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29,エレノアの気持ち。
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※今回はエレノア目線の話です。
両親が亡くなってから、私はずっと強い孤独感を抱いて生きて来た。
冒険者として成功を収め、仲間たちとパーティーを組むようになっても、この孤独の溝は完全には埋められなかった。
だが、涼の師匠を務めるようになってから、その孤独感は以前よりもずっと薄らいだような気がする。
……涼は不思議な男だ。
この男が彼方人であるせいもあるだろうが、理由はきっと、それだけではない。
この男にはほかの男にはない粘り強さや、その穏やかそうな外見からは計り知れない、執念深さがある。
涼はアニーと結託してこの世界を変えるつもりでいるが、……そんなことが可能なのだろうか。
この世界に蹴っ飛ばされた奴は大勢いるが、それでも、この世界を蹴っ飛ばし返してやろうと思う奴はどこにもいなかった。
だが、涼はそれをやろうと言うのだ。
そして、それをやれるだけの底力を涼は確かに裡に秘めている。
「エレノアさん、……魔力をセーブしながらこの洞窟内のコボルト征伐、やれそうな気がします……! 」
縦型に深いこの洞穴内のコボルト征伐も、涼はなんなくこなしているようだ。
扱えるスキルの数も、常人からは並外れた種類がある。それも、覚えようと思えば、新たにいくらでも覚えることが出来るというのだ。
「……おい、涼。魔力が乱れ始めているぞ! 」
「は、はい! 」
「まずは呼吸を整えろ。始まりはいつでも呼吸だ。呼吸が乱れれば、魔力も乱れる」
「わかりました。気を付けます! 」
まだまだ危ういところはあるものの、それでも、魔力コントロールは以前よりも遥かに上達している。
その上達スピードも誰が見ても才能アリといったところで、文句のつけようがない。
“成人の儀”を受けて以来、私はこの国で神童として扱われ、冒険者の先頭グループをひた走ってきた。
だが、それでも、A級ランクを越えたS級冒険者にはなることが出来なかった。
自分の才能が足りないと言うよりも、むしろ、それ以上行くには私にはモチベーションが足りなかったのだ。
クエストをいくらこなし、いくら冒険者のランクを上げても、私のなかに張った根深い孤独感は決して癒えることがなかった。
コボルトと、その奥に現れたオーク。その多数の魔獣と戦う涼に目を向けながら、私はこの洞穴の底に落ちている古い腕輪を拾い上げる。
腕輪には“エレノア”と、拙い字で書かれている。
それは以前、私がここで落とした腕輪だ……。
あのときに出来た心の傷などとっくに塞がっていたと思っていたのに、事実、涼がいなければ私はこの洞窟に足を踏み入れることが出来なかった。
何度も来ようと思いながら、ずっと足を向けずに来たのだ。
涼という仲間が出来て、ようやく私はこの腕輪を回収することが出来た。
まったく。
私は迷子になった幼い少女のようではないか。
涼のそばにいると、ずっと独りぼっちで生きて来た寂しさが、親を見つけた迷子の子のように、すうっと晴れ渡っていくような気がする。
問題は……、最近はそれとは“別の感情”が私のなかに芽生え始めていることである。
最近は涼を見ていると、不思議な、光り輝く暖かみのようなものが、胸の底から湧いて出てくる。
この感情のことを、世間ではなんと呼ぶのだろう。
冒険ばかりしてきた私には、この感情の正体が上手く掴めないのだ。
……まさかな、と思い、私は出来るだけこの感情に蓋をすることに決めていた。
だって、そうではないか。
自分の教え子に師匠が恋愛感情を抱くなんて、決してあってはならないことなのだから。
両親が亡くなってから、私はずっと強い孤独感を抱いて生きて来た。
冒険者として成功を収め、仲間たちとパーティーを組むようになっても、この孤独の溝は完全には埋められなかった。
だが、涼の師匠を務めるようになってから、その孤独感は以前よりもずっと薄らいだような気がする。
……涼は不思議な男だ。
この男が彼方人であるせいもあるだろうが、理由はきっと、それだけではない。
この男にはほかの男にはない粘り強さや、その穏やかそうな外見からは計り知れない、執念深さがある。
涼はアニーと結託してこの世界を変えるつもりでいるが、……そんなことが可能なのだろうか。
この世界に蹴っ飛ばされた奴は大勢いるが、それでも、この世界を蹴っ飛ばし返してやろうと思う奴はどこにもいなかった。
だが、涼はそれをやろうと言うのだ。
そして、それをやれるだけの底力を涼は確かに裡に秘めている。
「エレノアさん、……魔力をセーブしながらこの洞窟内のコボルト征伐、やれそうな気がします……! 」
縦型に深いこの洞穴内のコボルト征伐も、涼はなんなくこなしているようだ。
扱えるスキルの数も、常人からは並外れた種類がある。それも、覚えようと思えば、新たにいくらでも覚えることが出来るというのだ。
「……おい、涼。魔力が乱れ始めているぞ! 」
「は、はい! 」
「まずは呼吸を整えろ。始まりはいつでも呼吸だ。呼吸が乱れれば、魔力も乱れる」
「わかりました。気を付けます! 」
まだまだ危ういところはあるものの、それでも、魔力コントロールは以前よりも遥かに上達している。
その上達スピードも誰が見ても才能アリといったところで、文句のつけようがない。
“成人の儀”を受けて以来、私はこの国で神童として扱われ、冒険者の先頭グループをひた走ってきた。
だが、それでも、A級ランクを越えたS級冒険者にはなることが出来なかった。
自分の才能が足りないと言うよりも、むしろ、それ以上行くには私にはモチベーションが足りなかったのだ。
クエストをいくらこなし、いくら冒険者のランクを上げても、私のなかに張った根深い孤独感は決して癒えることがなかった。
コボルトと、その奥に現れたオーク。その多数の魔獣と戦う涼に目を向けながら、私はこの洞穴の底に落ちている古い腕輪を拾い上げる。
腕輪には“エレノア”と、拙い字で書かれている。
それは以前、私がここで落とした腕輪だ……。
あのときに出来た心の傷などとっくに塞がっていたと思っていたのに、事実、涼がいなければ私はこの洞窟に足を踏み入れることが出来なかった。
何度も来ようと思いながら、ずっと足を向けずに来たのだ。
涼という仲間が出来て、ようやく私はこの腕輪を回収することが出来た。
まったく。
私は迷子になった幼い少女のようではないか。
涼のそばにいると、ずっと独りぼっちで生きて来た寂しさが、親を見つけた迷子の子のように、すうっと晴れ渡っていくような気がする。
問題は……、最近はそれとは“別の感情”が私のなかに芽生え始めていることである。
最近は涼を見ていると、不思議な、光り輝く暖かみのようなものが、胸の底から湧いて出てくる。
この感情のことを、世間ではなんと呼ぶのだろう。
冒険ばかりしてきた私には、この感情の正体が上手く掴めないのだ。
……まさかな、と思い、私は出来るだけこの感情に蓋をすることに決めていた。
だって、そうではないか。
自分の教え子に師匠が恋愛感情を抱くなんて、決してあってはならないことなのだから。
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