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24,ジュースの用法。
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「それにしても、これほど優れたジュースは、ありませんよ?? 」
と、改めてアニーがそう零したのは、夕食の皿を洗い終わって再び席に着いたときのことだった。
「傷を癒す効果のあるナイトベリーと、素材の効能を倍加させるシャドウフルーツを掛け合わせたらどうなるのだろうと思って試したのですが、確かに、なかなかの効能ですね……」
それに、これには最近俺が手に入れたスキル、“配合術A”という上級技能が影響もしているのだろう。
“配合術A”は国のトップレベルの配合士のみが持つスキルであり、それを一介の冒険者に過ぎない俺が多用しているという状況が、そもそも異常事態ではある……。
「味は確かにとても美味しいのですけど、古傷が治るだなんて、聞いたこともありませんよ」
と、アニーがいささか興奮気味に、そう言う。
「普通、跡の残った傷は治らないものなのですか? 」
「私も上級快復術は扱えますが、それでも、古傷を治すことは出来ません。“古傷に効く医薬品”……、そんなの、前代未聞の特効薬ですよ……」
考えてみると、”配合術A“に加えて、あるバフを掛けて配合を行ったのが大きかったのかもしれない。
大抵のスキルを使うときに俺はバフ効果のある聖騎士の“聖なる共鳴”を使っているのだが、これを使うと、すべてのスキルの効果が30%底上げされることになる。
つまり、俺は“配合術S”レベルの配合技術でジュースを造ってしまっているのかもしれない……。
「味がとっても美味しいのは確かなのですけど……」
と、グラスを傾けながら、アニーが言う。
「……これを直接塗ったら、どうなるのでしょう?? 」
「直接、塗る……」
「そうです。例えば、お風呂から出た後、洗顔後に使ってみる、とか……」
「言わば美容液として使う、ということですね……? 」
「美容液……?? 」
と、アニーが首を傾げる。この世界にはまだ美容液が存在せず、その発想はないらしい。
とにかく使ってみようと言うことになり、俺たちは洗面所へと場所を移した。
さすがに風呂上がりのアニーと会うわけにもいかないので、ひとまずは洗顔してもらい、そのあとで、このジュースを顔に塗ってもらうことにする。
綺麗に洗顔したあと、タオルで顔を拭き、ジュースを十円玉ほどのサイズで掌に乗せ、それを顔に塗ってもらう。
すると……、
「……涼さん! 」
と、驚きの声が、アニーから零れる。
「これ、すごいですよ……。お肌がつるつるになっていきます……! 」
「アニーさんの肌はもともと綺麗ですけど、……確かに、輝くほど綺麗ですね……! 」
アニーの額や頬からは、ほとんどなんの目立った凹凸も見えなくなっていた。まるで剝きたてのゆで卵のように、彼女の顔を艶が覆っている。
「これ多分、すごく高値で売れますよ……! 女性だったら、誰でも欲しがりますもの! 」
「上流階級の女性は欲しがるでしょうね……! ただ、たくさんは造れないな……」
「素材集めが大変なのですか? 」
「そうですね……。今回は運が良かったのですが……、誰か手伝ってくれる人でもいれば、定期的に造れるのですが……」
例えば“第四階級の人々が”という思惑が浮かんだのは、そのときのことだった。
今は非差別階級に過ぎない彼らが冒険に出て、このジュースを造る素材を集めてくれればと、……そう考えたのだ。
だが、差し当たって今は、彼らに冒険に出て素材を集めてきてもらう手立ては思いつかない。
そうなると、どうしたって、この美容液は希少性の高いレア商品として扱うしか出来ない。
「とにかく、一度”至高の美食会“のセシリアさんのもとに、持って行ってみます」
と俺は言った。
「そうですね、あの方なら、なにか助言を頂けると思います」
と、アニーも頷く。
「それにしても……」
と、アニーは再び鏡に魅入って、自分の肌の綺麗さに見惚れた。
「素晴らしい液体です。こんなに肌の調子が良いのは、十代のとき以来です……! 」
この美容液を使わなくても、あなたはこの国の誰よりも可愛いですよという言葉が思い浮かぶが、言う勇気もなく、俺はその言葉をぐっと飲み込む。
アニーは不思議そうに俺を見上げ、さらに可愛くなったその顔で、「……どうされたのですか? 」と、上目遣いに俺を見つめる。
「いえ、なんでも……」
と、恥ずかしさから顔を背けると、彼女はよほど機嫌が良いのか、
「聖女である私に、見惚れてしまった、とか……? 」
と、生真面目なその性格に似つかわしくない、どこか小悪魔風の笑みを浮かべて俺をからかった。
ただ、言った後ですぐに恥ずかしくなったのか、耳を真っ赤に染めて彼女は洗面所をすたすたと足早に立ち去るのだった。
と、改めてアニーがそう零したのは、夕食の皿を洗い終わって再び席に着いたときのことだった。
「傷を癒す効果のあるナイトベリーと、素材の効能を倍加させるシャドウフルーツを掛け合わせたらどうなるのだろうと思って試したのですが、確かに、なかなかの効能ですね……」
それに、これには最近俺が手に入れたスキル、“配合術A”という上級技能が影響もしているのだろう。
“配合術A”は国のトップレベルの配合士のみが持つスキルであり、それを一介の冒険者に過ぎない俺が多用しているという状況が、そもそも異常事態ではある……。
「味は確かにとても美味しいのですけど、古傷が治るだなんて、聞いたこともありませんよ」
と、アニーがいささか興奮気味に、そう言う。
「普通、跡の残った傷は治らないものなのですか? 」
「私も上級快復術は扱えますが、それでも、古傷を治すことは出来ません。“古傷に効く医薬品”……、そんなの、前代未聞の特効薬ですよ……」
考えてみると、”配合術A“に加えて、あるバフを掛けて配合を行ったのが大きかったのかもしれない。
大抵のスキルを使うときに俺はバフ効果のある聖騎士の“聖なる共鳴”を使っているのだが、これを使うと、すべてのスキルの効果が30%底上げされることになる。
つまり、俺は“配合術S”レベルの配合技術でジュースを造ってしまっているのかもしれない……。
「味がとっても美味しいのは確かなのですけど……」
と、グラスを傾けながら、アニーが言う。
「……これを直接塗ったら、どうなるのでしょう?? 」
「直接、塗る……」
「そうです。例えば、お風呂から出た後、洗顔後に使ってみる、とか……」
「言わば美容液として使う、ということですね……? 」
「美容液……?? 」
と、アニーが首を傾げる。この世界にはまだ美容液が存在せず、その発想はないらしい。
とにかく使ってみようと言うことになり、俺たちは洗面所へと場所を移した。
さすがに風呂上がりのアニーと会うわけにもいかないので、ひとまずは洗顔してもらい、そのあとで、このジュースを顔に塗ってもらうことにする。
綺麗に洗顔したあと、タオルで顔を拭き、ジュースを十円玉ほどのサイズで掌に乗せ、それを顔に塗ってもらう。
すると……、
「……涼さん! 」
と、驚きの声が、アニーから零れる。
「これ、すごいですよ……。お肌がつるつるになっていきます……! 」
「アニーさんの肌はもともと綺麗ですけど、……確かに、輝くほど綺麗ですね……! 」
アニーの額や頬からは、ほとんどなんの目立った凹凸も見えなくなっていた。まるで剝きたてのゆで卵のように、彼女の顔を艶が覆っている。
「これ多分、すごく高値で売れますよ……! 女性だったら、誰でも欲しがりますもの! 」
「上流階級の女性は欲しがるでしょうね……! ただ、たくさんは造れないな……」
「素材集めが大変なのですか? 」
「そうですね……。今回は運が良かったのですが……、誰か手伝ってくれる人でもいれば、定期的に造れるのですが……」
例えば“第四階級の人々が”という思惑が浮かんだのは、そのときのことだった。
今は非差別階級に過ぎない彼らが冒険に出て、このジュースを造る素材を集めてくれればと、……そう考えたのだ。
だが、差し当たって今は、彼らに冒険に出て素材を集めてきてもらう手立ては思いつかない。
そうなると、どうしたって、この美容液は希少性の高いレア商品として扱うしか出来ない。
「とにかく、一度”至高の美食会“のセシリアさんのもとに、持って行ってみます」
と俺は言った。
「そうですね、あの方なら、なにか助言を頂けると思います」
と、アニーも頷く。
「それにしても……」
と、アニーは再び鏡に魅入って、自分の肌の綺麗さに見惚れた。
「素晴らしい液体です。こんなに肌の調子が良いのは、十代のとき以来です……! 」
この美容液を使わなくても、あなたはこの国の誰よりも可愛いですよという言葉が思い浮かぶが、言う勇気もなく、俺はその言葉をぐっと飲み込む。
アニーは不思議そうに俺を見上げ、さらに可愛くなったその顔で、「……どうされたのですか? 」と、上目遣いに俺を見つめる。
「いえ、なんでも……」
と、恥ずかしさから顔を背けると、彼女はよほど機嫌が良いのか、
「聖女である私に、見惚れてしまった、とか……? 」
と、生真面目なその性格に似つかわしくない、どこか小悪魔風の笑みを浮かべて俺をからかった。
ただ、言った後ですぐに恥ずかしくなったのか、耳を真っ赤に染めて彼女は洗面所をすたすたと足早に立ち去るのだった。
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