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32話 お仕置きが必要な時間
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「な、ななななに、これ!?クロエ!?」
「ひ、ひいっ……!?」
カルツに続いて入ってきたブリエンとアルウィンを見て、俺は思わず嘆息をこぼしてしまった。
なんでこうなるんだ。いや、元々は俺のせいだけど。俺がストーリーに介入してゲベルスを殺したのが問題だけど!
「……クロエ」
「ち、違う、カルツ!そういうわけじゃ―――」
「やっぱり、お前は裏切り者だったんだな」
……裏切り者?
想像もしてなかった言葉が出てきて、クロエだけでなく俺の瞳まで見開かれた。
しかし、その言葉を発した本人は部屋の中を見回した後に、嫌悪に満ちた目でクロエを見つめる。
「ダンジョンにあるモンスターをスラムにのさばらせたのも、この気持ち悪い施設も!!全部お前がやったんだろ!?」
「ちょっ、なんでそうなるのよ!少しは私の話を聞いてみなよ!」
「うるさい!くそ、こんな施設を作ったヤツとパーティーを組んでいたなんて……!いつかは俺らまで丸ごと消すつもりだったんだろ、お前!?」
「っ……!」
確かに、今の状況的にクロエが疑われるのは仕方ないのかもしれない。
スラムがモンスターたちに襲われている間、クロエは席を外してこんな地下施設に来ているのだ。
それに、さっきのゲベルスとの闘いで試験管のガラスが割れて、中身が全部出ている。
醜い死体たちと培養液。真ん中にいる、化け物になったゲベルスの死体まで。
「私は本当になにもやってないのよ!!全部あいつがやったんものだもん!あの化け物、ゲベルスが!!」
「なに……あれが、ゲベルスさん?」
「そうよ!あの男こそが諸悪の根源なんだよ?シュビッツ収容所のこと、あなたも知っているでしょ?あの施設だって、あの男が……!!」
「黙れ!!!!!」
でも、少しは。
「そんなことあるはずないだろ!!ゲベルスさんがこの施設を作ったと!?ゲベルスさんは皇太子様の右腕だ!あの皇太子様が、この帝国がこんな悪を放っておくわけないだろうが!!」
少しは、信じるふりでもするべきじゃないだろうか。
カルツとクロエの縁は、決して浅くはないはずなのに。生死をかけた戦いを何十回もして、個人的にクロエには命を助けられたこともあるというのに。
なんで、あそこまで追い込むんだろう。どうして、クロエの言葉に耳すら傾けないんだろう。
イラっとして、俺は思わず低い声を出してしまった。
「おい」
「……ぁ、え?君は……」
「そこまでにしろ、カルツ」
俺は、カルツと敵対するつもりはなかった。
4年間、一万以上の時間の注ぎながらプレイしたキャラなのだ。なるべく穏便な関係を維持したいと思っている。
だけど、この状況をのうのうと見過ごすわけにはいかなかった。
「な、なんだ……君は、あの時に助けた少年……!」
「カルツ、真実を教えてあげる。信じるか信じないかの選択は、お前にかかっているけど」
「なにを言ってるんだ!!はっ、そうか。クロエ、よもや黒魔法に手を染めたのか!?助けた子供さえも実験体として使うために、精神操作を―――」
「クロエの言葉に間違いはない」
「…………は?」
言葉を遮ると、カルツはわけが分からないとばかりに目を丸くする。
隣でクロエが申し訳なさそうな顔をしているのを確認して、俺はカルツに目を向けた。
「この地下施設は、ゲベルスが皇太子の許可を得て作った場所だ。そして、見ての通り―――この施設の目的は、黒魔法に関する様々な人体実験を行うため。この試験管に閉じ込められている死体はすべて、ゲベルスの実験による犠牲者だ」
「……………」
「考えてみろ。ゲベルスはこの国でもっとも精神操作に長けている、黒魔法の天才だ。その魔法の実力がどこから来たと思う?黒魔法の根源は人間の生命力を吸い取ることと純粋な悪意だ。ゲベルスがあんなに強いのは、あいつがここで―――」
「何を言ってるんだ?君は」
そして、その瞬間。
カルツは心からしょうもないと言わんばかりの声を発しながら、眉根をひそめた。
「俺に、その話を信じろと?皇太子様がこの施設の設立に許可をした?人体実験?ははっ、あはははっ!!!」
「…………」
「―――そんな不愉快な言葉、二度と言うな。まだ少年だから生かしてはあげるが、もう一度言ったら……君も、そこのクロエと同じ悪として見なすぞ」
……………………………ああ、こいつはもう。
ダメか、こいつは。
「クロエが、悪?」
「そうだ。今の状況を考えてみろ!スラムでモンスターが襲われたというのに、クロエはこんな陰湿な地下施設にいたんだ!体に傷があるのを見る限り、きっと誰かと戦ってたのだろう!」
「その戦った相手が、あそこの化け物になったゲベルスとは思わないのかよ」
「はっ、順番が逆だろ!ヤツがゲベルスさんに人体実験を施しているうちに、ゲベルスさんが変形してクロエを襲ったのだ!!そうでなきゃ辻妻が合わないだろ!?」
「………お前、本当にそう信じてるのかよ」
「当たり前だ!!皇太子様とゲベルスさんは俺を何度も信じてくれたんだ!!聖剣に選ばれて、教団に勇者として称えられているこの俺を!!」
「……………………………」
ここまで来ると、怒りを通り越して呆れてしまう。どうしてこんな風にしか思えないんだ。どうして、この状況でそんな風に思えるんだ。
なんで、疑わない?自分が何のために戦っているのか、なにを目指すべきなのか……そういった考えとか苦悩とか、全くないのか?こいつは?
「悪いが、クロエ……君はここで死んでもらうぞ」
「………………………………………………………………………」
「ちょ、ちょっと!!カルツ!本気でクロエを殺す気!?少しはクロエの言い分も聞くべきじゃない!!」
「そ、そうですよ、カルツ様!クロエさんは大切な仲間で、何度も私たちを助けてくれたじゃないですか!!」
「二人とも、今の状況を見てまだそんなことが言えるのか!!クロエが一人で何かを調べていたのを、二人とも分かっていただろ!?」
「それは……!で、でも、クロエがこんなことするはずが……!!」
「いや、こいつならありえる!!」
聖剣が抜かれる。
正義の敵、悪を斬るべき聖剣の剣先が―――クロエに向かわれた。
「こいつは、自己犠牲や高潔などを知らない暗殺者だからな」
「………………………カルツ」
「大人しく投降しろ、クロエ。抵抗しなけりゃ命だけは助けてやろう。元はと言えば、一瞬でお前を殺すべきだが―――これは、俺の慈悲だ。投降しろ、クロエ」
クロエは呆れる表情すら浮かばず、ただ魂が抜けたような顔でカルツを見つめていた。
ずっと一緒にいたのだ。一緒に戦って、一緒に助け合って、食事もして、会話もして、時々喧嘩はしたけど………でも、積み重ねた時間があるというのに。
一瞬で、その信頼が砕けてしまうなんて。少しも疑いもせず、悪だと見なされるなんて。
「……………………はっ」
反吐が出る。本当に、反吐が出そうになった。
なんの苦悩も、なんの疑いもない正義。辻褄合わせだけで自分自身を振り返らない、行き過ぎた善。
それは、もはや――――宗教のようなものじゃないか。
盲目的で、破壊的で、少しも疑いのない信仰。
「―――――――――ニア」
「うん、カイ」
低い声でニアを呼ぶと、待っていたとばかりにニアが台の上に立つ。
一瞬で、空気の質が変わる。血生臭さとじめじめしていた空気は、闇に。黒いチリが宙を舞って、ニアに集まっていく。
「クロエは、カイの浮気相手だけど」
ニアは閉じていた両目を開けて、慌てているカルツを見つめた。
その瞳の色は、悪魔の象徴である赤。
「でも、クロエはいい人」
真っ黒なオーラ―を纏いながら、ニアはカルツを見つめる。
異変に察したカルツは、慌てた顔でニアを見上げた。だけど、時すでに遅し。
「あなたは、悪い人」
ちょっとしたお仕置きが必要な時間だ。
「ひ、ひいっ……!?」
カルツに続いて入ってきたブリエンとアルウィンを見て、俺は思わず嘆息をこぼしてしまった。
なんでこうなるんだ。いや、元々は俺のせいだけど。俺がストーリーに介入してゲベルスを殺したのが問題だけど!
「……クロエ」
「ち、違う、カルツ!そういうわけじゃ―――」
「やっぱり、お前は裏切り者だったんだな」
……裏切り者?
想像もしてなかった言葉が出てきて、クロエだけでなく俺の瞳まで見開かれた。
しかし、その言葉を発した本人は部屋の中を見回した後に、嫌悪に満ちた目でクロエを見つめる。
「ダンジョンにあるモンスターをスラムにのさばらせたのも、この気持ち悪い施設も!!全部お前がやったんだろ!?」
「ちょっ、なんでそうなるのよ!少しは私の話を聞いてみなよ!」
「うるさい!くそ、こんな施設を作ったヤツとパーティーを組んでいたなんて……!いつかは俺らまで丸ごと消すつもりだったんだろ、お前!?」
「っ……!」
確かに、今の状況的にクロエが疑われるのは仕方ないのかもしれない。
スラムがモンスターたちに襲われている間、クロエは席を外してこんな地下施設に来ているのだ。
それに、さっきのゲベルスとの闘いで試験管のガラスが割れて、中身が全部出ている。
醜い死体たちと培養液。真ん中にいる、化け物になったゲベルスの死体まで。
「私は本当になにもやってないのよ!!全部あいつがやったんものだもん!あの化け物、ゲベルスが!!」
「なに……あれが、ゲベルスさん?」
「そうよ!あの男こそが諸悪の根源なんだよ?シュビッツ収容所のこと、あなたも知っているでしょ?あの施設だって、あの男が……!!」
「黙れ!!!!!」
でも、少しは。
「そんなことあるはずないだろ!!ゲベルスさんがこの施設を作ったと!?ゲベルスさんは皇太子様の右腕だ!あの皇太子様が、この帝国がこんな悪を放っておくわけないだろうが!!」
少しは、信じるふりでもするべきじゃないだろうか。
カルツとクロエの縁は、決して浅くはないはずなのに。生死をかけた戦いを何十回もして、個人的にクロエには命を助けられたこともあるというのに。
なんで、あそこまで追い込むんだろう。どうして、クロエの言葉に耳すら傾けないんだろう。
イラっとして、俺は思わず低い声を出してしまった。
「おい」
「……ぁ、え?君は……」
「そこまでにしろ、カルツ」
俺は、カルツと敵対するつもりはなかった。
4年間、一万以上の時間の注ぎながらプレイしたキャラなのだ。なるべく穏便な関係を維持したいと思っている。
だけど、この状況をのうのうと見過ごすわけにはいかなかった。
「な、なんだ……君は、あの時に助けた少年……!」
「カルツ、真実を教えてあげる。信じるか信じないかの選択は、お前にかかっているけど」
「なにを言ってるんだ!!はっ、そうか。クロエ、よもや黒魔法に手を染めたのか!?助けた子供さえも実験体として使うために、精神操作を―――」
「クロエの言葉に間違いはない」
「…………は?」
言葉を遮ると、カルツはわけが分からないとばかりに目を丸くする。
隣でクロエが申し訳なさそうな顔をしているのを確認して、俺はカルツに目を向けた。
「この地下施設は、ゲベルスが皇太子の許可を得て作った場所だ。そして、見ての通り―――この施設の目的は、黒魔法に関する様々な人体実験を行うため。この試験管に閉じ込められている死体はすべて、ゲベルスの実験による犠牲者だ」
「……………」
「考えてみろ。ゲベルスはこの国でもっとも精神操作に長けている、黒魔法の天才だ。その魔法の実力がどこから来たと思う?黒魔法の根源は人間の生命力を吸い取ることと純粋な悪意だ。ゲベルスがあんなに強いのは、あいつがここで―――」
「何を言ってるんだ?君は」
そして、その瞬間。
カルツは心からしょうもないと言わんばかりの声を発しながら、眉根をひそめた。
「俺に、その話を信じろと?皇太子様がこの施設の設立に許可をした?人体実験?ははっ、あはははっ!!!」
「…………」
「―――そんな不愉快な言葉、二度と言うな。まだ少年だから生かしてはあげるが、もう一度言ったら……君も、そこのクロエと同じ悪として見なすぞ」
……………………………ああ、こいつはもう。
ダメか、こいつは。
「クロエが、悪?」
「そうだ。今の状況を考えてみろ!スラムでモンスターが襲われたというのに、クロエはこんな陰湿な地下施設にいたんだ!体に傷があるのを見る限り、きっと誰かと戦ってたのだろう!」
「その戦った相手が、あそこの化け物になったゲベルスとは思わないのかよ」
「はっ、順番が逆だろ!ヤツがゲベルスさんに人体実験を施しているうちに、ゲベルスさんが変形してクロエを襲ったのだ!!そうでなきゃ辻妻が合わないだろ!?」
「………お前、本当にそう信じてるのかよ」
「当たり前だ!!皇太子様とゲベルスさんは俺を何度も信じてくれたんだ!!聖剣に選ばれて、教団に勇者として称えられているこの俺を!!」
「……………………………」
ここまで来ると、怒りを通り越して呆れてしまう。どうしてこんな風にしか思えないんだ。どうして、この状況でそんな風に思えるんだ。
なんで、疑わない?自分が何のために戦っているのか、なにを目指すべきなのか……そういった考えとか苦悩とか、全くないのか?こいつは?
「悪いが、クロエ……君はここで死んでもらうぞ」
「………………………………………………………………………」
「ちょ、ちょっと!!カルツ!本気でクロエを殺す気!?少しはクロエの言い分も聞くべきじゃない!!」
「そ、そうですよ、カルツ様!クロエさんは大切な仲間で、何度も私たちを助けてくれたじゃないですか!!」
「二人とも、今の状況を見てまだそんなことが言えるのか!!クロエが一人で何かを調べていたのを、二人とも分かっていただろ!?」
「それは……!で、でも、クロエがこんなことするはずが……!!」
「いや、こいつならありえる!!」
聖剣が抜かれる。
正義の敵、悪を斬るべき聖剣の剣先が―――クロエに向かわれた。
「こいつは、自己犠牲や高潔などを知らない暗殺者だからな」
「………………………カルツ」
「大人しく投降しろ、クロエ。抵抗しなけりゃ命だけは助けてやろう。元はと言えば、一瞬でお前を殺すべきだが―――これは、俺の慈悲だ。投降しろ、クロエ」
クロエは呆れる表情すら浮かばず、ただ魂が抜けたような顔でカルツを見つめていた。
ずっと一緒にいたのだ。一緒に戦って、一緒に助け合って、食事もして、会話もして、時々喧嘩はしたけど………でも、積み重ねた時間があるというのに。
一瞬で、その信頼が砕けてしまうなんて。少しも疑いもせず、悪だと見なされるなんて。
「……………………はっ」
反吐が出る。本当に、反吐が出そうになった。
なんの苦悩も、なんの疑いもない正義。辻褄合わせだけで自分自身を振り返らない、行き過ぎた善。
それは、もはや――――宗教のようなものじゃないか。
盲目的で、破壊的で、少しも疑いのない信仰。
「―――――――――ニア」
「うん、カイ」
低い声でニアを呼ぶと、待っていたとばかりにニアが台の上に立つ。
一瞬で、空気の質が変わる。血生臭さとじめじめしていた空気は、闇に。黒いチリが宙を舞って、ニアに集まっていく。
「クロエは、カイの浮気相手だけど」
ニアは閉じていた両目を開けて、慌てているカルツを見つめた。
その瞳の色は、悪魔の象徴である赤。
「でも、クロエはいい人」
真っ黒なオーラ―を纏いながら、ニアはカルツを見つめる。
異変に察したカルツは、慌てた顔でニアを見上げた。だけど、時すでに遅し。
「あなたは、悪い人」
ちょっとしたお仕置きが必要な時間だ。
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