじい威力だな……」
と、エレノアが少々呆れたような様子で、そう口にする。
それから、
「……ただし、複数職のスキルを重ね掛けする技術は、よりバックフラッシュを起こしやすいリスクがある。どうだ。眩暈や頭痛はしないか? 」
「……ほんの少し、軽い眩暈のようなものを、感じます」
「そうか。魔力コントロールは大分うまくなったが、まだ完ぺきではない、ということだ。いいか。引き続き気を引き締めて、精進しろ」
「ありがとうございます、そうします! 」
と答えると、俺の威勢の良い返事が嬉しかったのか、エレノアは笑みを浮かべて俺の背中を強く叩いた。
俺の成長を感じてエレノアが喜んでくれるということが、俺にとっても、なによりも嬉しいことのひとつだった。
シャドウスパイダーはその身体の核に“魔獣の核”を持っており、これは強い衝撃を与えても破損することがない。
炎のエンチャントを掛けた“多重弾雨”によって辺りはシャドウスパイダーの死骸で溢れていたが、やがて、その死骸はすうっと煙のように消え去り、あとには光り輝く“核”が残る。
それはさながら、大きな波の去ったあとに砂浜に残る、莫大な数の真珠といった様相だ。
「さあ、とんでもない数の“核”が手に入ったぞ。これを拾い集めて街に戻るとしよう。……おっと、お前には“採取”スキルがあるんだったな。拾い集めるまでもなく、そのスキルでいっぺんに回収することが出来る、か」
エレノアのその言葉通り、俺は”採取“スキルを唱えた。そして一面に広がっていた輝く”核“は、まるで掃除機に吸い込まれた埃のように一斉に俺の手元へと吸い寄せられてきたのだった。
10
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。
みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ!
そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。
「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」
そう言って俺は彼女達と別れた。
しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる
六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。
強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。
死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。
再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。
※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。
※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる