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66話 運命共同体
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教皇が公開的に粛清された事件は、帝国に大きな反響をもたらした。
無理もない。帝国の象徴とも言える教会が完全に潰れたわけだから。
リエルの屋敷の部屋。俺は背もたれにもたれかかったまま深い息をつく。
「ふぅ……」
教皇が死んだ後、街には革命を起こそうとする動きが活発になっていた。
今まで教会がやらかしてきた様々な悪行と共に現れたレジスタンスの存在が、人々の不満に火をつけたのだ。
既に帝国の首都、オーデルでは公にレジスタンスの団員を募集するという貼り紙が貼られている。
そして、そのレジスタンスたちを統率する人、すなわち彼らのボスは―――何故だか俺になっていた。
「まさかこんなことになるなんてな~~」
彼らが俺を敬う理由は分かる。教会の醜態を晒し、十字軍を潰して教皇を捕まえたからだろう。
その上に、教会の地下で犯されていた女性たちを助け、市民たちに全く危害を加えない行動まで。
俺としては別に意図したわけではないが、状況がそんな風に転んでしまった。
「それに、あの予言……」
悪魔がこの世を飲みつくし、世界を片っ端から塗り替えていく。
その予言はゲーム内にはない設定だったが、今の市民たちはその予言をまるで決められた運命みたいに強く信じていた。
なのに、その悪魔が実は自分たちを助ける側だなんて。なにも知らない人々にとっては、俺がまるで救世主みたいに映るだろう。
まあ、俺がここまで来れたのは純粋にニア、クロエ、リエルといった仲間たちのおかげだが。
そこまで思った時に、トントンとノックの音が鳴った。
「カイさん、入ってもいいですか?」
「うん」
声の主はアルウィンだった。今回の事件で被害者とも言える彼女は、やや憔悴した顔で俺の前に立つ。
俺は座ったまま、苦笑を浮かべた。
「大丈夫?」
「大丈夫……では、ありませんね」
そう言いながらも、彼女は笑う。疲れているのがありありと伝わってくるけど、俺としては返す言葉がなかった。
教皇の粛清を最後まで見届けた後、彼女は焼け野原になった教会を一から再建すると言っていた。
今までにあった悪習を絶ち、反省を重ね、今度こそ人々を助けられる教会を作る。
決して容易いことではないというのに、彼女はその道を選んだのだ。
「今日からだっけ、教会に戻るの」
「はい。建物の被害や教会の財産もしっかり把握しなきゃいけませんし、なによりも……教皇が亡くなった今、教会の中心になれる人はせいぜい私くらいですから」
……彼女は、元々有力な教皇候補。今の状況にかなり責任感を抱いているのだろう。
「レジスタンスの人たちには、教会に手出ししないようにと言っておくから」
「ふふっ、ありがとうございます……ああ、そうだ。二つだけ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「うん、なんでも聞いて」
「レジスタンスの人たちは、どこから来たのですか?彼らは確か、首都から遠い田舎やスラムを中心にして活躍してたはずなのに」
「ああ、それはリエルのおかげだよ。商会の人たちを使って彼らに声をかけて、エリクサーを販売するための商人と見せかけたんだ。そのおかげで首都に入ることができたってわけ」
「なるほど、ラウディ商会の正式な書類があるから」
「だね。その他にも人員の配置や資金の調達まで、リエルは本当に頑張ってくれたんだ。それと……二つ目の質問、なんとなく想像がつくけど」
「ふふっ、当ててみますか?」
「カルツのことだろ?」
「…………………」
図星だったのか、彼女は目を伏せるだけだった。
カルツが死んだという知らせは既に市民たちにも伝わり、衝撃を与えていた。だけど、彼が教会の肩を持つことを選んだからか、その死を悼む人はほとんどいない。
「ごめん」
「……なんで謝るんですか?カルツ様はすべてを知っていてもなお、教皇をかばうことを選びました。カイさんが悪いことをしたとは思いませんが」
「でも、仲間だったんでしょ?君にとっては」
「……………」
「……アルウィン、俺は―――」
「私は、カイさんに感謝しています」
なにかを言いかけたところで、彼女の声が俺の言葉を遮る。
「本当に、感謝しているんですよ?たとえあなたが悪魔であり、恩人を殺して、仲間を殺したとしても……私は、あなたに感謝しているんです」
「……アルウィン」
「元々、こうあるべきでしたから」
そこまで言って、アルウィンは満面の笑みを浮かべて見せる。
無理していることは伝わるけど、彼女の本音が分かるような笑顔だった。
「偽りだらけの日常よりは、今の方がずっと正しい気がするんです。もしかしたら、これは神の導きだったかもしれませんね」
「………そうかな」
「はい。私は少しも、あなたのことを恨んでいませんから。むしろかなり感謝していますし、それに……ふふっ」
「うん?」
「……いえ、なんでもありません」
急にくすぐったそうに笑うから、俺は思わず目を丸くしてしまった。
そして、俺の反応を確かめたアルウィンは首を振って息をつく。次に出たのは、聖職者としての強い声だった。
「教会の悪行を、皇室側が知らないはずはなかったでしょう」
「そうだね。皇室と教会は切っても切れない関係だから」
「はい。なので、お願いします、カイさん」
「……」
「神の予言通り、この悪に満ちた帝国を一から塗り替えて行ってください。もし、皇室まで教会と同じ悪の巣窟だというのなら―――どうか、皇室を潰してください」
聖職者としてあるまじき発言だったが、アルウィンの声は確信に満ちていた。
「私はいつまでもあなたを、あなたたち影を、サポートしていきますので」
「うん、ありがとう。アルウィン」
彼女が影に入ることはないだろう。
だけど、それでいい。彼女が俺たちの仲間であることに変わりはないから。
俺が先に立ち上がって手を差し伸べると、アルウィンが微笑みながら手を握ってくる。
彼女の手を握り返しながら、俺は思う。一体、なにをしているのだろう。
教皇が死んで勇者が死んで、革命が起きているのに皇室はなにをしている?
一体、なにを企んでいるんだ?あいつらは。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
教皇が広場で粛清されてから三日。
「…………」
「…………」
皇室の謁見室の中、名高き貴族たちは緊張した顔である人物を待っていた。
みんな呼び出されたのだ。事件があった翌日に、今日この時間で謁見室に集まるようにと、ある人物からの通達を受けたから。
いくら送り主の身分が高いからと言っても、公爵や伯爵にもなった貴族たちが一心不乱に動くわけがない。
だけど、この謁見室には既に30人以上の貴族たちが集まっていた。欠員は一人もいない。
みんな、革命の犠牲者になりたくはないからだ。
「…………ふぅ……」
貴族の一人が疲れたようにため息をつく。強い恐怖が場を支配する。
無理もない話だ。たった一晩で十字軍が潰され、教皇が市民の目の前で粛清されたから。勇者カルツさえも、悪魔に敗北したじゃないか。
民衆の不満はもう十分に爆発しているし、いつ何が起きてもおかしくない状況。
その上に、あの悪魔たちが………影が、レジスタンス側に立っているのだ。
「…………………」
「…………………」
もし本格的な革命が起きたら、真っ先に首が飛ぶのは間違いなく自分たちになるだろう。
皇室より狙いやすいし、なにより……今まで積んできた業があるから。
「あ、あの方はいつ来られるのですか……?」
「チッ、まさか逃げたんじゃないだろうな……こんな状況で自分だけ……!」
「あ、あの方の言葉を信じれないとでも言うのですか、グラン伯爵!!実験はもう成功したと、あの方が……!!」
「よくこんな状況で実験とか言えますな、ガニエ伯爵!!この首都で!目の前で革命が起きているんですよ!?悪魔がすぐそこにいるじゃないですか!」
「だから!今、悪魔に対抗できる方はもうあの方しか―――」
「そうですね~私しかありません」
その時。
険しい雰囲気を破って、一人の男が謁見室に入ってくる。妙に自信気な表情を浮かべている彼の名前は、アドルフ。
「これで、私たちは本当の意味で運命共同体になりました」
この国の第2皇子であり、貴族たちに永生を約束した張本人は。
「もう、後には引けませんよ?ふふっ」
心底愉快そうに笑いながら、貴族たちの張りつめた顔を眺めた。
無理もない。帝国の象徴とも言える教会が完全に潰れたわけだから。
リエルの屋敷の部屋。俺は背もたれにもたれかかったまま深い息をつく。
「ふぅ……」
教皇が死んだ後、街には革命を起こそうとする動きが活発になっていた。
今まで教会がやらかしてきた様々な悪行と共に現れたレジスタンスの存在が、人々の不満に火をつけたのだ。
既に帝国の首都、オーデルでは公にレジスタンスの団員を募集するという貼り紙が貼られている。
そして、そのレジスタンスたちを統率する人、すなわち彼らのボスは―――何故だか俺になっていた。
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彼らが俺を敬う理由は分かる。教会の醜態を晒し、十字軍を潰して教皇を捕まえたからだろう。
その上に、教会の地下で犯されていた女性たちを助け、市民たちに全く危害を加えない行動まで。
俺としては別に意図したわけではないが、状況がそんな風に転んでしまった。
「それに、あの予言……」
悪魔がこの世を飲みつくし、世界を片っ端から塗り替えていく。
その予言はゲーム内にはない設定だったが、今の市民たちはその予言をまるで決められた運命みたいに強く信じていた。
なのに、その悪魔が実は自分たちを助ける側だなんて。なにも知らない人々にとっては、俺がまるで救世主みたいに映るだろう。
まあ、俺がここまで来れたのは純粋にニア、クロエ、リエルといった仲間たちのおかげだが。
そこまで思った時に、トントンとノックの音が鳴った。
「カイさん、入ってもいいですか?」
「うん」
声の主はアルウィンだった。今回の事件で被害者とも言える彼女は、やや憔悴した顔で俺の前に立つ。
俺は座ったまま、苦笑を浮かべた。
「大丈夫?」
「大丈夫……では、ありませんね」
そう言いながらも、彼女は笑う。疲れているのがありありと伝わってくるけど、俺としては返す言葉がなかった。
教皇の粛清を最後まで見届けた後、彼女は焼け野原になった教会を一から再建すると言っていた。
今までにあった悪習を絶ち、反省を重ね、今度こそ人々を助けられる教会を作る。
決して容易いことではないというのに、彼女はその道を選んだのだ。
「今日からだっけ、教会に戻るの」
「はい。建物の被害や教会の財産もしっかり把握しなきゃいけませんし、なによりも……教皇が亡くなった今、教会の中心になれる人はせいぜい私くらいですから」
……彼女は、元々有力な教皇候補。今の状況にかなり責任感を抱いているのだろう。
「レジスタンスの人たちには、教会に手出ししないようにと言っておくから」
「ふふっ、ありがとうございます……ああ、そうだ。二つだけ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「うん、なんでも聞いて」
「レジスタンスの人たちは、どこから来たのですか?彼らは確か、首都から遠い田舎やスラムを中心にして活躍してたはずなのに」
「ああ、それはリエルのおかげだよ。商会の人たちを使って彼らに声をかけて、エリクサーを販売するための商人と見せかけたんだ。そのおかげで首都に入ることができたってわけ」
「なるほど、ラウディ商会の正式な書類があるから」
「だね。その他にも人員の配置や資金の調達まで、リエルは本当に頑張ってくれたんだ。それと……二つ目の質問、なんとなく想像がつくけど」
「ふふっ、当ててみますか?」
「カルツのことだろ?」
「…………………」
図星だったのか、彼女は目を伏せるだけだった。
カルツが死んだという知らせは既に市民たちにも伝わり、衝撃を与えていた。だけど、彼が教会の肩を持つことを選んだからか、その死を悼む人はほとんどいない。
「ごめん」
「……なんで謝るんですか?カルツ様はすべてを知っていてもなお、教皇をかばうことを選びました。カイさんが悪いことをしたとは思いませんが」
「でも、仲間だったんでしょ?君にとっては」
「……………」
「……アルウィン、俺は―――」
「私は、カイさんに感謝しています」
なにかを言いかけたところで、彼女の声が俺の言葉を遮る。
「本当に、感謝しているんですよ?たとえあなたが悪魔であり、恩人を殺して、仲間を殺したとしても……私は、あなたに感謝しているんです」
「……アルウィン」
「元々、こうあるべきでしたから」
そこまで言って、アルウィンは満面の笑みを浮かべて見せる。
無理していることは伝わるけど、彼女の本音が分かるような笑顔だった。
「偽りだらけの日常よりは、今の方がずっと正しい気がするんです。もしかしたら、これは神の導きだったかもしれませんね」
「………そうかな」
「はい。私は少しも、あなたのことを恨んでいませんから。むしろかなり感謝していますし、それに……ふふっ」
「うん?」
「……いえ、なんでもありません」
急にくすぐったそうに笑うから、俺は思わず目を丸くしてしまった。
そして、俺の反応を確かめたアルウィンは首を振って息をつく。次に出たのは、聖職者としての強い声だった。
「教会の悪行を、皇室側が知らないはずはなかったでしょう」
「そうだね。皇室と教会は切っても切れない関係だから」
「はい。なので、お願いします、カイさん」
「……」
「神の予言通り、この悪に満ちた帝国を一から塗り替えて行ってください。もし、皇室まで教会と同じ悪の巣窟だというのなら―――どうか、皇室を潰してください」
聖職者としてあるまじき発言だったが、アルウィンの声は確信に満ちていた。
「私はいつまでもあなたを、あなたたち影を、サポートしていきますので」
「うん、ありがとう。アルウィン」
彼女が影に入ることはないだろう。
だけど、それでいい。彼女が俺たちの仲間であることに変わりはないから。
俺が先に立ち上がって手を差し伸べると、アルウィンが微笑みながら手を握ってくる。
彼女の手を握り返しながら、俺は思う。一体、なにをしているのだろう。
教皇が死んで勇者が死んで、革命が起きているのに皇室はなにをしている?
一体、なにを企んでいるんだ?あいつらは。
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教皇が広場で粛清されてから三日。
「…………」
「…………」
皇室の謁見室の中、名高き貴族たちは緊張した顔である人物を待っていた。
みんな呼び出されたのだ。事件があった翌日に、今日この時間で謁見室に集まるようにと、ある人物からの通達を受けたから。
いくら送り主の身分が高いからと言っても、公爵や伯爵にもなった貴族たちが一心不乱に動くわけがない。
だけど、この謁見室には既に30人以上の貴族たちが集まっていた。欠員は一人もいない。
みんな、革命の犠牲者になりたくはないからだ。
「…………ふぅ……」
貴族の一人が疲れたようにため息をつく。強い恐怖が場を支配する。
無理もない話だ。たった一晩で十字軍が潰され、教皇が市民の目の前で粛清されたから。勇者カルツさえも、悪魔に敗北したじゃないか。
民衆の不満はもう十分に爆発しているし、いつ何が起きてもおかしくない状況。
その上に、あの悪魔たちが………影が、レジスタンス側に立っているのだ。
「…………………」
「…………………」
もし本格的な革命が起きたら、真っ先に首が飛ぶのは間違いなく自分たちになるだろう。
皇室より狙いやすいし、なにより……今まで積んできた業があるから。
「あ、あの方はいつ来られるのですか……?」
「チッ、まさか逃げたんじゃないだろうな……こんな状況で自分だけ……!」
「あ、あの方の言葉を信じれないとでも言うのですか、グラン伯爵!!実験はもう成功したと、あの方が……!!」
「よくこんな状況で実験とか言えますな、ガニエ伯爵!!この首都で!目の前で革命が起きているんですよ!?悪魔がすぐそこにいるじゃないですか!」
「だから!今、悪魔に対抗できる方はもうあの方しか―――」
「そうですね~私しかありません」
その時。
険しい雰囲気を破って、一人の男が謁見室に入ってくる。妙に自信気な表情を浮かべている彼の名前は、アドルフ。
「これで、私たちは本当の意味で運命共同体になりました」
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