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16話 初めての戦い
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クロエをここで会うのは、俺としても予想外の展開だった。なにせ、勇者パーティーがここに来るのはもう少し後のことなのだ。
本来のシナリオ通りだと、彼らは首都で厄介ごとに一度巻き込まれてからスラム街へ訪れることになる。だけど、何故だかクロエたちは今ここにいる。
……まあ、いいっか。クロエに早めに会うのは、こちらとしても本望だし。
「一緒に戦わない?俺たち、いい仲間になれそうだけど」
だから、舞い上がってこんな気恥ずかしいセリフも自然と吐けるのである。
この言葉に真っ先に反応したのはクロエじゃなく、ニアだった。
「……ふうん、あれを倒せばカイが浮気しないんだ」
「ニアはストップ!マジでストップ!あのボスがドロップする魔石は持って行かなきゃいけないから!」
「…………むぅ」
「というわけで、クロエ。ここは力を合わせてみよう」
正直に言うと、今の俺やニアにとってあのボスはひとたまりもない存在だった。
それでも、あえてクロエと一緒に戦おうとしている理由は簡単だ―――彼女を仲間に取り入れなきゃいけないから。
彼女はこの世界では珍しい暗殺者であり、その分有用なスキルをたくさん持っている。【境界に立つ者】を使ってスキルを吸収すれば、色々と役に立つだろう。
しかし、彼女を仲間にしたい理由はそれだけじゃなかった。
『……絶対に死なせたくないもんな。この子は』
クロエは俺にとって、ゲーム内でけっこう……いや、一番といっても過言ではないほど愛着があるキャラなのだ。
なのに、クロエは勇者《プレイヤー》の手で殺されることになる。どう足掻いても、ゲーム内でのシナリオは変えられないから。
そして、そのイベントが終わってから前世でどんなに辛かったのかを、俺は未だによく覚えていた。
だから、クロエだけはとにかく生かしておきたかった。仲間に取り入れることができるのなら、なおさらだし。
「……分かった。確かに、ここは他の手がなさそうだしね」
その切実さが通じたのか、クロエは頷きながら両手のナイフを握りしめる。
よし、ブリトラの性能も試すついでに、実戦経験を積もうじゃないか!
「ニア、悪いけど今回はあそこにいる人たちを守る形で戦ってくれない?お願い」
「………むぅ」
「……ふふっ」
ゲームのラスボスとは言っても、やっぱりまだ子供なんだよね。
俺は本格的に戦闘を始める前に、ニアの頭を軽く撫でてあげた。
「お願いね、今回だけだから」
「……うん。カイがそう言うなら、そうする」
「うん、ありがとう。ほら、クロエ。行くよ」
「……分かった」
クロエは不思議そうに俺たちを見つめていたが、間もなくして鋭い目つきでエインシャントグールを見上げる。
片方の羽が消えたせいでやや不安定なものの、ヤツは未だに飛んでいた。
『ぐる、かぁあああっ!!』
「唾が来る!クロエ、右に避けて!」
「ああ!!」
エインシャントグールのスキルは主に三つほどある。遠距離の爪かき攻撃、毒唾吐き、そして杖を持った物理攻撃。
やっかいな遠距離スキルが二つもある上に、空中から一方的に攻撃をかましてくるせいで、ゲームでも厄介な部類に入るモンスターだった。
だけど、今の俺たちにはちょうどいいサンドバッグに過ぎない。
「ダークサイトで一旦身を隠して!ヤツの背後に回りやすいように!」
「えっ、なんでダークサイトまで知っているの……?っ、とにかく分かった!」
「俺がヤツを挑発するから、その隙に!」
時と場合にあった指示を出しつつ、俺はヤツの正面に突っ立つ。これだけでも、ヤツの目は俺に向けられるだろう。
次に飛んでくる攻撃は間違いなく、爪と毒唾の連撃。パターンを分かっていながらもあえて避けないのは、試したいことがあるからだった。
そして予想通り、グールは俺に向けて―――空中で、爪をひっかいた。
『ぐるぁあああ!!!!』
ブリトラを構える。もし俺のイメージが合っていれば、この攻撃は――通じない。
直ちに剣を通じて伝わってくる魔法攻撃。一瞬鋭い痛みを襲ってくるかと思ったけど、算段は外れなかった。
『ぐるっ!?!?』
「ははっ……うわぁ、ヤバいじゃん。このスキル」
【境界に立つ者】、遠距離の魔法攻撃も吸収できるのか。
いくらモンスターのスキルでも、その根底にあるのは魔力だ。それを吸い取ってしまえば、攻撃は無効化になる。
『ぐぁああああ!!!!!!!!!』
攻撃が通じなかったことに憤ったグールは、今度は毒唾を吐こうとしている。だけど―――
「一人忘れてるだろ、お前……!!」
「―――ピアシング・スラスト!」
クロエがすぐに背後に現れて、二本のナイフを鋭く、ヤツの背中にぶっ刺した。
『ぎゃああああああああああ!!!』
痛みで飛べなくなったグールは、そのまま地面にぱたんと倒れる。俺はその隙に、大声でクロエに語り掛ける。
「クロエ、避けて!!」
「分かった!!」
それから、俺の剣の先から闇属性の魔力が集まり―――
「ダークピアス」
魔力の槍が、ヤツの頭を突き抜けた。
「ふぅ~~ようやくひと段落ついたか。みんな、お疲れ様~」
エインシャントグールがチリになった後、俺はドロップした魔石やアイテムを拾ってから満面の笑みを浮かべる。
しかし、何故だかクロエは納得いかない顔で俺を見つめていた。
「どうしてその表情なの?クロエ」
「……いや。なんで私にもアイテムを配るのかって。私、ほとんどなにもやってないのに」
「ええ?俺の指示にも従ってくれたし、見事に奇襲も成功させたじゃん。そこまで謙遜しなくても」
「いや、私はあくまで助けられる側で―――いや、やめるか。どうせ君は折れてくれなそうだし」
クロエは仕方ないとばかりに苦笑を浮かべてから、またもや俺をジッと見つめる。
いつの間に俺の隣に来たニアは、またジッとクロエを睨んでいた。うむ、なんでこうなった………。
「しかし、このままだとさすがに納得はできないかな。君たちは私だけじゃなくて、あそこにいるパーティーメンバーたちの命も助けてくれたしね」
「ああ、まだ気絶しているあちらの方ですか……」
「……こほん。それで、私一人でよければなにか恩返しをしたい。確かカイ……だったよね?頼みたいことがあるなら、なんでも言ってね」
「お、女の子がそんな言葉をやすやすと言うんじゃないよ……?」
「ううん?どうして―――あ、ぅっ~~~~!?!?!??!」
ううん~~~ようやく発言の危険性に気づいてくれたか。
「そうだぞ、クロエ?俺は男で、君は一応女性なわけだから。なんでもって下手に言い出したら、取り返しがつかないことになるからね?この先は気を付けるように。まあ、俺はもちろんそんなこと言わないけど―――――」
「……………………………………」
「……に、ニアさん?目が怖いですよ?なんで両目を光らせてるんですか!?」
「私、カイが浮気者でも許せる」
「全然許せる目つきじゃないよね、それ!?分かったから落ち着いて!!俺が悪かったから!」
しかし、困ったな……クロエに頼みたいことは確かにあるけど、ニアが聞いている今じゃ言い出すのは難しそうだし。
……ううん?待てよ?じゃ、ニアに聞こえないようにクロエに話をすればいいんじゃないかな?よし、なら適切な方法があるぞ。
「クロエ、ちょっとこっちに来て」
「………なんだよ、変態」
「そういうこと死んでも頼まないから!!ほら、ニアもそんなにキャーって威嚇したりしない!」
クロエは俺をにらみながら腕を抱えてはいたけど、仕方ないとばかりにゆっくりと近づいてくる。
そして、俺はニアの耳を両手でぐっと抑えたまま―――クロエに、顔を寄せてから言った。
「明日の夕方、時間ある?あるならちょっとお話したいことがあるけど」
「~~~~~~~~~~っ!?や、やっぱり変態じゃん、あなた!!」
「違う違う、そんなんじゃないって!!って―――に、ニア!?うわああああああああああっ!?!?」
翌日、スラム街で地震が起きたという知らせが帝国の新聞に載ることになった。
本来のシナリオ通りだと、彼らは首都で厄介ごとに一度巻き込まれてからスラム街へ訪れることになる。だけど、何故だかクロエたちは今ここにいる。
……まあ、いいっか。クロエに早めに会うのは、こちらとしても本望だし。
「一緒に戦わない?俺たち、いい仲間になれそうだけど」
だから、舞い上がってこんな気恥ずかしいセリフも自然と吐けるのである。
この言葉に真っ先に反応したのはクロエじゃなく、ニアだった。
「……ふうん、あれを倒せばカイが浮気しないんだ」
「ニアはストップ!マジでストップ!あのボスがドロップする魔石は持って行かなきゃいけないから!」
「…………むぅ」
「というわけで、クロエ。ここは力を合わせてみよう」
正直に言うと、今の俺やニアにとってあのボスはひとたまりもない存在だった。
それでも、あえてクロエと一緒に戦おうとしている理由は簡単だ―――彼女を仲間に取り入れなきゃいけないから。
彼女はこの世界では珍しい暗殺者であり、その分有用なスキルをたくさん持っている。【境界に立つ者】を使ってスキルを吸収すれば、色々と役に立つだろう。
しかし、彼女を仲間にしたい理由はそれだけじゃなかった。
『……絶対に死なせたくないもんな。この子は』
クロエは俺にとって、ゲーム内でけっこう……いや、一番といっても過言ではないほど愛着があるキャラなのだ。
なのに、クロエは勇者《プレイヤー》の手で殺されることになる。どう足掻いても、ゲーム内でのシナリオは変えられないから。
そして、そのイベントが終わってから前世でどんなに辛かったのかを、俺は未だによく覚えていた。
だから、クロエだけはとにかく生かしておきたかった。仲間に取り入れることができるのなら、なおさらだし。
「……分かった。確かに、ここは他の手がなさそうだしね」
その切実さが通じたのか、クロエは頷きながら両手のナイフを握りしめる。
よし、ブリトラの性能も試すついでに、実戦経験を積もうじゃないか!
「ニア、悪いけど今回はあそこにいる人たちを守る形で戦ってくれない?お願い」
「………むぅ」
「……ふふっ」
ゲームのラスボスとは言っても、やっぱりまだ子供なんだよね。
俺は本格的に戦闘を始める前に、ニアの頭を軽く撫でてあげた。
「お願いね、今回だけだから」
「……うん。カイがそう言うなら、そうする」
「うん、ありがとう。ほら、クロエ。行くよ」
「……分かった」
クロエは不思議そうに俺たちを見つめていたが、間もなくして鋭い目つきでエインシャントグールを見上げる。
片方の羽が消えたせいでやや不安定なものの、ヤツは未だに飛んでいた。
『ぐる、かぁあああっ!!』
「唾が来る!クロエ、右に避けて!」
「ああ!!」
エインシャントグールのスキルは主に三つほどある。遠距離の爪かき攻撃、毒唾吐き、そして杖を持った物理攻撃。
やっかいな遠距離スキルが二つもある上に、空中から一方的に攻撃をかましてくるせいで、ゲームでも厄介な部類に入るモンスターだった。
だけど、今の俺たちにはちょうどいいサンドバッグに過ぎない。
「ダークサイトで一旦身を隠して!ヤツの背後に回りやすいように!」
「えっ、なんでダークサイトまで知っているの……?っ、とにかく分かった!」
「俺がヤツを挑発するから、その隙に!」
時と場合にあった指示を出しつつ、俺はヤツの正面に突っ立つ。これだけでも、ヤツの目は俺に向けられるだろう。
次に飛んでくる攻撃は間違いなく、爪と毒唾の連撃。パターンを分かっていながらもあえて避けないのは、試したいことがあるからだった。
そして予想通り、グールは俺に向けて―――空中で、爪をひっかいた。
『ぐるぁあああ!!!!』
ブリトラを構える。もし俺のイメージが合っていれば、この攻撃は――通じない。
直ちに剣を通じて伝わってくる魔法攻撃。一瞬鋭い痛みを襲ってくるかと思ったけど、算段は外れなかった。
『ぐるっ!?!?』
「ははっ……うわぁ、ヤバいじゃん。このスキル」
【境界に立つ者】、遠距離の魔法攻撃も吸収できるのか。
いくらモンスターのスキルでも、その根底にあるのは魔力だ。それを吸い取ってしまえば、攻撃は無効化になる。
『ぐぁああああ!!!!!!!!!』
攻撃が通じなかったことに憤ったグールは、今度は毒唾を吐こうとしている。だけど―――
「一人忘れてるだろ、お前……!!」
「―――ピアシング・スラスト!」
クロエがすぐに背後に現れて、二本のナイフを鋭く、ヤツの背中にぶっ刺した。
『ぎゃああああああああああ!!!』
痛みで飛べなくなったグールは、そのまま地面にぱたんと倒れる。俺はその隙に、大声でクロエに語り掛ける。
「クロエ、避けて!!」
「分かった!!」
それから、俺の剣の先から闇属性の魔力が集まり―――
「ダークピアス」
魔力の槍が、ヤツの頭を突き抜けた。
「ふぅ~~ようやくひと段落ついたか。みんな、お疲れ様~」
エインシャントグールがチリになった後、俺はドロップした魔石やアイテムを拾ってから満面の笑みを浮かべる。
しかし、何故だかクロエは納得いかない顔で俺を見つめていた。
「どうしてその表情なの?クロエ」
「……いや。なんで私にもアイテムを配るのかって。私、ほとんどなにもやってないのに」
「ええ?俺の指示にも従ってくれたし、見事に奇襲も成功させたじゃん。そこまで謙遜しなくても」
「いや、私はあくまで助けられる側で―――いや、やめるか。どうせ君は折れてくれなそうだし」
クロエは仕方ないとばかりに苦笑を浮かべてから、またもや俺をジッと見つめる。
いつの間に俺の隣に来たニアは、またジッとクロエを睨んでいた。うむ、なんでこうなった………。
「しかし、このままだとさすがに納得はできないかな。君たちは私だけじゃなくて、あそこにいるパーティーメンバーたちの命も助けてくれたしね」
「ああ、まだ気絶しているあちらの方ですか……」
「……こほん。それで、私一人でよければなにか恩返しをしたい。確かカイ……だったよね?頼みたいことがあるなら、なんでも言ってね」
「お、女の子がそんな言葉をやすやすと言うんじゃないよ……?」
「ううん?どうして―――あ、ぅっ~~~~!?!?!??!」
ううん~~~ようやく発言の危険性に気づいてくれたか。
「そうだぞ、クロエ?俺は男で、君は一応女性なわけだから。なんでもって下手に言い出したら、取り返しがつかないことになるからね?この先は気を付けるように。まあ、俺はもちろんそんなこと言わないけど―――――」
「……………………………………」
「……に、ニアさん?目が怖いですよ?なんで両目を光らせてるんですか!?」
「私、カイが浮気者でも許せる」
「全然許せる目つきじゃないよね、それ!?分かったから落ち着いて!!俺が悪かったから!」
しかし、困ったな……クロエに頼みたいことは確かにあるけど、ニアが聞いている今じゃ言い出すのは難しそうだし。
……ううん?待てよ?じゃ、ニアに聞こえないようにクロエに話をすればいいんじゃないかな?よし、なら適切な方法があるぞ。
「クロエ、ちょっとこっちに来て」
「………なんだよ、変態」
「そういうこと死んでも頼まないから!!ほら、ニアもそんなにキャーって威嚇したりしない!」
クロエは俺をにらみながら腕を抱えてはいたけど、仕方ないとばかりにゆっくりと近づいてくる。
そして、俺はニアの耳を両手でぐっと抑えたまま―――クロエに、顔を寄せてから言った。
「明日の夕方、時間ある?あるならちょっとお話したいことがあるけど」
「~~~~~~~~~~っ!?や、やっぱり変態じゃん、あなた!!」
「違う違う、そんなんじゃないって!!って―――に、ニア!?うわああああああああああっ!?!?」
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