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26,思わぬ助け。
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商会に招かれたのは初夏の匂いのする、七月の始めのことだ。
用意された馬車に乗って商会のある街の北西へと向かいながら、なぜこんなことになったのだろう……と困惑せずにいられなかった。
なぜだかわからないが、なにかを造るたびに、それが大きな話題となり、大きな勢力と関わり合うことになる……。
「これがロジャー商会か……。とんでもない大きさの屋敷だな」
と、馬車の窓から高台にある屋敷を見上げながら、俺はそう零す。
少しばかり、この状況に辟易としながら……。
「待っていました。涼さん。ようこそロジャー商会にお越しくださいました」
そう言って馬車の前まで俺を出迎えたのは、意外なことに、あのアニーだった。
「え……、アニーさん……!? なぜここに……?? 」
「私たちフランダルス一家は、昔からロジャー商会と深い繋がりがあるのです。今回は、ロジャー商会の経営陣があなたと会うと聞いて、案内役を私の方から買って出たのです。さあ、馬車をお降りになって下さい。屋敷のなかを、ご案内いたしますから」
◇◇
「初めまして、田村涼さん。私がロジャー商会の会長を務める、ロジャー・バレンティンです。どうぞ、長い道中でお疲れでしょうから、腰掛けてください」
バレンティンはそう言うと、長机の中央を掌で示し、俺に座るよう促した。
バレンティンは白髪の初老の太った男である。見るからに有能そうで、見るからに、隙がない。
「早速ですが、あの化粧品はどのように造られたのでしょう? 」
と、バレンティンが椅子に座るなり、そう口火を切る。
「造り方は、それほど難しくはありません。グリムホウンドの巣を殲滅させるというクエストがちょうどあったので、巣のなかで採れる材料を使ってジュースを造っただけのことです」
と、俺は長机の反対側に座ったロジャー商会の役員たちの顔ぶれに緊張し、少々しどろもどろになって、そう言う。
「材料というのは? 」
「ええと……」と、俺が説明しようとしたとき、
「失礼ですが」
と、バレンティンの二つ隣に座る男が、そう口を挟んだ。バレンティンが一瞬、そちらにキツイ視線を向ける。
「私の名はフィリップ・サザーランド。……失礼ですが、涼殿、ひとつ質問させていただいてよろしいか? 」
「ええ、どうぞ……」
「あなたの階級は、いったい、なに階級なのですかな? 」
フィリップがそう尋ねたとき、この部屋全体が凍りついたかのように、冷たい空気が張るのが感じられた。
恐らく、俺が来る前にもこのことについては話し合いが行われていたのだろう。
疑問、疑惑。そういったものを、フィリップが俺に直接ぶつけてきた、というシチュエーションに違いなかった。
「俺は……、第四階級の人間です」
ざわざわ、と役員たちが慄くのがわかる。
一瞬にして部屋の空気は最悪なものになり、耳にするのも嫌な言葉が、役員同士で囁かれる。
「職業について、尋ねても? 」
と、フィリップが続ける。
「職業は、物乞いです……」
ざわついていた場が、今度は一気に、湯を沸かしたように煮立った。
「物乞いだと……? 」「橋の下の住人を、この部屋に招き入れたというのか? 」
と、口々に役員たちが、信じられないという風に、罵倒の言葉を、口にし合う。
ほとんど唯一、会長であるバレンティンだけが、うんざりという風に首を左右に振っていた。
「失礼ですが、涼くん」
と、フィリップはもはや俺を見下す態度を隠そうともせず、こう言い放つ。
「我々に橋の下の住民であるあなたの言葉を信じろと? いったい、物乞いという職業の男が、どうやって優れた化粧品を造れるというのですかな? 」
「それは……」
と、俺の能力であるチートスキルに関わるこの質問に戸惑っていると、
「さっさと白状した方がよろしいかと思うのですが? 」
と、フィリップがさらに続ける。
「これは盗んだものなのだ、と」
は?
俺が盗んだ?
この薬品を?
あまりの無礼な言葉にかっとした怒りが一瞬湧くが、“これがこの世界なのだ”という想いが、すぐにそれに追随する。
どこまで行ってもこの世界には差別があり、第四階級の人間は、人間として扱われない。
ここでもそうなのだ……。
そう諦めかけたとき、部屋の入り口のドアをノックする者があった。
商会のメイドが慌てて入り口のドアを開くと、そこに立っていたのは、まったく意外な人物だった。
「すいません。遅れました」
そう言って部屋の中に入って来たのは、あのリリスの父親、ヴィクター・ナイトシェイドだったのだ。
「ヴィクターさん。どうしてここに……? 」
と、すっかり驚いて、俺がそう問うと、
「涼くん。良く来てくれたね。どうしてもなにも、私もここの役員なのだよ」
と、ヴィクターは相変わらず紳士そうに、ゆったりと笑って言った。
「……さて、話はどこまで進んだのですかな? 」
と、ヴィクターが役員全員に向かって問うと、
「彼が第四階級の人間であり、職業は物乞いであることが発覚したところです。……恐らくは例の化粧品も、誰かから盗んだものなのでしょう。今、それを確かめよう、というところです」
と、フィリップがいかにも楽しげに、そう説明する。
すると……、
「……それは、私と彼が“騎士の紋”を結んでいる、と知っての上での問いなのでしょうかな? 」
と、ヴィクターがぎらりとした鋭い眼差しを、フィリップに向けた。
「あなたが、彼と騎士の紋を……?? 」
ヴィクターは落ち着き払った表情で続けた。
「……私は以前、ここにいる田村涼殿とあることで深くわかり合うことになった。彼がどの階級にいるかなど私には関係ない。彼は人として優れた人物であり、私のことを救ってくれた。私には、それだけで信用するには充分だ。そしてそのとき、互いを信用するという証に、“騎士の紋”を結び合ったのだ」
すっかり静まり返った役員たちを見渡し、ヴィクターが続けた。
「だが、あなたたちは彼を信用できない、と言う。……それはつまり、彼と“騎士の紋”を結んでいる“私のことも”信用できない、ということだ。あなた方に覚悟がおありか? 私だけでなく、ナイトシェイド家全体を敵に回す覚悟が……? 」
フィリップを始め、さっきまで口汚く俺を叩いていた連中が、一斉に目を伏せ、怯える小動物のように、身を震わせ始めた。
ナイトシェイド家というのは、よほどこの国で大きな力を持っているのだろう。
「ナイトシェイド家を敵に回すかどうかはさておき……」
と、改めて口火を切ったのは、会長であるバレンティンだった。
「……わしも階級など問題ではないと思うね。優れた職人はどの階級にだっておるさ。それに、どうやって造ったかを尋ねたときに彼が口籠ったのは、この薬品を造るにあたって、特別な秘密が彼にはあるからだろう。違うかね? 涼くん」
「そ、それは、その通りです……」
「ふぉふぉふぉ」
バレンティンはいかにも性格良さそうに笑い、続ける。
「職人には他人に話せない製造上の秘密の一つや二つ、必ずあるものさ。それに、わしにはこの青年が人を騙すような人間には見えんがね……。なにより、そのような子悪党と、ヴィクターが騎士の紋を結び合うなどわしには想像もつかんことだ。……みんなはいかがかな? 」
バレンティンがそう問うと、残りの役員たちはすっかり消沈し、特にフィリップは悔しそうに俯いて唇を噛んでいる。
「……では、彼とこの薬品を売ってもらう方向で話を進めても構わんかな? 」
バレンティンはそう言うと、契約書とおぼしき紙を一枚、俺の前に丁寧な手つきで置いた。
そこに書かれていたものは、俺とロジャー商会との間の契約内容だった。
今回、この薬品を商会に渡すにあたって俺が受け取る報酬額について。
それから、今後俺が同じように化粧品を作成したとき、その化粧品を“必ず”ロジャー商会に売る、とういことについて……。
「これはつまり、俺にロジャー商会の専属になって欲しい、ということですか……? 」
「はっきり言えば、そうじゃ」
と、バレンティンが頷く。
「わしらとしては、君のような有能な配合士をよそに取られたくない。もちろん、君にとってのメリットもある。君の造るものに関して、我々は破格の報酬を支払うと約束しよう」
「……! 」
確かに、そこに書かれていた報酬額はとてつもない数字だった。
だが、懸念がないわけでもなかった。専属になるということは、ロジャー商会の為に、定期的に化粧品を造らねばならない、ということも意味する……。
「……専属になってしまうと、俺は定期的に化粧品を造らなければいけませんよね? 」
俺がそう懸念を口にすると、バレンティンは先回りしてこう答えた。
「そのことに関しては、心配はいらんよ。専属になったからといって、定期的に化粧品を造るよう君を煽ったりはせん。君はただ、気が向いたときだけ化粧品を造り、それを我々に手渡してくれれば良い」
「そ、そんなラフな契約で、良いんですか……? 」
「……君の化粧品は、この世界の基準から言えば群を抜いて優れている。それは“滅多に出回らないからこそ”価値がある、という側面もある。君の造るものには必ず、君のイニシャルを取って“R・T”というブランド名をつけよう。滅多に出回らないR・T製品は希少価値のおかげでより価値が増し、その上昇した価値は、我々の商会のブランドイメージをも高めてくれるだろう」
「会長! 」
と、フィリップが再び口を挟んだのはそのときのことだった。
「そのような甘やかした契約でよろしいのですか!? いささか、度を越しているのではないですか!? 」
ところが……、
「甘やかし? 」
と、今度もヴィクターがそれに応戦する。
「フィリップ殿はなにか勘違いしておられるようだ。甘やかしどころか、我々は涼くんに深く頭を下げなければならない立場なのだ。……これほどの化粧品は、どこの国でも見たことがない。婦人方がこの商品を求めて殺到するのは目に見えている。我々は、そんな優れた化粧品を、彼に”ご厚意で譲り渡して貰う立場“なのだ。……フィリップ殿は、その辺りの立場が良くわかっておられないようだ」
「ぐぬっ」と、フィリップが歯ぎしりをして、机を叩く。
「その通りじゃ」
と、バレンティンが言葉を継いだ。
「我々はここにいる田村涼という天才配合士に、ご厚意で商品を卸して貰うという立場じゃ。みんなも良いか? そのことを良く胸に刻み、決して忘れてはならんぞ」
用意された馬車に乗って商会のある街の北西へと向かいながら、なぜこんなことになったのだろう……と困惑せずにいられなかった。
なぜだかわからないが、なにかを造るたびに、それが大きな話題となり、大きな勢力と関わり合うことになる……。
「これがロジャー商会か……。とんでもない大きさの屋敷だな」
と、馬車の窓から高台にある屋敷を見上げながら、俺はそう零す。
少しばかり、この状況に辟易としながら……。
「待っていました。涼さん。ようこそロジャー商会にお越しくださいました」
そう言って馬車の前まで俺を出迎えたのは、意外なことに、あのアニーだった。
「え……、アニーさん……!? なぜここに……?? 」
「私たちフランダルス一家は、昔からロジャー商会と深い繋がりがあるのです。今回は、ロジャー商会の経営陣があなたと会うと聞いて、案内役を私の方から買って出たのです。さあ、馬車をお降りになって下さい。屋敷のなかを、ご案内いたしますから」
◇◇
「初めまして、田村涼さん。私がロジャー商会の会長を務める、ロジャー・バレンティンです。どうぞ、長い道中でお疲れでしょうから、腰掛けてください」
バレンティンはそう言うと、長机の中央を掌で示し、俺に座るよう促した。
バレンティンは白髪の初老の太った男である。見るからに有能そうで、見るからに、隙がない。
「早速ですが、あの化粧品はどのように造られたのでしょう? 」
と、バレンティンが椅子に座るなり、そう口火を切る。
「造り方は、それほど難しくはありません。グリムホウンドの巣を殲滅させるというクエストがちょうどあったので、巣のなかで採れる材料を使ってジュースを造っただけのことです」
と、俺は長机の反対側に座ったロジャー商会の役員たちの顔ぶれに緊張し、少々しどろもどろになって、そう言う。
「材料というのは? 」
「ええと……」と、俺が説明しようとしたとき、
「失礼ですが」
と、バレンティンの二つ隣に座る男が、そう口を挟んだ。バレンティンが一瞬、そちらにキツイ視線を向ける。
「私の名はフィリップ・サザーランド。……失礼ですが、涼殿、ひとつ質問させていただいてよろしいか? 」
「ええ、どうぞ……」
「あなたの階級は、いったい、なに階級なのですかな? 」
フィリップがそう尋ねたとき、この部屋全体が凍りついたかのように、冷たい空気が張るのが感じられた。
恐らく、俺が来る前にもこのことについては話し合いが行われていたのだろう。
疑問、疑惑。そういったものを、フィリップが俺に直接ぶつけてきた、というシチュエーションに違いなかった。
「俺は……、第四階級の人間です」
ざわざわ、と役員たちが慄くのがわかる。
一瞬にして部屋の空気は最悪なものになり、耳にするのも嫌な言葉が、役員同士で囁かれる。
「職業について、尋ねても? 」
と、フィリップが続ける。
「職業は、物乞いです……」
ざわついていた場が、今度は一気に、湯を沸かしたように煮立った。
「物乞いだと……? 」「橋の下の住人を、この部屋に招き入れたというのか? 」
と、口々に役員たちが、信じられないという風に、罵倒の言葉を、口にし合う。
ほとんど唯一、会長であるバレンティンだけが、うんざりという風に首を左右に振っていた。
「失礼ですが、涼くん」
と、フィリップはもはや俺を見下す態度を隠そうともせず、こう言い放つ。
「我々に橋の下の住民であるあなたの言葉を信じろと? いったい、物乞いという職業の男が、どうやって優れた化粧品を造れるというのですかな? 」
「それは……」
と、俺の能力であるチートスキルに関わるこの質問に戸惑っていると、
「さっさと白状した方がよろしいかと思うのですが? 」
と、フィリップがさらに続ける。
「これは盗んだものなのだ、と」
は?
俺が盗んだ?
この薬品を?
あまりの無礼な言葉にかっとした怒りが一瞬湧くが、“これがこの世界なのだ”という想いが、すぐにそれに追随する。
どこまで行ってもこの世界には差別があり、第四階級の人間は、人間として扱われない。
ここでもそうなのだ……。
そう諦めかけたとき、部屋の入り口のドアをノックする者があった。
商会のメイドが慌てて入り口のドアを開くと、そこに立っていたのは、まったく意外な人物だった。
「すいません。遅れました」
そう言って部屋の中に入って来たのは、あのリリスの父親、ヴィクター・ナイトシェイドだったのだ。
「ヴィクターさん。どうしてここに……? 」
と、すっかり驚いて、俺がそう問うと、
「涼くん。良く来てくれたね。どうしてもなにも、私もここの役員なのだよ」
と、ヴィクターは相変わらず紳士そうに、ゆったりと笑って言った。
「……さて、話はどこまで進んだのですかな? 」
と、ヴィクターが役員全員に向かって問うと、
「彼が第四階級の人間であり、職業は物乞いであることが発覚したところです。……恐らくは例の化粧品も、誰かから盗んだものなのでしょう。今、それを確かめよう、というところです」
と、フィリップがいかにも楽しげに、そう説明する。
すると……、
「……それは、私と彼が“騎士の紋”を結んでいる、と知っての上での問いなのでしょうかな? 」
と、ヴィクターがぎらりとした鋭い眼差しを、フィリップに向けた。
「あなたが、彼と騎士の紋を……?? 」
ヴィクターは落ち着き払った表情で続けた。
「……私は以前、ここにいる田村涼殿とあることで深くわかり合うことになった。彼がどの階級にいるかなど私には関係ない。彼は人として優れた人物であり、私のことを救ってくれた。私には、それだけで信用するには充分だ。そしてそのとき、互いを信用するという証に、“騎士の紋”を結び合ったのだ」
すっかり静まり返った役員たちを見渡し、ヴィクターが続けた。
「だが、あなたたちは彼を信用できない、と言う。……それはつまり、彼と“騎士の紋”を結んでいる“私のことも”信用できない、ということだ。あなた方に覚悟がおありか? 私だけでなく、ナイトシェイド家全体を敵に回す覚悟が……? 」
フィリップを始め、さっきまで口汚く俺を叩いていた連中が、一斉に目を伏せ、怯える小動物のように、身を震わせ始めた。
ナイトシェイド家というのは、よほどこの国で大きな力を持っているのだろう。
「ナイトシェイド家を敵に回すかどうかはさておき……」
と、改めて口火を切ったのは、会長であるバレンティンだった。
「……わしも階級など問題ではないと思うね。優れた職人はどの階級にだっておるさ。それに、どうやって造ったかを尋ねたときに彼が口籠ったのは、この薬品を造るにあたって、特別な秘密が彼にはあるからだろう。違うかね? 涼くん」
「そ、それは、その通りです……」
「ふぉふぉふぉ」
バレンティンはいかにも性格良さそうに笑い、続ける。
「職人には他人に話せない製造上の秘密の一つや二つ、必ずあるものさ。それに、わしにはこの青年が人を騙すような人間には見えんがね……。なにより、そのような子悪党と、ヴィクターが騎士の紋を結び合うなどわしには想像もつかんことだ。……みんなはいかがかな? 」
バレンティンがそう問うと、残りの役員たちはすっかり消沈し、特にフィリップは悔しそうに俯いて唇を噛んでいる。
「……では、彼とこの薬品を売ってもらう方向で話を進めても構わんかな? 」
バレンティンはそう言うと、契約書とおぼしき紙を一枚、俺の前に丁寧な手つきで置いた。
そこに書かれていたものは、俺とロジャー商会との間の契約内容だった。
今回、この薬品を商会に渡すにあたって俺が受け取る報酬額について。
それから、今後俺が同じように化粧品を作成したとき、その化粧品を“必ず”ロジャー商会に売る、とういことについて……。
「これはつまり、俺にロジャー商会の専属になって欲しい、ということですか……? 」
「はっきり言えば、そうじゃ」
と、バレンティンが頷く。
「わしらとしては、君のような有能な配合士をよそに取られたくない。もちろん、君にとってのメリットもある。君の造るものに関して、我々は破格の報酬を支払うと約束しよう」
「……! 」
確かに、そこに書かれていた報酬額はとてつもない数字だった。
だが、懸念がないわけでもなかった。専属になるということは、ロジャー商会の為に、定期的に化粧品を造らねばならない、ということも意味する……。
「……専属になってしまうと、俺は定期的に化粧品を造らなければいけませんよね? 」
俺がそう懸念を口にすると、バレンティンは先回りしてこう答えた。
「そのことに関しては、心配はいらんよ。専属になったからといって、定期的に化粧品を造るよう君を煽ったりはせん。君はただ、気が向いたときだけ化粧品を造り、それを我々に手渡してくれれば良い」
「そ、そんなラフな契約で、良いんですか……? 」
「……君の化粧品は、この世界の基準から言えば群を抜いて優れている。それは“滅多に出回らないからこそ”価値がある、という側面もある。君の造るものには必ず、君のイニシャルを取って“R・T”というブランド名をつけよう。滅多に出回らないR・T製品は希少価値のおかげでより価値が増し、その上昇した価値は、我々の商会のブランドイメージをも高めてくれるだろう」
「会長! 」
と、フィリップが再び口を挟んだのはそのときのことだった。
「そのような甘やかした契約でよろしいのですか!? いささか、度を越しているのではないですか!? 」
ところが……、
「甘やかし? 」
と、今度もヴィクターがそれに応戦する。
「フィリップ殿はなにか勘違いしておられるようだ。甘やかしどころか、我々は涼くんに深く頭を下げなければならない立場なのだ。……これほどの化粧品は、どこの国でも見たことがない。婦人方がこの商品を求めて殺到するのは目に見えている。我々は、そんな優れた化粧品を、彼に”ご厚意で譲り渡して貰う立場“なのだ。……フィリップ殿は、その辺りの立場が良くわかっておられないようだ」
「ぐぬっ」と、フィリップが歯ぎしりをして、机を叩く。
「その通りじゃ」
と、バレンティンが言葉を継いだ。
「我々はここにいる田村涼という天才配合士に、ご厚意で商品を卸して貰うという立場じゃ。みんなも良いか? そのことを良く胸に刻み、決して忘れてはならんぞ」
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