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居並ぶ歴戦の名将たちも、さすがに固唾を呑んで、一同声もない。
エリオ王子は、真正面の父であるゲオルグ王だけを見つめ、あくまで静々と歩を進めて列席の貴族たちの間を縫った。その後を、目線を伏したペルネ公が続いた。
エリオ王子は、ゲオルグ王に一礼をすると、踵を鳴らすように反転し、一同へ声を掛けた。
「こたびの騒動は、わが父の弟気味の謀反ということで、言うなればサーベンフェルツ家のお家騒動。恥ずかしく思う」
エリオ王子は、列席の一同へ一礼したが、一同はそれを遠慮し、皆、目を伏せた。
「なれど、幸いにして、災いを事前に察知し、早々に種火は消した。以後は、二度とこのようなことはないと確信する」
今度は一礼を省いて、エリオ王子は一同を見渡した。列席たちは一人残らずエリオ王子の目を見つめ、それぞれに力強く点頭した。
「さて、私と共にここにいるは、皆も知っての通り、ハランド公のご子息。ペルネ公である」
言うまでもない。この列席の中で、彼のことを知らぬ者はいないのだ。
「ペルネ公と私は、幼少期からの親友である。親族でもある。だがしかし、私はこたびの謀反について、彼への親友と、また親族という関係を捨てて、司法卿サウザリアとともに、ペルネ邸に入って厳正に調査した」
サウザリアとは、サーシェン国において鬼の司法官と名高い裁判官である。数々の裁判をさばいてきたが、とりわけ刑事罰に掛かるその無慈悲な裁決は、ときに人の恨みを買うほどの剛腕ぶりだった。
ゲオルグ王は静かに聞いている。ペルネ公は、貴族たちの視線に耐えられぬかのように、汗を光らせ、目をただ伏せていた。左手が小刻みに震えている。
「私は王子という立場ではなく、厳正な司法官として彼を裁く。繰り返すが、親友と親族という関係は、裁きの時点で共にこれを捨てる。サウザリア卿、これへ!」
入り口の扉が開き、長髪のサウザリア卿が入ってきた。恰幅が良く、多少のふてぶてしさもある表情で、ゆっくりと歩を進めてエリオ王子に一礼した。
エリオ王子が再び語りだす。
「このサウザリア卿と共につぶさに調査した結果、ペルネ邸から謀反の疑いのある証拠は認められず、また、家中の者の態度も怪しき点なし。サウザリア卿、異論はあるか」
「ございません。私の司法人生にかけて申し上げるが、ペルネ公は、今回の謀反に関わりはないと断言してよろしいでしょう」
一同がざわつく。ハランド公がいかに王の弟はいえ、麾下の将数は知れている。そんな寡兵で、本気で国家転覆など目論もうにも無理がある。せめて、子息の槍の名手、ペルネ公の部隊でも加えなければ、とうてい、現実味のある謀反ではない。
それに、仮にペルネ公が無実だとしても、父が謀反を企て、その家族に一切のお咎めがないという前例は今までに聞いたこともないではないか。
「静粛に」
エリオ王子が一同を制した。
「ペルネ公は水晶の如く透き通った無実だ。これは揺るがないと信じる。しかし、父の謀反に息子がなんの責もないというのは貴族の義に反する。彼には相応の罪を用意した」
エリオ王子は、真正面の父であるゲオルグ王だけを見つめ、あくまで静々と歩を進めて列席の貴族たちの間を縫った。その後を、目線を伏したペルネ公が続いた。
エリオ王子は、ゲオルグ王に一礼をすると、踵を鳴らすように反転し、一同へ声を掛けた。
「こたびの騒動は、わが父の弟気味の謀反ということで、言うなればサーベンフェルツ家のお家騒動。恥ずかしく思う」
エリオ王子は、列席の一同へ一礼したが、一同はそれを遠慮し、皆、目を伏せた。
「なれど、幸いにして、災いを事前に察知し、早々に種火は消した。以後は、二度とこのようなことはないと確信する」
今度は一礼を省いて、エリオ王子は一同を見渡した。列席たちは一人残らずエリオ王子の目を見つめ、それぞれに力強く点頭した。
「さて、私と共にここにいるは、皆も知っての通り、ハランド公のご子息。ペルネ公である」
言うまでもない。この列席の中で、彼のことを知らぬ者はいないのだ。
「ペルネ公と私は、幼少期からの親友である。親族でもある。だがしかし、私はこたびの謀反について、彼への親友と、また親族という関係を捨てて、司法卿サウザリアとともに、ペルネ邸に入って厳正に調査した」
サウザリアとは、サーシェン国において鬼の司法官と名高い裁判官である。数々の裁判をさばいてきたが、とりわけ刑事罰に掛かるその無慈悲な裁決は、ときに人の恨みを買うほどの剛腕ぶりだった。
ゲオルグ王は静かに聞いている。ペルネ公は、貴族たちの視線に耐えられぬかのように、汗を光らせ、目をただ伏せていた。左手が小刻みに震えている。
「私は王子という立場ではなく、厳正な司法官として彼を裁く。繰り返すが、親友と親族という関係は、裁きの時点で共にこれを捨てる。サウザリア卿、これへ!」
入り口の扉が開き、長髪のサウザリア卿が入ってきた。恰幅が良く、多少のふてぶてしさもある表情で、ゆっくりと歩を進めてエリオ王子に一礼した。
エリオ王子が再び語りだす。
「このサウザリア卿と共につぶさに調査した結果、ペルネ邸から謀反の疑いのある証拠は認められず、また、家中の者の態度も怪しき点なし。サウザリア卿、異論はあるか」
「ございません。私の司法人生にかけて申し上げるが、ペルネ公は、今回の謀反に関わりはないと断言してよろしいでしょう」
一同がざわつく。ハランド公がいかに王の弟はいえ、麾下の将数は知れている。そんな寡兵で、本気で国家転覆など目論もうにも無理がある。せめて、子息の槍の名手、ペルネ公の部隊でも加えなければ、とうてい、現実味のある謀反ではない。
それに、仮にペルネ公が無実だとしても、父が謀反を企て、その家族に一切のお咎めがないという前例は今までに聞いたこともないではないか。
「静粛に」
エリオ王子が一同を制した。
「ペルネ公は水晶の如く透き通った無実だ。これは揺るがないと信じる。しかし、父の謀反に息子がなんの責もないというのは貴族の義に反する。彼には相応の罪を用意した」
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