トップランカーだったゲームに転生した俺、クソみたいな国を滅ぼす悪役集団の団長になる。

黒野マル

文字の大きさ
上 下
97 / 111

97話  激突

しおりを挟む
ゴサロは途方に暮れていた。

いつの間に気を失ったのかも分からないが、例の元Aランクの一人に揺り起こされた。

聞けば、最後に残ったローブの男が大爆発を起こしたと言う。

言われてみれば、そうだったような気もする。まだ頭がくらくらして、記憶も曖昧だ。

例の黒服メイドとターゲットの娘は既に姿を消していた。

元Aランクの四人組は何かを喚いていたが、よく分からなかった。

最後に何某かのことを言ったと思ったら、取り乱すように走り去った。

いま、この何もない開けた高地には自分だけが取り残されていた。

少し先には、どうやら首の無い二つの死体が転がっているようだが、この際そんな事はどうでも良かった。

自分は仕事をしくじった。これまでも、些細な失敗はあったが、自分の力でリカバリーしてきた。

何の問題も無かった。

だが、今回は完全に失敗した。もう取り返しはつかない。仲間も失った。

後は自分の死を待つのみかと考えたところで、はたと気づいた。

自分に責任を負わすと言っていた男達は居なくなった。

これは、生き残るチャンスなのか?そう言えば、さっきの奴らは何と言ってた?

【闇ギルド】に見つからないように、名前も変えて、みんなでバラバラに違う土地で暮らすとかなんとか…。

ゴサロは一気に覚醒した頭を振ると、自分の持ち物が手元にある事を確認して、駆け出した。



それから数日…

ここは獣人国との国境に近い【シモン共和国】の小都市【バトン】。

うらぶれた安宿の1階にある食堂で安いエールを呷りながら、ゴサロは人込みに溶け込んでいた。

人に後ろ指をさされる仕事も金が稼げていっぱしにいい暮らしが出来るからやるのであって、命を懸けてまでやる気はさらさら無かった。

ゴサロの哲学は、終始一貫して自己保身と長いものに巻かれてうまくやる事だった。

もう死んでしまった部下達も、そういう意味では同じ穴の狢であり、価値観が合うからこそ一緒にやっていけたのだ。

自分だけが生き残ったことに僅かばかりの痛みはあるが、しょせんはみんな運が悪かったのだとも思う。

お前たちの分まで、俺はしっかり生きて楽しんでやるからな!等と自分勝手な理屈を自分の中で完結させ、最後の鎮魂の盃を傾けた。

ブラックオパールへの恩義はここ数年の働きで十分返せただろうと自分を納得させ、さあ、この後はどうするかと考える。

切り替えの早さも長生きする秘訣と、終わった事は気にしないのがこの男の良いところであり悪いところでもあった。

まずは、貯めこんでた金をどうやって回収するか、下手な事して【闇ギルド】にバレては元も子もないな、等とあれこれ考えていると、突然肩に手を置かれて耳元で誰かの声がした。

「おいおい、まだ仕事も終わってないのに、こんな所で飲んでるのか?」

声を聞いた瞬間、全身の血の気が引くのが分かった。瞬時に鳥肌が立つ。

恐る恐る声のした方へ視線を向けると、そこには笑顔の中に色のない視線で自分を見るブラックオパールの姿があった。

「ひっ!…」

そんなゴサロの様子に頓着することもなく、ゴサロの肩に手を回したまま、ブラックオパールは空いているゴサロの隣に腰を下ろした。

ゴサロは反射的に視線を下に落とし、戻すことが出来なかった。さほど熱いわけでもないのに、滝のような汗が流れ落ちる。

「どうした?ゴサロ。すごい汗じゃないか。熱でもあるんじゃないか?早く仕事を片付けて医者にでもかかった方がいいんじゃないか?」

何もしらない誰かが傍でその言葉だけを聞いていれば、知り合いを労わる優しい言葉に聞こえただろう。

だが、当事者にしてみれば逃げ場のないその場所で、これ以上ない圧力をかけられている状態である。

暫しの沈黙が場を支配したが、耐えられなくなったのはゴサロだった。

「た、隊長…」

ゴサロはブラックオパールの事を傭兵時代からの呼び名で”隊長”と呼んでいた。

「隊長、ど、どうしてここへ?…」

ゴクリと喉を鳴らすと、愛想笑いともつかないぎこちない笑いをその顔に張り付けて、ゴサロは精いっぱいの勇気を振り絞って隣に座る人物に問いかけた。

「んっ?いやあ、お前に頼んだ仕事がうまくっていないって聞いてな。助けてやろうと思って来てやったんだよ」

ブラックオパールはそう言いながら「あ、ねえちゃん、エール一つくれ」と店員に注文していた。

ゴサロはほとんどパニック状態だった。

そもそも、どうして隊長はここに俺がいる事を知ってるんだ?!

俺がここにいるなんて誰も知るはずがないし、だいたいこの人は何処から来たんだ?!

様々な疑問が頭の中を駆け巡るが、喫緊の課題は今の状況の整合性のある言い訳をどうするか、だった。

「おっ!来たな!じゃ、ほら!ゴサロ、乾杯!」

ブラックオパールは先ほどとは打って変わったにこやかな笑顔でゴサロを促すと盃を合わせてエールを喉へ流し込んだ。

ゴサロもそれに合わせたが、エールの味など分からず、まして酔えるはずなどなかった。

「・・・で、俺の頼んだ仕事、どうなってる?」

ブラックオパールの言葉にビクッとしたゴサロは、更に止めどなく流れ出る汗を腕で拭いながら、この場を生き延びる為の言葉を口にした。

「き、聞いてくださいよー!最初は上手く行ってたんですが、変な邪魔が入っちまって・・・何んだか黒猫連れたメイドの小娘が俺たちの邪魔をしやがったんですよ!参りましたよ、マジで・・・」

言ってる事は事実だが、ふと目に入ったブラックオパールの刺すような視線がゴサロの口を閉じさせる。

「んっ?どうした?続きは無いのか?」

ゴサロの言葉が途切れたところで、ブラックオパールはエールを飲み干すと、

「お前、逃げるわけじゃ無いよな?」

とゴサロを見つめた。

その目を見たゴサロは生きた心地がしなかった。

獲物を捕食する直前の肉食獣や猛禽類と同じ種類の視線をゴサロはそこに見たのである。

「そ、そんなわけ無いじゃ無いですか。俺、今まで隊長の仕事を途中で投げ出した事、ありましたか?」

思わずそんな言葉がゴサロの口をついて出たが、この瞬間にそれ以外の言葉が吐けるはずが無かった。

その言葉を聞いたブラックオパールは、数瞬ゴサロを見つめた後に破顔して、

「だよな!お前は仕事できるから、俺は頼りにしてるんだぜ?」

そう言って食堂の店員にエールを二つ追加した。

「お前には荷が重い相手だって事は分かったから、次は俺も入ることにするわ。クライアントがうるさいからよ」

店員が運んできたエールをゴサロにも渡すと、ブラックオパールは自分の分はさっさと呷って盃を空にし、

「じゃ、手順が決まったらまた連絡するから、例の辺境伯の領地近くで待機しててくれ」

そう言ってテーブルに金貨を1枚放り投げると立ち上がった。

「えっ?!あのガキ、伯爵の領地に戻ってるんですか?」

自分が知らない情報をどうやってこの人は手に入れてるのかと常々思っていたが、自分の居場所も難なく掴むこの人なのだからと納得した。

「じゃ、この数日うちには動くと思うからよろしくな」

そう言ってその場を離れようとした男に、ゴサロはつい先日の出来事を聞いてしまった。

「隊長、その…あいつらの事、知ってたんですか?」

ゴサロから離れようとしていたブラックオパールは、立ち止まって振り向くと、

「あいつらの事?」

と疑問を口にした。ゴサロは聞いてはいけないと思いながら、内心の葛藤に負けた。

「俺の部下たちの事です…」

その言葉を聞いたブラックオパールは、何かを思い出したかのように手をたたくと、再びゴサロの横に腰を下ろし、

「あぁ、その事か。あいつら、酷いよな?俺も話を聞いた時はビックリしたよ!せっかくお前と一緒に仕事をしてもらったのに俺も残念だよ」

そう言ってゴサロの肩を叩いた。

ゴサロは、ブラックオパールが知らないうちに部下が処分されたのだと分かり、やはりそうかと自分の疑問を解消したところだったが、

「でも、別に問題ないだろう?」

そう隣の男に言われて思わずそちらを振り返った。

そこには無表情な視線を自分に向ける一個の怪物がいた。

「仕事が出来なきゃ別にいても…なぁ?お前もそう思うだろう?」

「隊長…」

ゴサロの顔には、自分がかつて知っていた男とはやはり違う男がここにいる事を実感した諦念が顔に浮かんだが、ブラックオパールはそんな事にはお構いなく、

「まぁ、気を取り直して、また楽しくやろうや。取りあえず、今回の仕事を終わらせてからな!」

そう言って、今度は本当にその場を離れた。



ブラックオパールの姿が消えて少し時が経ち、ゴサロは落ち着いて考える。

確かに隊長はここへ来たが、あの化け物娘の相手をするのは嫌だった。絶対に今度は殺される。

急いでこの場を離れて遠くへ行けばあるいは…。

そう思い立ったゴサロは、先程ブラックオパールが投げていった金貨を懐に入れると、エールの代金に大銅貨を数枚テーブルの上に置いて食堂を出た。

外に出たゴサロは、直ぐに辻馬車の乗り場へ向かおうとしたが、その時、食堂の入口近くで屯していた男たちの声が聞こえてきた。

「おい!聞いたか?街の入り口近くで冒険者っぽい男と女の死体が見つかったってよ」

「聞いた、聞いた!顔が潰されてて、どこの誰だか分からんって話じゃないか!」

「そうなのか?俺が聞いたのは、森の入り口近くに男の死体があったって話だが。それも冒険者風で顔が潰されてたってよ!」

「ひでぇ話だな!犯罪者とか近くに潜んでんじゃねーだろうな?!」

「衛兵が辺りの捜索と警備を強化するとか言ってたぜ。おっかねー話だな」

その話を聞いたゴサロの脳裏には、瞬時にあの場で別れた元冒険者の姿が浮かんだ。

まさか、これもブラックオパールが!?…。

暫しその場に立ち尽くしたゴサロは、諦めの表情を浮かべると踵を返して宿屋に戻り、今日の宿を取った。

今日の獣人国行きの辻馬車はもう終了している事は分かっていたので、明日に備える為に今日は早めに寝ることにする

ゴサロは運命に絡めとられた子ウサギの心境だったが、そこから逃れる術は無いのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...