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17,とある提案。

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 大盛況で終わりつつあった会の終盤、

 「涼くん、ちょっと良いかな」
 
 と、ギルドからついてきてくれていたパルサーが部屋の隅に俺を呼んだ。
 「はい、なんでしょう! 」
 と駆け寄ると、そこには先程のセシリアが立っていた。
 「君の抱えている問題について彼女と話し合っていたんだ」と、パルサーがそんなことを言った。
 「俺の抱えている問題、ですか……? 」
 パルサーが静かに頷く。「以前、モンスターと戦闘中にバック・フラッシュを起こしたと言ったね」
 「ええ。言いました。ときどき起こるんです。幸い、バック・フラッシュが起きたときには戦闘は終わっていたので、身の危険はありませんでしたが……」
 「その症状は、スキルを多用したあとに、意識を失う、といったような感じ? 」
 と、セシリアが俺の方を向いて言った。
 「ええ。まさにその通りです。スキル自体は使えても、なにか、まだどこかでそのスキルを上手く扱えていない、という感じがするのです」
 「ふうん……」と言って、セシリアが腕を組んだ。それから言った。「あなた、魔力量がとても多いのじゃない? 」
 「……確かに、涼くんはとてつもなく魔力量が多いですよ。水晶の測定でも、あのヒュデルを上回ったほどです」
 「あのヒュデルを?? 」と、セシリアがびっくりした顔を浮かべて、そう言う。「それはよっぽどね……」
 「魔力量が多いと、バック・フラッシュを起こしやすいのですか? 」
 と俺が聞くと、
 「ひとつの要因であるのは確かね。それだけではないのだけれど……。でも、こういう問題に詳しいのは、私ではなく、もっと適任の人がいるわ。ねえ、エレノア! エレノア! 」
 セシリアはそう叫ぶと、大部屋の隅にいたひとりの女性を呼び寄せた。
 その女性はこの部屋のなかでたった一人深いフードを被っており、この騒ぎのなかでも唯一冷静さを保っていた女性だった。

 「なあに、お姉さま」
 エレノアと呼ばれた女性は、近くまで来るとフードを被ったままそう言った。
 「彼女はエレノア。私の妹よ。ねえ、あなた、人と話すんだからフードくらい取ったら? 」

 するとエレノアは、無言のままそのフードを脱いだ。
 その顔を見て、思わず「え……」と驚きの声を漏らしてしまう。
 フードのなかから顔を見せたのは、隣に立つセシリアと全く同じ顔をした熟年の美女だったのだ。

 「びっくりしたでしょう。彼女は私の双子の妹なの。私たちの親でも見分けがつかないくらい、そっくりなのよ」
 と、半ば誇らしげにセシリアがそう言う。
 「ただ、性格が全然違ってね。私の方はお喋りで社交的なほうなんだけど、この娘はねえ……」
 セシリアにそう言われても、エレノアは沈黙を貫いており、真顔のまま俺を見ている。
 
 「エレノアさんの方が適任というのは、どういう意味なんです? 」
 とパルサーが聞くと、
 「ああ。この娘はね、私と違って優秀な冒険者なのよ。ヒュデルほどではないのだけれど、莫大な魔力量を持っているし、しかも、この世界で唯一の、複数職持ちなの」
 「複数職持ち!? それはまた、特殊ですね……」と、パルサーが唸る。
 「魔力量の多さと、職が二つあるせいで、エレノアは若いときにずいぶん魔力のコントロールに苦労したのよ。涼さんと同じように、バック・フラッシュも良く起こしていたわ。その辺りのことを聞くのなら、この娘ほど適任の人はいないでしょうね」
 
 「あなた、バック・フラッシュを起こしたことがあるの? 」
 と、エレノアが真っ直ぐ俺の目を見据えて、そう言った。
 「ええ、はい。何度か、スキルを多用したあとに、気を失ってしまって……」
 「……複数職のスキルを扱える? 」
 「ええ。いくつかの職のスキルを、扱えます」
 「そんな気がしたわ。……手を握っても良い? 私は手を握ると、相手の魔力の流れを感じ取ることが出来るの」
 「どうぞ」
 と答えると、エレノアは目を瞑って俺の手を握った。それから、
 「嘘でしょう……!? とてつもない魔力量ね……。それも、どういうわけか、今なお増え続けている……! 」
 「そんなことがあるのか……! 」と、パルサーが驚嘆する。
 「これほどの莫大な魔力量が絶えず膨張をしていれば、コントロールは相当難しいでしょうね……。しかも、複数職のスキルを使うとなると、コントロールはさらに難しくなる。……バック・フラッシュを起こすのも無理はないわ」
 「どう? 改善は出来そう? 」
 と、セシリアが心配そうにエレノアに尋ねる。
 「……少しずつ時間を掛けて訓練をすれば、恐らくものに出来るでしょうね。見たところ、才能もありそうだもの」
 そう言うと、エレノアは初めて俺に微笑みかけてくれた。厳しそうな人という印象だったが、案外、優しいのかもしれない。
 「あなた、涼、と言ったわね……。魔力のコントロールを教えてくれる師匠はいるの? 」
 「いえ、いません。すべて独学で……」
 「そうだと思ったわ……。誰か有能な人が、師匠になってくれれば良いのだけど……」
 「あなたがなったら良いじゃない」
 と、いかにも当然とばかりに、セシリアが言った。
 「ぼ、僕からもお願いします! 」と、パルサーがそれに追随する。
 エレノアは一瞬驚いた顔を浮かべたが、しばらく思案したあと、
 「出来ないわ」と言った。
 「な、なぜです!? 」とパルサーが問うと、
 「……申し訳ないのだけれど、来月から王都にある騎士学園で講師を担当することに決まっているの。去年、冒険者を引退して、今年から教える側に回ることになったのよ」
 「そうだったわ……」と、セシリアが手の甲を眉間に当てて言う。「この娘、冒険者としてとても優秀だったから、破格の待遇で講師に誘われたのよ。それが来月からだったのね。私もすっかり忘れていたわ」
 「そうか……。それは、どうにもなりませんね……」
 と、パルサーがいかにも残念そうに、頭を項垂れる。

 話はそれで終わったのだが、無理だ、と言った当のエレノアは、俺の手を名残り惜しそうに握り締めたまま、その後もしばらくは険しい顔でなにかを考え込んでいた。

 今思うとそれは、俺の冒険者人生を変える大きなきっかけとなるのだった。






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