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61話 影 vs 十字軍
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「あがっ……あ、うぁあああああああああああああああ!!」
「な、なんだ……!?何が起きている!?」
「カルツ様、カルツ様!!!」
……まさか、こうもあっさり幻覚が利くなんて。
俺はほろ苦さを感じながら、目の前で悲鳴を上げているカルツを見つめる。ヤツと戦闘に入る前、俺はパチンと指を鳴らしてヤツに幻覚をかけた。ありきたりな精神操作だった。
そして、本来なら今の時点でヤツは精神操作に対する耐性があるはずだった。
幻覚が通るのは物語の序盤だけ。作中のカルツは色んな試練を経てから精神的に成長し、どんどん状態異常スキルが利かなくなるのだ。
なのに、ヤツはあまりにも容易く幻覚に惑わされて、悶えている。精神的に全く成長を遂げていないということだった。
「……まさか、こんなにも浅はかなヤツだったとは」
ゲームの主人公なのに。これでもゲームのシナリオ上では、時々反省もしながら成長していくヤツなのに。
度が過ぎた信念と劣等感は、ここまで人をバカにすることができるのか。ここまで人を醜くすることができるのか。
どのみち、ヤツを生かす必要はない。ここでしっかりと殺さなければ―――
「サンクチュアリ!!!」
――――まで思っていたその瞬間、リーダーの男が神聖魔法の盾を形成させ、空中から飛びついてくる。
咄嗟に後ろに退くと、凄まじい轟音と共に爆発が起きた。煙が払われると、カルツを担いだ男が忌々しいとばかりに俺を見つめる。
「貴様……!なにがあっても、ここで駆逐してやる!!」
「お前も知ってたのか?」
「はあ!?何をだ!!」
「教会が女の人たちを攫って強姦してた事実」
その瞬間、男が慌てたように息を飲み込む。俺はそれを見て、ハッと失笑を零してしまった。
「なのに、神聖魔法が使えるんだな」
―――反吐が出そうだ。
やっぱり、こいつら全員皆殺しにしなくては。俺はそう思って、手に持っていた
アーティファクト―――ブリトラに魔力を注いで、駆け出す。
「くっ!?!?機動部隊、ヤツをせき止めろ!!魔法部隊はいち早くジェネシスの陣を組め!!」
男は後ろに退きながら命令すると、凄まじい数の敵が俺の前に立ちはだかる。
神聖魔法陣が出来上がるまで、時間を稼ぐつもりなのだろう。しかし――その魔法陣が完成されることはない。
「ぷっ!?くほっ、カッ……!!」
「な……なんだ!?何が起きて―――カハッ」
「ま、魔法部隊が攻撃されている!!魔法部隊を守れ!!」
「クソ、なにが起きてるんだ!!」
―――俺たちには、俺より早い俊足の暗殺者がいるからだ。
目に追いつけないスピードで、クロエはナイフを持って術を組んでいる男たちを殺していく。男たちの間を潜り抜けて、急所だけを狙って、効果的にやつらを倒しているのだ。
災難のようなその出来事に混乱が溢れ出す。たった二人に、数百に達する軍隊が弄ばれていた。
「な、なにをやっている!!カルツ様を守りながら、なんとか魔法陣を……!!」
命令を出している男にでさえ、その戸惑いがよく感じられる。俺は怒涛の勢いで目の前の敵を薙ぎ払いながら、どんどん突き進んでいく。
黒いオーラ―が男の胴元を貫くと同時に、大きな剣気を作って放つ。数人の男たちの体が文字通り真っ二つになって崩れ落ちる。
血が吹き飛び、恐怖が降りかかる。俺はやつらの攻撃を時々躱しながら、反撃しながら、空中に飛んで剣先で地面を叩いた。
それだけでも衝撃が広がって、男たちが突き飛ばされた。黄色いオーラ―はどんどん消えていき、漆黒のチリが宙に舞う。
「退け!!これからは俺がやる!!」
そうやって敵を倒していくうちに、再び目の前で光の盾が表れる。目の前まで迫るそれを剣で防ぎながら、その反動で体を後ろに飛ばした。
着地すると同時に、リーダーの男が剣を抜く。
「影……!ここで生きて帰れるとは思うな!」
「――――はっ」
部下たちが殺されるのを見て。
文字通り掌で踊らされているこの状況に屈辱を感じているのか、ヤツはかなり興奮していた。
しかし、ヤツはまだ何も気づいていない。
「おい、なにか忘れてないか?」
「…………………は?」
「影はさ、4人集団なんだよ」
俺と、ニアと、クロエと、リエル。もちろん、今は別の場所にいるリエルを除いたとしても、1人が余る。
言われてようやく察したのか、男の顔が驚愕に滲んだ。
「4人集団……?な、なにを……!?」
「クロエ!!」
俺は魔法部隊を急襲しているはずのクロエを呼んで、咄嗟に頷き合った。それと同時に、クロエは俺の隣まで飛んできて―――
「………………………………な、んだ」
間もなくして、俺たちに巨大な影が差す。
上を見ると、そこには巨大な隕石のようなものがあった。地面に向かって、猛烈な勢いで降下している、黒い球体が。
「俺たちの大切なお姫様を、舐めるな」
「あ、あ…………………!!!」
戦意を喪失したように、男たちの顔に虚無が生じる。間もなくして、雲石はそのまま落とされて――――
今までは比べ物にならない衝撃を、世界に轟かせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……よし」
見るからにも悲惨な光景が、目の前に広がる。
巨大なエネルギーの爆発は、数百の男たちのみならず周りの建物まで綺麗に吹き飛ばしていた。地面には大きな穴が掘られている。
カルツに精神操作が利かない時のためのプランBも準備していたが、あっさりと終わってしまった。
俺が後ろの尖塔の上に立っているニアに頷いて見せると、ニアは空中から飛んで、俺の隣に着地する。
それから、即俺に抱きついてきた。
「ちょっ……!?ニア!?」
「私は頑張った。私にはカイが必要」
「あはっ、もう……はいはい」
抱き返して頭を撫でながら、俺は目の前に彫られた巨大な穴を見る。荒廃した風景だった。
「………………ふぅ」
100人以上の人を殺したと実感すると、少しだけ気が重くなる。なんとも言えない感情が俺の心を包み込む。
しかし、まだやり残したことがある。戦闘も終わったし、早く教皇がいるところに向かわなければ。
そこまで思って、3人で頷き合った瞬間。
「く、そが………………………………………!!」
巨大な穴の中心で、聞きなれた声が響き渡る。
カルツだ。何故か生き残っているヤツは歯をぎしぎしと鳴らしながら、なんとかして立ち上がる。手にはちゃんと聖剣も持たれていた。
ウソだろ、どうやって生き残った―――そこまで思った瞬間、俺はカルツの隣に誰が倒れているのかを確認する。
さっきの、リーダーの男だった。そうか、とっさに盾の神聖魔法でカルツを庇ったのか。自分の死は免れなかったものの、なんとかカルツは守れたみたいだ。
「お前ら……殺す!!絶対に、ぶち殺す!!!!!!!!!!!!!!!」
「…………」
オーラ―を纏った聖剣を持って、ヤツは穴から這い上がる。目の前の男にはもう理性がなかった。
残っているのは憤怒と屈辱感と、俺たちに対する憎悪だけ。ヤツは俺を見て、そのまま飛び掛かってくる。しかし――――
「―――っ!?くはあっ!?!?」
俺に剣が届くよりも先に、ヤツの肩から血が吹きあがった。
紛れもない暗襲。それから、ヤツはまた蹴られて後ろへ吹き飛ばされる。
その行動をした人は、昔の仲間―――クロエだった。
「私の大切な人に、触ろうとしないで」
クロエはナイフをもう一本抜き出してから、お腹を抱えているカルツに向かって言う。
「いい機会だね、カルツ。あんた、前に私を殺そうとしたんでしょ?」
「く、そが……!!ほざくな!!裏切者が!!悪魔の手下が!!俺にたてつく、この世の悪がぁああああああ!!」
「…………………ははっ」
その声を聞いて、最後に残っていた人情さえ消えたのか。
クロエはナイフを持った手を口元の前に寄せてから、言い放つ。
「私、やられっぱなしは性に合わないんだよね」
それは、今まで聞いたことがないくらいに冷え切っている声だった。
「だから、この場であんたを殺してあげる、カルツ」
「な、なんだ……!?何が起きている!?」
「カルツ様、カルツ様!!!」
……まさか、こうもあっさり幻覚が利くなんて。
俺はほろ苦さを感じながら、目の前で悲鳴を上げているカルツを見つめる。ヤツと戦闘に入る前、俺はパチンと指を鳴らしてヤツに幻覚をかけた。ありきたりな精神操作だった。
そして、本来なら今の時点でヤツは精神操作に対する耐性があるはずだった。
幻覚が通るのは物語の序盤だけ。作中のカルツは色んな試練を経てから精神的に成長し、どんどん状態異常スキルが利かなくなるのだ。
なのに、ヤツはあまりにも容易く幻覚に惑わされて、悶えている。精神的に全く成長を遂げていないということだった。
「……まさか、こんなにも浅はかなヤツだったとは」
ゲームの主人公なのに。これでもゲームのシナリオ上では、時々反省もしながら成長していくヤツなのに。
度が過ぎた信念と劣等感は、ここまで人をバカにすることができるのか。ここまで人を醜くすることができるのか。
どのみち、ヤツを生かす必要はない。ここでしっかりと殺さなければ―――
「サンクチュアリ!!!」
――――まで思っていたその瞬間、リーダーの男が神聖魔法の盾を形成させ、空中から飛びついてくる。
咄嗟に後ろに退くと、凄まじい轟音と共に爆発が起きた。煙が払われると、カルツを担いだ男が忌々しいとばかりに俺を見つめる。
「貴様……!なにがあっても、ここで駆逐してやる!!」
「お前も知ってたのか?」
「はあ!?何をだ!!」
「教会が女の人たちを攫って強姦してた事実」
その瞬間、男が慌てたように息を飲み込む。俺はそれを見て、ハッと失笑を零してしまった。
「なのに、神聖魔法が使えるんだな」
―――反吐が出そうだ。
やっぱり、こいつら全員皆殺しにしなくては。俺はそう思って、手に持っていた
アーティファクト―――ブリトラに魔力を注いで、駆け出す。
「くっ!?!?機動部隊、ヤツをせき止めろ!!魔法部隊はいち早くジェネシスの陣を組め!!」
男は後ろに退きながら命令すると、凄まじい数の敵が俺の前に立ちはだかる。
神聖魔法陣が出来上がるまで、時間を稼ぐつもりなのだろう。しかし――その魔法陣が完成されることはない。
「ぷっ!?くほっ、カッ……!!」
「な……なんだ!?何が起きて―――カハッ」
「ま、魔法部隊が攻撃されている!!魔法部隊を守れ!!」
「クソ、なにが起きてるんだ!!」
―――俺たちには、俺より早い俊足の暗殺者がいるからだ。
目に追いつけないスピードで、クロエはナイフを持って術を組んでいる男たちを殺していく。男たちの間を潜り抜けて、急所だけを狙って、効果的にやつらを倒しているのだ。
災難のようなその出来事に混乱が溢れ出す。たった二人に、数百に達する軍隊が弄ばれていた。
「な、なにをやっている!!カルツ様を守りながら、なんとか魔法陣を……!!」
命令を出している男にでさえ、その戸惑いがよく感じられる。俺は怒涛の勢いで目の前の敵を薙ぎ払いながら、どんどん突き進んでいく。
黒いオーラ―が男の胴元を貫くと同時に、大きな剣気を作って放つ。数人の男たちの体が文字通り真っ二つになって崩れ落ちる。
血が吹き飛び、恐怖が降りかかる。俺はやつらの攻撃を時々躱しながら、反撃しながら、空中に飛んで剣先で地面を叩いた。
それだけでも衝撃が広がって、男たちが突き飛ばされた。黄色いオーラ―はどんどん消えていき、漆黒のチリが宙に舞う。
「退け!!これからは俺がやる!!」
そうやって敵を倒していくうちに、再び目の前で光の盾が表れる。目の前まで迫るそれを剣で防ぎながら、その反動で体を後ろに飛ばした。
着地すると同時に、リーダーの男が剣を抜く。
「影……!ここで生きて帰れるとは思うな!」
「――――はっ」
部下たちが殺されるのを見て。
文字通り掌で踊らされているこの状況に屈辱を感じているのか、ヤツはかなり興奮していた。
しかし、ヤツはまだ何も気づいていない。
「おい、なにか忘れてないか?」
「…………………は?」
「影はさ、4人集団なんだよ」
俺と、ニアと、クロエと、リエル。もちろん、今は別の場所にいるリエルを除いたとしても、1人が余る。
言われてようやく察したのか、男の顔が驚愕に滲んだ。
「4人集団……?な、なにを……!?」
「クロエ!!」
俺は魔法部隊を急襲しているはずのクロエを呼んで、咄嗟に頷き合った。それと同時に、クロエは俺の隣まで飛んできて―――
「………………………………な、んだ」
間もなくして、俺たちに巨大な影が差す。
上を見ると、そこには巨大な隕石のようなものがあった。地面に向かって、猛烈な勢いで降下している、黒い球体が。
「俺たちの大切なお姫様を、舐めるな」
「あ、あ…………………!!!」
戦意を喪失したように、男たちの顔に虚無が生じる。間もなくして、雲石はそのまま落とされて――――
今までは比べ物にならない衝撃を、世界に轟かせた。
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「……よし」
見るからにも悲惨な光景が、目の前に広がる。
巨大なエネルギーの爆発は、数百の男たちのみならず周りの建物まで綺麗に吹き飛ばしていた。地面には大きな穴が掘られている。
カルツに精神操作が利かない時のためのプランBも準備していたが、あっさりと終わってしまった。
俺が後ろの尖塔の上に立っているニアに頷いて見せると、ニアは空中から飛んで、俺の隣に着地する。
それから、即俺に抱きついてきた。
「ちょっ……!?ニア!?」
「私は頑張った。私にはカイが必要」
「あはっ、もう……はいはい」
抱き返して頭を撫でながら、俺は目の前に彫られた巨大な穴を見る。荒廃した風景だった。
「………………ふぅ」
100人以上の人を殺したと実感すると、少しだけ気が重くなる。なんとも言えない感情が俺の心を包み込む。
しかし、まだやり残したことがある。戦闘も終わったし、早く教皇がいるところに向かわなければ。
そこまで思って、3人で頷き合った瞬間。
「く、そが………………………………………!!」
巨大な穴の中心で、聞きなれた声が響き渡る。
カルツだ。何故か生き残っているヤツは歯をぎしぎしと鳴らしながら、なんとかして立ち上がる。手にはちゃんと聖剣も持たれていた。
ウソだろ、どうやって生き残った―――そこまで思った瞬間、俺はカルツの隣に誰が倒れているのかを確認する。
さっきの、リーダーの男だった。そうか、とっさに盾の神聖魔法でカルツを庇ったのか。自分の死は免れなかったものの、なんとかカルツは守れたみたいだ。
「お前ら……殺す!!絶対に、ぶち殺す!!!!!!!!!!!!!!!」
「…………」
オーラ―を纏った聖剣を持って、ヤツは穴から這い上がる。目の前の男にはもう理性がなかった。
残っているのは憤怒と屈辱感と、俺たちに対する憎悪だけ。ヤツは俺を見て、そのまま飛び掛かってくる。しかし――――
「―――っ!?くはあっ!?!?」
俺に剣が届くよりも先に、ヤツの肩から血が吹きあがった。
紛れもない暗襲。それから、ヤツはまた蹴られて後ろへ吹き飛ばされる。
その行動をした人は、昔の仲間―――クロエだった。
「私の大切な人に、触ろうとしないで」
クロエはナイフをもう一本抜き出してから、お腹を抱えているカルツに向かって言う。
「いい機会だね、カルツ。あんた、前に私を殺そうとしたんでしょ?」
「く、そが……!!ほざくな!!裏切者が!!悪魔の手下が!!俺にたてつく、この世の悪がぁああああああ!!」
「…………………ははっ」
その声を聞いて、最後に残っていた人情さえ消えたのか。
クロエはナイフを持った手を口元の前に寄せてから、言い放つ。
「私、やられっぱなしは性に合わないんだよね」
それは、今まで聞いたことがないくらいに冷え切っている声だった。
「だから、この場であんたを殺してあげる、カルツ」
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