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105話  圧倒的な強さ

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案内人は思う。

先ほどの攻撃を何度も食らったら、いくら自分でも倒れてしまうと。やつらの動きは予想より組織的で、油断できる相手ではなかった。


『だが、あれくらいの魔法を何度も使えるわけがない。勝機は俺にある』


次元を破った者がいたとしても、自分は案内人。運命の狂いを正し、元のあるべき未来へ導くために生まれた存在。

その力は、すべての常識と法則を破壊する。必滅者たちが見せるやわな足掻きじゃ、到底倒せない。


『……しかし、ヤツは極めて異質的な存在。注意して損はないだろう』


燃え盛るような目つきで、自分を睨んでいるカイ。その瞳には紛れもない殺気が込められていた。それは、隣にいる5人も違わない。


『周りから片付けていくか』


変数を取り除くことこそが、もっとも大事。

そう決めた案内人は、ただちに地面に下りた後にアルウィンを狙った。

厄介な神聖力とバフを持っているプリスト。ヤツを排除すれば、勝算は高くなる!


「っ!?!?アルウィン!」
「くっ!」


ブリエンの目でも追いつけないくらいのスピードで、案内人は瞬く間にアルウィンの前に現れた。クロエがアルウィンに駆け付ける。

しかし、いきなり現れた敵を前にして、アルウィンはただ呆然と立ち尽くすだけで。

次の瞬間、案内人が手を上げて彼女を撥ね飛ばそうとするが―――横から蹴りが入った。


「くぅっ!?」


首根っこを正確に狙った蹴りに、案内人が一瞬よろめく。その攻撃をかましたのは、カイだった。


「くっそ早いな、お前!!」


骨が折れたところを手で押さえながらも、カイは毒づく。しかし、案内人は少しも怯まずに、黄色い目を光らせた。

怪物はその巨大な手を広げ、黒魔法の魔力が渦巻く球体を作り出した。彼はそれを、そのまま地面にぶち込んだ。

轟く爆発音とともに、埃が舞って視界が遮断される。


「っ!?クロエ、二人を―――」
「くはっ!?」


危機を感じたカイがなにか言うも前に、鈍重な音と共に少女の悲鳴が響き渡る。アルウィンの声だった。

そして、砂埃の煙が消えると―――目の前には空中を舞う神聖力の白い粒子と、遠くまで吹き飛ばされたアルウィンが見える。

案内人は、その粒子を見つめながら言った。


「いいプリストだな。あの一瞬で危険を感じて、神聖力の盾で自分を守ろうしたのか。瞬発力は申し分ないが、魔力が足りなかった」
「……貴様ぁああああああ!!」


ブリエンの目つきが険しくなり、最速で矢を形成させて打つ。10発を超える魔法の矢が猛烈な勢いで、案内人に差し迫っていた。


「……ふっ」


しかし、そのすべてを予想でもしたかのように―――ヤツは少しだけジャンプして5本の矢を躱した後に、首と足を動かして残りの矢を全部躱した。

人間の動きじゃない。物理法則を無視したかのような動作に、ブリエンが慌てて口を開ける。

そして、戦場での戸惑いは……敗北を呼ぶ。


「っ!?」


とっさにクロエが案内人の動きを読み、ナイフを振るった。ブリエンの目の前に現れた案内人の腕に、2本のナイフが刺さる。

いや、刺さったはずだった。


「……くっ!?!?なに、これ!?」


通常通りなら刺さったはずのナイフは、パキンと折れてしまう。ナイフが、効いてなかったのだ。


「きゃあああ!?!?」


案内人はそのまま無言で、ブリエンの体を掴んで遠くまで放り投げる。森の中にある木が、何本もくじけるほどの力で投げ飛ばされた少女は―――そのまま意識を失ってしまった。


「腕に魔力を集中しただけだ。かわいそうな暗殺者よ」
「くっ!?」


案内人は、ちょうどいいところにいるクロエの首を掴もうとする。しかし、彼を取り巻く空間が一気に暗くなった。


「……ほぉ」


案内人が上を見ると、さっき自分が召喚した隕石のような黒い球体が、自分に向かって降りてきているのが見えた。中々の威力とスピード。

使い手は、ニアだった。


「絶対に、許さない……!!」


赤い目を光らせながら、少女はありったけの魔力を汲み上げる。案内人が一瞬だけ気を抜いていたその隙に、カイはクロエを抱え込む。


「か、カイ……!」


なにも答えず、カイはクロエを抱いたままその場所から離れた。間もなく、大爆発が起こる。

それから、地震のような衝撃と同時に、案内人も押しつぶされる……はずだった。


「………………………………………え?」


しかし、すべてを巻き込む勢いで降りてきた黒い球体は、案内人が差し伸べた手のひらでぴったりと、止まってしまった。ニアの目が大きく開かれる。

間もなくして巨大な球体にヒビが入り、凄まじい暴風と共に魔力が湧き立ち始めた。


「くっ!?ニアぁああ!!!!!!!」


案内人の手のひらで、球体が爆発した。クロエは風のせいで身動きもろくに取れず叫ぶしかなくて、カイはただちにニアがいるところに駆け付ける。

しかし、目まぐるしく舞い散る黒魔法の粒子のせいで、目の前がろくに見えず―――気づいたころには、案内人の足元でニアが倒れていた。


「…………………………………………ニ、ア?」
「………………」


ニアが、倒れていた。ニアが。

ニアが、ニアが、ニアが、ニアが。

倒れていた。


「………………………………………………………………………お前」
「死んではいない。誰も、わざと殺さなかった」
「―――――――――――――――――っ!!」


カイの心の奥から、何かが漏れ出てくる。目が見開かれて、理性の糸が途切れる手前。

クロエは、もう1本のナイフを持って案内人の後ろに回った。殺気が溢れている瞳と、カイすら完全に読み取れないほどの速さ。

しかし、案内人は黄色い瞳を光らせて――そのナイフを手のひらで防いでしまう。

折れたのは、案内人の骨じゃなくてナイフの刀身で。

そのまま、案内人は大きく腕を振って、クロエを弾き飛ばした。


「………………………………」
「ほら、殺さなかっただろ?」


全員、戦闘不能になった。


ニアも、クロエも、ブリエンも、アルウィンも。

勇者パーティーと、反逆集団のメンバーたちが全員、倒れてしまった。

目の前の怪物に、傷一つ与えられずに。


「………………ははっ、はっ」


木々が折れて、暴風が吹いて散らかされた森の中。残るのはカイと案内人だけ。


「運命だ、次元を破った存在よ」
「…………」
「この世界の運命を、受け入れろ」


未だに殺気立った目をしているカイを、前にして。

案内人は、無心に運命という言葉を繰り返した。
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