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94話 覚悟
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『皇子は間もなくして戦争を起こすだろう。ヤツの得意技はお前と同じ、精神操作だからな……まぁ、今からでも準備をしておいた方がいい』
『……なら、お前は?』
『は?』
『お前も、この戦争に参加するのか?』
そして、当たり前だと言わんばかりに怪物――案内人は笑いながら答えた。
『当たり前だろ、そんなもの』
使命を果たさなきゃいけないからな。
それだけ言い残して、ヤツは消えてしまった。俺はあの山でヤツの言葉を反芻した後に、街に戻った。
「間もなくして戦争が起こる」
そして、翌日。俺は第一にレジスタンスのリーダーたちがいる作戦室まで行って、その事実を伝えた。
「偵察隊が既に報告したように、皇室の周りには赤黒い霧がかかっている。たぶん、内部では黒魔法の儀式が行われているはずだ」
「……黒魔法の、儀式ですか?」
「ああ、前回の緩かった精神操作をかけ直し、戦闘力を向上させようとしているんだろう。貴族たちの私兵まで全部、皇室の中に集合した。これからの戦いは辛いものとなる」
「っ…………」
「………」
彼らも直感的に理解したのだろう。これは、どっちかが徹底的に潰されなきゃ終わらない戦争だ。
今まで以上に大きな犠牲が伴われるのは言うまでもないし、下手したら全滅だってあり得る。単純な人数的にはこっちが勝っているけど、戦闘ができる人の割合を考えたら話にならない。
圧倒的に、こっちが不利だ。向こうは手練れな騎士たちが何百人もいるけど、こっちは傭兵か、もしくは民間人が圧倒的に多いから。
「大丈夫だ」
だけど、俺は首を振りながら笑って見せる。会議室に集まった5人の視線が、一気に俺に注がれる。
「俺たちにはニアがいて、クロエがいて、ブリエンがいて、アルウィンがいる。兵士たちのサポート役であるリエルもいる。俺たちは負けない」
彼らを慰めるためだけの言葉じゃなかった。
俺は今でも勝算があると思っているし、レジスタンスの戦力だって無視できないほどには上がっている。
いつ起こるか分からない戦争に備え、彼らもずっと訓練を重ねてきたのだ。
「向こうの戦力が勝っていることは否定しない。貴族たちの私兵も加わった上に、恐怖を知らない精神操作までかけられたから、こっちが不利なのは当然だ。でも―――」
俺は、口角を上げながら言葉を続ける。
「時にはなにも考えない人形より、守りたいものがある人間の方が強いと、俺は信じている」
「……カイ様」
「精神論でしかないかもしれないが、自分の大切なもののために戦うよう、みんなに伝えておいてくれ。その気持ちが、戦場での闘志に繋がるからな」
「「「………はい!!」」」
5人の男女が一斉に頷く。さっきまで若干たじろいでいた面影はどこにもなく、彼らの顔には確かな意志と忠誠が満ちていた。
俺はみんなの顔を全部見た後に、声を低くしてから言う。
「さて、会議を始めようか。やつらに勝つための会議を」
何時間も、レジスタンスのリーダーたちと戦闘に関する会議をした後、俺はリエルの屋敷に戻ってさっそく5人を呼んだ。
ニア、クロエ、リエル、ブリエン、アルウィンまで。全員俺の部屋に集めた後、俺は怪物―――案内人と交わした会話内容をすべて、彼女たちに伝える。
自分が実は転生者であり、ゲームのシナリオを壊したせいで案内人という怪物が生まれたことも。
その案内人の目的と、元の世界がたどり着く運命まですべて、俺は彼女たちに語った。
「――そして、ヤツは最後に自分も参戦すると言っていた。レジスタンスのリーダーたちにも伝えたけど、俺たちの敵は皇室の軍隊だけじゃない……あの案内人という怪物も、含まれている」
「……………」
既に案内人と対峙したことのあるブリエンは、直ちに顔をしかめて俯く。ヤツの力を知っているからだろう。
「そして、たぶんだけど……あいつは相当強い。たぶん、俺やニアより強いかもしれない。直で感じられた魔力だけで言うなら」
「ええっ!?そ、そんな……!」
「………ウソでしょ」
リエルとクロエが信じられないとばかりに驚く。ニアは、俺の言葉を聞いて目を細めるだけだった。
「でも、俺たちは戦うしかない。みんな、さっき元の世界の運命を聞いただろ?」
「………そうだね。彼の言う通りだわ。相手が私たちより強かろうがなんだろうが、私たちは戦うしかない」
「そう、ですね……この国の皆様を守るためなら」
元勇者パーティーのメンバー、ブリエンとアルウィンは頷きながら決意に満ちた顔を見せる。
ブリエンの言う通り、これは最終決戦だ。すべてをかけて戦闘に挑まなきゃ、俺たちに未来はない。
俺は、立ち上がってから両手を合わせて見せる。
「ごめんな、みんな。大変なのは重々承知だけど、ここにいるみんなが活躍してくれないとこの戦争は……俺の予想だけど、絶対に勝てない。ここにいる5人、俺を合わせた6人の活躍次第で、この戦争の結果が決まると言っても過言ではない」
「「「…………」」」
「今までで一番つらい戦いになるだろうし、体も精神もきっとボロボロになるだろう。でも、そんな状態でもなお戦わないと―――この戦争は俺たちの敗北で終わる。なにせ、戦力自体はこっちが圧倒的に不利だからね」
みんなの顔から少しずつ緊張が滲み始める。俺がわざわざ言わなくたって、みんなもきっとその事実を知っていたはずだ。
向こうは恐怖という感情が殺された、正に殺人鬼だらけの軍隊。対してこっちは、戦闘経験のない民間人が大半の素人部隊。
どっちが有利なのかは火を見るよりも明らかだ。しかし―――
「しかし、これだけは誓うよ。俺は何があっても絶対に、君たちを死なせたりしない」
レジスタンスのリーダーたちにも言った通り、守りたいものがある人間は強くなるはずだ。
踏みにじられても、危機に陥っても、粘って戦って叶おうとするはずだ。
俺は、俺にできる最大限の誓いをみんなに伝える。
「俺の命に引き換えてても絶対に、君たちを守るから。死んだとしても俺が一番最初に死ぬから―――君たちは何も恐れずに、他のみんなのために戦ってくれ」
クソゲーのシナリオなんかに従うもんか。
前世でちっぽけだった俺は、この世界に来てみんなと出会うことができた。大切な人ができた。
この絆を守り抜きたい。絶対に絶えることのない―――永遠なものにしていきたい。
その気持ちを全部込めて発した言葉だった。俺が言葉を終えて、しばらく静寂が流れた後。
「……バカ言わないでよ」
不満そうなクロエの声が、部屋の中で響き渡った。
「もしあなたが死んだら、絶対に許さないから。もしそうなった時はこっちも死んでやるから、二度とそんなこと言わないで」
「………えっ」
「そうね、さっきの言葉そのまま返す。私は、私の命に引き換えてでもあなたを守るつもり。だから……死なないでよ。互いに生きたまま、一緒に勝とうよ」
「…………」
「私、バッドエンドよりはハッピーエンドが好きだから」
クロエのその言葉に、彼女の両隣に座っていたブリエンとアルウィンがくすっと笑いをこぼす。
間もなくして、彼女たちの視線も俺に向けられた。
「そうね、なに格好つけているのよ。私たちを守ることより、自分自身の命を大切にしなさい」
「こう見えても私たち、元勇者パーティーでしたから!むしろ私たちがカイさんの背中を守るので、存分に暴れてください!!」
…………いつの間に、この二人にここまで信頼されるようになったんだろう。
不思議だと思いながら、リエルの声が響く。
「わ、私も!戦闘面では役立たないし、なにも守れないかもしれないけど……みんなを含めたレジスタンスたちのサポート、頑張るから!」
「…………リエル」
「絶対に死なないで!!絶対に……絶対にだよ?」
いつも小動物のような彼女も、今回だけは決然とした表情で俺を見据えてきた。
……そうか。俺もそれなりに、大切にされているのか。
くすぐったさに後ろ頭をかいていると、突然ニアがソファーから立ち上がった。
そして、真っすぐ俺を見つめながら言う。
「私、幸せになりたい」
「……うん」
「そして、カイがいなきゃ私は幸せになれない」
かつて涙の魔女と呼ばれた少女は。
不幸とは程遠い、心の底から引き出される笑顔を湛えながら、もう一度言った。
「だから、絶対に勝つ」
勝って、みんな幸せになろう。
呆れるほどに純粋な言葉に、部屋の中の雰囲気が和む。そうだ……勝たなきゃだ。
……バッドエンドになんか、させるもんか。絶対に勝って、くそったれな運命を覆してやる。
そう何度も自分に言い聞かせながら、俺は薄笑みを浮かべて見せた。
『……なら、お前は?』
『は?』
『お前も、この戦争に参加するのか?』
そして、当たり前だと言わんばかりに怪物――案内人は笑いながら答えた。
『当たり前だろ、そんなもの』
使命を果たさなきゃいけないからな。
それだけ言い残して、ヤツは消えてしまった。俺はあの山でヤツの言葉を反芻した後に、街に戻った。
「間もなくして戦争が起こる」
そして、翌日。俺は第一にレジスタンスのリーダーたちがいる作戦室まで行って、その事実を伝えた。
「偵察隊が既に報告したように、皇室の周りには赤黒い霧がかかっている。たぶん、内部では黒魔法の儀式が行われているはずだ」
「……黒魔法の、儀式ですか?」
「ああ、前回の緩かった精神操作をかけ直し、戦闘力を向上させようとしているんだろう。貴族たちの私兵まで全部、皇室の中に集合した。これからの戦いは辛いものとなる」
「っ…………」
「………」
彼らも直感的に理解したのだろう。これは、どっちかが徹底的に潰されなきゃ終わらない戦争だ。
今まで以上に大きな犠牲が伴われるのは言うまでもないし、下手したら全滅だってあり得る。単純な人数的にはこっちが勝っているけど、戦闘ができる人の割合を考えたら話にならない。
圧倒的に、こっちが不利だ。向こうは手練れな騎士たちが何百人もいるけど、こっちは傭兵か、もしくは民間人が圧倒的に多いから。
「大丈夫だ」
だけど、俺は首を振りながら笑って見せる。会議室に集まった5人の視線が、一気に俺に注がれる。
「俺たちにはニアがいて、クロエがいて、ブリエンがいて、アルウィンがいる。兵士たちのサポート役であるリエルもいる。俺たちは負けない」
彼らを慰めるためだけの言葉じゃなかった。
俺は今でも勝算があると思っているし、レジスタンスの戦力だって無視できないほどには上がっている。
いつ起こるか分からない戦争に備え、彼らもずっと訓練を重ねてきたのだ。
「向こうの戦力が勝っていることは否定しない。貴族たちの私兵も加わった上に、恐怖を知らない精神操作までかけられたから、こっちが不利なのは当然だ。でも―――」
俺は、口角を上げながら言葉を続ける。
「時にはなにも考えない人形より、守りたいものがある人間の方が強いと、俺は信じている」
「……カイ様」
「精神論でしかないかもしれないが、自分の大切なもののために戦うよう、みんなに伝えておいてくれ。その気持ちが、戦場での闘志に繋がるからな」
「「「………はい!!」」」
5人の男女が一斉に頷く。さっきまで若干たじろいでいた面影はどこにもなく、彼らの顔には確かな意志と忠誠が満ちていた。
俺はみんなの顔を全部見た後に、声を低くしてから言う。
「さて、会議を始めようか。やつらに勝つための会議を」
何時間も、レジスタンスのリーダーたちと戦闘に関する会議をした後、俺はリエルの屋敷に戻ってさっそく5人を呼んだ。
ニア、クロエ、リエル、ブリエン、アルウィンまで。全員俺の部屋に集めた後、俺は怪物―――案内人と交わした会話内容をすべて、彼女たちに伝える。
自分が実は転生者であり、ゲームのシナリオを壊したせいで案内人という怪物が生まれたことも。
その案内人の目的と、元の世界がたどり着く運命まですべて、俺は彼女たちに語った。
「――そして、ヤツは最後に自分も参戦すると言っていた。レジスタンスのリーダーたちにも伝えたけど、俺たちの敵は皇室の軍隊だけじゃない……あの案内人という怪物も、含まれている」
「……………」
既に案内人と対峙したことのあるブリエンは、直ちに顔をしかめて俯く。ヤツの力を知っているからだろう。
「そして、たぶんだけど……あいつは相当強い。たぶん、俺やニアより強いかもしれない。直で感じられた魔力だけで言うなら」
「ええっ!?そ、そんな……!」
「………ウソでしょ」
リエルとクロエが信じられないとばかりに驚く。ニアは、俺の言葉を聞いて目を細めるだけだった。
「でも、俺たちは戦うしかない。みんな、さっき元の世界の運命を聞いただろ?」
「………そうだね。彼の言う通りだわ。相手が私たちより強かろうがなんだろうが、私たちは戦うしかない」
「そう、ですね……この国の皆様を守るためなら」
元勇者パーティーのメンバー、ブリエンとアルウィンは頷きながら決意に満ちた顔を見せる。
ブリエンの言う通り、これは最終決戦だ。すべてをかけて戦闘に挑まなきゃ、俺たちに未来はない。
俺は、立ち上がってから両手を合わせて見せる。
「ごめんな、みんな。大変なのは重々承知だけど、ここにいるみんなが活躍してくれないとこの戦争は……俺の予想だけど、絶対に勝てない。ここにいる5人、俺を合わせた6人の活躍次第で、この戦争の結果が決まると言っても過言ではない」
「「「…………」」」
「今までで一番つらい戦いになるだろうし、体も精神もきっとボロボロになるだろう。でも、そんな状態でもなお戦わないと―――この戦争は俺たちの敗北で終わる。なにせ、戦力自体はこっちが圧倒的に不利だからね」
みんなの顔から少しずつ緊張が滲み始める。俺がわざわざ言わなくたって、みんなもきっとその事実を知っていたはずだ。
向こうは恐怖という感情が殺された、正に殺人鬼だらけの軍隊。対してこっちは、戦闘経験のない民間人が大半の素人部隊。
どっちが有利なのかは火を見るよりも明らかだ。しかし―――
「しかし、これだけは誓うよ。俺は何があっても絶対に、君たちを死なせたりしない」
レジスタンスのリーダーたちにも言った通り、守りたいものがある人間は強くなるはずだ。
踏みにじられても、危機に陥っても、粘って戦って叶おうとするはずだ。
俺は、俺にできる最大限の誓いをみんなに伝える。
「俺の命に引き換えてても絶対に、君たちを守るから。死んだとしても俺が一番最初に死ぬから―――君たちは何も恐れずに、他のみんなのために戦ってくれ」
クソゲーのシナリオなんかに従うもんか。
前世でちっぽけだった俺は、この世界に来てみんなと出会うことができた。大切な人ができた。
この絆を守り抜きたい。絶対に絶えることのない―――永遠なものにしていきたい。
その気持ちを全部込めて発した言葉だった。俺が言葉を終えて、しばらく静寂が流れた後。
「……バカ言わないでよ」
不満そうなクロエの声が、部屋の中で響き渡った。
「もしあなたが死んだら、絶対に許さないから。もしそうなった時はこっちも死んでやるから、二度とそんなこと言わないで」
「………えっ」
「そうね、さっきの言葉そのまま返す。私は、私の命に引き換えてでもあなたを守るつもり。だから……死なないでよ。互いに生きたまま、一緒に勝とうよ」
「…………」
「私、バッドエンドよりはハッピーエンドが好きだから」
クロエのその言葉に、彼女の両隣に座っていたブリエンとアルウィンがくすっと笑いをこぼす。
間もなくして、彼女たちの視線も俺に向けられた。
「そうね、なに格好つけているのよ。私たちを守ることより、自分自身の命を大切にしなさい」
「こう見えても私たち、元勇者パーティーでしたから!むしろ私たちがカイさんの背中を守るので、存分に暴れてください!!」
…………いつの間に、この二人にここまで信頼されるようになったんだろう。
不思議だと思いながら、リエルの声が響く。
「わ、私も!戦闘面では役立たないし、なにも守れないかもしれないけど……みんなを含めたレジスタンスたちのサポート、頑張るから!」
「…………リエル」
「絶対に死なないで!!絶対に……絶対にだよ?」
いつも小動物のような彼女も、今回だけは決然とした表情で俺を見据えてきた。
……そうか。俺もそれなりに、大切にされているのか。
くすぐったさに後ろ頭をかいていると、突然ニアがソファーから立ち上がった。
そして、真っすぐ俺を見つめながら言う。
「私、幸せになりたい」
「……うん」
「そして、カイがいなきゃ私は幸せになれない」
かつて涙の魔女と呼ばれた少女は。
不幸とは程遠い、心の底から引き出される笑顔を湛えながら、もう一度言った。
「だから、絶対に勝つ」
勝って、みんな幸せになろう。
呆れるほどに純粋な言葉に、部屋の中の雰囲気が和む。そうだ……勝たなきゃだ。
……バッドエンドになんか、させるもんか。絶対に勝って、くそったれな運命を覆してやる。
そう何度も自分に言い聞かせながら、俺は薄笑みを浮かべて見せた。
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