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7話 運命の変わり目 ~5014番サイド~
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「ダメ、来ちゃ、ダメ……!!」
私は泣いたことがない。いつの間にか感情というものが薄れてしまったから。
だけど、今の私は正に嗚咽を漏らしていた。
だってあの子が、人生初めての友達が―――自ら、こんな私に近づいて来ているのだから。
「お願い……逃げて、お願い!!」
放っている自分の声には、悪魔のおぞましい声色が混じっている。
聞きたくない、聞きたくない。だけど、私は言うしかなかった。初めての友達を、自分の手で殺したくはないから。
だけど、何故か。
『き、貴様ぁああ……大人しく死にやがれ!!』
「はっ……!こんな、ところで……死んでたまるかよ!」
「っ……!?」
何かが、おかしい。おかしすぎる。
10年以上をこの悪魔と一緒に生きてきたから、私には分かる。この悪魔は、この世界を滅ぼせるほどの圧倒的な力を持っているはずだ。
だからか、この構図はあまりにも歪すぎる感じがした。災厄の象徴、恐怖の対象となるべき悪魔が―――一人の少年に、うろうろしているから。
段々と、5025番が私に近づいてくる。あと10歩ほど歩けば、私たちは触れ合ってしまう。
だけど、謎の力に苛立ちを感じた悪魔は――
『なんだ、なんだ……!?なんで手が出せないんだ!くっ、こうなったら―――』
「あ……だ、ダメ!!逃げて、逃げてぇええ!!」
悪魔は私の中の魔力を使い、巨大な煙の剣を創造する。
闇に埋め尽くされている剣。黒魔法の塊。あれを食らったら、か弱い少年じゃなくても誰だって―――死ぬ。
5025番は、驚愕したような顔でその剣を見上げる。私は、頬になにかが伝っているのを感じながらも必死に叫ぶ。
『死ねぇええ!!クソみたいな人間が!!』
そのまま、その大検が振り下ろされ――5025番の体が真っ二つになる、ことはなく。
『な、なっ……!?!?!?』
『……………………………………………え?』
巨大な魔力の塊は、少年の手に吸い寄せられるように散って行った。5025番の手には黒い光がともって、その紫色の魔力を吸っていく。
悪魔も私も、呆然とその光景を眺めるしかなかった。どうして、どうしてこんなことが?
……魔力が、吸われている?こんなことって―――
『な、なんだ……!』
「うっ……!さ、さすがにきついな。悪魔の魔力……!」
『なんだ、なんなんだ!!!貴様は……!!』
「ははっ、さぁな……強いて言えば、友達かな?」
……………あ。
『きあああああああああああああああ!!!』
「うるせぇな……お前、必ず封印させてやるからな」
悪魔は狂ったような叫び声を上げる。
当たり前かもしれない。悪魔は世に解き放たれるこの瞬間だけを待っていたはずなのに―――一人の少年の手で、すべてが覆されているから。
『……はっ!そっか、魔力では倒せないのか!きへへへっ!!なら、これはどうだ……!』
「……え?」
『悪夢へ、飛んでいけ!!』
一瞬、黒い丸ができたと思った。
しかし、その円形は的確に5025番の体を包み、閉じ込む。瞬く間に5025番が消えて、私は目を見開くしかなくなる。
「……精神、攻撃」
『きへっ、きひゃっ、きひゃははははっ!!』
ポスト・ナイトメア。相手を悪夢の世界に飛ばし、精神を削り取った挙句に自殺させる―――最悪の呪い。
さっき、この収容所の管理者に施した魔法とは次元が違う呪い。この術にかけられてしまったらもう、終わりだ。
「あ…………………ぁ………」
『500年、500年だぞ!?毎日、毎日毎日!!飢えて刺されてちぎられて投げ飛ばされて、毎日死ぬのだ!!きゃははっ!!』
「…………………………ぁ」
もう、ダメ。5025番は……死ぬ。
どうして、どうしてこうなったの……?私は、私は5025番を助けるつもりだったのに。
あの男たちが近づいてきたときに、5025番が連れられると思って。だから、悪魔を呼び寄せて―――あの男たちを、殺そうとしか思ってなかったのに。
『なん、で―――』
なんで逃げないの。なんで……近づいてきたの?
母が死んだときでさえ、こんな感情に苛まれることはなかった。
目元が熱い。息が詰まる。心臓が苦しい。目の前に見えるのは、ただの絶望。
…………………あはっ、そっか。
この世の中は、地獄なんだ。そっか……そうだよね、分かっていた。
……もう、楽になろう。
楽になって、やりたい放題に力を振りまいて、この世界を潰してしまおう。
大切な人の死で成り立つ世界なんて、滅んだ方がいい。そうとしか……思えない。
『そうだ、受け入れろ……受け入れろ。これがお前の運命だ、名前のない少女よ……くふふっ。お前の運命はこの世界の最悪の敵、涙の魔女だ……!』
『………』
黒い球体は消えない。見たくもないと思った。あの黒い塊が消えたら、自分の手で頭を打ち壊した醜い死体が残っているはずだから。
もういい、諦めよう。
ごめんね、5025番。私が……私が生まれてさえいなければ。そうすれば―――
「……訂正させてもらおうか」
――――え?
『………………………………………………は?』
「あの子には、確かに魔女になる運命もあったかもしれないけど」
『貴様ぁ……!なんで、なんで生きてやがるぅううう!!』
「……でも、些細なことで案外コロッと、運命は変わるもんだよ」
………………なん、で?
なんで、平気なの?誰も解くことのできない、最悪の呪いだったはずなのに?一体、どうやって―――
「5014番」
呆けていたその隙に、いつの間にか友達が目の前に立っている。
5025番はしゃがんで、私と目を合わせる。醜い赤に染まった私の瞳を、彼は避けない。
黒い風が部屋の中を取り散らかしている。悪魔の憤怒を表すように、ベッドと枕とあらゆるものが、暴風の中に飲み込まれる。
だけど、台風のど真ん中にいる私たちには、なんの影響も及ぼせなかった。
『なん、で……』
「……あはっ」
私の唯一の友達は、そう言ってから―――
「ごめんね。後でいくらでも怒っていいから」
息ができないくらいに強く、私を抱きしめてきた。
私は泣いたことがない。いつの間にか感情というものが薄れてしまったから。
だけど、今の私は正に嗚咽を漏らしていた。
だってあの子が、人生初めての友達が―――自ら、こんな私に近づいて来ているのだから。
「お願い……逃げて、お願い!!」
放っている自分の声には、悪魔のおぞましい声色が混じっている。
聞きたくない、聞きたくない。だけど、私は言うしかなかった。初めての友達を、自分の手で殺したくはないから。
だけど、何故か。
『き、貴様ぁああ……大人しく死にやがれ!!』
「はっ……!こんな、ところで……死んでたまるかよ!」
「っ……!?」
何かが、おかしい。おかしすぎる。
10年以上をこの悪魔と一緒に生きてきたから、私には分かる。この悪魔は、この世界を滅ぼせるほどの圧倒的な力を持っているはずだ。
だからか、この構図はあまりにも歪すぎる感じがした。災厄の象徴、恐怖の対象となるべき悪魔が―――一人の少年に、うろうろしているから。
段々と、5025番が私に近づいてくる。あと10歩ほど歩けば、私たちは触れ合ってしまう。
だけど、謎の力に苛立ちを感じた悪魔は――
『なんだ、なんだ……!?なんで手が出せないんだ!くっ、こうなったら―――』
「あ……だ、ダメ!!逃げて、逃げてぇええ!!」
悪魔は私の中の魔力を使い、巨大な煙の剣を創造する。
闇に埋め尽くされている剣。黒魔法の塊。あれを食らったら、か弱い少年じゃなくても誰だって―――死ぬ。
5025番は、驚愕したような顔でその剣を見上げる。私は、頬になにかが伝っているのを感じながらも必死に叫ぶ。
『死ねぇええ!!クソみたいな人間が!!』
そのまま、その大検が振り下ろされ――5025番の体が真っ二つになる、ことはなく。
『な、なっ……!?!?!?』
『……………………………………………え?』
巨大な魔力の塊は、少年の手に吸い寄せられるように散って行った。5025番の手には黒い光がともって、その紫色の魔力を吸っていく。
悪魔も私も、呆然とその光景を眺めるしかなかった。どうして、どうしてこんなことが?
……魔力が、吸われている?こんなことって―――
『な、なんだ……!』
「うっ……!さ、さすがにきついな。悪魔の魔力……!」
『なんだ、なんなんだ!!!貴様は……!!』
「ははっ、さぁな……強いて言えば、友達かな?」
……………あ。
『きあああああああああああああああ!!!』
「うるせぇな……お前、必ず封印させてやるからな」
悪魔は狂ったような叫び声を上げる。
当たり前かもしれない。悪魔は世に解き放たれるこの瞬間だけを待っていたはずなのに―――一人の少年の手で、すべてが覆されているから。
『……はっ!そっか、魔力では倒せないのか!きへへへっ!!なら、これはどうだ……!』
「……え?」
『悪夢へ、飛んでいけ!!』
一瞬、黒い丸ができたと思った。
しかし、その円形は的確に5025番の体を包み、閉じ込む。瞬く間に5025番が消えて、私は目を見開くしかなくなる。
「……精神、攻撃」
『きへっ、きひゃっ、きひゃははははっ!!』
ポスト・ナイトメア。相手を悪夢の世界に飛ばし、精神を削り取った挙句に自殺させる―――最悪の呪い。
さっき、この収容所の管理者に施した魔法とは次元が違う呪い。この術にかけられてしまったらもう、終わりだ。
「あ…………………ぁ………」
『500年、500年だぞ!?毎日、毎日毎日!!飢えて刺されてちぎられて投げ飛ばされて、毎日死ぬのだ!!きゃははっ!!』
「…………………………ぁ」
もう、ダメ。5025番は……死ぬ。
どうして、どうしてこうなったの……?私は、私は5025番を助けるつもりだったのに。
あの男たちが近づいてきたときに、5025番が連れられると思って。だから、悪魔を呼び寄せて―――あの男たちを、殺そうとしか思ってなかったのに。
『なん、で―――』
なんで逃げないの。なんで……近づいてきたの?
母が死んだときでさえ、こんな感情に苛まれることはなかった。
目元が熱い。息が詰まる。心臓が苦しい。目の前に見えるのは、ただの絶望。
…………………あはっ、そっか。
この世の中は、地獄なんだ。そっか……そうだよね、分かっていた。
……もう、楽になろう。
楽になって、やりたい放題に力を振りまいて、この世界を潰してしまおう。
大切な人の死で成り立つ世界なんて、滅んだ方がいい。そうとしか……思えない。
『そうだ、受け入れろ……受け入れろ。これがお前の運命だ、名前のない少女よ……くふふっ。お前の運命はこの世界の最悪の敵、涙の魔女だ……!』
『………』
黒い球体は消えない。見たくもないと思った。あの黒い塊が消えたら、自分の手で頭を打ち壊した醜い死体が残っているはずだから。
もういい、諦めよう。
ごめんね、5025番。私が……私が生まれてさえいなければ。そうすれば―――
「……訂正させてもらおうか」
――――え?
『………………………………………………は?』
「あの子には、確かに魔女になる運命もあったかもしれないけど」
『貴様ぁ……!なんで、なんで生きてやがるぅううう!!』
「……でも、些細なことで案外コロッと、運命は変わるもんだよ」
………………なん、で?
なんで、平気なの?誰も解くことのできない、最悪の呪いだったはずなのに?一体、どうやって―――
「5014番」
呆けていたその隙に、いつの間にか友達が目の前に立っている。
5025番はしゃがんで、私と目を合わせる。醜い赤に染まった私の瞳を、彼は避けない。
黒い風が部屋の中を取り散らかしている。悪魔の憤怒を表すように、ベッドと枕とあらゆるものが、暴風の中に飲み込まれる。
だけど、台風のど真ん中にいる私たちには、なんの影響も及ぼせなかった。
『なん、で……』
「……あはっ」
私の唯一の友達は、そう言ってから―――
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