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20,エレノアとアニー。
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※前回に引き続きエレノア目線の話です。
ガブリエルとの話し合いを済ませたあと、私は彼の部屋を出て夜風の吹く街に出て行った。
そのまま噴水広場へと南下し、さらに南へと向かい、川沿いに沿って西に歩いた。
川沿いの道を抜けたフィヨルの丘は張り詰めた冷気が満ちていた。私は丈の短い茂みの坂道を上り、たった一軒建っている、小さな家を訪ねた。
「彼に女性の趣味について尋ねたことがある? 」
「いえ、ありませんけど……」
と、この国で最も美しい女性の一人と言われる聖女は、私の問いにぽかんと口を開けていた。
「自分から話しているのを聞いたことは? 彼は巨乳派? 貧乳派? 」
「きょ、巨乳……? 貧乳?? 」
「あなたのおっぱいはずいぶん豊かだから、巨乳派であれば幸いね。……それにあなた、お尻もずいぶん形が綺麗ね。申し分ないわ」
アニーは顔を真っ赤にして衣服の上から胸を押さえ、身を仰け反らす。
「私は顔相で人の性癖が見抜けるという特技があるのだけれど、あの子、多分、清楚な女の子を虐めるのが好きなタイプよ。ちょっとしたSっ気があると思うわ」
「え、S??? 」
「清楚さで言えばあなたはジャストミートってところね。よほど変なことをしなければ、きっとあなたの想いは届くはずよ」
「さ、さっきから、いったいなんの話をしているんですか??? 」
あまりにも初心な彼女に、私は少し悪戯したい気持ちが湧く。
それでこんなことを言った。
「“なんの話を”とは言うけれど、”誰の話“とは聞かないのね」
この話が“涼について”だとは私は一言も口にしていなかったのだ。
するとアニーはまるで爆発したようにさらに顔を赤くし、「……もうやめてください」と小声で言うと、腕を十字にしてその可愛い顔を完全に隠してしまうのだった。
しばしの彼女の抗議を受けたあと、私たちは外に出て夜風に当たった。
「自分から言うことじゃないでしょうけど、私、それなりに異性から人気があるのよ」
「……わかります」
と、アニーは私の全身を眺め、そう言った。
「そりゃあ若い時より老けたかも知れないけれどね、それでも、ずいぶん若い年下の冒険者に求婚されることもあるわ」
アニーはハッとした表情になり、困った顔を私に向ける。
「でもね、安心して。彼とはそういう関係には決してならないから。私が彼に近づくのはそういうことでは全然ないの。ただ純粋に興味があるのよ。あれほどの才能の持ち主が、私が教えることでどれだけの高みに到達できるのか」
アニーはほっと胸を撫で下ろし、「……良かった」と小さな声で呟いた。
「それでも私、あなたには一言断りを入れておく必要があると感じたの。“あなたの大切なあの人を、私は決して盗ったりはしない”って」
するとアニーは、怒ったように頬を膨らませて、
「……そんなに私の気持ちって、周りから見てわかりやすいですか? 」と上目遣いに私を見つめた。
「分かりやすいわね」と私は笑った。「すぐに分かったわ。だってあなた、私が彼と話をしているだけで、部屋の隅からじっと私を睨みつけるんですもの」
「私、本当にそんなことしていますか……? 」
と、アニーは驚いた表情を浮かべて言った。
「しているわ。きっとあなたは自覚なくやっているんでしょうけどね」
大切なことを伝え終え、そろそろ帰ろうかと思ったとき、アニーが私を引き止めて言った。
「エレノアさん。来週から王都の騎士学園で講師の仕事をされると聞いていました。でも、涼さんに就いてマンツーマンで魔術のコントロールの仕方を教えるとあなたは仰います。……その、差し出がましいのですけど、講師の仕事の方は大丈夫なのですか? 」
「言い忘れていたわね」と、私はきっぱりと言った。「講師の話は断ったの。王都には行かないわ」
「え!? 」と、アニーが驚く。「でも、話はもうまとまっていたのですよね……? 」
「そうよ。だから、講師の仕事を紹介してくれた親友にも迷惑が掛かってしまったわ」
「その方とは、大丈夫なのですか……? 」
「大丈夫、とは? 」
「お二人の関係が壊れてはしまわないのですか……? 」
私は思わず笑って言った。
「その親友っていうのがね、ものすごく良い奴なの。仕事が始まる一週間前になって断ったって言うのに、彼、ものすごく嬉しそうな顔を浮かべてこう私を送りだしてくれたのよ」
「……なんて言われたのですか? 」
「なにかに挑戦しているときが君は一番輝いて見える。……君が選んだ仕事がなんであれ、僕はその輝きが見られれば充分だよ、って」
アニーは射貫かれたような表情を浮かべて口元を手で覆い、
「……それは、素敵な言葉ですね」
とその目の奥を微かに潤ませた。
「そうね」
と、私は同意した。
「ガブリエルはいつでも私に優しい、とても素敵な友人なの。ちょうど田村涼があなたにとって、いつでも優しい素敵な友人であるようにね」
アニーは今度は私から顔を背けることなく、照れながらもはっきりと、「はい……! 」とだけ頷いた。
ガブリエルとの話し合いを済ませたあと、私は彼の部屋を出て夜風の吹く街に出て行った。
そのまま噴水広場へと南下し、さらに南へと向かい、川沿いに沿って西に歩いた。
川沿いの道を抜けたフィヨルの丘は張り詰めた冷気が満ちていた。私は丈の短い茂みの坂道を上り、たった一軒建っている、小さな家を訪ねた。
「彼に女性の趣味について尋ねたことがある? 」
「いえ、ありませんけど……」
と、この国で最も美しい女性の一人と言われる聖女は、私の問いにぽかんと口を開けていた。
「自分から話しているのを聞いたことは? 彼は巨乳派? 貧乳派? 」
「きょ、巨乳……? 貧乳?? 」
「あなたのおっぱいはずいぶん豊かだから、巨乳派であれば幸いね。……それにあなた、お尻もずいぶん形が綺麗ね。申し分ないわ」
アニーは顔を真っ赤にして衣服の上から胸を押さえ、身を仰け反らす。
「私は顔相で人の性癖が見抜けるという特技があるのだけれど、あの子、多分、清楚な女の子を虐めるのが好きなタイプよ。ちょっとしたSっ気があると思うわ」
「え、S??? 」
「清楚さで言えばあなたはジャストミートってところね。よほど変なことをしなければ、きっとあなたの想いは届くはずよ」
「さ、さっきから、いったいなんの話をしているんですか??? 」
あまりにも初心な彼女に、私は少し悪戯したい気持ちが湧く。
それでこんなことを言った。
「“なんの話を”とは言うけれど、”誰の話“とは聞かないのね」
この話が“涼について”だとは私は一言も口にしていなかったのだ。
するとアニーはまるで爆発したようにさらに顔を赤くし、「……もうやめてください」と小声で言うと、腕を十字にしてその可愛い顔を完全に隠してしまうのだった。
しばしの彼女の抗議を受けたあと、私たちは外に出て夜風に当たった。
「自分から言うことじゃないでしょうけど、私、それなりに異性から人気があるのよ」
「……わかります」
と、アニーは私の全身を眺め、そう言った。
「そりゃあ若い時より老けたかも知れないけれどね、それでも、ずいぶん若い年下の冒険者に求婚されることもあるわ」
アニーはハッとした表情になり、困った顔を私に向ける。
「でもね、安心して。彼とはそういう関係には決してならないから。私が彼に近づくのはそういうことでは全然ないの。ただ純粋に興味があるのよ。あれほどの才能の持ち主が、私が教えることでどれだけの高みに到達できるのか」
アニーはほっと胸を撫で下ろし、「……良かった」と小さな声で呟いた。
「それでも私、あなたには一言断りを入れておく必要があると感じたの。“あなたの大切なあの人を、私は決して盗ったりはしない”って」
するとアニーは、怒ったように頬を膨らませて、
「……そんなに私の気持ちって、周りから見てわかりやすいですか? 」と上目遣いに私を見つめた。
「分かりやすいわね」と私は笑った。「すぐに分かったわ。だってあなた、私が彼と話をしているだけで、部屋の隅からじっと私を睨みつけるんですもの」
「私、本当にそんなことしていますか……? 」
と、アニーは驚いた表情を浮かべて言った。
「しているわ。きっとあなたは自覚なくやっているんでしょうけどね」
大切なことを伝え終え、そろそろ帰ろうかと思ったとき、アニーが私を引き止めて言った。
「エレノアさん。来週から王都の騎士学園で講師の仕事をされると聞いていました。でも、涼さんに就いてマンツーマンで魔術のコントロールの仕方を教えるとあなたは仰います。……その、差し出がましいのですけど、講師の仕事の方は大丈夫なのですか? 」
「言い忘れていたわね」と、私はきっぱりと言った。「講師の話は断ったの。王都には行かないわ」
「え!? 」と、アニーが驚く。「でも、話はもうまとまっていたのですよね……? 」
「そうよ。だから、講師の仕事を紹介してくれた親友にも迷惑が掛かってしまったわ」
「その方とは、大丈夫なのですか……? 」
「大丈夫、とは? 」
「お二人の関係が壊れてはしまわないのですか……? 」
私は思わず笑って言った。
「その親友っていうのがね、ものすごく良い奴なの。仕事が始まる一週間前になって断ったって言うのに、彼、ものすごく嬉しそうな顔を浮かべてこう私を送りだしてくれたのよ」
「……なんて言われたのですか? 」
「なにかに挑戦しているときが君は一番輝いて見える。……君が選んだ仕事がなんであれ、僕はその輝きが見られれば充分だよ、って」
アニーは射貫かれたような表情を浮かべて口元を手で覆い、
「……それは、素敵な言葉ですね」
とその目の奥を微かに潤ませた。
「そうね」
と、私は同意した。
「ガブリエルはいつでも私に優しい、とても素敵な友人なの。ちょうど田村涼があなたにとって、いつでも優しい素敵な友人であるようにね」
アニーは今度は私から顔を背けることなく、照れながらもはっきりと、「はい……! 」とだけ頷いた。
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