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103話  隕石

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「………」
「カイ様……どうなさいますか?」
「……そうだね」


ニアがまだ帰ってきていない。クロエも、ブリエンも、アルウィンもだ。

元の計画通りだと、今頃4人ともこの場所―――オーデルの繁華街からけっこう離れた、この森の中に着くはずだった。

正面からの戦いは数的に不利だし、なにより俺たちは案内人と戦うために力を温存しておく必要があるから。

なのに、未だに彼女たちが帰ってきていないってことは……たぶん、二つのうちのどっちかだろう。

カルツに会ったか、もしくは案内人に会ったか。

一般兵士たちにニアたちが倒れるとは思えない。でも、ここまで帰ってくるのが遅くなるとさすがに心配になる。


「……君たちはここで待機してろ。俺が行ってくる」
「しかし、カイ様……!」
「もし、厄介な敵が現れた時には空に向かって爆発魔法を撃つから、即座に逃げるように。その敵はたぶん俺たちでしか倒せないヤツだ。無駄な犠牲を増やしたくない」
「……はっ!」


レジスタンスのリーダーに頷いた後、俺はさっそく立ち上がって森から出ようとする。しかし、次の瞬間。


「あれ?」


遠くから、ニアやクロエと一緒に配置した兵士たちが戻ってくるのが見えてくる。兵士たちは素早く、森の中に入って自分の位置に着いた。

そして、その集団のリーダーであるキリエルは俺の前に跪く。


「カイ様!勇者カルツが現れ、ニア様を含めた4名様がただいま交戦中です!!」
「なるほど、カルツ……ニアが付いていても一瞬では殺せなかったのか。厄介だな」
「ひとまず、アルウィン様やブリエン様の命を受けて戻ってきましたが、このままでは……!!」
「……ああ、いや。それは大丈夫そう」
「えっ?」


俺は人差し指を上げて、向こうを指さす。キリエルは振り返った途端に、目を大きく見開いた。

そこには、空中に浮いている一人の少女と、元勇者パーティーのメンバーたちがこちらに来ていて。

その後ろには、砂埃が上がって地面が鳴るほどの大軍が見えた。


「あれは……!!」
「予定よりはちょっと遅かったけど、作戦通りだな。キリエル、君も位置に着くように」
「はっ!」


葉っぱを踏む音を響かせながら、リエルが事前に指定した位置に赴く。俺は、森の入り口辺りで両腕を広げて見せた。


「おかえり、みんな~」
「よくもそんな呑気でいられるわね!!あれを見なさいよ、あれを!」


俺のお出迎えを見たとたんに、ブリエンが毒づく。アルウィンも疲れたのか、深く息をついていた。

対して、クロエやニアは平然とした顔で俺に報告した。


「カルツは死んだよ。ニアが確実に殺したし……聖剣も、チリになった」
「……そっか。ちなみに、俺の呪いはちゃんと発動されてた?」
「うん。死霊術、ちゃんと効いた」


ニアの声を聞いて、俺は安堵の息をつく。なんとなく、カルツを捨てた聖剣が怪しくて死霊術の呪いを流し込んだが、効いていたならなによりだ。


「じゃ、残りはあの軍隊と……案内人だけってことか」


遠くから見える兵士たちの目が、赤く光っている。皇子の精神操作は未だに生きている。

俺は唇を濡らし、みんなで森に入るように命令しようとした。

あんな単純な動きだと簡単に罠にかかりそうだったし、なにより市民たちが住む繁華街に行くためには―――森に隣接したこの道を通らなきゃいけないから。

その森で遠距離魔法を撃ち、できるだけ敵の数を減らすというのが作戦の一つだった。


「これからは暴れていいから。なるべく、効率的なやり方で行こう」
「うん」


俺はみんなに指示しながら、魔力を汲み上げる。カルツが死んだのなら、脅威になれる敵がほとんどないということだ。

できるだけ早くやつらを皆殺しにして、案内人と最終決戦をする。それがある程度、俺にとっては理想的なシナリオだった。

馬に乗っている敵の指揮官、ゲーリングが猛烈に疾走する。射程距離に入った。隣のブリエンが矢を構える。

しかし、突然異変が起きた。


「突撃、突撃しろ!!とつげ――――」


あんなにも荒々しく、食い散らさんとばかりに声を上げていたゲーリングが。

突然、意識を失ったように前に馬から落ちて、前に倒れてしまったのだ。


「なっ……!?」


そして、倒れたのはゲーリングだけじゃなかった。

同じく馬に乗っていた貴族たちも、その後に続く何百、何千ものの兵士たちが同時に、前に倒れてしまった。

集団催眠にでもかかったみたいに、なんの声も上げずに、一瞬で。


「………………え?」
「ど、どういうこと!?ちょっ……!」
「……………………」


当然、こっちの陣営からは混乱が広がる。みんな激しい戦闘を予想していたのに、敵が目の前まで来た時に勝手に倒れたのだ。

俺は素早く魔力視野を発動させ、兵士たちの魔力の動きを確認する。黒い紫色が……ない。

………………精神操作が、解かれている?


「………カイ、これって」
「………ああ」


突然、このタイミングで精神操作が解かれる理由は、一つしか思い浮かばなかった。

術者の死。すなわち、皇子が死んだということになるけど……なんで、急に?

ヤツの魔力が暴走した?もう精神操作をかけられないほど衰弱したのか?一体、どうしてこのタイミングで―――


「う、うぅ………うあああ!?!?ど、どこだ、ここ!?」
「なっ……どういうことだ、これ!?俺、寮でぐっすり眠ってたのに……!?」
「これは……あ、アドルフ様!!どちらにいらっしゃるのですか、アドルフ様!!」


そして、意識が戻ってきた敵軍―――帝国軍たちは一気に騒ぎ始める。指揮官のゲーリングも含めて、自分たちがどうしてここにいるのか、全く理解ができてないみたいだった。


「カイ様、どうしましょう……?」


自然と、レジスタンスのリーダーであるキリエルが俺に話しかけてくる。俺はただただじっと、敵を見つめた。

帝国軍は、レジスタンスの立場では当たり前に殺すべきやつらだ。それに、あの中には皇室の汚い計画に貢献したやつらも含まれている。殺しておいて損はない。


「計画通りにしよう。やつらがこの場所から離れることだってありえるから、みんなはすぐにでも森から出られるような準備を―――」
「か、カイさん!!」


そんな風に指示を出していたところでふと、アルウィンが悲鳴めいた声を上げる。

目を丸くして、彼女が指差す方向に目を向ける。上だった。血なまぐさい戦場とは真逆の、青空が広がって――――――ない。


「……………は?」


それは、隕石だった。

巨大な隕石が、黒い紫色の塊りが信じられないくらいのスピードで、敵に落ちている。

先ほど意識が戻ってきた帝国軍は、呆然とその姿を眺めることしかできなくて―――俺は、とっさに両手を広げて前へ出た。


「アルウィン、ニア、盾!!!!!!」
「え……?は、はい!!」
「うん!!」


隕石の勢いが死ぬことはない。俺たちは素早く魔法を使って、仲間たちがいる森全体をドーム型のシールドで囲う。


「え………あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


そして、誰かの凄絶な悲鳴が鳴り響いた後に。

信じられないくらいの地震と轟音が、世の中を揺らした。
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